2017年5月12日金曜日

複素数と「ゲージ変換」の関係:北大2017問題3への応用

複素数をベクトルのように扱えることを見出し(その1その2)、それを東大2017問題3に適用し、見事な成功を得た。前回の東大では、直線と円の表現をベクトル風にやってうまくいった。

2017年は、あちこちの国立大学で複素平面の問題が出題された。予備校の解説をみると、どれも「難問」というカテゴリーに分類されているようだ。我々がここで見出した「複素数のベクトル風解法」が、その「難問」に対し、いかに効果的か試してみよう!

次の応用として、北大2017問題3を選んでみる。
 まずは(1)を解いてみよう。

条件としてαβ=zとあるが、物理学者としてはこのタイプの条件式はちょっと抵抗がある。というのは、次元があっていないからだ。まずは今回もオイラーの公式により複素数を表そう。すなわち、α=rαeα, β=rβeβ, z=rPePと書く。条件式に代入すると

rαrβei(θαβ)=rPeP

となる。従って、動径部分からはrαrβ=rP、位相部分はei(θαβP)=1という条件が出てくる。動径が「長さ」の物理量を持っているとすれば、動径部分の条件式は左辺が長さの2次、右辺が長さの1次となって、次元が合わない。例えるなら、「いやー、君の耕している水田はとても広いね。東京タワーの高さと同じくらいなんじゃない?」といった感じの表現になろう。通常ならば、右辺に次元を調節するための係数Cがあって、rαrβ=CrPと表すべきである。が、数学者は複素数を「単位のない、単なる複素数」で扱うので、現実の物理量との対応など御構い無しに問題をつくる傾向があるのだろうか。まあ、C=1(長さの単位)と設定してあるものと勝手に考えて、自分を納得させることにしよう。(多分、この問題は物理や物理数学とは無縁の教官の作であろう。)

理論物理学者の能書きはこれぐらいにしておいて、問題に入ろう。複素数の掛け算は、ベクトルの持つ線型性を「破壊する」ので、複素数とベクトルの対応をそのまま利用することができなくなる。もしかするとこの問題は手も足もでないのかもしれない、と最初は考えてしまった。が、ちょっとした考察によって、その問題は回避できることがわかった。その「ちょっとした考察」というのが、我々が最初に考案した「複素数の幾何学的手法」である。

この問題は、結局は三角形OABの図形の問題に過ぎない。したがって、まずは点A, B, Oを幾何学的に定義する。三角形の頂点に関する制限は特にこの問題では指摘されていない。原点の制限があるだけである。頂点の一つを原点に置き、もう一つの頂点をx軸の上においても一般性は失われない。したがって、最後の一つの頂点を一般性の高いところにおけばよいだろう。そこで、x軸上にある頂点をAとし、原点からの距離をrαとする。次に、x軸からの角度をθ、原点からの距離をrβとする点をBとする。つまり点Aと点Bの座標は
A(rα,0)
B(rβcosθ, rβsinθ)
となる。また、外心Pの座標を仮に
P(rPcosθP, rPsinθP)
と書くことにしておこう。

ここまでの状況を複素数⇄ベクトル対応で表現してみよう。
 Aは簡単でα=rαである、Bはオイラーの公式によりβ=rβeとなる。
つぎに、Pが、OAの垂直二等分線上にあることを、ベクトル風に表現してみる。

OAの中点A'に至るベクトル(rα/2,0)に、OAに垂直な単位ベクトル(e)のある実数倍(tとする)を足したもの(もちろんベクトル和)がOPである。しかし、OAに垂直な単位ベクトルというのは、y軸方向の単位ベクトルに他ならない。つまり、

OP = OA' + t ey

である。tの大きさは外心の性質から決まるであろう。これを複素数で表すと

z=α/2 + it = rα/2 + it      .... (1)


となり非常に簡単に表せる。

一方で、PはOBの垂直二等分線としても表せる。ベクトルで表すと

OP = OB/2 + k eB

となる。eBはOBに垂直な方向の単位ベクトルである。これは、複素数では次のように書ける。

z = β/ 2 + k ei(θ-π/2)  =  (rβ/2)e+ k ei(θ-π/2) = e(rβ/2 -ik)  .... (2)

(1)式と(2)式を連立して、kを消去し、tをr, θで表せば, zの表現を完成させることができる。実部と虚部から条件式がひとつずつ得られて、

 となる。これからkを消去すると

を得る。これよりtが求まり、点Pを表す複素数zは
と表される。この関係は「外心」の幾何学的な性質を考慮しても得られるだろう(きっと)。

さて、ここで求めたα、β、zは三角形OABをある特別な座標系の上においたときの表現である。特に、αが、xy平面のx軸上に相当する、 実軸上にあるというのは、「特別な場合」といえる。αをより一般的な表現で表すには、Oを中心として角度φだけ回転させたα'=αeを採用すべきである。同じように、β、zもφだけ回転させたβ'、z'を採用すべきである。

なぜ、このような回転させた複素数を考えるかというと、あたえられた条件αβ=zというのが「非線形」な関係式だからだ。回転変換は「線形演算」だから線形性を保存する。したがって、与えられた条件が「線形条件」であったなら、どんな座標系でα、β、zを表したとしても、その間の線形条件は保存される。しかし、非線形な条件式は、回転変換に対して、形式を変化させてしまうので、どの座標系を選んだかによって表現が変わるのである。

最初に選んだ座標系から、φだけ回転させた座標系ではα'β'=z'が成り立っている。これは、最初の座標系で表すと、αβe=zという関係式に対応することはすぐに確認できる。つまり、与えられた(非線形な)条件式は、位相の分だけ回転の影響を被ってしまうのである。実は、この「非線形」が、最初につらつらと述べた「次元が合わない」ということと関連していて、「掛け算」を含む条件式は、線形変換(回転のこと)に対して不変ではないという困難を暗示していたのである。

ちなみに、複素数の回転は位相因子によって表されるから、「回転変換」と言い表すよりも、 「ゲージ変換」と呼んだ方が適当かもしれない。ゲージ変換は、電磁気や場の理論で出てくる概念である。この問題で与えられた条件は、「非線形」というよりも、「ゲージ不変性を持たない」と言い表した方がいいのかもしれない。

問題に戻ろう。ゲージ変換した条件式αβe=zを実部と虚部に分け、それぞれが等しいという条件を書き出すと、

 となる。問われているのは、Aに関する条件であるから、rβを消去して、rαがどんな形で表されるか調べてみよう。ここで、ちょっと面倒な三角関数の計算が出てくる。本質的なことではないが、解答に至るためには必要な技術なので、すこしだけ丁寧にやってみよう。まずは素直にrβを代入した結果が、
である。右辺の第二項が、左辺の構造と似ているし、rαを含んでいるからまとめることができる。実行すると、
 を得る。ここで、左辺の三角関数部分の計算を行うが、うまくやらないと解答が出てこないので注意を払う必要がある。とはいえ、実際やるのは通分を用いた簡単な分数計算である。ちなみに、正接の足し算といえば、三角測量が思い浮かぶ。(この問題ではcotになっているが、通分して計算するのはtan+tanでもtan+cotでも同じことである。)古代ギリシア人が月までの距離を三角測量で測定した時など、このtan+tanタイプの公式が出てくる。この計算では最後に、加法定理を使ってまとめるのがポイントだ。細かく式を追ってみると、次のようになる。

 よくみると、この式の分母と、一つ前の方程式の右辺の分母が同じものである。これを払うと、rαに対する条件式、rαcosφ= 1/2 が手にはいる。ちなみに、両辺を2倍して2rαcosφ= 1と書くと、左辺はα'の実部の2倍である。これはα'+α'*と等しいから、求めるαに対する条件式は

α'+α'* = 1

となり、これが答えとなる。

次に、αの軌跡であるが、rαは定数で、φが変数なのでφが動いたときにαがどのように移動するか調べることになる。x= rαcosφ= 1/2は定数、またy=rαsinφ= (1/2)tanφは、原点を通る、傾きa=tanφの直線(y=ax)上の、x=1/2におけるy座標である。したがって、奇跡はx=1/2を通過し、x軸に垂直な直線である。


