2013年2月28日木曜日

阪大2次試験(2013):問題1

大阪大学(2013)の問題1。
limh→0 sin(x)/x = 1であることを示し、sin(x)の導関数がcos(x)であることを証明せよ。
結構おもしろそう。

物理の入試問題を見ていると、あちこちの大学で結構頻繁に「θは小さいものとして、sinθ〜θと近似してよい」というただし書きが添えられているのを見かける。この近似も、上の極限値問題も、テイラー展開というものに関連していることは、高校生でも知っておくべきだろう。理論物理学をやる立場からすれば、古代ギリシアの幾何学に頼った証明なんかより、解析学や線形代数の観点から、この問題に対処すべきだろう。

テイラー展開というのは、関数f(x)をx=0の周辺でベキ展開する解析法のことだ。大学に入ったら解析学の講義で真っ先に習う(もしかしたら、物理の講義で最初に習う人もいるかも)。それだけ、物理をやる上で大切な数学手法のひとつだ。 収束の問題とか、数学的には細かいところまで気にしないといけないだろうが、物理や工学で使う「道具」としては、まず概念の概要を掴むのが大切なので、数学的には粗い議論だとは思うが、テイラー展開とは何かについて、直感的な説明をしてみる。(テイラー展開の理論でも、ベクトル空間や一次独立の基底など、といった概念は必要になる。そして、それは量子力学の波動関数の数学的な扱いなどへと発展していく。関数が「無限次元のベクトル」だという認識を知った時、結構驚く学生はいるのではないか?)

ある変数xのベキ乗項xn, n=0, 1, 2, 3....を考える。これをあたかも「一次独立なベクトル」のように考えて、この「ベクトル」が形成する「ベクトル空間」に含まれる「任意のベクトル」を線形結合で表すことを考える。この「任意のベクトル」というのが、関数f(x)に相当する。nは0から始まって∞まで続くから、もしそれぞれのベキ乗項が「独立」ならば、このベクトル空間は「無限大次元」ということになる。独立だと仮定してやると、「任意のベクトル」であるf(x)を、「独立なベクトル(つまり基底)」xnによって線形結合で表すことができるから、f(x)=Σn=0 (cnxn)とかくことができる。これがベキ級数展開と呼ばれる展開法だ。

c0を求めるには、x=0を代入すればよい。もちろん、c0=f(0)となる。c1を求めるときはどうしたらよいか?それには、f(x)を一回微分してからx=0を代入すればよい。c0は定数項だから微分によって消える。一方、一次の項は(x)'=1だから係数だけになる。二次以上の高次項にはxが残るから、x=0を代入することで消えてしまうというわけだ。こうして、c1=f'(0)を得る。このようにして、順に展開係数を求める事は可能で、cn=f(n)(0)/n!となる。f(n)(x)はn階微分を意味する。この結果をベキ級数展開に入れた結果を、テイラー展開と呼ぶ(正確にはマクローリン展開という。展開をx=0の周りに行っているからだ。一般のx=h周りのベキ級数展開をテイラー展開という。だから、マクローリン展開はテイラー展開の一種とみなすこともできる)。

試験会場では、こういう事をぐたぐたと答案に書く訳にはいかないが、三角関数は無限回微分可能であり、ベキ級数展開の展開係数が高階微分によって表されることを述べて、「三角関数はベキ級数展開可能だ」と一言断っておけば、採点官は文句は言わないだろう。

とはいうものの、三角関数の冪級数展開で議論を始めると、最後に定数項の決定で困る事になる。そこで、より扱いが楽な指数関数のベキ級数展開をまず調べておいてから、オイラーの公式によって、三角関数に議論を橋渡しすることにする。

まず、f(x)=exp(x)とし、上で議論した様に冪級数展開する。
式(1)
まず、この式にx=0を代入する。exp(0)=1だから、c0=1を得る。次に両辺を一度微分する。exp(x)の微分は自分自身、つまりexp(x)のままだから、
式(2)
またx=0を代入すると、c1=1を得る。このように、微分を何度も計算し、その度にx=0を代入する事で、展開係数cnは次々と求まる。それは、cn=1/n!となる。こうして、
式(3)
を得る。これは指数関数のテイラー展開(マクローリン展開)に他ならない。

最後に、x=iθを上の展開式に代入する。すると、実数項と虚数項が交互に現れる級数になる。
式(4)
左辺にオイラーの公式を適用すると、右辺の実数部分はcosθに対応し、虚数部分はsinθに対応することがわかる。よって、sinとcosのテイラー展開は次のようになることがわかる。
式(5)
この段階で、sin(x)の微分はcos(x)になり、cos(x)の微分は-sin(x)になることは、右辺のベキ級数展開の部分を項別微分したものを比べれば明らかとなる。(とはいえ、数学的には無限級数の場合の収束については慎重に議論を進める必要があるのだが...)

このテイラー展開を利用すると、sin(x)/xのx→0の極限値が1であること、そして(1-cos(x))/xのx→0の極限値が0であることなどは簡単に証明できてしまう。

しかし、問題文の書き方からすると、テイラー展開によってsin(x)の微分がcos(x)になっていることを証明しても点はもらえないので、とりあえずテイラー展開によって
式(6)
であることを示し、x→0で右辺が1に収束することを証明する。つまり、lim(sin(x)/x)=1を証明したとここで宣言しておく。次に(不自然だが)、微分の定義式から {cos(x+h)-cos(h)}/hの極限値(h→0)を考察する。cos(x+h)=cos(x)cos(h)-sin(x)sin(h)であることを利用すると、{cos(x+h)-cos(h) }/h = cos(x)  {cos(h)-1}/h + sin(x) sin(h)/hを得る。初項は0になり、第二項が残るのでcos(x)の微分はsin(x)だということになる。

これなら文句は言えまい。もちろん、オイラーの公式は大学に入らないと習わない...が、それに目をつぶれば、満点近くもらえるはず。

2013年2月27日水曜日

京大2次試験(2013):感想

行列の問題がない...残念。数列の問題はともかく、解析の問題は計算だけであまりおもしろくなさそう(というより、かなり楽ちんな問題じゃないか?)。図形の問題は基本的には古くさくて、パズルとして楽しめるだろうが、物理の観点からするとあまりおもしろくなさそう。もちろん、まだ解いてみてないから、意外におもしろい数学構造が隠れている可能性もあるかもしれないが....

とりあえず、やる気がしない.....ということで、「後々の研究のために」残しておく事にしよう。

東大2次試験(2013):問題4

図形の問題だが、ベクトルが問題文に与えられているから、ベクトルで解こう。前にも述べたようにベクトルと行列は密接な関係にある。量子力学では両者は切っても切れない関係にある。だから、この問題もその練習だと思って解いていこう。さもないと、古代ギリシャの幾何学の学校で勉強させられてる気分になってしまう...

