2013年4月1日月曜日

円錐曲線の幾何学的な意味:放物線(2)

「放物線で反射した光線は、y軸上にある焦点に集まる」という性質があることを確認しよう。

まず確認する必要があるのが、光の反射の法則。鏡などの反射材の表面で、光がどのように反射するか考える。物理では、反射面に垂直な方向から測った光線までの角度を使う。入射光に対する角度を入射角、反射光に対する角度を反射角という。それぞれ、θ、φと表すことにする。反射の法則は、θ=φで表される。非常に簡単な法則だし、直感とよく馴染むから「自明」のように思う人も多いだろう。どうしてこの法則が成立するのか、その理由についてはここでは考察しないでおこう(またの機会に)。
反射の法則
放物線を鏡面にもつ材質に光線を当て、反射光がどの方向に進むか計算してみよう。もちろん、放物線で反射する光が従う法則も、上で確認した「反射の法則」だ。ただし、放物線は曲線なので、反射角や入射角をどのように定義したらよいか戸惑う人もいるかもしれない。そこで登場するのが「接線」だ。

放物線で反射する光(水色の点線)。
入射光は水色の実線。反射点はP。
上図のような状況を考える。光線(水色実線)が、鉛直方向下向きに進んで、放物線の上にある点Pで反射する。反射した光(水色点線)が進んでいった先を知りたいわけだが、幾何学的に表現するために、反射光に対応する直線のy切片を計算することにする。(放物線の性質から、答えは「焦点Qに集まる」という結果になることを期待するわけだ。)

まず点Pの座標をP(x,y)とする。もちろん、y=(1/4c)x2が成り立つ。

点Pにおける放物線の接線の方程式を知りたい。まず傾き(英語ではgradientという)を計算する。曲線y=f(x)の傾きは、その微分df(x)/dxで得られるから、y'=(1/4c)2x=(1/2c)xということになる。入射光線の位置をx=dとすると、接線の傾きはd/2cで与えられる。

2013年3月31日日曜日

円錐曲線の幾何学的な意味:放物線(その1)

二次形式では表せないが、二次関数の代表である放物線の幾何学的な意味を考察してみたい。まず定義から。この定義は、たしか高校の教科書にも載っていたと思う。

y軸上に点Q(0,c)を取る。c>0と仮定する。

つぎに、y=-cの水平な直線lを考える。

最後に、点Fからの距離と、直線lからの距離が等しくなるような点P(x,y)の集合を考える。
点Qと直線lからの距離が等しい点Pの集合は、
放物線となる。

PQの距離の二乗は(ピタゴラスの定理により)x2+(y-c)2であり、直線lから点Pまでの距離の自乗は(y+c)2である。条件より、これら2つの量(距離の自乗)が等しいとすると、x2+(y-c)2=(y+c)2が成り立つ。両辺を見比べると、y2がうまく相殺できることがわかる。これにより、yに関しては線形項(つまり1次の項)のみが残ることになる。xに関しては明らかに二次式なので、整理すると
式(1)
すなわち放物線の式(あるいは二次関数の式)を得る。x=0のところで、点Fと直線lからの距離(cとなる)が原点で等しくなるように設定されていることから、この放物線は原点を通ることになった。

c<0とすると下向きの放物線となる。この証明には、座標をy軸に関してひっくり返すだけでよい。その後で、上の議論を繰り返せば同じ結論を得る。c=0の場合は、直線lと点Fが重なってしまうため放物線にはならない。そもそも、条件を満たすような点Pは原点のみとなり、曲線を描くことはない。この理由によりc=0は除外する。

ここで登場した点Q(0,c)は幾何光学で重要な役割を果たす。この点を「焦点」という。「放物線で反射した光線は必ず焦点に集まる」という幾何学的な意味を持っている。この性質を利用しているのがパラボラアンテナだ。そもそもパラボラ(parabola)というのは「放物線」という意味の英語だ。

焦点の持つこの性質を、計算で確認してみよう。
(つづく)

2013年3月21日木曜日

実対称行列の対角化:二次形式そして円錐曲線との関わり

二次形式という数学の概念がある。二次式というのは二次以下の項を含む多項式のことだが、二次形式というのは二次だけの項からなる多項式のことだ。二次元の場合、自由度はxとyしかないので、二次形式に含まれるのはx2, y2, そしてxy(=yx)ということになる。これらの線形結合はしたがって、
式(1)
となる。xyの項の係数をわざわざ2bとおいたのは、後できれいな形になるようにしたかったからだ。最初はなにが「きれい」なのかわからないだろうから、単にbと書いておいたって構わない(「2」のご利益については、後でわかるだろう)。

f(x,y)=定数、とおけば、これは二次曲線を表すが、二次形式の場合は円錐曲線、すなわち楕円、放物線、そして双曲線に相当する曲線を表すことになる。たとえば、b=0とし、a>0, c>0と選べば、f(x,y)=定数、は楕円を表すことになる。この間、パンスターズ彗星の軌道が双曲線軌道だという議論をしたが、その議論を深めるには二次形式を学んでおく必要があるというわけだ。

さて、上の二次形式を行列で表現すると次のようになる。
式(2)
真ん中の行列をAで表すとすると、その転置行列はもとの行列に等しいことはすぐに確認できる。つまり, At=Aが成り立つ。このような行列を「対称行列」という。a,b,c,dがすべて実数のとき、Aを実対称行列という。(この行列の形をみれば、式(1)で、なぜbではなく、2bとしたかわかるであろう。)

実対称行列が対角化できれば、非常に便利になる。これは、楕円の表現において、長軸短軸(主軸ともいう)にそって座標系をセットするのようなものだ。物理でいう「内部座標」の導入だ。詳細については、別の機会に譲る。

まず確認すべきなのは、「n次の実対称行列は必ず対角化できる」という定理だ。この証明は大学の線形代数の講義でやるが、今は省略し、定理が正しいことを受け入れることにする。

次に必要なのが、実対称行列の固有ベクトル同士は直交し、固有値はすべて実数となる、という定理だ。これは、量子力学で使う「n次のエルミート演算子は対角化可能で、固有値は実数となり、固有ベクトルは互いに直交しあう」という定理の特別な場合に対応する。というのは、エルミート演算子というのはA=A*tが成り立つ演算子のことをいうが、実対称行列の場合はA=A*かつA=Atなので、エルミート演算子に含まれるからだ。(注意:複素対称行列はエルミート演算子ではない。)

ここで二次の正方行列の場合に話を戻し、式(2)で与えられたような実対称行列の固有値と固有ベクトルを求めてみよう。固有値方程式は以前やったように、行列式の形で表すことができる。具体的には、固有値λに対し、|A-λE|=0となる。2次の場合、この行列式はλについての2次方程式であり、実対称行列Aに対しては、
式(3)
となる。ここで、Tr(A)=a+c, det(A)=ac-b2だ。この2次方程式の解は実数になるということが定理で保証されていると上述したが、本当にそうか確かめてみよう。判別式は
D=Tr(A)2-4det(A)
 =(a+c)2-4(ac-b2)
 =(a-c)2+4b2 ≧0
となって、たしかに実数解をもつことが確かめられる。

2つの固有値を計算すると
式(4)
となる。これに対応する固有ベクトルを計算すると、
式(5)
ただし、N±は規格化因子で、それぞれ
式(6)
で与えられる。直接計算して確かめることができるが、固有ベクトルは直交している、つまり内積は0(v+・v-=0)だ。