2017年4月30日日曜日

複素数の問題をベクトル感覚で解く:東大2017問題3に応用

では、これまでの準備(その1その2)を基に、東大2017問題3を再び解いてみよう。

東大の問題では点αの垂直二等分線上を動く点z=x+iyの逆数が描く軌跡を求めることになっていたが、今回はより一般の場合に拡張することにしょう。すなわち、直線ax+by+c=0の上を動く点をz=x+iyと表すとき、1/zが描く描く軌跡が円となることを示そう。

例によって、オイラーの公式(e=cosθ+i sinθ)と極座標(x=r cosθ, y=r sinθ)を用いると、直線上の点はまずz=reと書くことができる。この逆数は1/z = (1/r)e-iθとなる。

直線の方程式も極座標で書いてしまおう。
ax+by+c=0 → r(acosθ+bsinθ)+c=0

上の方程式から、rをθ、a, b, cで表すことができる。これを1/zに代入すると
1/z = - e-iθ(acosθ+bsinθ)/c
となる。

次に、
cosθ=(e+e-iθ)/2,  sinθ=(e-e-iθ)/(2i)
という恒等式を使って、1/z中の三角関数の表現を消去する。すると、

1/z = (-a+ib)/c - e-2iθ(a+ib)/(2c)

という表現を得る。(a+ib)/2c は複素数だから、
(a+ib)/2c = r0 e0
と表すことができる。ただし、tanθ0 = b/a、および r02 = (a2+b2)/(4c2)である。

したがって、以上をまとめると
1/z =  (-a+ib)/c - r0 e-i(2θ-θ0)となる。

すなわち、1/zは円の軌跡であり、中心の位置は(-a+ib)/c、半径はr0である。ちなみに、zの回転方向とは逆向きに回転し、そのスピードは2倍となる。また、回転の出発地点(位相)は-θだけずれる。

この結果を東大の問題に適用してみよう。以前の計算結果を利用すると、
a=α0,  b=α1,  c=-(α0212)/2
である。これを代入すると、簡単に以前得た解答が再現される。

この問題の解き方は、以前のゴリゴリ計算した方法よりもずっと楽だ。やはり、複素数は素晴らしい!

2017年4月28日金曜日

複素数の問題をベクトル感覚で解く:線形演算の確認

ベクトルは、ベクトル空間と呼ばれる集合において定義され、和とスカラー積が定義される。ここに内積が付与されれば、ヒルベルト空間とか、ノルム空間とか呼ばれる特別なベクトル空間になるが、まず重要なのは、ベクトル和とスカラー倍だ。この2つをまとめて、線形演算と呼ぶことにしよう。

線形演算はあまりにも当たり前すぎて、辟易することもあるけれど、物理や数学の理論がより精密かつ複雑、高度になっていくにつれて、線形性の単純さが道標の役割を担ってくれることもあるから、重要な概念だ。とりわけ、物理における重要な理論の数々(ニュートンの運動方程式による調和振動子や、マクスウェル方程式、そしてなによりシュレディンガー方程式など)が線形理論となっているので、線型性を理解しておくのは損じゃない。

さて、今回確認しなくてはいけないのは、複素数がベクトル空間と同等の役割をもっているかどうか、という点である。ベクトル空間に定義される線形演算が 、複素平面でも成り立つことが特に重要である。

以下では、ベクトルと複素数の間に、vz, wwという対応が付いているものとする。

ベクトル:λv + μw = (λvx + μwx, λvy+μwy)
複素数:λz+μw = (λzx+μwx) + i (λzy+μwy)

すなわち、ベクトルの線形演算は、複素数の線形演算と等価である。

これはベクトル空間に後付けすべきものであるが、ノルム(すなわちベクトルの大きさ)が、複素数ではどのように表せるかも確認しておこう。内積の定義とピタゴラスの定理により、ベクトルのノルムの自乗は
v・v = vx2+vy2
と書ける。一方で、複素数は、その絶対値がノルムに対応している。
|z|2=zz* = zx2+zy2

注意すべきなのは、複素数では逆数、つまり割り算が定義されているが、ベクトルには定義されていない点である。この対応がないことだけ注意すれば、複素数を使って、ベクトルの問題を解くことは十分可能だろう。

2017年4月27日木曜日

複素数の問題をベクトル感覚で解く:円と直線の表現

以前「複素数の問題を幾何の問題にしてしま」った、東大2017問題3だが、再び解いてみることにした。今回試すのはベクトルの考え方である。

複素数z=x+iyは、そもそも二次元の情報(x,y)をもっている。ガウス平面を、xy座標系とみなすことができるから、前回のように「複素数の問題を幾何の問題として捉える」ことが可能となる。前回は、幾何学の考え方を推し進めたが、今回は代数幾何的な考え方、つまりベクトルと対比しながら解いてみたいと思う。

単位円の表現

まずは、ベクトルによる単位円の表現を考える。まずは原点を中心とする円の周上に点Pをおく。この点の位置を示す位置ベクトルr
r=R(θ)ex 
表すことができる。ex はx方向の単位ベクトルを表し、R(θ)は2次元の回転行列である。円周上の点Pはθによって指定されるからr=r)と書いた方がよいだろう。

次に、円の中心位置を示すベクトルをr0し、この円を平行移動する。
 r(θ)=R(θ)ex + r0
これがベクトルによる円の表現である。

次に、複素数によって上の方程式と等価な式を導出する。r(θ)→Z(θ), r0αとするところまでは簡単である。問題は、単位円のの中心と円周上の点を結ぶ単位ベクトルの表現であるが、これは複素数の方が簡単な表記ですむ。R(θ)ex →eとなる。まとめると
Z(θ) =  e + α
となる。

オイラーの公式によると、
e  = cosθ + i sinθ
と表すことができる。物理学者が複素数を使うのは、このオイラーの公式と、複素積分(ローラン級数展開と線積分)くらいといってもよいかもしれない。量子力学の位相がこの形で書かれるせいもあってか、物理学者はとにかくオイラーの公式が大好きである。

直線の表現

こんどは、平面中の直線の表現をベクトル風に書いてみる。2点A,Bを通るのが直線である。この2点のベクトルをabと書くことにする。直線に平行な単位ベクトルe
 e=(b-a)/|b-a|と書ける。直線はaを通るのだから、平行移動して
r(t) = a + t
と書くことができる。

複素数で書くと、r(t)→Z(t),   a→αという対応の下
Z(t) = α + t e   
表せる。このとき、θは定数で、直線の傾きを表すことに注意。tが変数である。

ここでまとめたような、円と直線のベクトル表現は、大学初年度でやる力学で出てきそうな表現だ。それを、あえて複素数でやろうというわけである。行列を習っていない最近の学生なら、回転行列を学ぶよりも、オイラーの公式を使う複素数の方がとっつきやすいかもしれない。
 

2017年4月14日金曜日

三角関数をつかった整数の問題:京大2017問3

問題文の詳細は、クリックして拡大。
三角関数の加法定理を利用して、整数の問題を提示してきたのが、京大の問3だ。なかなか面白い。が、tan(α) = 1/p, tan(β) = 1/q, p,qは自然数、という設定は、物理では特に着目した問題はないと思う(すくなくとも私の知る範囲では)。

ただ、tan(x)のそもそもの定義は「直角三角形の(斜辺以外の)2辺の比」であるから、tan(x)=1/pとか1/qというのは、底辺がp(もしくはq)で、高さが1の直角三角形を考えよう、ということになる。この比をもつ直角三角形の角度をα、βとしよう、というわけである。

この状況をもとに、その底辺の長さが1/2, 高さが1の直角三角形を考えたとき、その見込む角度がα+2βとなることはあり得ますか?というのがこの問題の解釈であり、それは幾何の問題といってもいいだろう。整数の問題は、三角関数の問題から結構作れるのかもしれない。

ちなみに、 この問題の答えを基に、底辺の長さがp=2,q=3,1/2、高さが1の三角形に相当する直線をそれぞれ描いてみると、下の図のような感じになる。x軸から緑線までの角度がα、x軸から紫線までの角度がβ、x軸から水色までの角度がα+2β, したがって、紫色から水色の線までの角度がαとなる。
それでは早速、どうやったらtan(α+2β)=2のとき、tan(α)=1/2, tan(β)=1/3という値が得られるのか、計算してみよう。