とはいえ、まずは古代ギリシア風に解いてみよう。ちなみに(1)はとても簡単で、センター試験でやるような問題といってもいいだろう。なんの工夫も要らない、そのまま正直にやるだけで答えが出てくる。問われているのは角度。角度をベクトルで表現するとしたら、まずは「内積」が思い浮かぶ。
得られた答えを基に、postscriptで作図してみた。

まずは、PAとPBのなす角をφ、PAとPCのなす角をθとおこう。PCとPBのなす角は自動的に2π-φ-θとなるが、何度も書くのが面倒なので、これをχとおくことにする。したがって、φ+θ+χ=2π。PAとPBの内積を(PA・PB)と表すことにすると、(PA・PB)=|PA| |PB| cosφだ。同様にして、(PA・PC)などの内積もベクトルの長さと角度によって表される。与えられた式に対し、最初はPAで内積をとり、次はPBで、最後はPCという具合に3種類の内積をとる。例えば、PAの場合は(PA・PA)/|PA| +(PA・PB)/|PB| +(PA・PC)/|PC| = 0となる。これに角度や長さ(ノルム)の表現を代入すると、1 + cosφ + cosθ = 0という関係式が手に入る。このようにして、角度に関しての方程式が3つ手に入り、その連立方程式を解くと、cosφ=cosθ=cosχ=-1/2となる。つまり、φ=θ=χ=2π/3という答えが得られる。

実は、与えられた与式、3つの単位ベクトルの和が0ベクトル、は物理的に考えれば、3つの力の釣り合いを表している。全てが同じ大きさ(単位ベクトル)なので、120度を成して引っ張り合ったときだけ釣り合うことは直感的にすぐわかる。もちろん、これは東大の数学の試験なので、答えはわかっても「数学の答案らしく」仕上げないといけないので、上のような計算をやってみせればよい。いずれにせよ、あっという間にここまでは来れる。

次の(2)がちょっと厄介だ。(2)もセンター試験風に簡単に解けるのであれば、これはもはやセンター試験であって、東大の二次試験ではない。つまり、そうは問屋が下ろさない、というわけだ。(1)が解けた段階で、すぐに点A、B、C、Pを結んで出来る複数の三角形について、誰もが余弦定理を使いたくなるはずだ。しかし、余弦定理で行き着けるのは、(a-b)(a+b+c)=-1などの関係式3つに過ぎず、なかなかその先に進む事ができない。a+b+c=kなどとおいて技巧的に、かつかなり強引に解き進む方法もあるらしいが、ここでは行列とベクトルの方法で解く事にしよう。古代ギリシアの幾何学ではなく、あくまで、デカルトが創始した、近代ヨーロッパの「代数幾何」として解くのだ!

まず、2次元平面における直線のパラメータ表示を使う。これは前に、東大(1977)の問題を研究したときに利用した方法だ。(注意:現在このテーマは「その1」までで中断されているが、手元のメモにはちゃんと書いてあるので....そのうち更新しますから、少々お待ちください。)Aを原点とし、ABをy軸、ACをx軸とする座標をセットすると、ベクトルPB、PA、ABの関係は、AB=AP+PBとなる。ベクトルPAを極座標表示するとPA=(a cosθ,a sinθ)=a e(A)となる。ここで、e(A)=(cosθ,sinθ)はAP方向の単位ベクトルを表す。つまり、-PA/|PA|=e(A)。AB=(0,1)は自明。そして、PB=b R(π/3)e(A)と書ける。R(φ)は回転角φの回転行列。bR(π/3)は、今年の問題(1)で登場した行列Aと同じ構造をしている、つまりスケーリングと回転の組み合わせだ。

PとBを通る直線というのは、APを起点にPCの方向に伸びる直線のことだ。だから、e(B)=R(2π/3)e(A)を基本ベクトルとし、そのベクトルをPの先から延ばしたり縮めたりして直線PBを「作る」ことになる。伸び縮み(スケーリング)の程度がbということになる。e(B)は単位ベクトルe(A)を回転させただけだから、長さは1のまま。つまり、PB方向の単位ベクトルということになる。当然、e(A)とe(B)は一次独立となる。2次元平面上のどんなベクトルも2つの一次独立なベクトル(基底ベクトル)の線形結合で表す事ができる、というのが線形代数の大事なポイントだ(定理になっているはず)。この場合は、直線PB上にある点に向けて、原点Aから伸びるベクトル(y軸のこと)が、e(A)とe(B)の線形結合になっているというふうに解釈する。(もちろん、直線のパラメータ表示と見てもよい。)まとめると、
式(1)
となるが、よく考えると(cosθ,sinθ)=R(θ)(1,0)であり、R(A)R(B)=R(A+B)だから、
式(2)
と書く事もできる。この結果は、x軸方向の単位ベクトルを90度反時計周りに回転して、y軸の単位ベクトルに変換した、と見なすことができる。つまり、
式(3)
という関係式が導ける。この関係式から得られるのは、aとbに関する連立一次方程式で、それを行列、ベクトルを用いてまとめると、
式(4)
となる。この行列は逆行列をもつ(行列式=√3/2となり、0でない)から、両辺にそれをかけて(a,b)を求めることができた。ただし、ここまでの計算ではaもbもθによるパラメータ表示になっているので、最終的にはθを消去する必要がある。この段階では、それがどのように実現されるのかはまだ明らかではない。が、計算を先に進めよう。

次は、同じようにして直線PCのパラメータ表示から出発して、(a,c)を計算することができる。重要なのは
式(5)
だ。これは、直線PCのパラメータ表示が、x軸にある単位ベクトルを、x軸に沿って√3倍に拡大する操作と等価、という結論を意味する。この式から、(a,c)を計算することが可能だ。

最初の連立方程式を解いて得られたaはa=-(2/√3)cos(θ+π/3)、次の連立方程式からはa=-2sin(θ-π/3)が得られた。一見異なる表式だが、同じ値を持たなくてはならない。したがって、両者を結ぶ必要がある。その結果θに関する方程式が得られ、tanθ=2/√3という値が求まる。これはcosθ=√3/√7、sinθ=2/√7を意味する。θの値が決まったので、a,b,cのパラメータ表示からθを消去すると、(a,b,c)=(1/√7, 2/√7, 4/√7)という答えが得られる。

考察:

結局(a,b,c,θ)という4つの変数に対して、4つの「一次連立方程式」を立てる事ができたのが勝因だ。とはいえ、素直な連立方程式ではなく、θに関してはaのダブりをうまく利用して求めることになった。ある意味、これは「運」だったのかもしれない。

とはいえ、直線のパラメータ表示を、回転や拡大の組み合わせとして理解できたのは面白かった。結局直線が三角形の頂点にやってくる、というのはかなり強い拘束条件であって、いろいろな値が決まるのだ。それにしても、この問題を考えついた人は、かなり図形とにらめっこしたと思われる。もちろん、強い拘束条件があるので、必ず答えが得られるはず、と信念をもって細部を確認していったと思う。3本の単位ベクトルの釣り合いではなく、比率を変えて同じような問題を作ってみたら、果たして答えは求まるのだろうか?興味が出て来た。

東大2次試験(2013):問題1

この問題は、先日考察した京都大学の2007年の問題5と同じ内容だ!だから、基本的には同じ内容のことを答えればよい。京都の過去問を勉強していた人にとっては、この問題1は「楽勝問題」だったかもしれない。京都の場合には、行列Aは具体的には与えられなかったが、東大では具体的な計算となった。その辺で手間取ったり時間をロスした人はいるかもしれないが、これだけ同じ内容の問題なのだから「この問題は簡単だった」といっておこう。とはいえ、初めてこの問題を見た人は、いろいろ気にしなければならない細部に時間を取られて、意外に手こずったかもしれない。知っている人が得をするという、明暗がはっきり分かれたタイプの問題だったのでは。

いずれにせよ、この問題は、入試問題作成者にとても気に入られているようで、きっと、またどこかで出題されるはず。しっかりやっておいて損はないだろう。もしかすると、また東大や京大でも出題されるかも。大学に受かってしまった人も、大学の数学や物理で必須の、固有値問題や一次独立性といった項目に関連するので、その辺りでつまずいた人は、この問題を手がかりにして先を進む事も可能だろう。

さて、京都大の場合はm回目の演算の後に最初のベクトルに戻ったが、東大では6回目に戻るという設定で、具体的な数が与えられているのが今回の特徴だ。(どうも、昔m=3の場合が京都で出されたことがあったらしい。次はきっとm=5とか8だろう...)

 まず、ベクトルP0=(x0,y0)=(1,0)が基準点となる。この基準ベクトルを、問題文で与えられた変換を繰り返し作用させることで、P0→P1→....→P6→....と次々に「動かして」いく。変換の仕方は問題文に与えられており、
式(1)
だ。右辺が線形結合になっているのを見て、すぐにこの式は一次変換と見抜くべし。つまり、行列Aを
式(2)
とおくと、P(n+1) = AP(n)になっている。

この式より、P(n)=AP(n-1)=AAP(n-2)=....=AnP(0)であることが導ける。今回はn=6で元に戻るというから、P(0)=A6P(0)である。これは、行列B=A6に対する「固有値方程式」のように見える(Bが単位行列の場合は、自明な恒等式になる)。その固有値は1。

この式の両辺にAを再度作用させると、P(1)=A6P(1)も成立することが示せる。これも固有値1の固有方程式のように見える。同じ操作を繰り返すと、P(2),P(3),...などと、たくさんのベクトルに対し、固有値1の固有値方程式らしき関係式が得られる。問題文で、「P(0)からP(5)は異なる点(ベクトル)」ということになっていることは忘るべからず。

京大2007の結果を再利用すると、これらのベクトルが一次独立な場合、A6は単位行列になることが証明できる。まずは、この場合を考察する。前に確認したように、二次元空間では、一次独立なベクトルは2つ。最初に選ぶベクトルは任意にとれるからP(0)でよい。もう一つの(そして最後の)一次独立なベクトルは、P(0)と異なるというP(1)からP(5)までのいずれかのベクトルかも、と考えるのは自然だろう。その内のどれかが、一次独立だと仮定しよう。どれをとっても結論は変わらないので、便利なP(1)を一次独立のベクトルとしよう。京大の問題のところで議論したように、この場合A6=Eという結論になる。

Aを上の形のまま利用すると計算が大変になるので、まずはAの固有値方程式、Av=λv(ただし、vは固有ベクトル、λは固有値)を考えることにする。狙いは、得られた固有ベクトル2つから形成される正則な行列Qによって、Aを対角化することだ。Q=(v1 v2)というようにつくる。京大2007のところで考察したように、v1とv2が独立ならばPは逆行列をもつ。ということは、v1とv2が異なる固有値を持てば(つまり重解でなければ)、Qは必ず正則(つまり逆行列を持つということ)になるという意味でもある。ということで、Aの固有値問題をここで解いてしまう。

固有値問題の解き方の手順は、まずAv-λv=0という風に右辺を左辺に移行し、次に(A-λE)v=0とベクトルで「因数分解」する。もし行列A-λEが逆行列をもてば、v=0つまりvは零ベクトルになってしまう。固有値問題では零ベクトルでないものを探すのが「仕事」だから、これはまずい。ということで、A-λEが逆行列を持たない条件、つまり行列式が0、det(A-λE)=0、が成立する必要がある。このλに関する方程式を固有値方程式という。2次元空間では固有値方程式はλについての2次方程式になるので、中学生でも解ける。今回の行列Aについて固有値方程式を解くと、λ=a±ibとなる。複素共役な2つの数が固有値になるというわけだ。それぞれの固有値に対応した固有ベクトルをAv=λvより求め、それを使ってQ=(v1 v2)を作る。とはいえ、今回の問題ではQを実際に計算する必要はない。大事なのは、
式(3)
という具合にAを対角化できるということだ。

今はA6=Eが成立するので、この式の両辺において、左側からQ-1、右側からQを掛ける。Q-1A6Q=(Q-1AQ)6だから、(Q-1AQ) = Eという結果を得る。すなわち、
式(4)
が単位行列だということになる。(上の式を見ればわかるように、対角化した理由はひとえに、対角行列の冪乗は対角要素の冪乗になる、という性質を使いたかったからだ。)すなわち(a±ib)6=1が求めるべきa,bに関する条件式となる。これは1の六乗根を求めよ、という風に読み替えることができる。