前にもやったように、ここで固有(列)ベクトルを並べて、行列Uをつくると、この行列は直交行列になっている、すなわちUtU=E。(これは実ユニタリー行列と呼ぶこともできる。)この直交性を確かめてみる。まずUは
式(7)
となる。計算してみるとUtU=Eが成り立つことはすぐにわかる。

ここで、昨日考察した逆行列の問題に行き当たる。つまり、UtU=EならUUt=Eが自動的に成り立つかどうか?という疑問だ。昨日の考察を踏まえれば、「成り立つ」ということになるのだが果たしてどうだろうか?計算はかなり面倒になるが、最後までやりきると、ちゃんと成立することが確認できる。

さらに、上の関係式が成り立つということは、Ut=U-1であることを意味するが、本当にそうなっているだろうか?まず行列式を計算すると(面倒だが)det(U)=-1を得る。これはユニタリー行列の条件|det(U)|2=1を満たしている。

次に、Uの転置行列と、逆行列を形式的に書いてみると
式(8)
式(9)

となる。一見したところ、この2つの行列が等しいなんて思いもしないのだが、等しいはずであるから、それを確かめてみよう。全部やるのは大変なので、左上の要素についてここでは確かめてみる。
式(10)
信じて最後まで計算すれば、ちゃんと等しいことが証明できる!

ということは、一番簡単な表現を使って、
式(11)
と表すことができるということだ。したがって、Uも簡略化できて、
式(12)
と書ける。この構造は回転変換の構造とよく似ていることに気付かれたであろう。しかし、回転変換は行列式が1であり、Uの行列式は-1なので、全く同じというわけではない。
これは鏡映反転と関わりがある。例えば、x→-x, y→yという変換Lは
式(13)
という一次変換で表せる。この辺りの考察はまた後で行うことにしよう。


以上の結果をまとめると、UtAUが対角行列となり、
式(14)
このとき、座標系(x',y')は直交変換Uによって(x,y)に移される。すなわち、
式(15)
この新しい座標系の下では、二次形式はf(x',y')=λ+x'2-y'2という形に簡素化される。これは高校で習う円の方程式を含む楕円や双曲線といった円錐曲線の方程式の標準形になっている。つまり、楕円などの円錐曲線を「斜め」からみると、式(1)あるいは式(2)のように非対角項(xyのこと)が生じて、数学的に扱いにくくなってしまうが、うまい座標系へと適当に移ってやれば、簡単な表現へと乗り移ることができるのだ。これは楕円などの円錐曲線を「真っすぐに」みることに対応する。いい座標系を見つけると、問題が簡単になることが多く、楽をして多くの結果を得ることができるのだ。

2013年3月20日水曜日

逆行列の定義

二次形式の考察をしているとき、逆行列の定義が引っかかったので、勉強し直してみた。これが意外にも難しいことがわかった。今まで、逆行列の定義はすんなり受け入れてきたので、ちょっとショックだ。

まずは通常の定義を確認しよう。n次元の正方行列を2つ考え、それぞれをA, Xと書くことにする。単位行列をEとすると、AX=XA=Eが成り立つ時、XをAの逆行列という。(逆に、AはXの逆行列だと言ってもいい。)X=A-1と表すことが多い。

高校までにおいては2次元の場合しか考察しないが、大学に入ると一般のn次元の場合について考える。その場合の逆行列を与える公式(Cramerの公式ともいう)によると、余因子行列の転置行列に、行列式の逆数をかけたものが、逆行列となる。(余因子については、ここでは説明するのは省略し、別の機会で与えることにする。)この公式から明らかにわかるのは、逆行列の存在は、行列式の逆数が存在するかどうかにかかっているということだ。つまり、行列式が0となる場合には、その逆行列は存在しないということだ。逆行列が存在する時、その行列は「正則である」という(英語ではnon-singularという)。

この条件(つまり逆行列が存在するための条件)は高校でも教わるが、二次元の場合に限られる。二次元の場合の行列式は簡単なので、逆行列が存在するかはすぐにチェックできる。例えば、二次元正方行列Aが
式(1)
で与えられるならば、その行列式det(A)は、
式(2)
となる。この式の幾何学的な解釈については以前議論した。det(A)=0ならAの逆行列は存在しないが、det(A)が0でなければ逆行列A-1は存在し、
式(3)
となる。

さて、今回気になったのは、AX=Eが成立するのはいいとして、XA=Eが成立することも条件として組み込まなくてはいけないのかどうか?という点だ。逆行列の定義として、かならず「AX=XA=E」と書かれるけれど、AX=Eだけが成立していれば、XA=Eは導出できるのではないか?この問題を書き換えれば、「任意の正方行列Aに対し、AX=Eが成立するXが見つかった時、XA=Eが成立しないようなXは存在するかどうか?」という問題となる。

予想としては、「存在しないんじゃない?」といきたいところだが、果たしてそうなのかどうかは調べてみないといけない。

ちなみに、これに似たような感じの問題が、東大(2007)の第4問に出題されている。

(1)実数aに対し、2次の正方行列A, P, Qが、5つの条件A=aP+(a+1)Q、P2 =P, Q2=Q, PQ=O, QP=Oを満たすとする。このとき、(P+Q)A=Aが成り立つことを示せ。
(2),(3)は関係ないので省略。また、この問題自身はとても簡単で、正直に左辺の(P+Q)Aを与えられた条件を利用しながら計算するだけだ。

今、気にしているのは逆行列の定義の方だが、この問題では逆行列の定義自身は直接問われてはいない。が似たような状況が問題で与えられている。それは(P+Q)A=Aなのだが、ここから自動的にP+Q=Eと言えるのかどうかが気になる。もしAに逆行列が存在するならば、自明な結論としてP+Q=Eを得る。しかし、Aに逆行列がないとするならばどうなのだろうか?逆行列が無い場合には、P+Q=EとはならないP+Qが存在して、それが(P+Q)A=Aを満たすというのだろうか?この問題ではAは二次正方行列なので、具体的に書き下して「実験」してみよう。逆行列をもたないAの例として、
式(4)
を考える。P+QをBとおいて、BA=Aを満たすBを求めてみる。すると、答えは一つにはきまらないが、例えば、
式(5)
が条件を満たす。しかし、このBは単位行列とは限らない。(a=b=0の場合のみが単位行列、しかしそのときA=Oとなってしまう。)結論としては、BA=Aだからといって、B=Eかどうかは決定できないということになる。

さて、本題に戻ろう。今度はAB=Eのとき、B=A-1と言えるかどうか?という問題だ。もしこれが言えれば、自動的にBA=Eは成立する。

両辺の行列式を取ってみると、det(A) det(B)=1となる。この結果、det(A)=0は許されない(同時にdet(B)=0も許されない)ことがわかる。従って、逆行列は存在することになり、BA=Eは自動的に成立する。この証明は一般のn次の場合にも適用できる。

しかし、問題になるのは、Cramerの公式を導くときに、逆行列の定義としてAB=BA=Eを利用したかどうかだ。もし、AB=Eだけで済むのであれば、BA=Eは余分な条件ということになるのだが、この点についてはただいま研究中。だが、ちょっと証明を見た感じでは、どうも利用しているように見える....(卵が先か、鶏が先か?という問題のように見えてきた...)目がまわってきた...