まずは正接の加法公式は

tan(x+y) = {tan(x)+ tan(y)} / {1+tan(x)tan(y)}

となるか確認しておこう。これは、tan(x)=sin(x)/cos(y)という正接の定義、それから通常の加法定理、たとえばcos(x+y)=cos(x)cos(y)-sin(x)sin(y)など、を使えば、上の公式は簡単に導出できる。tan(2x)= 2tan(x)/(1+tan(x)*tan(x))というのは、x=yとすることで簡単に導き出せる。

さて、x=α, y=2βとして、tan(α)=1/p, tan(β)=1/qを、加法定理の結果に代入し、少しだけ整理すると、
を得る。これが2となる場合の(p,q)を探せばよい。ちなみに、p=2, q=3を代入すると、ちゃんと2になることは確認できる。どのようにtan(α+2β)=2という条件式を使って答えにたどり着くか、決まり切ったやり方はない。しかし、答えが自然数である、という強い制限を利用するのは常套手段といえるだろう。

自然数は「割り算」に対して閉じていない。にもかかわらず、上の条件式は商の形となっている。このあたりがうまく使えそうだ。

商を考える際、2つの方針がある。pでまとめるか、qでまとめるかである。

ちなみにqでまとめると2次式になる。2次式の一般解は無理数となるから、qが自然数となるためには判別式が自乗の形式をとることがまず要求される。また、2次方程式の解の公式は、商の形になっている。したがて、うまい具合に分子/分母が割り切れる形になって、分母が消えてくれたらqは自然数になる。こうして、qについてまとめると2つも条件が出てくるから、pについての制限がすぐに見つかって、問題が解けそうな気配がある。しかし、この方面で挑むと途中で壁に当たってしまう。こういうときは、すぐに別のやり方に切り替えるべきだ。

ということで、pについてまとめると、1次式が手にはいる。
左辺はpについて1次式というだけでなく、偶数でもある。にもかかわらず、右辺には1が現れている。2pは自然数にならなくてはならないのが、その前に5q/(q2-q-1)が1よりも大きくないと、2pが2, 4, 6,...といった偶数の自然数になれない。したがって、最初の条件として
 が得られる。これがうまい具合にqの取り得る範囲を狭めてくれると嬉しい。

まずは q2-q-1 > 0の場合を考える。両辺にこの量をかけても不等号の向きはかわらない。ちょっとだけ式を整理して整式の不等式として表すと、
となる。これを解くと
となる。q2-q-1 > 0を解くとq≥2を得るので、上の条件と合わせると

q= 2, 3, 4, 5, 6

だけが答えの候補となる。この候補を 5q/(q2-q-1)に代入して、奇数になるものが解である。すべての候補を試してみると、q=3の場合だけ条件は満たされる。このとき、2p=1+3, すなわちp=2が得られる。すなわち(p,q)=(2,3)だけが解となる。

次に q2-q-1 < 0の場合を考える。この場合は不等式を解くとq>6かつq≤1となるが、この条件を満たすqは存在しない。

以上より、(p,q)=(2,3)だけが求める答えとなる。

2pについてまとめた式が手に入った時、問題はほぼ解けたと思ってよいだろう。狙い通りに、その条件式がqの範囲を絞ってくれた。ただ、いつもこのようにうまくいくとは限らない。qについてまとめる方法は今回はうまくいかなかったが、別の問題では救いの一手になるかもしれない。いつでも、いろいろな方法について考察するのは大切だろう。

しかし、なにより大切なのは、自然数と有理数の違いや、無理数の意味など、数の定義に関する基本的な理解だろう。この基礎知識こそが様々な手法を編み出すアイデアの源泉となる。

こういう考え方は、物理では量子力学でときどき必要になる。連続的に思える物理量(たとえばエネルギー)が、量子化される条件というのは、まさに整数と実数の違いをよく理解することから出発するのだ。

2017年4月13日木曜日

複素数の問題を幾何の問題にしてしまう(おまけ):京大2017問題1

前回の東大2017問3によく似た問題が、京都大学でも出題されていた。が、こちらの方は随分簡単に解ける。とはいえ、数学の基礎に関して、大切な事柄が詰まっていて、とても良い問題だと思う。(東大の問題は、結果は面白かったのだが、途中に至る計算が煩雑で、あまり面白くなかった。京大のこの問題は、複雑な計算はないし、結果に至るまでの計算もなかなか面白い。)
問題文はクリックして拡大可能
設問で(x,y)を使うように誘導されているが、これは前回我々が採用した考え方と同じだ。複素数の問題を、幾何の問題に焼き直して考えよう、というアプローチだ。(この問題を作ったのは、きっと工学系か物理系の先生じゃないだろうか?)

この問題でもオイラーの公式をつかって、複素数を極座標表示で扱うのがよいだろう。すなわち、w=re=r(cosθ+i sinθ)とおく。(1)ではr=R, (2)ではθ=αと定数におき、残りの自由度(最初の問題ではθ,二番目の問題ではr)を動かしたときの軌跡を求めさせている。どちらの場合も、答えが円錐曲線となるところが面白い。パラメータを消去する時、足し算を使う(1)は楕円に、引き算を使う(2)は双曲線になる。

(1) R>1であることは後で効いてくるかもしれないから、忘れないようにしておこう。w+1/w = Re+R-1e-iθなので、

x=(R+R-1)cosθ,  y=(R-R-1)sinθ

となる。θの定義域は0≤ θ< 2πとなる。cos2θ+sin2θ=1を使って、θを消去するだけで, xとyの関係式が手にはいる。それはx,yに関しての2次式であるから、軌跡は楕円である。
 R>1なのでRの逆数をとっても問題ない(R=0が抜けている)。また、R> R-1も常に成り立つ(R-R-1≠0が保障される)。したがって、短半径、長半径ともに、常にwell-definedである。

x,yが唯一つのパラメータ(θだけ)で表せるのが非常に重要である。これがために、前回の東大の問題と違って、非常に解きやすいのだ。

(2)今度は偏角を固定して、動径を変数にするとどんな軌跡になるか、という問題である。
ここでもαの値の範囲が0からπ/2までであることを記憶しておこう。これはsin(α), cos(α)ともに正値をとる、という意味である。

w +1/w = re+r-1e-iα=(r+r-1)cos(α) + i(r-r-1)sin(α)なので、

x=  (r+r-1)cos(α),  y=(r-r-1)sin(α)

である。ただし、0<rという定義域をrは持つ。この表式からrを消去して、x,yの関係式を求めれば良い。

指定されたαの範囲においては、cosαもsinαも0にならないから、次のように変形する。

x/cos(α) = (r+r-1),  y/sin(α) = (r-r-1)

そして両辺を自乗すると、素晴らしいことに2次の項と定数項だけが残る。r/r=1だからである。
続いて、辺辺を「引き算」してrを消去するため、(x,y)は双曲線の軌跡となる。
ただし、 r>0なので、x>0という制限がかかる(xのパラメータ表示を参照せよ)。一方、yに関しては制限がない。これは、直感的に言えば、双曲線のうち「右側」のものだけ、という意味に他ならない。双曲線の2つの漸近線y=±tan(α)xのうち、傾きが負のもの(-tan(α))よりも上側にある双曲線、と表してもいいだろう。(予備校ではこの部分を 2r = x/cos(α) + y/sin(α) > 0という形で表しているようだ。)

個人的には、漸近線の傾きがtan(α)となるあたりが、さすがに京大の数学だ、と関心した。

2017年4月11日火曜日

複素数の問題を幾何の問題にしてしまう(その2):東大2017問題3

前問につづいて問(2)を問いてみよう。
問題文はクリックして拡大可能
オイラーの公式を用いてz=reとおくと(rは非負の実数,θは偏角)、z3=1が解くべき方程式だから、r3e3iθ=e2nπiとなり(ただしnは整数)、r=1, e=e2nπi/3を得る。したがって、z=e2nπi/3が解である。nは任意の自然数だが、3つに大別できる。n=0 (mod 3)のときz=1, n=1(mod 3)のときz=β=(-1+i√3)/2, n=2 (mod 3)のときz=β2=(-1-i√3)/2となる。

ちなみに、3つの解、1, β, β2は正三角形をなす。上の表式から明らかなように、βとβ2はy軸に沿って、つまりx軸と垂直に位置する。したがって、問(1)の観点からすると、Lはβとβ2を結ぶ、垂直線x=-1/2に対応する(ただしz=x+iyとxy座標系を対応させた)。
したがって、a=2, b=0, c=1とおくことができる。