ここで、先日議論したばかりのオイラーの公式が活躍する。六乗根の解は6つあり、それらをガウス平面(複素平面)にプロットすると正六角形の形に配置されることを、以前確認した。6つの解の内2つは実数解で±1となる(自明な解と言ってもいいかも)。残りの4つは複素解となるが、六角形の形を考えれば、2組の複素共役な数になっているはずだ。つまり、a+ibとa-ibは六乗根の解であり、かつ複素共役だから、z=a+ib (a,bは正負いずれの値もOK)と書いて統一し、z6=1の解を求める形でaとbを計算すればよい。ごちゃごちゃ書いたが、極座標表示に慣れていれば、答えは簡単でz=exp(2πik/6)=exp(iπk/3)、ただしk=0,1,2,3,4,5となる。ただ、k=0とk=3は実数解+1と-1に対応しているので除外する。オイラーの公式を使うと、exp(iπk/3)=cos(kπ/3) + i sin(kπ/3)となるから、実部がa、虚部がbに対応する。従って、a=cos(kπ/3)、b=sin(kπ/3), k=1,2,4,5ということになる。複素共役の観点からすると、k=(1,5), (2,4)という組(ペア)に分類される。

ここで考察を止めると「部分点」になってしまうから、気をつける必要がある。三角関数の中身kπ/3は分母に3が入っている。一方、P(n)、n=0,1,2,3,4,5は全て異なる点だという注文が問題でついている。nの中に3の倍数は一つあり、この場合(a+ib)3=exp(ikπ/3)3=exp(ikπ)となる。k=(2,4)のペアの場合、exp(2πi)=exp(4πi)=1となり、P(3)=P(0)となってしまう。したがって、この場合は除外しないといけない。一方、k=(1,5)のペアの場合、exp(iπ)=exp(5πi)=-1となるので、P(0)=-P(3)となり、符号の分だけ辛うじて基準点と異なる点に行き着く。したがって、k=(1,5)の場合だけを採用する。

cos(π/3)=cos(5π/3)=1/2であり、sin(π/3)=-sin(5π/3)=√3/2なので、(a,b)=(1/2,±√3/2)が答えとなる。予想通り、複素共役な結果が得られた。

さて、一次独立な2つのベクトル(これを基底と呼ぶ)がP(0)〜P(5)の中に含まれている場合については上の考察でよい。しかし、もし一次従属だったらどうか?これは、京大の問題で気にしたポイントだ。P(0)〜P(5)がすべて従属でありながrも、異なる点であるためには、これらのベクトルがすべて比例関係にあればよい(つまり幾何的には平行ということ)。つまり、P(1)=αP(0)である。このとき、αは1には選べない(そうだとするとP(1)=P(0)となって題意に反する。また、P(2)の場合について考察すると、α=-1の場合も除外しなくてはならなくなる)。P(1)=AP(0)だから、実はこの従属の関係式は、固有値方程式AP(0)=αP(0)に相当する。もちろん、上で計算したようにα=a±ibだ。Aを固有値方程式に5回作用させると、A6P(0)=α6P(0)を得る。が、これはP(0)に等しい訳で、α6=1という条件式が得られる。ここからは、一次独立の場合と同じ論法でいける。つまり、一次独立だろうが、一次従属だろうが、結果は同じになる。

考察1

どうも高校生たちは、Aを回転行列R(θ)とスケーリング行列S(μ)の組み合わせとして解いているようだ。S(μ)は対角行列なのでR(θ)と可換。したがって、A=S(μ)R(θ)=R(θ)S(μ)と好きな順番にすることができる。今回はこの性質には気付かなかったが、遠い昔自分が受験生だったときは、このタイプの計算をよく練習した記憶がある...たしかに対角要素がaで統一されているし、非対角要素は符号だけ異なるbと-bだ。これは回転行列の構造とよく似ている。スケーリングファクターをμとすると、a=μcosθ, b=μsinθという関係が成り立つから、μ2=a2+b2が成り立つ。この解釈は物理的に問題を理解する上ではとても役に立つだろう。

考察2

a=0の場合。このとき、行列は反対称行列と呼ばれる。反対称行列の定義は、転置行列が符号を変えた最初の行列に等しくなるというものだ。つまりAt=-Aだ。これにより、対角要素はすべて0になることが保証される。行列Aのi行j列にある行列要素をA(i,j)と表すとすると、A(i,j)=-A(j,i)。j=iの時は、A(i,i)=-A(i,i)だから、A(i,i)=0となる。

また、反対称行列の固有値は一般に純虚数となる(三次元、4次元に留まらず、一般のn次元で成立する)。今回の東大の問題は2次元だがこの性質が確認できる。つまり、Aの固有値はλ=a±ibだが、a=0のとき(反対称行列)はλ=±ibとなり、純虚数となる。


さらに、反対称行列の行列式は、必ずある数の平方になる。今回の問題でも、det(A)=b2になるから、やはり平方数だ。実はこの「ある数」、つまり行列式の平方根、はパフィアン(英語風の発音だとファフィアン。オリジナルはドイツ語で、Pfaffianと綴る)と呼ばれる量だ。この量を発明したのは、ドイツの数学者パフ。彼はガウスの先生でもあった。

2次元の場合は、Pf(A)=bとなる。一般化してdet(A)=(Pf(A))2と書いても同様に成立する(次元が高くなっても成立するということ)。実は、物理学では最近パフィアンを使い出した。量子ホール効果とか、量子計算とかで登場する。実は、超伝導の理論で有名になったペアリング(対相関)にパフィアンは非常に関係が深いのだ。量子計算でも2電子系のエンタグルメント(つまりペアリング)の議論の延長上にパフィアンが登場する。

次は問題4に進んでみよう

2013年2月26日火曜日

東大2次試験(2013):まずは感想から。

2013年の国立大学の2次試験が行われている。東大の数学は昨日行われた。問題を見てみたが、難しそうなもの、簡単そうなものが入り乱れている感じがした。確率と立体図形の問題は、このブログではまだ扱っていないので、今回は見ない事にする。

問題1問題4がどうやら行列と関係ありそうな問題に見える。何より、ベクトルが使われている。ベクトルと行列はセットで考えるべきで、量子力学的に考えるなら、ベクトルは物理状態(量子状態)、そして行列は物理状態(つまりベクトル)を操作する道具(角運動量や磁場など「回転」と関わったり、運動量など「並進運動」などと関わったりする「力学変数」に相当)と考えていけば、退屈な受験数学も、物理の練習問題として、多少は楽しめるというものだ。

問題2は、解の範囲を調べる解析の問題。これは、量子力学のエネルギー固有値の計算でよくやる問題に似ている。例えば、一次元の井戸型ポテンシャルの固有値の計算において、今回の問題2と似たような計算が登場する。その計算では、tanと半径aの円の交点を考える。具体的には、半径aを変えていくと、交点がどのように変わっていくかがポイントになる。今回の試験問題では、直線の傾きを変えることで、三角関数(および減衰曲線)を含む曲線との解の個数を調べる問題になっている。

問題5は、物理ではあまり出て来ないタイプの内容。ただ、暗号とか量子計算に関連する素数とか整数の問題に関わりがあると思われるから、まったく無視するわけにもいかないだろう。ただ、この問題はどちらかという純粋な数学に近い雰囲気がある問題だと思う。実際、私はこの問題の(2)は最後まで頑張るのはあきらめた...途中、面白い関係式は見つけたりもしたが、すぐにはどうやって解いていいのかわからなかった。(もちろん、(1)に関しては問題なかったが。)どうも99桁続く111....11というやつは3で割り切れるらしい。たしかに、11/3 = 3(余り2)、111/3 = 37(割り切れる)、1111/3 = 370 (余り1)、11111/3 = 3703 (余り2)、111111/3 = 37037(割り切れる)、....と行った具合に周期的に状況は推移する。割り切れるのは、3桁、6桁、9桁、と3の倍数の数だけ1が並んだとき。したがって、99回続く1は3で割り切れるのだ!