練習問題として、2次正方行列の場合で、正則でない行列Aに対し、AB=Eとなる行列Bを見つけられるかどうか試しに計算してみよう。det(A)=0の例として、上で使ったA(式4)を採用しよう。Bの成分は次のようにおき、Aによってどのように表現できるか計算する。
AB=Eを計算すると、

を得る。結果が0になる式(非対角成分)にまず着目すると、a=0 or q+s=0という条件と、b=0 or p+r=0という条件が要求されることになる。次に結果が1になる式(対角成分)に着目すると、a(p+r)=1とb(q+s)=1だ。最初の2つの条件式から得られるa=0とか、b=0とかいう条件はAに科せられる条件だが、Aは与えられた行列なので自由にいじることはできない。したがって、p+r=0、およびq+s=0の方を選ぶことになるが、これは対角成分より得られた式と矛盾する。つまり、最初の2つの条件式と、最後の2つの条件式を、同時に成立させることは不可能だ。つまり、BがAの逆行列である以外にAB=Eを成立させることはできないということだ。

Aの形を一般形(式1)にして、det(A)=ad-bc=0を付帯条件に課して計算しても、同じ結論になる。

2013年3月17日日曜日

円錐曲線とパンスターズ彗星

パンスターズ彗星が3月10日に近日点通過し、光度を上げながら、北半球の夕空に姿を見せるようになった。とはいえ、思いの外、暗くて小さな彗星となり、その観測には苦労している人が多いのではないだろうか?私も一週間チャレンジし続け、ようやく昨日撮影することができた。とはいえ、自力ではとうてい発見できなかっただろう。最後は、隣りで観測している人に場所を聞いたのだった...

望遠レンズで撮影した6枚の画像を
gimpを用いて加算合成という方法で画像処理した結果

科学の研究は最初がとても難しい。だから最初にその頂に到達した人を、心の底から褒め讃える習慣がある。ノーベル賞もそのひとつだろう。

さて、天文学科に行くにせよ、宇宙工学を専攻するにせよ、天体/人工衛星の軌道計算に、円錐曲線は欠かせない。

軌道を観測した結果、今回のパンスターズ彗星の離心率は1を越えているという。これは双曲線軌道に対応している。この観測通りであるのなら、パンスターズ彗星は二度と太陽系には戻って来ない。

ちなみに、地球の離心率は0.0167...と極めて0に近い。これは地球の軌道が円軌道(離心率=0)に非常に近い楕円軌道であることを意味する。ちなみに、火星の軌道の離心率は0.1弱で、地球の離心率よりも一桁大きい。この「大きな」離心率のため(といっても人間の目には円軌道に見えるかも)、ケプラーは火星の軌道計算で非常に苦しむはめになったのだ。

一方、彗星の代表格であるハレー彗星の軌道の離心率は、0.967...と極めて1に近く、その楕円軌道はかなり円形からかけ離れ歪んでいる。離心率が1の円錐曲線は、実は、放物線つまり二次関数だ。ハレー彗星の軌道はむしろ放物線に近いのだ。

以上のように、離心率が1に等しいか、1より大きいか、それとも1より小さいかによって、円錐曲線は3つに分類される。対応する曲線は、順に、放物線、双曲線、そして楕円となる。円は、楕円の特別な場合で、離心率が0の軌道だ。

物理学の観点からすると、高校や中学の数学で、放物線を含むこれらの円錐曲線を一生懸命に学ぶ一つの理由は、重力に従って運動する物体の軌道は必ず円錐曲線のどれかになるからだ。

まずは手始めに放物線の問題からいってみよう。東大理系(2002)の問題。「非常に簡単」と評されている問題だが、彗星の衝突、あるいは彗星と人工衛星をランデブーさせる問題とよみ代えれば、それなりに楽しめるかも。2つの放物線、
y= 2√3 (x - cosθ)2 + sinθ
y=-2√3 (x + cosθ)2 - sinθ
が与えられていて、これが2点で交わるための、θの条件を求めよというもの。

問題を解くだけなら、連立させてyを消去。xの二次式になるので、判別式を確認して、実数解が2つになる場合を調べればよい。

問題を解く前に、上の放物線の状況について確認しておく。すでに、標準形になっているので、すぐに前者はy=2√3 x2をv=(cosθ,sinθ)方向に平行移動したもの、後者はy=-2√3 x2をv=(-cosθ,-sinθ)方向に移動したものであることがわかる。放物線の極値点は、両者共に単位円(x2+y2=1)の上にあり、2つの放物線は原点に対して点対称の関係にある。これは物理学でいうパリティ変換と同じだから、(x,y) → (-x,-y)という変換に対応する。これは、一次変換であり、かつ角度πの回転変換になっていることはすぐに確認できる。すなわち、

回転変換はユニタリ変換だということは前に見た。実際、行列式は(-1)×(-1)=1となる。三次元のパリティ変換は行列式が-1になるが、二次元の場合は1になる。つまり、二次元のパリティ変換は回転変換と等価で、連続変換(微小回転の繰り返し)で実現できる。一方、三次元のパリティ変換は、回転変換と行列式の正負が異なるため、連続変換(微小回転の繰り返し)では実現できない。


2013年3月4日月曜日

京大(2005)の問題4

京都大学(2005・前期)の問題4。
a3-b3=217を満たす整数の組(a,b)を全て見つけよ。
「10分で解ける楽勝問題だ!」と思ったが、1×217の場合をうっかり忘れてしまった...このうっかりミス で、本番の入試ならば点数は半減となったことだろう....

因数分解で1×....というのは、自明すぎて頭から抜けてしまいがち。時間を気にして焦るあまり、こういうミスが入試では出てくる。10分で解けても、20分は問題を睨んで見落としを無くさないといけない。気をつけるべし。

それにしても、入試問題にはa3±b3系の因数分解がよく出てくる。あまりに慣れ過ぎて、一般の場合が解けなくなるようでも困るし、頭が固まってしまってもまずい。慣れながらも、慣れすぎないという気持ちが大事かも。

ということで、一般化して考えてみることにした。もしかして...と思ってやってみると、案の定うまくいった!ということで、本日「発見」したのが、この恒等式(とはいえ、数百年前に誰かが既に発見しているとは思うが)
式(1)
簡単に証明できるのも嬉しい。符号を+に変えたバージョンもすぐに証明できるはず。それこそ、「この公式を数学的帰納法で証明せよ」なんて問題がいつかどこかで出るかも。

それにしても、大学入試には意外にも中学で習う数学がかなり出てくるので驚いている。217=7×31という因数分解は中学1年で習う内容だったか?(もしかすると、小学校だったりして。)また、この問題は結局2次方程式を解く事になるわけで、それも中学の問題。つまり、この京大の問題は高校入試レベルの問題ということになるのでは?

2013年2月28日木曜日

阪大2次試験(2013):問題1

大阪大学(2013)の問題1。
limh→0 sin(x)/x = 1であることを示し、sin(x)の導関数がcos(x)であることを証明せよ。
結構おもしろそう。

物理の入試問題を見ていると、あちこちの大学で結構頻繁に「θは小さいものとして、sinθ〜θと近似してよい」というただし書きが添えられているのを見かける。この近似も、上の極限値問題も、テイラー展開というものに関連していることは、高校生でも知っておくべきだろう。理論物理学をやる立場からすれば、古代ギリシアの幾何学に頼った証明なんかより、解析学や線形代数の観点から、この問題に対処すべきだろう。

テイラー展開というのは、関数f(x)をx=0の周辺でベキ展開する解析法のことだ。大学に入ったら解析学の講義で真っ先に習う(もしかしたら、物理の講義で最初に習う人もいるかも)。それだけ、物理をやる上で大切な数学手法のひとつだ。 収束の問題とか、数学的には細かいところまで気にしないといけないだろうが、物理や工学で使う「道具」としては、まず概念の概要を掴むのが大切なので、数学的には粗い議論だとは思うが、テイラー展開とは何かについて、直感的な説明をしてみる。(テイラー展開の理論でも、ベクトル空間や一次独立の基底など、といった概念は必要になる。そして、それは量子力学の波動関数の数学的な扱いなどへと発展していく。関数が「無限次元のベクトル」だという認識を知った時、結構驚く学生はいるのではないか?)