解の軌跡は、bからb2に到るまでの円周を反時計回りにたどった曲線。

また、問(1)のαに相当するのがx=-1である。以上を踏まえ、問(1)の結論を拝借すれば、問(2)で扱うのは、半径1の円であり、その中心は(-1, 0)である。ただ、問題となるのは、問(1)と異なり、Lの長さが限られている点である。a,b,cの値を代入すると、yをパラメータとしてw=u+ivは次のように表せる。

u = (-2)/(4y2+1),      v=(-4y)/(4y2+1) ..... (1)

また-√3/2 <= y <= √3/2である。yの境界値を代入して計算すると、u(y=±√3/2) = -1/2、およびv(y=√3/2) = -√3/2となる。したがって、点(-1/2, √3/2)から反時計回りに円周上を移動して、点(-1/2, -√3/2)に到るまでが求める軌跡である。円と垂直線が交わる交点から左側の円周に相当する、と言い換えてもいいだろう。

問(1)では計算に若干苦労するだろうが、それは問(2)で報われる。一般的な状況を考えると、導出するのは一見大変になるのだが、一旦結果を手に入れると適用範囲が広いので、苦労は必ず報われる。「将来を見据えた先行投資」にちょっとだけ似ているかも。

2017年4月10日月曜日

複素数の問題を幾何の問題にしてしまう:東大2017問題3

複素数を用いた問題。でも実際は図形の問題に過ぎない。予備校が発表した模範解答は、どれも複素数の性質を駆使した「エレガントな」解法を採用しているようだが、よっぽど複素数の美しさに心打たれてない限り、実数+図形問題に落として考えた方が勉強時間の節約になる。つまり、複素数が苦手な人向けの模範解答を今回は考えてみよう。

[問題文] 原点以外の点zに対し、w=1/zとする。
(1)αを0でない複素数とする。点αと原点Oを結ぶ線分の垂直2等分線をLとする。点zがLを動くとき、点wの軌跡は円から1点を除いたものになる。この円の中心と半径を求めよ。

[解答] 複素数zは2つの実数x, yを用いて、z=x+iyと表せる。これをxy-座標系と同一視することができるから、zを点(x,y)と解釈することができる。

さて、w=1/z = (x-iy)/(x2+y2) = u+iv とする。u, vは実数であり、今x,yによってパラメータ表示されている。すなわち、

u = x/(x2+y2),  v = - y/(x2+y2) ..... (1)

ただし、x2+y2=0の場合は除外する必要がある。 この表式からxとyを消去して、s,tだけの関係式を求めることができれば、それが求める軌跡となる。しかし、まだzが線分Lの上を動くという条件を使っていない。この条件を使う前に、「Lの上」というどんぴしゃの条件を少し緩和して、一般の直線上をzが動く場合をまずは考えて見よう。つまり、xとyの間には線形関係、ax+by+c=0, (a,b,c)は定数、が成立している場合を考えることにする。

この条件を適用すると、パラメータ表示の式(1)からyもしくはxを消去することができる。ここでは、問(2)のことを考え、xを消去してみることにする。つまり、a≠0を仮定して、x = -(b/a)y-(c/a)と条件式を変形し、(1)からxを消去する。
ここからyを消去するのは、一見非常に難しいことのように思える。しかし、問題文には「軌跡は円となる」とありがたいヒントがあるので、それを利用することにする。つまり、中心(u0,v0)と半径Rを未知数として、

(u-u0)2+(v-v0)2=R2 .........(2)

と書き下し、そこに上のパラメータ表示を代入する。すると、(2)式の左辺は、yについて4次式同士の商の形になる。
望むらくは、上の表式において、「分子 = 半径の自乗×分母」の形が実現していることである。4次の項を比較して見ると、この構造が可能かどうか見当がつく。分母の方は(a2+b2)2である。一方、分子の方は
と計算される。したがって、半径の目星として
 が成立していたらとても嬉しい。この予想を元に、今度は0次の項を比較する。そうすると、ac2(a+2cu0)=0という条件式が手に入る。a,cともに0でないとすると
を得る。次は3次の項を比較して見る。そうすると、2a(a2+b2)(bu0+av0)=0という条件式が得られる。a,bともに0でないとすれば、bu0+av0=0であり、これに上の結果を合わせると、
を得る。さて、これで答えの候補は見つかったが、残りの1次と2次の項に、これらの推測を代入し、辻褄があうかどうかは確認する必要がある。実際にやってみると、上の推理に基づいても矛盾のない結果をC1, C2について導出することができる。計算量はそれなりにはあるが、それほど複雑でもない。ここでは計算の詳細は省略する。

以上の結果をまとめると、求めるべき解は

となった。これまでの考察により、直線ax+by+c=0上を動くzに対し、w=1/zは円の軌跡を与え、その中心と半径は上の表式で一般に与えられることが示された。

さて、この問題で与えられた条件を使って、a,b,cに具体的な値を入れてしまおう。それがこの問の最終的な解になる。

まずα=α0+iα1とおく。α0, α1は実数である。

直線Lの方程式を得るには、線分L'(すなわち原点Oと点αを結ぶ線分)の傾きを知る必要があるが、それはα10と与えられる(これはαの偏角をθとしたとき, tanθに対応している)。したがって、直線Lの傾きは-α01となる(L'の垂直二等分線だから)。また、直線Lは、L'の中点α/2を通過する。したがって、Lの方程式は y = -(α01)(x-α0/2)+α1/2 と書ける。もう少し整理して、a,b,cに対応するものを算出すると

a=α0,  b=α1,  c=-(α0212)/2

となる。したがって、
|α|2=αα*0212だから、円の中心w0、および半径Rを複素数を用いて表現すると
となる。これが最終的な答えである。

2017年3月13日月曜日

阪大2次試験(2017) 問題(3): その1

いよいよ、この問題の核心である、√7の近似を2/b4でおさえるような有理数近似を見つける作業に入る。具体的には、√7 = a/b + O(2/b4)となるような自然数a,bを見つけることである。

ちなみに、O(n)というのは、n程度の大きさ、ということを意味する数学の記号である。近似理論でよく使われるが、物理の理論は大抵が近似理論なので、よく利用する。テイラー展開なんかも、例えば、Δxの2次で近似する時などは、
f(x+Δx) = f(x)+f'(x)Δx+f''(x)Δx2/2+O(Δx3
などと書いたりする。

問(1)で、a,bの代わりに自然数m,nを使う表現に問題を書き直した。a=2n+m, b=nとすると、問題で与えられた不等式(1)は

|m/n - δ| < 2/n4     (B)

となる。δは、δ=√7 - 2で定義され、

0.645 < δ < 0.646

を満たす。 近似式を利用すると√7 = 2 + (m/n) + O(2/n4)となるので、m/nは√7の小数部分δの有理数近似に対応する。つまり、

δ= m/n + O(2/n4)

ということである。小数部分だから

m < n

という制限がつく。これを満たすm,nを見つけるには、書き換えた不等式(B)をm,nに関する条件式とみなす。このとき、m/n - δ の正負の応じて場合分けして考える。

[1] m/n > δの場合:
 これはよく「上からおさえる近似」と呼ばれる。つまり、近似したい量よりも「上側」つまり大きい量で近似する、というやり方である。絶対値の記号を外すと m/n - δ  <  2/n4 となる。δに関して整理すると m/n - 2/n4 < δ < 0.646となる。不等式の最後は、δの範囲を与える条件式の適用である。0.646を有理数、つまり整数の商の形で表すと 0.646 = 323/500 = 323/(5322)である。両辺に分母にある5322とn4 をかけて、整数の和積の形に書き直すと、不等式(B)は

 (5322 m-323n)n3 < (5・2)3

という不等式に書き換えることができる。ちなみに、右辺をうまい具合に3次式でまとめることができたのは、誤差2/n4の係数2のおかげである。どうしてもっとスッキリした1/n4という形にしなかったのか?という疑問はここで解決される。

さて、このままでは、問題を解く緒は得られないが、3乗の因子が2つ出てきたので、これをまとめてみる。すると

 (5322 m-323n) < (10/n)3                    (B')

となる。この不等式の左辺は自然数の積和(積差)になっているから、当然自然数である。一方、右辺に関してはn>10のとき、1より小さい数になる。1より小さな自然数は存在しないから、このとき上の不等式を満たすn,mは存在しないことになる。したがって、n≦10でなくてはならない!