ということで、問題1、2、4を見て見よう。その他の問題については、後々の楽しみとしてとっておくことにする。

それでは問題1にとりかかろう

2013年2月23日土曜日

オイラーの公式:n重根の表現

前回の問題で、αm=1の実数解は1(あるいは−1)であることを利用した。実際、x2=1の解はx=±1であり、それ以外にはない。

 ではx3=1はどうか?x=1は自明な解である。(一般に、ベキ数が奇数のときは、x=-1は解とはならない。)しかし、他には解はないのだろうか?答えはYes and Noである。もちろん、実数解に限れば、x3=1の解はx=1以外にはない。しかし、複素数も含めば、x=1を含めて全部で3つの解が存在する。

 実は、xn=1の解は一般にn個ある。しかし、この場合の解は虚数解も含んだ上での話だ。たとえば、2次方程式の「解」の個数は判別式の値によって変わると高校では習う。判別式をDで表すとすると、D>0のときは2つの解が、D=0のときは一つ(重解)、そしてD<0のときは解無し、などと教わる。しかし、これは実数解の数の話であって、虚数解も許すならば、2次方程式の解の個数は、判別式の値に関わらず、必ず2つある。

xn=1を解くにはどうすればよいか? 答えは、オイラーの公式を使うのだ。

オイラーの公式は、指数関数と三角関数を統一する公式で、これを利用すると様々なことが導出できる素晴らしい公式だ。物理学でも非常に重宝するし、必須の基礎知識の一つだから、よく理解しておく必要がある。とはいえ、その内容は非常に簡単で、
式(1)
たったこれだけの式なのに、その威力はすさまじい。ちなみに、exp(iθ)=eのことであり、iは純虚数(i2=-1)。

大学に入って、解析学の授業で(あるいは物理の力学の授業かも)解く練習問題の一つが、三角関数の加法定理の証明だ。高校までの知識、つまりオイラーの公式を使わずに証明すると、幾何学などに頼った面倒くさい証明になるが、オイラーの公式を使えば、機械的に「瞬殺証明」が可能だ。exp(iA)exp(iB)=exp(i(A+B))という恒等式が出発点。これは、指数関数の「基本性質」で、とても重要な恒等式だ。この両辺に、オイラーの公式を代入すれば、cos(A+B)=cos(A)cos(B)-sin(A)sin(B)と、sin(A+B)=sin(A)cos(B)+cos(A)sin(B)とが同時に証明できる。前者は指数関数の「基本性質」の恒等式において実数部分の等式に、後者は虚数部分の等式に相当している。

物理においては、例えば、極座標表示でオイラーの公式が利用されるのがよく見られる。例えば、二次元平面中の点(x,y)を表すのに、(r cosθ, r sinθ)と表す事ができるが、これを極座標表示という。(厳密には、(x,y)→(r,θ)という座標変換に相当するが、幾何的にx=r cosθ, y= r sinθという関係が簡単に得られるので、三角関数も含めて「極座標」と見なすケースが多い。)x,yを別々に扱わず、z=x+iyと複素表示すると、z=r exp(iθ)となる。円形の物体の記述など、極座標に基づいた複素表示により考えている物理の問題を簡単にしてくれる場合がある。

さて、n重根の問題に戻ろう。例として、3重根を扱って見よう。x3=1である。実数解はx=1の一つのみ。しかし、上述したようにこの方程式の解は、複素解も含めば全部で3つあるはずだから、残りの2つは複素数になると思われる。方程式をちょっとだけ書き直すと、x3-1=0となる。左辺は因数分解が可能で、(x-1)(x2+x+1)=0となる。x=1が解であることは、この変形により明瞭にわかる。残りの2つの解は、明らかに左辺の右側因子である2次式の解になっているはずだ。判別式を計算すると、D=1-4=-3<0となるから、解は複素数となり、複素共役の2つが解となっていることがわかる。解の公式を用いると、x= (-1±i√3)/2となる。この答えをよく見ると、x= (-1/2) ± i (√3/2)となっているから、実はx=cos(2π/3)±i sin(2π/3)になっていることがわかる。これはオイラーの公式を用いれば、x=exp(±2πi/3)と書く事ができる。-2π/3 ≡  4π/3 (mod 2π)であること、さらに、1=exp(0)であることを利用すれば、今考えている3次方程式の解は、x=exp(2πni/3)、ただしn=0,1,2、とまとめることができる。

この例をもとに考えれば、xn=1のn個の解が、系統的にx=exp(2πki/n), k=0,1,2,...,n-1と書けることは簡単に推測できるだろう。それぞれの解をガウス平面(複素平面)にプロットすれば、正n角形が浮かび上がる。n乗根というのは、オイラーの公式風に考えれば、expの「角度」の1/nなのだ。よって、解がn個あり、それが正n角形になるのは、ある意味「当然」のことになる。

東大にせよ、京大にせよ、xn=1を扱わせる問題はたくさん出題されているようだし、物理でもよく扱うオイラーの公式のよい練習問題になっているので、式(1)はしっかり頭にいれておいて損はない。

2013年2月22日金曜日

二次元の固有値問題:重解の場合(その3)

x0とx1が一次独立の場合は、Am=Eであることは証明できた。つぎは、この2つのベクトルが一次従属でありながら互いに異なる場合、すなわちx1=αx0の場合を考えよう。ただしαは1ではない整数(α=1だと等しい2つのベクトルになってしまう)。

問題文でAx0=x1という関係式がそもそも与えられているので、組み合わせるとAx0=αx0が成立することになる。これは、x0がAの固有ベクトルであり、その固有値がαであることを意味する。つまり、固有値方程式のように見える。