ある変数xのベキ乗項xn, n=0, 1, 2, 3....を考える。これをあたかも「一次独立なベクトル」のように考えて、この「ベクトル」が形成する「ベクトル空間」に含まれる「任意のベクトル」を線形結合で表すことを考える。この「任意のベクトル」というのが、関数f(x)に相当する。nは0から始まって∞まで続くから、もしそれぞれのベキ乗項が「独立」ならば、このベクトル空間は「無限大次元」ということになる。独立だと仮定してやると、「任意のベクトル」であるf(x)を、「独立なベクトル(つまり基底)」xnによって線形結合で表すことができるから、f(x)=Σn=0 (cnxn)とかくことができる。これがベキ級数展開と呼ばれる展開法だ。

c0を求めるには、x=0を代入すればよい。もちろん、c0=f(0)となる。c1を求めるときはどうしたらよいか?それには、f(x)を一回微分してからx=0を代入すればよい。c0は定数項だから微分によって消える。一方、一次の項は(x)'=1だから係数だけになる。二次以上の高次項にはxが残るから、x=0を代入することで消えてしまうというわけだ。こうして、c1=f'(0)を得る。このようにして、順に展開係数を求める事は可能で、cn=f(n)(0)/n!となる。f(n)(x)はn階微分を意味する。この結果をベキ級数展開に入れた結果を、テイラー展開と呼ぶ(正確にはマクローリン展開という。展開をx=0の周りに行っているからだ。一般のx=h周りのベキ級数展開をテイラー展開という。だから、マクローリン展開はテイラー展開の一種とみなすこともできる)。

試験会場では、こういう事をぐたぐたと答案に書く訳にはいかないが、三角関数は無限回微分可能であり、ベキ級数展開の展開係数が高階微分によって表されることを述べて、「三角関数はベキ級数展開可能だ」と一言断っておけば、採点官は文句は言わないだろう。

とはいうものの、三角関数の冪級数展開で議論を始めると、最後に定数項の決定で困る事になる。そこで、より扱いが楽な指数関数のベキ級数展開をまず調べておいてから、オイラーの公式によって、三角関数に議論を橋渡しすることにする。

まず、f(x)=exp(x)とし、上で議論した様に冪級数展開する。
式(1)
まず、この式にx=0を代入する。exp(0)=1だから、c0=1を得る。次に両辺を一度微分する。exp(x)の微分は自分自身、つまりexp(x)のままだから、
式(2)
またx=0を代入すると、c1=1を得る。このように、微分を何度も計算し、その度にx=0を代入する事で、展開係数cnは次々と求まる。それは、cn=1/n!となる。こうして、
式(3)
を得る。これは指数関数のテイラー展開(マクローリン展開)に他ならない。

最後に、x=iθを上の展開式に代入する。すると、実数項と虚数項が交互に現れる級数になる。
式(4)
左辺にオイラーの公式を適用すると、右辺の実数部分はcosθに対応し、虚数部分はsinθに対応することがわかる。よって、sinとcosのテイラー展開は次のようになることがわかる。
式(5)
この段階で、sin(x)の微分はcos(x)になり、cos(x)の微分は-sin(x)になることは、右辺のベキ級数展開の部分を項別微分したものを比べれば明らかとなる。(とはいえ、数学的には無限級数の場合の収束については慎重に議論を進める必要があるのだが...)

このテイラー展開を利用すると、sin(x)/xのx→0の極限値が1であること、そして(1-cos(x))/xのx→0の極限値が0であることなどは簡単に証明できてしまう。

しかし、問題文の書き方からすると、テイラー展開によってsin(x)の微分がcos(x)になっていることを証明しても点はもらえないので、とりあえずテイラー展開によって
式(6)
であることを示し、x→0で右辺が1に収束することを証明する。つまり、lim(sin(x)/x)=1を証明したとここで宣言しておく。次に(不自然だが)、微分の定義式から {cos(x+h)-cos(h)}/hの極限値(h→0)を考察する。cos(x+h)=cos(x)cos(h)-sin(x)sin(h)であることを利用すると、{cos(x+h)-cos(h) }/h = cos(x)  {cos(h)-1}/h + sin(x) sin(h)/hを得る。初項は0になり、第二項が残るのでcos(x)の微分はsin(x)だということになる。

これなら文句は言えまい。もちろん、オイラーの公式は大学に入らないと習わない...が、それに目をつぶれば、満点近くもらえるはず。

2013年2月27日水曜日

京大2次試験(2013):感想

行列の問題がない...残念。数列の問題はともかく、解析の問題は計算だけであまりおもしろくなさそう(というより、かなり楽ちんな問題じゃないか?)。図形の問題は基本的には古くさくて、パズルとして楽しめるだろうが、物理の観点からするとあまりおもしろくなさそう。もちろん、まだ解いてみてないから、意外におもしろい数学構造が隠れている可能性もあるかもしれないが....

とりあえず、やる気がしない.....ということで、「後々の研究のために」残しておく事にしよう。

東大2次試験(2013):問題4

図形の問題だが、ベクトルが問題文に与えられているから、ベクトルで解こう。前にも述べたようにベクトルと行列は密接な関係にある。量子力学では両者は切っても切れない関係にある。だから、この問題もその練習だと思って解いていこう。さもないと、古代ギリシャの幾何学の学校で勉強させられてる気分になってしまう...

とはいえ、まずは古代ギリシア風に解いてみよう。ちなみに(1)はとても簡単で、センター試験でやるような問題といってもいいだろう。なんの工夫も要らない、そのまま正直にやるだけで答えが出てくる。問われているのは角度。角度をベクトルで表現するとしたら、まずは「内積」が思い浮かぶ。
得られた答えを基に、postscriptで作図してみた。

まずは、PAとPBのなす角をφ、PAとPCのなす角をθとおこう。PCとPBのなす角は自動的に2π-φ-θとなるが、何度も書くのが面倒なので、これをχとおくことにする。したがって、φ+θ+χ=2π。PAとPBの内積を(PA・PB)と表すことにすると、(PA・PB)=|PA| |PB| cosφだ。同様にして、(PA・PC)などの内積もベクトルの長さと角度によって表される。与えられた式に対し、最初はPAで内積をとり、次はPBで、最後はPCという具合に3種類の内積をとる。例えば、PAの場合は(PA・PA)/|PA| +(PA・PB)/|PB| +(PA・PC)/|PC| = 0となる。これに角度や長さ(ノルム)の表現を代入すると、1 + cosφ + cosθ = 0という関係式が手に入る。このようにして、角度に関しての方程式が3つ手に入り、その連立方程式を解くと、cosφ=cosθ=cosχ=-1/2となる。つまり、φ=θ=χ=2π/3という答えが得られる。

実は、与えられた与式、3つの単位ベクトルの和が0ベクトル、は物理的に考えれば、3つの力の釣り合いを表している。全てが同じ大きさ(単位ベクトル)なので、120度を成して引っ張り合ったときだけ釣り合うことは直感的にすぐわかる。もちろん、これは東大の数学の試験なので、答えはわかっても「数学の答案らしく」仕上げないといけないので、上のような計算をやってみせればよい。いずれにせよ、あっという間にここまでは来れる。

次の(2)がちょっと厄介だ。(2)もセンター試験風に簡単に解けるのであれば、これはもはやセンター試験であって、東大の二次試験ではない。つまり、そうは問屋が下ろさない、というわけだ。(1)が解けた段階で、すぐに点A、B、C、Pを結んで出来る複数の三角形について、誰もが余弦定理を使いたくなるはずだ。しかし、余弦定理で行き着けるのは、(a-b)(a+b+c)=-1などの関係式3つに過ぎず、なかなかその先に進む事ができない。a+b+c=kなどとおいて技巧的に、かつかなり強引に解き進む方法もあるらしいが、ここでは行列とベクトルの方法で解く事にしよう。古代ギリシアの幾何学ではなく、あくまで、デカルトが創始した、近代ヨーロッパの「代数幾何」として解くのだ!