この方法だと、結構たくさん調べなくてはならないが、「近似」という観点から問題を解いているので、頭で何をやっているのか理解しやすい。AIならば、意味もわからず、すべての組み合わせについて調べ上げるだろう。これがAIと人間の違いである。とはいえ、n≦10の検算に関しては、我々はAIになったつもりで計算しなくてはならない...というか、普通はコンピュータや電卓に頼って計算を進めることになる。

すべての計算を網羅したら飽きてしまうので、ここでは具体例を2、3絞ってやってみよう。

(1) n=2の場合。n=2を(B')式に代入すると、500m - 646 < 125となる。m< nなのでm=1しか選択肢がない。左辺=-146となって条件は満たされない。n=2は除外される。

(2) n=3の場合。m=2,1の2つのケースを試すことができる。(B')式は 500m - 969 < (1000/27)=37.03...となる。m=1の場合は、左辺が負になるからダメ。m=2のときは、1000-969 = 31となり、37より小さい値になる。つまり、この時、条件は満たされる。
a=2×3 + 2 = 8, b= 3、つまり8/3は問(2)の答えであり、√7のよい近似になっている。√7 = 8/3 + O(0.01)である。O(0.01)は、2/34=0.02469...を意味する。

(3) n=4の場合。(B')式は500m - 1292 < (125/8) = 15.6...となる。m=3,2,1が試せるが、n=2,1の場合は左辺は負になるのでダメ。m=3を代入すると1500-1292 = 208となってダメ。

ここまでの検算でわかるのは、右辺の量 (10/n)3  はnが増大するにつれて1に近づく。これは誤差の許容範囲が狭くなるという意味があり、近似の観点からするとよいのだが、あまりに厳しすぎると、この条件をクリアーできる自然数が見つからない、というジレンマが生まれる。上の計算のn=3では右辺が37程度と大きかったのだが、n=4では15程度に半減している。もちろん、n=4の場合は左辺が208ととても大きくなってしまったので、たとえ右辺が37程度であったとしてもダメだったわけだが。

こうなると、負になる場所を見極めておいた方が計算が楽になることが予想される。
500m - 323 n > 0とすると、m/n > 323/500 = 0.646となる。つまり、nの大きさよりも60%以上大きな値をmが取る場合だけが有効なケースである。n>mだから mの最大値はn-1で、これはm/n=(n-1)/nである。したがって、1-(1/n) > 323/ 500を解くと、
n > 500/177= 2.88..となるので、n≧3においてはm=n-1の計算をしても右辺が負になることはない。次に、m=n-2の場合を調べてみよう。n=3,4の場合では左辺は負になってしまった。m/n= (n-2)/n > 323/500を解くと、n> 2(500/177) = 2×2.88 = 5.76となり、6より大きな数でないと負になることがわかった。

m=n-kが左辺の量を正に保つには n> k(500/177) = 2.88kという条件が一般になりたつことがわかる。nが大きくなれば、選択肢が増えて答えがたくさんみつかりそうな気がするが、そうは問屋が卸さない。左辺の量はmの1次関数とみなすことができ、その増加率はmの係数(「傾き」に相当する)500で与えられる。つまり、mが1ずれるごとに、左辺の量は500もずれてしまう。nが大きくなると、逆に右辺は減少して1に近づいていく。つまり、左辺が500も動くのでは、精度が1程度の近似が要求された場合には、2つも3つも適合する自然数が存在するわけがない。つまりチャンスはk=n/2.88で与えられるm=n-k付近の一回ぐらいしかないとみてよい。

いずれにせよ、n=5,6,7,8,9,10の場合を試しても、要求された精度を満たすmは存在しないことが確認できる。したがって、(n,m)=(3,2)だけがこの場合の答えである。

[2] m/n < δの場合: 
 この場合は、(B)式で絶対値の記号を外すと、(2/n4)+(m/n) > δ > 0.645=129/200となる。この式も、分数を消してまとめることにする。今回は

 ( 129n- 200m )n3 < 2452

となってしま、うまい具合に3乗の形で右辺をまとめることが、そのままではできない。[1]m/n<δの場合と同じような形にするには、両辺に22・5をかけるとよい。すると

2580n - 4000m < (20/n)3

という形にすることができる。したがって、今回はn≦20の場合について検算する。数が大きくなって、計算は[1]の場合よりも大変になる。試験場に電卓を持ち込みたくなるだろう。が、我々は試験会場にはいないので、電卓を使って、ちゃちゃっと計算してしまうと、実は条件を満たすm,nの組みは存在しないという結論になる。

以上、[1][2]の結果をまとめると、問(2)の答えは一つだけで、8/3という、案外平凡な答えになる。上で展開した面倒臭い議論なんかすっとばして、直感でやっても辿り着けそうな答えである。どうせなら、123457/ 46663 みたいな、とんでもない大きな素数の商なんかに答えがなっていたら、もっと楽しかったのだが....

この問題を上のようにして解いてみてわかったのだが、有理数近似の精度は2/n4という誤差の形式にもよるが、案外0.645<δ<0.646という、δの範囲の精度にも依ることがわかった。したがって、より精度の高い有理数を探したいとおもったら、この不等式の精度をあげないといけないのだろう。√7=2.64575...だから0.6457<δ<0.6458としたら、どんな有理数で近似できるのだろうか?やってみたら案外面白いかもしれない。

2017年3月12日日曜日

阪大2次試験(2017) 問題(3): その0


いわゆる「高校数学」の勉強法や解法を適用したら、あっさり解けてしまうのかもしれない。しかし、解けたからといって、この問題の意図を十分に理解したことにはならないだろう。この問題は、無理数の意味を考える上で、とても面白い。

まず、この問題は√7が無理数であることから考えを始める必要がある。無理数と有理数の違いは、整数m, nの商によって表現できるか、できないかの違いである。つまり、有理数はm/nと表せる数なのに対し、無理数はそのようには表せないのである。√7は無理数だと問題で言っているので、√7 = m/nとなるようなm,nを見つけることはできない。

にもかかわらず、√7をm/nで(つまり有理数で)近似したい、というのが不等式(1)の意味である。こういうことは、電子計算機(つまりコンピュータ)のような限られたビット数で無理数を表現(近似)するときに必要とされる。物理学者は、円周率πやネイピア数eなど、無理数で記述される色々な自然現象を、計算機でシミュレーションするので、できる限り良い精度で無理数を有理数近似する方法には、興味があるのだ。

(1)式の右辺は√7と2つの自然数の商a/bの差である。このような差のことを誤差という。誤差が小さければ、a/bは√7の良い近似になっているといえる。

この問題で「誤差が小さい」というのは、右辺の2/b4で表現されている。関数y=4/x4は単調減少のグラフであり、x>1の領域でxが増大すると急速に減衰(damp)する。bは2以上の自然数だから、2/b4は1/8より小さい値を持つ。つまり、不等式(1)の意味は、「√7を有理数a/bで近似した時の誤差が、最大でも1/8程度で抑えられるような場合」となる。

次に、√7の値が2以上、3以下であることから、a>bでなくてはならないことがわかる。もしa=3bであるならば、a/b=3であるから、問題文で与えられた、√7の大きさを示す不等式から 0.354 < 3-√7 < 0.355が得られる。1/8=0.125だから、√7を3で近似するのはちょっと粗すぎる、ということになり、a/b=3という試みは不等式(1)を満たさないことになる。今度はa/b=2としてみる。すると 0.645 < √7 - 2 < 0.646、つまり|√7 -2| < 0.646となって、精度はもっと悪くなってしまう。

ここで、誤差の意味合いをはっきりさせるために、δ=√7 - 2という量を導入しよう。これは√7の少数部分の大きさを意味する。無理数なので、少数表記すると無限に続いてしまうような量であり、当然自然数や整数の商(比)によって表すことができない量である。ただ、問題文により、δの大きさには上限、下限が与えられており、それは

0.645 < δ < 0.646

である。

今度はa/bの方を2+ε,ただし0 < ε < 1、と表すことにする。a/bは有理数だから、εは何らかの自然数m,n によってε=m/nと書くことができる。つまり、

a/b = 2 + ε = 2 + m/n = (2n+m)/n

すなわち、a= 2n+m, b=n, m < n, と表すことができる。

従って、与えられた不等式(1)は、a/b - √7 = m/n - δなので

|ε - δ| < 2/n4 ≦ 1/8

と書き直すことができる。

また、証明すべき式は a/b + √7 = (2+ε) + (2+δ) = 4 + ε + δ、なので|4+ε+δ| < 6となるが、今、ε>0, δ> 0.645>0なのでε+δは正の量。したがって、 不等式は4 + ε + δ < 6と書けて、