この両辺に再度Aを作用させると、x2=A2x02x0をえる。もし、α=±1だとすると、x2=x0となってしまって題意と矛盾してしまう。したがって、αは1のみならず、−1になってもよくないことがわかる。このようにして、Aをm回作用させると、xmmx0となる。

題意より、xm=x0だから、αm=1でなくてはならない。この方程式の実数解はα=±1(mが偶数の場合)、+1(mが奇数の場合)となるが、どちらの場合も除外しなくてはならないケースになっていることは既に見た。つまり、一次従属の場合はそもそも実現しないのである。

x1の変わりに、x2が議論の対象になったとしても議論の内容は変わらない。したがって、2次元ベクトル空間において、固有値方程式が2個以上の独立なベクトルに対して成立するのであれば、その行列は単位行列でしかありえないことが証明できた。

2013年2月21日木曜日

2次元の固有値問題:重解の場合(その2)

前回からの続き。まずは復習から。2次元において、固有値方程式らしき関係式が2個以上成り立っている場合を考えている。k=0,1,2,.....,m-1の自然数kに対して、固有値方程式
式(1)
が成り立っている。つまり、2次元のベクトル空間を考えているのに、固有値方程式らしき関係式がm個(mは3以上の自然数)も成立してしまっている状況だ。Aは2次の正方行列で、ベクトルxkは、問題文でxk=Axk-1という関係式により与えられている。さらに、x0はxmに一致するが、mは3以上の整数(つまり、x1とx2は、x0と必ず異なる)という条件が与えられている。

また、前回の考察で、2次元のベクトル空間では、一次独立なベクトルは最大2つまで選べることを学んだ(理由についてはまだ見ていないが)。まず、最初の一つ目をx0とした。最初のベクトルは必ず「一次独立」にとることができる、つまり「自明な候補」だ。問題は2番目以降のベクトルだ。2次元の場合は、2番目のベクトルが最初で最後の「非自明な一次独立候補」となる。この問題では、x1とx2が確実にx0と異なるベクトルだという設定なので、この2つが非自明な一次独立なベクトルの自然な候補となる。仮にx1が2つめの一次独立なベクトルだとしてみよう。

2次元空間において、2つのベクトルが「一次独立」であるということは、幾何学的に考えると、「平行ではない」ということだった。ということは、2つのベクトルはある角度を成して三角形を形作ることになる(ベクトルの始点と終点を結ぶ)。下の図を参照してもらいたい。
2つの「一次独立」なベクトルA,Bと
その「和」A+B、がつくる平行四辺形。
図中には3つのベクトルA,B,A+Bが示されている。一次独立なベクトルをA,Bとしよう。このベクトルの始点は共通であり、終点はそれぞれAとBである。これら3点を結ぶと三角形になるから、ベクトルAとベクトルBは直線上にない、つまり平行ではない(だから独立な訳だ)。2つのベクトルの「足し算」A+Bを考えると、平行四辺形が浮かび上がる。実は、この平行四辺形の面積は、ベクトルA,Bの成分で表すことができる。ベクトルAの成分を(a,b)、ベクトルBの成分を(c,d)と表すことにしよう。このとき、ベクトルA,B,A+Bによって形成された平行四辺形の面積Sは、S=ad-bcで与えられる。(この証明は、実は東大2012年の第5問で出題されている。)面白い事に、Sは2次元の行列式(detとか、determinantなどともいう)の公式と同一の形をしている。これは偶然ではなく、多分理由があるんだろう。いずれにせよ、2つのベクトルが平行四辺形を成すとき一次独立である、ということは、ベクトルA,Bが一次独立であるための条件は、この平行四辺形の面積が0ではないということと同じだ。つまり、ad-bcが0でないとき、この2つのベクトルは一次独立、一方、ad-bc=0のとき、一次従属になる(つまり、平行四辺形は潰れてしまい、ベクトルは平行になる)。

ここまでの議論を踏まえて、列ベクトルx0とx1を横に並べて行列Uを作る事にする。つまり、
式(2)
ただし、それぞれのベクトルの成分は、
式(3)
とした。この2つのベクトルが成す平行四辺形の面積はS=ad-bcであり、それはUの行列式det(U)=ad-bcと一致する。一次独立ということは、Sが有限の面積を持つということだから、det(U)が非零ということ、つまりUの逆行列U-1が存在するということを意味する。

行列と列ベクトルの積の計算では、行列の「行」成分と、列ベクトルの「列」成分の積和(内積に似た演算)をとるから、AmU=(Amx0 Amx1)と書ける。これらのベクトルは固有値方程式、式(1)を満たすから、AmU=(Amx0 Amx1)=(x0 x1)=Uとなる。両辺に右からUの逆行列をかけると、AmUU-1=UU-1、すなわち、Am=Eとなる。つまり、式(3)で与えられたベクトル2つが一次独立ならば、Amは単位行列になるしかないのである。つまり、固有値方程式のように見えた式(1)は、ただの恒等式に成り下がるのである。

まとめると、2次元ベクトル空間において、ある行列Aの固有値が重解となり、その固有値に対応する2つのベクトルが一次独立ならば、この行列Aは単位行列になってしまう、という結論になる。この証明は、n次元の場合にも簡単に拡張できる。一般に、n次元ベクトル空間で、与えられたn次元正方行列がn個の重複固有値を持ち、その固有値に対応するn個の固有ベクトルがそれぞれ一次独立ならば、与えられた行列は単位行列以外にはあり得ない、という定理が成立する。

ところで、京大の試験問題を完全に解き切るには、一次従属の場合も考察しておかなければならない。というのは、高校の数学ではx0=x1の場合だけを「等しいベクトル」と呼ぶからだ。つまり、もしx0=2x1などのように比例関係(幾何的には「平行関係」)にある場合、それらは「異なるベクトル」と見なされる。ということで、x0=αx1(αは1ではない)という関係が成立する場合も、Am=Eが導けることを示す必要がある。続きで、その議論を展開する事にしよう。

2013年2月20日水曜日

2次元の固有値問題:重解の場合(その1)

京都大学の2007年の問題5におもしろいのがあった。

Aを二次の正方行列とする。列ベクトルx0に対し、列ベクトルx1, x2,....をxn+1=Axn (n=0,1,2,...)によって定める。ある零ベクトルでないx0について、3以上の自然数mで初めてxmがx0と一致する時、行列Amは単位行列であることを示せ。