まず、2次元平面における直線のパラメータ表示を使う。これは前に、東大(1977)の問題を研究したときに利用した方法だ。(注意:現在このテーマは「その1」までで中断されているが、手元のメモにはちゃんと書いてあるので....そのうち更新しますから、少々お待ちください。)Aを原点とし、ABをy軸、ACをx軸とする座標をセットすると、ベクトルPB、PA、ABの関係は、AB=AP+PBとなる。ベクトルPAを極座標表示するとPA=(a cosθ,a sinθ)=a e(A)となる。ここで、e(A)=(cosθ,sinθ)はAP方向の単位ベクトルを表す。つまり、-PA/|PA|=e(A)。AB=(0,1)は自明。そして、PB=b R(π/3)e(A)と書ける。R(φ)は回転角φの回転行列。bR(π/3)は、今年の問題(1)で登場した行列Aと同じ構造をしている、つまりスケーリングと回転の組み合わせだ。

PとBを通る直線というのは、APを起点にPCの方向に伸びる直線のことだ。だから、e(B)=R(2π/3)e(A)を基本ベクトルとし、そのベクトルをPの先から延ばしたり縮めたりして直線PBを「作る」ことになる。伸び縮み(スケーリング)の程度がbということになる。e(B)は単位ベクトルe(A)を回転させただけだから、長さは1のまま。つまり、PB方向の単位ベクトルということになる。当然、e(A)とe(B)は一次独立となる。2次元平面上のどんなベクトルも2つの一次独立なベクトル(基底ベクトル)の線形結合で表す事ができる、というのが線形代数の大事なポイントだ(定理になっているはず)。この場合は、直線PB上にある点に向けて、原点Aから伸びるベクトル(y軸のこと)が、e(A)とe(B)の線形結合になっているというふうに解釈する。(もちろん、直線のパラメータ表示と見てもよい。)まとめると、
式(1)
となるが、よく考えると(cosθ,sinθ)=R(θ)(1,0)であり、R(A)R(B)=R(A+B)だから、
式(2)
と書く事もできる。この結果は、x軸方向の単位ベクトルを90度反時計周りに回転して、y軸の単位ベクトルに変換した、と見なすことができる。つまり、
式(3)
という関係式が導ける。この関係式から得られるのは、aとbに関する連立一次方程式で、それを行列、ベクトルを用いてまとめると、
式(4)
となる。この行列は逆行列をもつ(行列式=√3/2となり、0でない)から、両辺にそれをかけて(a,b)を求めることができた。ただし、ここまでの計算ではaもbもθによるパラメータ表示になっているので、最終的にはθを消去する必要がある。この段階では、それがどのように実現されるのかはまだ明らかではない。が、計算を先に進めよう。

次は、同じようにして直線PCのパラメータ表示から出発して、(a,c)を計算することができる。重要なのは
式(5)
だ。これは、直線PCのパラメータ表示が、x軸にある単位ベクトルを、x軸に沿って√3倍に拡大する操作と等価、という結論を意味する。この式から、(a,c)を計算することが可能だ。

最初の連立方程式を解いて得られたaはa=-(2/√3)cos(θ+π/3)、次の連立方程式からはa=-2sin(θ-π/3)が得られた。一見異なる表式だが、同じ値を持たなくてはならない。したがって、両者を結ぶ必要がある。その結果θに関する方程式が得られ、tanθ=2/√3という値が求まる。これはcosθ=√3/√7、sinθ=2/√7を意味する。θの値が決まったので、a,b,cのパラメータ表示からθを消去すると、(a,b,c)=(1/√7, 2/√7, 4/√7)という答えが得られる。

考察:

結局(a,b,c,θ)という4つの変数に対して、4つの「一次連立方程式」を立てる事ができたのが勝因だ。とはいえ、素直な連立方程式ではなく、θに関してはaのダブりをうまく利用して求めることになった。ある意味、これは「運」だったのかもしれない。

とはいえ、直線のパラメータ表示を、回転や拡大の組み合わせとして理解できたのは面白かった。結局直線が三角形の頂点にやってくる、というのはかなり強い拘束条件であって、いろいろな値が決まるのだ。それにしても、この問題を考えついた人は、かなり図形とにらめっこしたと思われる。もちろん、強い拘束条件があるので、必ず答えが得られるはず、と信念をもって細部を確認していったと思う。3本の単位ベクトルの釣り合いではなく、比率を変えて同じような問題を作ってみたら、果たして答えは求まるのだろうか?興味が出て来た。

東大2次試験(2013):問題1

この問題は、先日考察した京都大学の2007年の問題5と同じ内容だ!だから、基本的には同じ内容のことを答えればよい。京都の過去問を勉強していた人にとっては、この問題1は「楽勝問題」だったかもしれない。京都の場合には、行列Aは具体的には与えられなかったが、東大では具体的な計算となった。その辺で手間取ったり時間をロスした人はいるかもしれないが、これだけ同じ内容の問題なのだから「この問題は簡単だった」といっておこう。とはいえ、初めてこの問題を見た人は、いろいろ気にしなければならない細部に時間を取られて、意外に手こずったかもしれない。知っている人が得をするという、明暗がはっきり分かれたタイプの問題だったのでは。

いずれにせよ、この問題は、入試問題作成者にとても気に入られているようで、きっと、またどこかで出題されるはず。しっかりやっておいて損はないだろう。もしかすると、また東大や京大でも出題されるかも。大学に受かってしまった人も、大学の数学や物理で必須の、固有値問題や一次独立性といった項目に関連するので、その辺りでつまずいた人は、この問題を手がかりにして先を進む事も可能だろう。

さて、京都大の場合はm回目の演算の後に最初のベクトルに戻ったが、東大では6回目に戻るという設定で、具体的な数が与えられているのが今回の特徴だ。(どうも、昔m=3の場合が京都で出されたことがあったらしい。次はきっとm=5とか8だろう...)