ε+δ < 2

を示せばよいことになる。

さらにδ< 0.646なので、ε=m/n < 1〜1.2 あたりの不等式が示せれば、ε+δ< 0.646 +1< 2となって証明終わりというわけだ。

δは√7の少数部分であるから当然1よりは小さい。εは√7の少数部分の有理数近似だから、δと同じ程度の大きさになっていてほしい量。両者共に1以下の正の量だとすれば、その和は2より小さくなるでしょ、というのが上の不等式の意味で、これはある意味当たり前の話だ。

数学の問題としては、「εの近似の精度が(1)で与えられているときに、当たり前のことをきちんと証明してみなさい」ということなんだと思う。大学に入ると、εδ法というのを習って、実数の連続性とか、収束の概念なんかを習う。極限の具体的な計算法を知っているのに、計算などは一切やらず、その手前の話を延々とやっているように感じて、気が遠くなった。ひどいときには、足し算の証明なんかを、アルキメデスの公理から出発して議論したりした。足し算の有効性についての証明が終わった後、「来週は割り算をやります」とか先生が言った瞬間、「小学校か、ここは...」と絶句した記憶がある。

しかし、計算式や公式を鵜呑みにして「当たり前」に計算していたことを改めて考えたりするのは、実は理論研究をやる上で、とても大切なアプローチだ。研究で、誰もやっていないところに進むときは、基礎から固めていかなければならないので、ああいう基礎的な考え方が意外に必要になるのだ。割り算や足し算の本当の意味は、もっと進んだように見える理論で、思いもかけず似たような形で再登場するのかもしれない。残念ながら、多くの学生は、こういう議論の意図がわからず脱落していく。真実を極めるタイプの研究には、こういう基礎的な考察は必須である。

さて、問題に戻るとする。条件式(1)においてε>δになるようにmを調整すると
ε+ δ = (ε-δ)  + 2δだから、

ε+δ < ε-δ + 2×0.646 = ε-δ + 1.292 < 1/8 + 1.292 = 1.417 < 2

となって証明終わり。証明すべき不等式は、実はかなりの「ザル勘定」で上限を抑えていることがわかる。つまり、(1)を満たす√7の有理数近似a/b=(2n+m)/nの精度はそれほどよいというわけではないということだ。

一方で、mの調整がどうしてもうまくいかず、ε < δとなってしまったとする。このときは、ε+δ = |-ε-δ| = |δ-ε-2δ|なので

0 > -δ-ε = (δ-ε) - 2δ > (δ-ε) -2×0.646 > (δ-ε) - 1.292 > -1/8 - 1.292 = -1.417 > -2

となり、同じように証明できた。

2017年3月10日金曜日

東大2次試験(2017): 問題5 ( 感想 )

x⇄yという交換に対する対称性があると、やはり色々なところが綺麗になる。この考え方を貫けなかったので、k < -3/4における解の分類を直感的に行うことができなかったのは反省点である。たすき掛けの解ひとつひとつは対称性を破る。しかし、2つをペアとして考えると、対称性は「回復」される。一方で、蛾の羽の先端解は、もともとの対称性を受け継いだ解となっている。

物理学では、もともと後者の解、つまりもともとの対称性(たとえば、ハミルトニアンやラグランジアンの持つ対称性)を受け継いだ解だけしか考えなかった。ところが、この対称性を破るような解も存在することに20世紀の中頃以降の物理学者たちは気がついた。その端緒を切ったのが、南部先生の提唱した「自発的対称性の破れ」であり、それを回復させる「南部ゴールドストーンモード」である。

実は、これと同じようなことは相転移の物理でも起きていて、例えば磁性体の相転移では、臨界温度以下で自発的に(回転)対称性が破れ、一方方向に磁化がそろう(つまり、電子スピンの磁気モーメントが揃う)ような状態に変遷する。

この問題では、温度に対応する制御パラメータkを通して、系の持つ対称性を尊重した解(蛾の羽の先端解および、たすき掛けの縮退した解)から、対称性の破れた解 (たすき掛けの解)へと「相転移」するシミュレーションモデルになっている、などと考えることができれば、なかなか楽しめるのではないだろうか?特に、kの値に応じて、共通接線を表現する接点の位置x0を与える3次関数f(x)の形状がどのように変わるか調べるのは、理論物理学者にとってはよく習熟しておくべき、「基礎的な技能」であろう。

2017年3月9日木曜日

東大2次試験(2017): 問題5(その4)

さて、一応答えは出たので、この辺で終了にしてもよいのだが、我々の目的は単なる試験問題の解説ではない。そもそも、試験を解くだけなら、あんな面倒な方法でやらなくったって、巷に溢れる「優秀な解答」のように短い計算でちゃちゃっとやってしまえばよいのである。しかし、答えを得るだけでは、問題の本質は理解できないし、問題の一番楽しいところも素通りだ。とはいえ、たまたま見つかった特別な因数分解を頼りに問題を解き進めるのは、いくらなんでも、ちょっと不安になるだろう。

そこで、付録として、もう少し一般の場合でも解けるように、「普通」の方法でこの問題(3次方程式の解の分類)を解いてみよう。

この方法では、極値の位置の分類によって、解の個数を調べる。そのためには3次関数の微分を計算し、極値の位置を調べる必要がある。一般に極値はdf(x)/dx=0を解いて与えられ、この問題では2次方程式として表される。すなわち

である。この方程式の判別式はD=4k2+3k=k(4k+3)であり、またもやk=-3/4が登場する。気をつけるべきは、この判別式は「極値の数」を判別するものであって、共通接線の数を判別した前回の判別式とは異なる役割をもっているという点だ。

D<0のとき実数解は存在しない。すなわち極値は存在しない。この状況に対応するのは-3/4 < k < 0のときで、このとき3次関数f(x)は極値を持たず、単に変曲点がx0=2k/3にあるだけだ。したがって、単調増加のグラフとなる。この領域では共通接線の数は1つだけである。

前回の分析との関わり合いを見てみる。-1/2 < 2k/3 < 0なので、常に存在する「蛾の羽の先端解」の接点x0=-1/2に対し、その右側に変曲点はある。また、この変曲点における3次関数の値はf(2k/3)=(1+4k/3)(1-4k/3)となり、これは-3/4<k<0の領域で正値をとる。つまり、f(2k/3)>0である。この領域(-3/4 < k < 0)で単調増加なグラフが、x → -∞において、f(x) → -∞であるし、f(2k/3)>0であれば、その間に解が一つあるのは明らかだ。そして、詳しい計算をすれば、それはx0=-1/2 (< 2k/3)になるはずである。

D=0となるのはk=-3/4とk=0の場合である。k=0の場合は、f(x0)=8x03+1=(2x0+1)(4x02-2x0+1)となる。2つ目の因数4x02-2x0+1は常に正(判別式は1-4=-3<0)であるから、接点は一つしかない(蛾の羽の先端解に対応するx0=-1/2)。実際はk < 1/4の領域では解の数は一つであるから、この結果は当然の結果であるが、0 < k < 1/4の領域でも解が一つしかないことを示すためには、極大値の位置を調べる必要がある。
k=0の場合
極値の分析を始める前に、もう一つやれることがある。それはまたもや対称性に関連する分析である。上のグラフを見てみるとわかるように、0<k<1/4においては、放物線CとDが交点を持ってしまい、重なってしまうので「たすきがけ」ができない。これが、k=0の場合以外でもそうかどうか、CとDの交点について調べてみよう。CとDの方程式を連立してみると、x4+2kx2-x+k2+k=0 となって4次方程式である。判別式かなにかでCとDの交点の数を数えられるかと思ったが、これはちょっと厄介である。

ちなみに、k=0ならばx4-x=x(x3-1)=x(x-1)(x2+x+1)=0となる。最後の因子に対応する2次式の判別式は負になるから実数解を持たない。解はx=0,1となって上の図の通りである。しかし、これではどのkの値のときに交点が発生するかよくわからない。