問題文において、ベクトルの矢印記号がHTMLでは表現できないので、xiのように表している。

この問題は、日本語でごちゃごちゃ書いてあるが、その条件や意味を、如何に的確に式にまとめる事ができるかがポイントになる。まず、与式xn+1=Axnから導けるのが、

(Eq.1)
だろう。つまり、最初の点x0にAを作用させて、一次変換を繰り返すことで、新しい点xnをつくる作業を考えよう、と言う訳だ。上式の直接の意味は、「x0にAをn回作用させた点をxnとしましょう」ということだ。

次に読み取るべきが、自然数mが3以上だという条件。自然数mは、Amx0→x0に最初になるとき、つまりAによって繰り返し変換されていった点x0が、最初の点に戻るときの変換回数を意味する。それが、3以上であるという。つまり、x1とx2は、どうあがいてもx0と一致できない、という条件だ。これは、「一次独立」という、線形代数でもっとも大事な概念を理解しているかどうかを試されるポイントでもある。

高校の数学で習う行列は2次元の場合が多いが、同じ年の大阪大学の問題には三次元の行列の問題も出題されている。また、大学に入ればn次元ベクトル空間を扱うことになるから、ここでも一般のn次元の場合について考察することにしよう。

まず、ベクトル空間に与えられる演算は、基本的には、足算、ならびにスカラー積(つまり、かけ算の一種)の2つしかないことを確認しておこう。これに、内積とか、外積とか、より高級な演算を付け足していく事で、複雑な体系を考えていくことになる。が、基本は、「足算」と「かけ算」の2つしかない。とはいえ、足し算とは「ベクトルの和」であり、かけ算とはベクトルのスカラー積のことだから、どんな小学生でもできる演算、というわけではない。(中学生ならできる。)

ちなみに、量子力学で必要になるのが、内積が定義された無限次のベクトル空間、すなわちヒルベルト空間と呼ばれるものだ。内積の計算は、量子状態の確率などに関係する量を記述するのに使用する。「足し算」は量子状態の「重ね合わせ」(最近では、entanglement, 量子縺れ、エンタグルメント、などとも呼ばれる)、そしてスカラー積は確率の規格化(つまり100%に統一すること)などに関係してくる。重ね合わせ(足し算)と内積を組み合わせると、波動現象の「干渉現象」などが説明できるようになる。これは「波動力学」と別名を持つ量子力学の基礎中の基礎の概念だ。

n次元のベクトル空間に戻ろう。この空間における独立なベクトルの数はn個だ。2次元では2個、三次元では3個ということになる。2次元、三次元までなら、幾何的にベクトルの「一次独立」の意味を考えることは可能だ。この理解を拡張することで、n次元における「一次独立」を直感的に理解できるようになれば嬉しいのだが、それはかなり難しいだろう。逆に、数式によって定義した方が、n次元空間における一次独立は取り扱いやすい。(しかし、「理解したという実感」を持てず苦労する学生は多いけれど...)

まずは、直感的に扱えるとメリットを最大限に利用して、二次元と三次元空間における「一次独立」の意味を考えてみよう。二次元空間における「ベクトルの1次独立」とは、2つのベクトルが平行でない、ということと同じだ。平行なベクトルは、お互い「一次従属」となる。ベクトルというのは向きが大事であって、その長さはあまり重要ではない、ということでもある。(もちろん、ベクトルの長さが効いてくる問題もあるが、ベクトル空間の性質や、ベクトルの数学的な研究をしていく上では、「方向」の方が、「長さ」よりも、より重要だということ。)量子力学でも、スカラー積や内積を利用して、ベクトルの長さを揃えてしまう。これを「規格化」という。これにより、量子力学における平行なベクトルは、物理的には同じ意味をもつと認識される。

三次元空間では、独立なベクトルは3つになる。3つのベクトルを適当に選んだとき、これらが独立になるためには、平面内にこれらのベクトルが配置されないことが条件になる。

2次元の場合は平行でないこと、三次元の場合は平面内にないこと、となったが、これはつまり、三次元は2次元ではないし、2次元は1次元ではないよ、と意味だ。2次元空間中のベクトルは、2つの位置情報、つまり(x,y)によって、どんなものでも唯一無二(英語では「uniqueに」と表現される)に指定できる。だから、独立なベクトルは2つなのだが、それらが直線上に並んでしまっては、せっかくの二次元空間内で一次元の広がりしか利用しないことになってしまう。こういう場合を「従属」として特別視し、独立な場合と分けて考えるのだ。直感的には、「部分空間に閉じ込められてますよ」ということになる。同様に、三次元空間で、3つのベクトルが平面内に閉じ込められている場合も「従属」になる。せっかくの三次元空間なのに、二次元の情報しか利用していないからだ。3つのベクトルが、きちんと三次元空間を表すためには、それらが「立体的に」配置されている必要がある。それが、「独立」ということの三次元空間における直感的な意味だ。

n次元空間における「一次独立」はどう理解するかというと、それは次のようにする。n個のベクトルが一次独立である必要十分条件は「n個の数(一般には複素数、高校生までなら実数でOK)ci (i=1,2,3, ..., n)に対する『線形結合』が零ベクトルならば、全てのciは0以外の数になることはありえない」というもの。式で書くと、
(Eq.2)
の左辺を「線形結合」というが、それが0ベクトルの場合は、
(Eq.3)
に必ずなる、というのがベクトルxiが一次独立であるための必要十分条件。これだけ見ても、なんのことかさっぱりわからない、というのが、ほとんどの初学者が持つ印象だろう。こういうときは、具体例に絞って概念に慣れてみるのが良い。(この文章は長くなり過ぎたので、場所を変えて説明しよう。)


さて、現在考えているベクトル空間は2次元だから(与えられた正方行列が2次)、2次元のベクトル空間を考えることになる。最初に選んだベクトルは必ず独立になるから、x0を最初の一次独立なベクトルとしてもばちはあたらない。問題なのは、2つ目のベクトルを選んだときに、それが一次独立になるか、それとも一次従属になるかだ。問題ではx1とx2は、x0と異なるベクトルだ、といっているので、これら2つが一次独立なベクトルの候補になるというのは自然な考えだろう。

xmがx0に戻るというのだから、
(Eq.4)

が成り立つ。Amが単位行列Eでないとすれば、この式は「固有値方程式」に相当する。この場合の固有値は1であり、固有ベクトルがx0

一般に、n次元の正方行列Xには最大でn個の固有値を持つ(「最大でない」ときは、縮退、つまり固有値に重複が起きるとき。重複を入れたら、n次元の正方行列は必ずn個の固有値をもつ。ただし、この固有値は複素数まで許さないといけない。実数に限ってしまうと、固有値が存在しない場合も出てくる)。一般に固有値方程式は、
(Eq.5)
の形となる。任意のλを選んでも、固有値方程式は成立しない。Xに対応した、ある特別の値を選ばなくてはならない。λが特定の値しか取らなければ、当然固有ベクトルvも特別な形に限られる。つまり、行列Xが与えられると、それに付随した固有値と固有ベクトルは、Xに「固有」の値、形式となる。固有値や固有ベクトルを自分勝手に選んでも固有値方程式は成立しない。(その理由の詳細は別の機会に。)