 まず、ベクトルP0=(x0,y0)=(1,0)が基準点となる。この基準ベクトルを、問題文で与えられた変換を繰り返し作用させることで、P0→P1→....→P6→....と次々に「動かして」いく。変換の仕方は問題文に与えられており、
式(1)
だ。右辺が線形結合になっているのを見て、すぐにこの式は一次変換と見抜くべし。つまり、行列Aを
式(2)
とおくと、P(n+1) = AP(n)になっている。

この式より、P(n)=AP(n-1)=AAP(n-2)=....=AnP(0)であることが導ける。今回はn=6で元に戻るというから、P(0)=A6P(0)である。これは、行列B=A6に対する「固有値方程式」のように見える(Bが単位行列の場合は、自明な恒等式になる)。その固有値は1。

この式の両辺にAを再度作用させると、P(1)=A6P(1)も成立することが示せる。これも固有値1の固有方程式のように見える。同じ操作を繰り返すと、P(2),P(3),...などと、たくさんのベクトルに対し、固有値1の固有値方程式らしき関係式が得られる。問題文で、「P(0)からP(5)は異なる点(ベクトル)」ということになっていることは忘るべからず。

京大2007の結果を再利用すると、これらのベクトルが一次独立な場合、A6は単位行列になることが証明できる。まずは、この場合を考察する。前に確認したように、二次元空間では、一次独立なベクトルは2つ。最初に選ぶベクトルは任意にとれるからP(0)でよい。もう一つの(そして最後の)一次独立なベクトルは、P(0)と異なるというP(1)からP(5)までのいずれかのベクトルかも、と考えるのは自然だろう。その内のどれかが、一次独立だと仮定しよう。どれをとっても結論は変わらないので、便利なP(1)を一次独立のベクトルとしよう。京大の問題のところで議論したように、この場合A6=Eという結論になる。

Aを上の形のまま利用すると計算が大変になるので、まずはAの固有値方程式、Av=λv(ただし、vは固有ベクトル、λは固有値)を考えることにする。狙いは、得られた固有ベクトル2つから形成される正則な行列Qによって、Aを対角化することだ。Q=(v1 v2)というようにつくる。京大2007のところで考察したように、v1とv2が独立ならばPは逆行列をもつ。ということは、v1とv2が異なる固有値を持てば(つまり重解でなければ)、Qは必ず正則(つまり逆行列を持つということ)になるという意味でもある。ということで、Aの固有値問題をここで解いてしまう。

固有値問題の解き方の手順は、まずAv-λv=0という風に右辺を左辺に移行し、次に(A-λE)v=0とベクトルで「因数分解」する。もし行列A-λEが逆行列をもてば、v=0つまりvは零ベクトルになってしまう。固有値問題では零ベクトルでないものを探すのが「仕事」だから、これはまずい。ということで、A-λEが逆行列を持たない条件、つまり行列式が0、det(A-λE)=0、が成立する必要がある。このλに関する方程式を固有値方程式という。2次元空間では固有値方程式はλについての2次方程式になるので、中学生でも解ける。今回の行列Aについて固有値方程式を解くと、λ=a±ibとなる。複素共役な2つの数が固有値になるというわけだ。それぞれの固有値に対応した固有ベクトルをAv=λvより求め、それを使ってQ=(v1 v2)を作る。とはいえ、今回の問題ではQを実際に計算する必要はない。大事なのは、
式(3)
という具合にAを対角化できるということだ。

今はA6=Eが成立するので、この式の両辺において、左側からQ-1、右側からQを掛ける。Q-1A6Q=(Q-1AQ)6だから、(Q-1AQ) = Eという結果を得る。すなわち、
式(4)
が単位行列だということになる。(上の式を見ればわかるように、対角化した理由はひとえに、対角行列の冪乗は対角要素の冪乗になる、という性質を使いたかったからだ。)すなわち(a±ib)6=1が求めるべきa,bに関する条件式となる。これは1の六乗根を求めよ、という風に読み替えることができる。

ここで、先日議論したばかりのオイラーの公式が活躍する。六乗根の解は6つあり、それらをガウス平面(複素平面)にプロットすると正六角形の形に配置されることを、以前確認した。6つの解の内2つは実数解で±1となる(自明な解と言ってもいいかも)。残りの4つは複素解となるが、六角形の形を考えれば、2組の複素共役な数になっているはずだ。つまり、a+ibとa-ibは六乗根の解であり、かつ複素共役だから、z=a+ib (a,bは正負いずれの値もOK)と書いて統一し、z6=1の解を求める形でaとbを計算すればよい。ごちゃごちゃ書いたが、極座標表示に慣れていれば、答えは簡単でz=exp(2πik/6)=exp(iπk/3)、ただしk=0,1,2,3,4,5となる。ただ、k=0とk=3は実数解+1と-1に対応しているので除外する。オイラーの公式を使うと、exp(iπk/3)=cos(kπ/3) + i sin(kπ/3)となるから、実部がa、虚部がbに対応する。従って、a=cos(kπ/3)、b=sin(kπ/3), k=1,2,4,5ということになる。複素共役の観点からすると、k=(1,5), (2,4)という組(ペア)に分類される。

ここで考察を止めると「部分点」になってしまうから、気をつける必要がある。三角関数の中身kπ/3は分母に3が入っている。一方、P(n)、n=0,1,2,3,4,5は全て異なる点だという注文が問題でついている。nの中に3の倍数は一つあり、この場合(a+ib)3=exp(ikπ/3)3=exp(ikπ)となる。k=(2,4)のペアの場合、exp(2πi)=exp(4πi)=1となり、P(3)=P(0)となってしまう。したがって、この場合は除外しないといけない。一方、k=(1,5)のペアの場合、exp(iπ)=exp(5πi)=-1となるので、P(0)=-P(3)となり、符号の分だけ辛うじて基準点と異なる点に行き着く。したがって、k=(1,5)の場合だけを採用する。

cos(π/3)=cos(5π/3)=1/2であり、sin(π/3)=-sin(5π/3)=√3/2なので、(a,b)=(1/2,±√3/2)が答えとなる。予想通り、複素共役な結果が得られた。

さて、一次独立な2つのベクトル(これを基底と呼ぶ)がP(0)〜P(5)の中に含まれている場合については上の考察でよい。しかし、もし一次従属だったらどうか?これは、京大の問題で気にしたポイントだ。P(0)〜P(5)がすべて従属でありながrも、異なる点であるためには、これらのベクトルがすべて比例関係にあればよい(つまり幾何的には平行ということ)。つまり、P(1)=αP(0)である。このとき、αは1には選べない(そうだとするとP(1)=P(0)となって題意に反する。また、P(2)の場合について考察すると、α=-1の場合も除外しなくてはならなくなる)。P(1)=AP(0)だから、実はこの従属の関係式は、固有値方程式AP(0)=αP(0)に相当する。もちろん、上で計算したようにα=a±ibだ。Aを固有値方程式に5回作用させると、A6P(0)=α6P(0)を得る。が、これはP(0)に等しい訳で、α6=1という条件式が得られる。ここからは、一次独立の場合と同じ論法でいける。つまり、一次独立だろうが、一次従属だろうが、結果は同じになる。

考察1

どうも高校生たちは、Aを回転行列R(θ)とスケーリング行列S(μ)の組み合わせとして解いているようだ。S(μ)は対角行列なのでR(θ)と可換。したがって、A=S(μ)R(θ)=R(θ)S(μ)と好きな順番にすることができる。今回はこの性質には気付かなかったが、遠い昔自分が受験生だったときは、このタイプの計算をよく練習した記憶がある...たしかに対角要素がaで統一されているし、非対角要素は符号だけ異なるbと-bだ。これは回転行列の構造とよく似ている。スケーリングファクターをμとすると、a=μcosθ, b=μsinθという関係が成り立つから、μ2=a2+b2が成り立つ。この解釈は物理的に問題を理解する上ではとても役に立つだろう。

考察2

a=0の場合。このとき、行列は反対称行列と呼ばれる。反対称行列の定義は、転置行列が符号を変えた最初の行列に等しくなるというものだ。つまりAt=-Aだ。これにより、対角要素はすべて0になることが保証される。行列Aのi行j列にある行列要素をA(i,j)と表すとすると、A(i,j)=-A(j,i)。j=iの時は、A(i,i)=-A(i,i)だから、A(i,i)=0となる。