よく図を見ると、CとDの交点は、y=xとの交点にもなっていることがわかる。これはひとえに対称性のなせる技だ。つまり、CとDの連立方程式である4次方程式を解かなくとも、Cとy=xの連立方程式、それは2次方程式、を研究すれば、交点の数は分析できるのである。そしてそれはすでに最初に分析済みである。連立した結果の2次方程式はx2-x+k=0であり、その判別式はD=1-4kである。つまり、k<1/4のとき、CとDは交点を2つ持つ。k=1/4の時は接するので1つ。そして、k>1/4で交点は0である。つまり、「たすき掛けの解 」は、CとDの間に隙間があかなくては発生しないのである。

極値の議論に戻ろう。極値の有無を判別する2次式の判別式が零値をとる場合として、
第二臨界値であるk= -3/4がある。この場合、共通接線3本は一本に縮退し、a=-1の解、つまり蛾の羽の先端解に収束する。

したがって、3次関数の極値が2つ(つまり極小値と極大値がひとつずつ)が、「しっかり」生じる可能性があるのはk < -3/4、またはk>0の領域ということになる。極値の位置は上の2次方程式の解で得ることができ、


である。正符号(+)は極小点、負符号(-)は極大点に相当する。 この値を3次式f(x)に代入すれば極値が得られる。ただ、解を3乗したり2乗する計算はそれなりに手間がかかる。そこで、手間を省くために、2次方程式を変形してx02=(4kx0+k)/3とし、これを3次関数に代入することで計算を簡単にすることができる。変形の結果はf(x0)=-(16/9)k(4k+3)x0-(16/9)k2+1となり、線形になる。ここにx0±を代入し計算すれば、極値が得られる。

極値の値は、予想通り「面倒臭い」形になる。

この式は、しかしながら、意外にも比較的綺麗な形へと変形できるのである。まずは、平方根を含まない、最初の3項を考えよう。係数を分母と分子のそれぞれで因数分解すると

となって、うまい具合に4/3でまとめることができる。しかもその係数は-2, -3, +1であるから、k=-3/4を代入すると、綺麗に0となる。つまり因数定理により、この多項式は因数分解できて-(1/27)(4k+3)2(8k-3)となる。この結果と平方根の項をまとめると、

となる。

解が3つ存在するためには、極大値が正値をとり、極小値が負値をとる必要がある。すなわち、条件式としてはf(x0-) > 0, かつf(x0+) < 0となる。

まずは、k< -3/4の場合を考えてみよう。といっても、結論は k < -3/4になるわけだから、上の条件式はこの領域で常に成り立ってしまうはずである。実際、-(16/27)(4k+3)  > 0なので、条件式は
となる。4k+3 < 0, 8k-3 < 0, k<0なので、2つ目の不等式はこの領域で常に成り立つことはすぐにわかる。一方、上の式は第二項を右辺に移行する。両辺は正の量なので、自乗してもよい。負の量4k+3で両辺を割ると不等号の向きが変わることに注意すると  4^4*k^3 - (4k+3)(8k-3)2 < 0となる。左辺を計算して整理すると27(4k-1) < 0となる。この条件式も常に成り立つ。したがって、上の不等式はk < -3/4の領域で「恒等不等式」になっていて、つまらない分析ではあったが、新しい条件が出てこないことが確認できた。つまり、k < -3/4では、共通接線は3つあるということである。

次に、k>0の場合を考えよう。今度は-(16/27)(4k+3) < 0なので、上の不等式の向きは両方ともひっくりかえる。そして、8k-3の正負によって計算が変わってくる。まずは8k-3>0つまりk>3/8の場合を考えよう。このとき、一番上の不等式は恒等的に成り立つから、これ以上の分析は不要。一方、2つ目の不等式は第二項を右辺に移行してから自乗する。両辺正の量だから不等号の向きは変わらない。両辺を4k+3>0で割っても、符号の向きは変わらないから、不等号の向きが逆転する以外は、上の考察の場合とほぼ同じになって27(4k-1)>0となる。しかし、もともとk>3/8 (> 1/4)の場合を考えていたので、まとめるとk > 3/8になる。一方、8k-3 < 0の場合、2つ目の不等式は恒等的に成り立つのに対し、最初の不等式については初項を右辺に移行してから自乗し、4k+3(>0)で両辺を割る。その結果は27(4k-1) > 0となる。k>0, 8k-3<0の結果と合わせると、1/4 < k < 3/8となる。以上の分析をまとめると、k>0の場合、共通接線が3つ存在するのは 1/4 < kの領域である。

ここまでの分析でわかったのは、
k < -3/4 の場合、共通接線は3つ。
-3/4 < k < 0 の場合、共通接線は1つ。
k > 1/4 の場合、共通接線は3つ。
である。

やり残したのは、2つの臨界点(k=-3/4, 1/4)における考察と、0 < k < 1/4において、共通接線が1つしかないことの証明だが、これらも極値の位置関係を調べることで、答えが得られる。

最後に、3次関数y=f(x)が、パラメータkに対し、どのように振る舞いを変えていくかを、解の個数の観点から図にまとめてみた。 左上から、時計回りにkが減少していくように配置した。
赤い丸に対応するのが、「蛾の羽の先端解」で、x=-1/2に相当する。この解は、どの場合にも存在していることがわかる。各グラフの左上の数字は、解の個数、すなわち共通接線の個数を表す。

2017年3月8日水曜日

東大2次試験(2017): 問題5(その3)

問(2)の続き。

確認のため、3次関数をもう一度書くと、

となる。

今回は、対称性の考察からx0 = -1/2という解を幸運にも見つけ出すことができた。因数分解により、残りの2つの解は2次方程式を解いて得ることができる。実数解の条件である判別式が正の場合(D=(4k+3)(4k-1) > 0)、 つまり k < -3/4、あるいはk > 1/4において、残る2つのの接点のx座標は


と計算される。

a=2x0、b=x02+k = 2(k + 1/4)x0 + k - 1/4を使って共通接線を引いてみると、「たすきがけの解」の意味あいがはっきりする。例によってpostscript言語によって図を描画してみると次のようになる。まずはわかりやすいk=1( > 1/4)の場合から。
k=1の場合。共通接線は3本引ける。赤線が「蛾の羽の先端解」。緑と青の線が「たすきがけの解」
図を見ると、どうも「たすき掛けの解」はy=xに関して線対称になっているように見える。この点については後ほど議論する。

次はいよいよk=-2 (< -3/4)の場合だ。「蛾の羽の先端解」以外の解が、果たして「たすき掛けの解」に似たようなものになっているのか、それとも全く異なる想像を絶するようなものなのか?
k=-2の場合。「たすき掛け」は放物線の「外」に出ている。
結局、「たすき掛け」によく似た形になっているのがわかる(青線、緑線に対応)。世の中、想像を絶するようなことはそうそう起こらないものだ。それぞれの接線は、y=xに対して線対称の関係にあるように見える。放物線と放物線の間の領域が「閉じて」しまったため、いわば、共通接線は、「蛾の羽の先端」をかすめつつ、蛾の止まる「葉の縁」へと接している。「葉の縁」に接するかどうかは、なかなか直感では判断つきにくい。そうかもしれないが、そうじゃないかもしれない、と疑いはもてるものの、断定できない。数式はそこを「無機質に」ではあるが、断定してくれるので、ありがたい。

k < -3/4の領域でどのように3本の共通接線が存在できるのか、直感的な理解はできた。しかし、第二臨界点であるk= -3/4では、たった1本だった共通接線が、k < -3/4の領域に入った途端、突然3本に増加するという、このメカニズムは、いまだに理解しがたいものがある。なんとなく、蛾の羽の先端が開くとき、一気に縮退が解ける感じは想像できるのだが、図をつかってその様子を明らかにしておこう。

臨界点からわずかにずれた、k= -3.001/4.0 あたりを見てみよう。
k= - 3.001 / 4.0 の場合。
この図からわかったのは、対称性の縛りが、どうしても3本の共通接線を作り出している、ということである。k= -3/4の縮退は y=xと線対称な直線y=-x+bへの縮退であった。このとき、y=-x+bに線対称な直線は自分自身である。これが縮退の正体である。ところが、若干でも臨界状態からずれたとたん、縮退がほどけた接線のうち、線対称でなくなった直線(例えば緑線)は、その直線に線対称な直線(青線)の存在を許すことになる。こうして、一本だった共通接線は第二臨界点を界に突然3本に増えるのである。