今考えているのは、二次元だから固有値は最大で2つあるはずだ。その内の一つはλ=1で、対応する固有ベクトルはx0であることはすでに判明している。ではもう一つはなんだろうか?(Eq.4)の式の両辺にAをかけると、x1に関しても同じ関係が成り立つことがわかる。すなわち、Amx1=x1。この式にまたAをかけると、x2についても同様の関係が成り立つことがわかる。この操作を繰り返せば、結局、自然数k<mに対して、
(Eq.6)
が成り立ってしまう。つまり、行列Amに対し、全部でm個の固有値方程式が存在しているように見える。さらに、その固有値はすべて重複しており、それはλ=1だ。mは3以上の整数だから、二次元の問題としてはちょっと固有値ベクトルの数が多すぎる。(Am=Eならば、これは不思議なことではないが、この段階ではまだそれを証明したことにはならない。)ここで、一次独立の概念が役立つときがきた。

n次元の問題で、固有値がn重の縮退を見せており、対応するn個の固有ベクトルすべてが互いに一次独立なら、もともとの行列は単位行列に他ならない、ということは案外簡単に証明できる。ここでは、京大の問題に即して、2次元の場合の証明を与えよう。

(続く)

2013年2月14日木曜日

三次元空間中の直線の表現:その1

1977年の東大文理共通問題より。

座標が定められた空間において、直線lは2点(1,1,0), (2,1,1)を通り、直線mは2点(1,1,1),(1,3,2)を通る。点(2,0,1)を通り、l,mの両方と交わる直線をnとする。
lとnの交点、およびmとnの交点を求めよ。
三次元空間における直線の問題。1977年だと単なる受験問題だっただろうが、現代だと、この手の問題は、三次元系ビデオゲームのプログラミングで必要になったりするだろうから、案外身近に感じられる問題かもしれない。例えば、塔の上で砲台を回転させながらビーム打ちまくるような感じか?nを敵機の航行軌道(直線軌道だが...)と見なせば、nとlとの交点はビームを最初に被弾した場所、nとmの交点はビームの第二波をくらって爆発したところ、などと考えることができる。ゲームのプログラマーを目指すなら、解けないとまずい問題。

まずは、「空間」の意味から始めよう。ここでいう「空間」とは「実空間」のことで、物体が飛び回るいわゆる三次元空間のことだ。この空間中のある場所を表すには変数(x,y,z)を用いる。当たり前と思うことかもしれないが、ここでひとつ確認しておくことがある、すなわち、「三次元空間とは、その空間で一点の位置を指定しようとする時、3つの数が必要」という意味であること、つまり(x,y,z)だ。2次元空間なら、(x,y)の2つ。1次元空間なら(x)の一つ。4次元なら(x,y,z,t)の4つ。などなど、と続く。一般にn次元空間の場所を表すためには、n個の変数の組を用いる。

このような複数の変数の組み合わせを一まとまりとして考え、一つの要素と見なす。たとえば、v=(x,y,z)といった具合に。vは考えている三次元空間に含まれる要素(「場所」という意味を持つ要素)で、(x,y,z)の値を変えれば、異なる場所、つまり異なる要素になる。全ての「場所」、すなわちv(x,y,z)という要素の集合が、三次元空間に他ならない。(この段階ではまだvをベクトルとは呼ばないでおこう。)

この三次元空間に「足し算」と「かけ算」を導入する。とはいえ、それは小学校で習うものとはちょっと違う。要素vに対する足し算とかけ算だ。まず「足し算」を次のように定義する。

v+u=w

この時、v,u,wはすべて三次元空間に含まれる「どこかの場所」、つまり要素の一つだ。v,u,wは記号に過ぎず、実際には3つの変数で表されるから、具体的には、

(Vx, Vy, Vz) + (Ux, Uy, Uz) = (Wx, Wy, Wz)

となる。この「足し算」では、括弧のなかで同じ位置にある変数同士の足し算をすると定義する。すなわち

Vx + Ux = Wx, Vy + Uy = Wy, Vz + Uz = Wz

とする。これを三次元空間中の要素(場所)vに対する「足し算」と定義する。

次に、v,u,wのような「場所」(つまり3つの変数の組み合わせ)ではなく、通常の数をλ、μなどと書く事にする。この三次元空間でu,v,wなどに対して定義される「かけ算」とは、次のようなものとする。

λ v = u

これを各成分ごとに書き下すと

λ(Vx, Vy, Vz) = (Ux, Uy, Uz)

となる。この「かけ算」は括弧の中で同じ位置にある変数同士を、通常のかけ算によって関係づけるものと定義する。すなわち、

Ux = λVx, Uy = λVy,  Uz = λVz

とする。 これを三次元空間中の要素(場所)vに対する「スカラー積」と呼ぶ事にする。

上で決めたような「足し算」と「スカラー積」が定義された空間を「ベクトル空間」と呼ぶ。ここまで来たら、v,u,wのことを「ベクトル」と呼んでいいだろう。ベクトル間の和とスカラー積の組み合わせを『線形結合』という。例えば、

λu+μv = w

が成り立つとき、「ベクトルwは、ベクトルuとベクトルvの線形結合だ」と言い表す。

このようなベクトルの合成(これは、上式を左辺から右辺に向かって読み取った場合に相当)、あるいはベクトルの分解(これは上式を右辺から左辺に向かって読み取った場合)は、高校物理の力の合成/分解で登場する。すなわち、ベクトルuとvからなる平行四辺形を描いて、その対角線をベクトルの和(w)と考える、あのやり方だ。

与えられたベクトル空間においてベクトルの分解を考える時、いったい幾つのベクトルに分解するのがもっとも自然で、効率がよいのか知りたいだろう。その答えは、実は、与えられた空間の次元に含まれている。つまり、三次元空間なら3つ、二次元空間なら2つ、そしてn次元空間ならn個、というのが答えだ。

これを理解するには、ベクトルの「一次独立」という概念を知らないといけないが、これが意外に難しい概念で、大学に入ったばかりの学生の多くが最初につまずく箇所だ。詳細に解説すると面倒なので、この段階では一次独立については通り過ぎることにしよう。ただ、n次元空間では「独立な」ベクトルの数はn個だ、ということだけは覚えておく事にしよう。