また、反対称行列の固有値は一般に純虚数となる(三次元、4次元に留まらず、一般のn次元で成立する)。今回の東大の問題は2次元だがこの性質が確認できる。つまり、Aの固有値はλ=a±ibだが、a=0のとき(反対称行列)はλ=±ibとなり、純虚数となる。


さらに、反対称行列の行列式は、必ずある数の平方になる。今回の問題でも、det(A)=b2になるから、やはり平方数だ。実はこの「ある数」、つまり行列式の平方根、はパフィアン(英語風の発音だとファフィアン。オリジナルはドイツ語で、Pfaffianと綴る)と呼ばれる量だ。この量を発明したのは、ドイツの数学者パフ。彼はガウスの先生でもあった。

2次元の場合は、Pf(A)=bとなる。一般化してdet(A)=(Pf(A))2と書いても同様に成立する(次元が高くなっても成立するということ)。実は、物理学では最近パフィアンを使い出した。量子ホール効果とか、量子計算とかで登場する。実は、超伝導の理論で有名になったペアリング(対相関)にパフィアンは非常に関係が深いのだ。量子計算でも2電子系のエンタグルメント(つまりペアリング)の議論の延長上にパフィアンが登場する。

次は問題4に進んでみよう

2013年2月26日火曜日

東大2次試験(2013):まずは感想から。

2013年の国立大学の2次試験が行われている。東大の数学は昨日行われた。問題を見てみたが、難しそうなもの、簡単そうなものが入り乱れている感じがした。確率と立体図形の問題は、このブログではまだ扱っていないので、今回は見ない事にする。

問題1問題4がどうやら行列と関係ありそうな問題に見える。何より、ベクトルが使われている。ベクトルと行列はセットで考えるべきで、量子力学的に考えるなら、ベクトルは物理状態(量子状態)、そして行列は物理状態(つまりベクトル)を操作する道具(角運動量や磁場など「回転」と関わったり、運動量など「並進運動」などと関わったりする「力学変数」に相当)と考えていけば、退屈な受験数学も、物理の練習問題として、多少は楽しめるというものだ。

問題2は、解の範囲を調べる解析の問題。これは、量子力学のエネルギー固有値の計算でよくやる問題に似ている。例えば、一次元の井戸型ポテンシャルの固有値の計算において、今回の問題2と似たような計算が登場する。その計算では、tanと半径aの円の交点を考える。具体的には、半径aを変えていくと、交点がどのように変わっていくかがポイントになる。今回の試験問題では、直線の傾きを変えることで、三角関数(および減衰曲線)を含む曲線との解の個数を調べる問題になっている。

問題5は、物理ではあまり出て来ないタイプの内容。ただ、暗号とか量子計算に関連する素数とか整数の問題に関わりがあると思われるから、まったく無視するわけにもいかないだろう。ただ、この問題はどちらかという純粋な数学に近い雰囲気がある問題だと思う。実際、私はこの問題の(2)は最後まで頑張るのはあきらめた...途中、面白い関係式は見つけたりもしたが、すぐにはどうやって解いていいのかわからなかった。(もちろん、(1)に関しては問題なかったが。)どうも99桁続く111....11というやつは3で割り切れるらしい。たしかに、11/3 = 3(余り2)、111/3 = 37(割り切れる)、1111/3 = 370 (余り1)、11111/3 = 3703 (余り2)、111111/3 = 37037(割り切れる)、....と行った具合に周期的に状況は推移する。割り切れるのは、3桁、6桁、9桁、と3の倍数の数だけ1が並んだとき。したがって、99回続く1は3で割り切れるのだ!

ということで、問題1、2、4を見て見よう。その他の問題については、後々の楽しみとしてとっておくことにする。

それでは問題1にとりかかろう

2013年2月23日土曜日

オイラーの公式:n重根の表現

前回の問題で、αm=1の実数解は1(あるいは−1)であることを利用した。実際、x2=1の解はx=±1であり、それ以外にはない。

 ではx3=1はどうか?x=1は自明な解である。(一般に、ベキ数が奇数のときは、x=-1は解とはならない。)しかし、他には解はないのだろうか?答えはYes and Noである。もちろん、実数解に限れば、x3=1の解はx=1以外にはない。しかし、複素数も含めば、x=1を含めて全部で3つの解が存在する。

 実は、xn=1の解は一般にn個ある。しかし、この場合の解は虚数解も含んだ上での話だ。たとえば、2次方程式の「解」の個数は判別式の値によって変わると高校では習う。判別式をDで表すとすると、D>0のときは2つの解が、D=0のときは一つ(重解)、そしてD<0のときは解無し、などと教わる。しかし、これは実数解の数の話であって、虚数解も許すならば、2次方程式の解の個数は、判別式の値に関わらず、必ず2つある。

xn=1を解くにはどうすればよいか? 答えは、オイラーの公式を使うのだ。

オイラーの公式は、指数関数と三角関数を統一する公式で、これを利用すると様々なことが導出できる素晴らしい公式だ。物理学でも非常に重宝するし、必須の基礎知識の一つだから、よく理解しておく必要がある。とはいえ、その内容は非常に簡単で、
式(1)
たったこれだけの式なのに、その威力はすさまじい。ちなみに、exp(iθ)=eのことであり、iは純虚数(i2=-1)。

大学に入って、解析学の授業で(あるいは物理の力学の授業かも)解く練習問題の一つが、三角関数の加法定理の証明だ。高校までの知識、つまりオイラーの公式を使わずに証明すると、幾何学などに頼った面倒くさい証明になるが、オイラーの公式を使えば、機械的に「瞬殺証明」が可能だ。exp(iA)exp(iB)=exp(i(A+B))という恒等式が出発点。これは、指数関数の「基本性質」で、とても重要な恒等式だ。この両辺に、オイラーの公式を代入すれば、cos(A+B)=cos(A)cos(B)-sin(A)sin(B)と、sin(A+B)=sin(A)cos(B)+cos(A)sin(B)とが同時に証明できる。前者は指数関数の「基本性質」の恒等式において実数部分の等式に、後者は虚数部分の等式に相当している。

物理においては、例えば、極座標表示でオイラーの公式が利用されるのがよく見られる。例えば、二次元平面中の点(x,y)を表すのに、(r cosθ, r sinθ)と表す事ができるが、これを極座標表示という。(厳密には、(x,y)→(r,θ)という座標変換に相当するが、幾何的にx=r cosθ, y= r sinθという関係が簡単に得られるので、三角関数も含めて「極座標」と見なすケースが多い。)x,yを別々に扱わず、z=x+iyと複素表示すると、z=r exp(iθ)となる。円形の物体の記述など、極座標に基づいた複素表示により考えている物理の問題を簡単にしてくれる場合がある。

さて、n重根の問題に戻ろう。例として、3重根を扱って見よう。x3=1である。実数解はx=1の一つのみ。しかし、上述したようにこの方程式の解は、複素解も含めば全部で3つあるはずだから、残りの2つは複素数になると思われる。方程式をちょっとだけ書き直すと、x3-1=0となる。左辺は因数分解が可能で、(x-1)(x2+x+1)=0となる。x=1が解であることは、この変形により明瞭にわかる。残りの2つの解は、明らかに左辺の右側因子である2次式の解になっているはずだ。判別式を計算すると、D=1-4=-3<0となるから、解は複素数となり、複素共役の2つが解となっていることがわかる。解の公式を用いると、x= (-1±i√3)/2となる。この答えをよく見ると、x= (-1/2) ± i (√3/2)となっているから、実はx=cos(2π/3)±i sin(2π/3)になっていることがわかる。これはオイラーの公式を用いれば、x=exp(±2πi/3)と書く事ができる。-2π/3 ≡  4π/3 (mod 2π)であること、さらに、1=exp(0)であることを利用すれば、今考えている3次方程式の解は、x=exp(2πni/3)、ただしn=0,1,2、とまとめることができる。