第一臨界点(k= 1/4)での縮退の正体は、共通接線が対称線y=xに重なるというものだった。たしかにy=xはy=xに対して「線対称」ではあるが、y=xとは直交してない。このため、縮退が解けても、線対称の関係にある青線と緑線の2本しか発生しなかったのである。直交する共通接線、つまり蛾の羽の先端解はひとり別のところ(x0=-1/2)で、y=xに直交する共通接線を作っていたのである。

さて、この辺りで試験問題の解答も解いておこう。a=2の場合である。問(1)ではb, kをaで表現したので、それを使えばよい。が、あの表式はa≠ -1, 0という縛りがあったのを忘れるべからず。とりあえず、a=2の計算はできるので計算すると、k = 3/8を得る。また、b = -5/8である。

今まで見た来たように、この問題でもっとも重要なのはパラメーターkである。k=3/8というのは第一臨界点k=1/4の上部、すなわち 3/8 > 1/4にある。この領域で、共通接線の数は3本あることを我々はすでに知っている。また、この時「蛾の羽の先端解」と「a=2に線対称な解」があることも我々はすでに知っている。蛾の羽の先端解の場合、傾きは常にa=-1である。接点はもう何度も出て来たようにx0=-1/2である。ここで導いた関係式b = -x02+kを使ってb=1/8が得られる。対称解は、すでに得られた答えy=2x-5/8に対して、x,yの交換を行なって求める。交換するとx=2y-5/8、したがって、y=(1/2)x + 5/16である。

一般にy=xに線対称な2本の直線は、片方がy=ax+bという形なら、残りはy=(1/a)x - b/aという形になる。つまり、傾き同士の積が1となる。これは、直交する2本の直線の傾き同士の積が-1になる、というよく使われる関係式によく似ている。きっと、またどこかの問題で使えるはずである。

2017年3月7日火曜日

東大2次試験(2017): 問題5(その2)

問(2) 傾きが2の共通接線が存在するようにkの値を定める。このとき、共通接線が3本存在することを示し、それらの傾きとy切片を求めよ。


この問題を解くには色々な方法があるだろうが、ここでは、前回求めた、放物線Cの接線の方程式
と、放物線D:y=x2+kの交点を求める方向性で解いてみる。接線と放物線の方程式を連立し、整理すると、2次方程式4x02x2+{4x0(k-x02)-1}x+(k-x02)2+k=0を得る。接線となるには判別式が0とならねばならないので、対応する条件式はx0に関しての3次方程式となる。
3次方程式の解の数は(複素解も含めれば)3つあるので、この条件式の意味するところは、共通接線の数は最大で3つまでということだ。kの値によって、この3次方程式の形は変わり、解の数は時には2つだったり、1つだったりするだろう。

物理では、こういう関数系の形状の変化を相転移と結びつけて考えることがよくある。また、φ4モデルという(素粒子物理における)場の理論では、「自発的対称性の破れ」の発生のメカニズムを、パラメータ(質量パラメータと呼ばれる)の変化によって議論する。これは、ノーベル賞を取った南部先生が提唱した考え方だし、同じくノーベル賞を受賞したヒッグスの提唱したヒッグス機構という理論でも似たような考え方を適用する。これらの理論はいわば「4次関数」の形状変化を質量パラメータによって追っていく形だが、ここでは3次関数の解の数をkというパラメータ(これは放物線の座標軸上の位置に相当)によって追っていく問題となっていて、なんとなく似ている。

3次方程式の解の公式はあるらしいのだが、高校でも、大学の物理学科でも、それは習わない。ただ、3次関数の微分は2次方程式になるので、極値が最大2つあることは明らかである。極値の正負をみると、3次関数が何回x軸を横切るか図形的に判断でき、そこから3次方程式の解の個数などの性質を議論することができる。

例えば、3次項の係数が正の場合、x→±∞に対し、3次関数は±∞にそれぞれ発散する。グラフ構造の詳細を気にしなければ(つまり大域的構造だけに着目すれば)、3次関数のグラフは「左から右にかけて(つまりxが負の領域から正の領域にかけて)」斜め右上に増加する関数とみなせる。ということは、必ずどこかでx軸をよぎることは保障される。そこで今度は詳細な構造に着目し、極大値が負値をとる場合を考える。このとき、極大点の左側において関数のグラフはx軸を横切れないから、解は一つしかないことが(図形的に)わかる。このような分析を、その他の場合についても行なえばよい。

「では早速微分してみよう」と行きたいところだが、 その前にこの三次関数についてもう少し分析しておく。これは、この問題に限ったことなので、他の問題で使えるとは限らない。が、少なくとも「対称性」の強みについて習熟する練習にはなる。

まず、前回、前々回に、図を描いて共通接線の本数の予想をした。特に注目するのは「蛾の羽の先端」型の共通接線だ。こういうタイプの接線は、放物線C、Dがxとyの交換に対して対称である、つまり直線y=xに対して線対称であることから、y=-x+bタイプに限られるのではないか?という予想がたつ。つまり線対称の直線y=xと直交する直線である。ちょっとでも直交からずれるようなことがあれば、接点にならないのではないか?というのが、対称性から引き出される直感である。実際、問題文でもa=-1の場合は特別視しているし、問(1)では行列式が0となってしまう値である。

問(1)の結果を用いると接点は x0=a/2で与えられる。a=-1を代入するとx0=-1/2となる。つまり、上の考察が正しいならば、x0の三次方程式の解の一つは常にx0=-1/2になるはずである。これは因数定理/剰余定理で確認するに値する。代入してみると
8(-1/2)3-16k(-1/2)2-8k(-1/2)+1=-1-4k+4k+1 = 0
となるではないか!つまり、予想通りa=-1は常に共通接線になっているのである。ここまでくれば、整式の割り算により因数分解をさらに進めることができ、
となる。したがって、共通接線の交点は、上の式の2次式の実数解の数で決まり、それは判別式で判定可能である。判別式は

D=(4k+1)2-4 =(4k+3)(4k-1)

と計算される。「臨界値」k=1/4が現れているのがわかる。このときD=0となるので、重解(共通接線はy=x)となる。3次方程式の解としてはx=-1/2(「蛾の羽の先端」解)と合わせて2つということになる。これは前々回の3つ目のグラフに相当する。

もう一つの「臨界値」らしきものとしてk=-3/4が見えてみる。このときD=0となって「重解」となるらしい。前々回の考察で、接線の数はk=1/4を臨界点として1つの場合と3つの場合(臨界点で2つ)に別れることはグラフを描いて推測した。このときk=-3/4というのはなかったはずだ。前回の考察を踏まえると、この第二「臨界点」は共通接線が1本の領域に属する。果たしてどんな「臨界値」なんだろうか?ここは考えても仕方ないので、グラフを描いてしまおう(試験会場でも手書きでやってみる価値はある)。
k=-3/4の場合
「おー、なるほど」と膝を打った人も多いだろう。この場合は、蛾の羽が閉じて、接点が放物線CとDで共通になっている状況に相当することがわかる。k=1/4の場合は「たすき掛け」の共通接線が縮退(つまり重解になっているということ)していたが、今回は「蛾の羽の先端」が縮退しているというわけだ。ということは、3次方程式は「3重根」になっていることが予想される。k=-3/4を代入すると、確かに(2x0+1)3=0となることが確認できる。この場合、共通接線は1本しか存在しない。

D>0, すなわち(4k+3)(4k-1)>0のとき、2つの異なる実数解が存在する。これはk<-3/4あるいはk>1/4の場合で、このとき共通接線は3本存在することになる。一方、D<0、すなわち(4k+3)(4k-1)<0のとき、実数解は存在しない。つまり、共通接線が1本しかないのは-3/4<k<1/4のときである。

まとめると、
k>1/4のとき、共通接線は3本。
k=1/4のとき、共通接線は2本。
-3/4<k<1/4のとき、共通接線は1本。
k=-3/4のとき、共通接線は1本。
k<-3/4のとき、共通接線は3本。

こうしてみると、(その0)のグラフによる分析で見たように、k=1/4は「連続的」な変化に見えるのに対し、k=-3/4は突如1本から3本に共通接線が増えるようにみえ、こちらは「相転移」に近い感じだ。果たして、k=-3/4における「相転移」とはどんなものなのだろうか?