2017年3月7日火曜日

東大2次試験(2017): 問題5(その2)

問(2) 傾きが2の共通接線が存在するようにkの値を定める。このとき、共通接線が3本存在することを示し、それらの傾きとy切片を求めよ。


この問題を解くには色々な方法があるだろうが、ここでは、前回求めた、放物線Cの接線の方程式
と、放物線D:y=x2+kの交点を求める方向性で解いてみる。接線と放物線の方程式を連立し、整理すると、2次方程式4x02x2+{4x0(k-x02)-1}x+(k-x02)2+k=0を得る。接線となるには判別式が0とならねばならないので、対応する条件式はx0に関しての3次方程式となる。
3次方程式の解の数は(複素解も含めれば)3つあるので、この条件式の意味するところは、共通接線の数は最大で3つまでということだ。kの値によって、この3次方程式の形は変わり、解の数は時には2つだったり、1つだったりするだろう。

物理では、こういう関数系の形状の変化を相転移と結びつけて考えることがよくある。また、φ4モデルという(素粒子物理における)場の理論では、「自発的対称性の破れ」の発生のメカニズムを、パラメータ(質量パラメータと呼ばれる)の変化によって議論する。これは、ノーベル賞を取った南部先生が提唱した考え方だし、同じくノーベル賞を受賞したヒッグスの提唱したヒッグス機構という理論でも似たような考え方を適用する。これらの理論はいわば「4次関数」の形状変化を質量パラメータによって追っていく形だが、ここでは3次関数の解の数をkというパラメータ(これは放物線の座標軸上の位置に相当)によって追っていく問題となっていて、なんとなく似ている。

3次方程式の解の公式はあるらしいのだが、高校でも、大学の物理学科でも、それは習わない。ただ、3次関数の微分は2次方程式になるので、極値が最大2つあることは明らかである。極値の正負をみると、3次関数が何回x軸を横切るか図形的に判断でき、そこから3次方程式の解の個数などの性質を議論することができる。

例えば、3次項の係数が正の場合、x→±∞に対し、3次関数は±∞にそれぞれ発散する。グラフ構造の詳細を気にしなければ(つまり大域的構造だけに着目すれば)、3次関数のグラフは「左から右にかけて(つまりxが負の領域から正の領域にかけて)」斜め右上に増加する関数とみなせる。ということは、必ずどこかでx軸をよぎることは保障される。そこで今度は詳細な構造に着目し、極大値が負値をとる場合を考える。このとき、極大点の左側において関数のグラフはx軸を横切れないから、解は一つしかないことが(図形的に)わかる。このような分析を、その他の場合についても行なえばよい。

「では早速微分してみよう」と行きたいところだが、 その前にこの三次関数についてもう少し分析しておく。これは、この問題に限ったことなので、他の問題で使えるとは限らない。が、少なくとも「対称性」の強みについて習熟する練習にはなる。

まず、前回、前々回に、図を描いて共通接線の本数の予想をした。特に注目するのは「蛾の羽の先端」型の共通接線だ。こういうタイプの接線は、放物線C、Dがxとyの交換に対して対称である、つまり直線y=xに対して線対称であることから、y=-x+bタイプに限られるのではないか?という予想がたつ。つまり線対称の直線y=xと直交する直線である。ちょっとでも直交からずれるようなことがあれば、接点にならないのではないか?というのが、対称性から引き出される直感である。実際、問題文でもa=-1の場合は特別視しているし、問(1)では行列式が0となってしまう値である。

問(1)の結果を用いると接点は x0=a/2で与えられる。a=-1を代入するとx0=-1/2となる。つまり、上の考察が正しいならば、x0の三次方程式の解の一つは常にx0=-1/2になるはずである。これは因数定理/剰余定理で確認するに値する。代入してみると
8(-1/2)3-16k(-1/2)2-8k(-1/2)+1=-1-4k+4k+1 = 0
となるではないか!つまり、予想通りa=-1は常に共通接線になっているのである。ここまでくれば、整式の割り算により因数分解をさらに進めることができ、
となる。したがって、共通接線の交点は、上の式の2次式の実数解の数で決まり、それは判別式で判定可能である。判別式は

D=(4k+1)2-4 =(4k+3)(4k-1)

と計算される。「臨界値」k=1/4が現れているのがわかる。このときD=0となるので、重解(共通接線はy=x)となる。3次方程式の解としてはx=-1/2(「蛾の羽の先端」解)と合わせて2つということになる。これは前々回の3つ目のグラフに相当する。

もう一つの「臨界値」らしきものとしてk=-3/4が見えてみる。このときD=0となって「重解」となるらしい。前々回の考察で、接線の数はk=1/4を臨界点として1つの場合と3つの場合(臨界点で2つ)に別れることはグラフを描いて推測した。このときk=-3/4というのはなかったはずだ。前回の考察を踏まえると、この第二「臨界点」は共通接線が1本の領域に属する。果たしてどんな「臨界値」なんだろうか?ここは考えても仕方ないので、グラフを描いてしまおう(試験会場でも手書きでやってみる価値はある)。
k=-3/4の場合
「おー、なるほど」と膝を打った人も多いだろう。この場合は、蛾の羽が閉じて、接点が放物線CとDで共通になっている状況に相当することがわかる。k=1/4の場合は「たすき掛け」の共通接線が縮退(つまり重解になっているということ)していたが、今回は「蛾の羽の先端」が縮退しているというわけだ。ということは、3次方程式は「3重根」になっていることが予想される。k=-3/4を代入すると、確かに(2x0+1)3=0となることが確認できる。この場合、共通接線は1本しか存在しない。

D>0, すなわち(4k+3)(4k-1)>0のとき、2つの異なる実数解が存在する。これはk<-3/4あるいはk>1/4の場合で、このとき共通接線は3本存在することになる。一方、D<0、すなわち(4k+3)(4k-1)<0のとき、実数解は存在しない。つまり、共通接線が1本しかないのは-3/4<k<1/4のときである。

まとめると、
k>1/4のとき、共通接線は3本。
k=1/4のとき、共通接線は2本。
-3/4<k<1/4のとき、共通接線は1本。
k=-3/4のとき、共通接線は1本。
k<-3/4のとき、共通接線は3本。

こうしてみると、(その0)のグラフによる分析で見たように、k=1/4は「連続的」な変化に見えるのに対し、k=-3/4は突如1本から3本に共通接線が増えるようにみえ、こちらは「相転移」に近い感じだ。果たして、k=-3/4における「相転移」とはどんなものなのだろうか?


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