この例をもとに考えれば、xn=1のn個の解が、系統的にx=exp(2πki/n), k=0,1,2,...,n-1と書けることは簡単に推測できるだろう。それぞれの解をガウス平面(複素平面)にプロットすれば、正n角形が浮かび上がる。n乗根というのは、オイラーの公式風に考えれば、expの「角度」の1/nなのだ。よって、解がn個あり、それが正n角形になるのは、ある意味「当然」のことになる。

東大にせよ、京大にせよ、xn=1を扱わせる問題はたくさん出題されているようだし、物理でもよく扱うオイラーの公式のよい練習問題になっているので、式(1)はしっかり頭にいれておいて損はない。

2013年2月22日金曜日

二次元の固有値問題:重解の場合(その3)

x0とx1が一次独立の場合は、Am=Eであることは証明できた。つぎは、この2つのベクトルが一次従属でありながら互いに異なる場合、すなわちx1=αx0の場合を考えよう。ただしαは1ではない整数(α=1だと等しい2つのベクトルになってしまう)。

問題文でAx0=x1という関係式がそもそも与えられているので、組み合わせるとAx0=αx0が成立することになる。これは、x0がAの固有ベクトルであり、その固有値がαであることを意味する。つまり、固有値方程式のように見える。

この両辺に再度Aを作用させると、x2=A2x02x0をえる。もし、α=±1だとすると、x2=x0となってしまって題意と矛盾してしまう。したがって、αは1のみならず、−1になってもよくないことがわかる。このようにして、Aをm回作用させると、xmmx0となる。

題意より、xm=x0だから、αm=1でなくてはならない。この方程式の実数解はα=±1(mが偶数の場合)、+1(mが奇数の場合)となるが、どちらの場合も除外しなくてはならないケースになっていることは既に見た。つまり、一次従属の場合はそもそも実現しないのである。

x1の変わりに、x2が議論の対象になったとしても議論の内容は変わらない。したがって、2次元ベクトル空間において、固有値方程式が2個以上の独立なベクトルに対して成立するのであれば、その行列は単位行列でしかありえないことが証明できた。

2013年2月21日木曜日

2次元の固有値問題:重解の場合(その2)

前回からの続き。まずは復習から。2次元において、固有値方程式らしき関係式が2個以上成り立っている場合を考えている。k=0,1,2,.....,m-1の自然数kに対して、固有値方程式
式(1)
が成り立っている。つまり、2次元のベクトル空間を考えているのに、固有値方程式らしき関係式がm個(mは3以上の自然数)も成立してしまっている状況だ。Aは2次の正方行列で、ベクトルxkは、問題文でxk=Axk-1という関係式により与えられている。さらに、x0はxmに一致するが、mは3以上の整数(つまり、x1とx2は、x0と必ず異なる)という条件が与えられている。

また、前回の考察で、2次元のベクトル空間では、一次独立なベクトルは最大2つまで選べることを学んだ(理由についてはまだ見ていないが)。まず、最初の一つ目をx0とした。最初のベクトルは必ず「一次独立」にとることができる、つまり「自明な候補」だ。問題は2番目以降のベクトルだ。2次元の場合は、2番目のベクトルが最初で最後の「非自明な一次独立候補」となる。この問題では、x1とx2が確実にx0と異なるベクトルだという設定なので、この2つが非自明な一次独立なベクトルの自然な候補となる。仮にx1が2つめの一次独立なベクトルだとしてみよう。

2次元空間において、2つのベクトルが「一次独立」であるということは、幾何学的に考えると、「平行ではない」ということだった。ということは、2つのベクトルはある角度を成して三角形を形作ることになる(ベクトルの始点と終点を結ぶ)。下の図を参照してもらいたい。
2つの「一次独立」なベクトルA,Bと
その「和」A+B、がつくる平行四辺形。
図中には3つのベクトルA,B,A+Bが示されている。一次独立なベクトルをA,Bとしよう。このベクトルの始点は共通であり、終点はそれぞれAとBである。これら3点を結ぶと三角形になるから、ベクトルAとベクトルBは直線上にない、つまり平行ではない(だから独立な訳だ)。2つのベクトルの「足し算」A+Bを考えると、平行四辺形が浮かび上がる。実は、この平行四辺形の面積は、ベクトルA,Bの成分で表すことができる。ベクトルAの成分を(a,b)、ベクトルBの成分を(c,d)と表すことにしよう。このとき、ベクトルA,B,A+Bによって形成された平行四辺形の面積Sは、S=ad-bcで与えられる。(この証明は、実は東大2012年の第5問で出題されている。)面白い事に、Sは2次元の行列式(detとか、determinantなどともいう)の公式と同一の形をしている。これは偶然ではなく、多分理由があるんだろう。いずれにせよ、2つのベクトルが平行四辺形を成すとき一次独立である、ということは、ベクトルA,Bが一次独立であるための条件は、この平行四辺形の面積が0ではないということと同じだ。つまり、ad-bcが0でないとき、この2つのベクトルは一次独立、一方、ad-bc=0のとき、一次従属になる(つまり、平行四辺形は潰れてしまい、ベクトルは平行になる)。

ここまでの議論を踏まえて、列ベクトルx0とx1を横に並べて行列Uを作る事にする。つまり、
式(2)
ただし、それぞれのベクトルの成分は、
式(3)
とした。この2つのベクトルが成す平行四辺形の面積はS=ad-bcであり、それはUの行列式det(U)=ad-bcと一致する。一次独立ということは、Sが有限の面積を持つということだから、det(U)が非零ということ、つまりUの逆行列U-1が存在するということを意味する。

行列と列ベクトルの積の計算では、行列の「行」成分と、列ベクトルの「列」成分の積和(内積に似た演算)をとるから、AmU=(Amx0 Amx1)と書ける。これらのベクトルは固有値方程式、式(1)を満たすから、AmU=(Amx0 Amx1)=(x0 x1)=Uとなる。両辺に右からUの逆行列をかけると、AmUU-1=UU-1、すなわち、Am=Eとなる。つまり、式(3)で与えられたベクトル2つが一次独立ならば、Amは単位行列になるしかないのである。つまり、固有値方程式のように見えた式(1)は、ただの恒等式に成り下がるのである。

まとめると、2次元ベクトル空間において、ある行列Aの固有値が重解となり、その固有値に対応する2つのベクトルが一次独立ならば、この行列Aは単位行列になってしまう、という結論になる。この証明は、n次元の場合にも簡単に拡張できる。一般に、n次元ベクトル空間で、与えられたn次元正方行列がn個の重複固有値を持ち、その固有値に対応するn個の固有ベクトルがそれぞれ一次独立ならば、与えられた行列は単位行列以外にはあり得ない、という定理が成立する。

ところで、京大の試験問題を完全に解き切るには、一次従属の場合も考察しておかなければならない。というのは、高校の数学ではx0=x1の場合だけを「等しいベクトル」と呼ぶからだ。つまり、もしx0=2x1などのように比例関係(幾何的には「平行関係」)にある場合、それらは「異なるベクトル」と見なされる。ということで、x0=αx1(αは1ではない)という関係が成立する場合も、Am=Eが導けることを示す必要がある。続きで、その議論を展開する事にしよう。