2017年3月9日木曜日

東大2次試験(2017): 問題5(その4)

さて、一応答えは出たので、この辺で終了にしてもよいのだが、我々の目的は単なる試験問題の解説ではない。そもそも、試験を解くだけなら、あんな面倒な方法でやらなくったって、巷に溢れる「優秀な解答」のように短い計算でちゃちゃっとやってしまえばよいのである。しかし、答えを得るだけでは、問題の本質は理解できないし、問題の一番楽しいところも素通りだ。とはいえ、たまたま見つかった特別な因数分解を頼りに問題を解き進めるのは、いくらなんでも、ちょっと不安になるだろう。

そこで、付録として、もう少し一般の場合でも解けるように、「普通」の方法でこの問題(3次方程式の解の分類)を解いてみよう。

この方法では、極値の位置の分類によって、解の個数を調べる。そのためには3次関数の微分を計算し、極値の位置を調べる必要がある。一般に極値はdf(x)/dx=0を解いて与えられ、この問題では2次方程式として表される。すなわち

である。この方程式の判別式はD=4k2+3k=k(4k+3)であり、またもやk=-3/4が登場する。気をつけるべきは、この判別式は「極値の数」を判別するものであって、共通接線の数を判別した前回の判別式とは異なる役割をもっているという点だ。

D<0のとき実数解は存在しない。すなわち極値は存在しない。この状況に対応するのは-3/4 < k < 0のときで、このとき3次関数f(x)は極値を持たず、単に変曲点がx0=2k/3にあるだけだ。したがって、単調増加のグラフとなる。この領域では共通接線の数は1つだけである。

前回の分析との関わり合いを見てみる。-1/2 < 2k/3 < 0なので、常に存在する「蛾の羽の先端解」の接点x0=-1/2に対し、その右側に変曲点はある。また、この変曲点における3次関数の値はf(2k/3)=(1+4k/3)(1-4k/3)となり、これは-3/4<k<0の領域で正値をとる。つまり、f(2k/3)>0である。この領域(-3/4 < k < 0)で単調増加なグラフが、x → -∞において、f(x) → -∞であるし、f(2k/3)>0であれば、その間に解が一つあるのは明らかだ。そして、詳しい計算をすれば、それはx0=-1/2 (< 2k/3)になるはずである。

D=0となるのはk=-3/4とk=0の場合である。k=0の場合は、f(x0)=8x03+1=(2x0+1)(4x02-2x0+1)となる。2つ目の因数4x02-2x0+1は常に正(判別式は1-4=-3<0)であるから、接点は一つしかない(蛾の羽の先端解に対応するx0=-1/2)。実際はk < 1/4の領域では解の数は一つであるから、この結果は当然の結果であるが、0 < k < 1/4の領域でも解が一つしかないことを示すためには、極大値の位置を調べる必要がある。
k=0の場合
極値の分析を始める前に、もう一つやれることがある。それはまたもや対称性に関連する分析である。上のグラフを見てみるとわかるように、0<k<1/4においては、放物線CとDが交点を持ってしまい、重なってしまうので「たすきがけ」ができない。これが、k=0の場合以外でもそうかどうか、CとDの交点について調べてみよう。CとDの方程式を連立してみると、x4+2kx2-x+k2+k=0 となって4次方程式である。判別式かなにかでCとDの交点の数を数えられるかと思ったが、これはちょっと厄介である。

ちなみに、k=0ならばx4-x=x(x3-1)=x(x-1)(x2+x+1)=0となる。最後の因子に対応する2次式の判別式は負になるから実数解を持たない。解はx=0,1となって上の図の通りである。しかし、これではどのkの値のときに交点が発生するかよくわからない。

よく図を見ると、CとDの交点は、y=xとの交点にもなっていることがわかる。これはひとえに対称性のなせる技だ。つまり、CとDの連立方程式である4次方程式を解かなくとも、Cとy=xの連立方程式、それは2次方程式、を研究すれば、交点の数は分析できるのである。そしてそれはすでに最初に分析済みである。連立した結果の2次方程式はx2-x+k=0であり、その判別式はD=1-4kである。つまり、k<1/4のとき、CとDは交点を2つ持つ。k=1/4の時は接するので1つ。そして、k>1/4で交点は0である。つまり、「たすき掛けの解 」は、CとDの間に隙間があかなくては発生しないのである。

極値の議論に戻ろう。極値の有無を判別する2次式の判別式が零値をとる場合として、
第二臨界値であるk= -3/4がある。この場合、共通接線3本は一本に縮退し、a=-1の解、つまり蛾の羽の先端解に収束する。

したがって、3次関数の極値が2つ(つまり極小値と極大値がひとつずつ)が、「しっかり」生じる可能性があるのはk < -3/4、またはk>0の領域ということになる。極値の位置は上の2次方程式の解で得ることができ、


である。正符号(+)は極小点、負符号(-)は極大点に相当する。 この値を3次式f(x)に代入すれば極値が得られる。ただ、解を3乗したり2乗する計算はそれなりに手間がかかる。そこで、手間を省くために、2次方程式を変形してx02=(4kx0+k)/3とし、これを3次関数に代入することで計算を簡単にすることができる。変形の結果はf(x0)=-(16/9)k(4k+3)x0-(16/9)k2+1となり、線形になる。ここにx0±を代入し計算すれば、極値が得られる。

極値の値は、予想通り「面倒臭い」形になる。

この式は、しかしながら、意外にも比較的綺麗な形へと変形できるのである。まずは、平方根を含まない、最初の3項を考えよう。係数を分母と分子のそれぞれで因数分解すると

となって、うまい具合に4/3でまとめることができる。しかもその係数は-2, -3, +1であるから、k=-3/4を代入すると、綺麗に0となる。つまり因数定理により、この多項式は因数分解できて-(1/27)(4k+3)2(8k-3)となる。この結果と平方根の項をまとめると、

となる。

解が3つ存在するためには、極大値が正値をとり、極小値が負値をとる必要がある。すなわち、条件式としてはf(x0-) > 0, かつf(x0+) < 0となる。

まずは、k< -3/4の場合を考えてみよう。といっても、結論は k < -3/4になるわけだから、上の条件式はこの領域で常に成り立ってしまうはずである。実際、-(16/27)(4k+3)  > 0なので、条件式は
となる。4k+3 < 0, 8k-3 < 0, k<0なので、2つ目の不等式はこの領域で常に成り立つことはすぐにわかる。一方、上の式は第二項を右辺に移行する。両辺は正の量なので、自乗してもよい。負の量4k+3で両辺を割ると不等号の向きが変わることに注意すると  4^4*k^3 - (4k+3)(8k-3)2 < 0となる。左辺を計算して整理すると27(4k-1) < 0となる。この条件式も常に成り立つ。したがって、上の不等式はk < -3/4の領域で「恒等不等式」になっていて、つまらない分析ではあったが、新しい条件が出てこないことが確認できた。つまり、k < -3/4では、共通接線は3つあるということである。

次に、k>0の場合を考えよう。今度は-(16/27)(4k+3) < 0なので、上の不等式の向きは両方ともひっくりかえる。そして、8k-3の正負によって計算が変わってくる。まずは8k-3>0つまりk>3/8の場合を考えよう。このとき、一番上の不等式は恒等的に成り立つから、これ以上の分析は不要。一方、2つ目の不等式は第二項を右辺に移行してから自乗する。両辺正の量だから不等号の向きは変わらない。両辺を4k+3>0で割っても、符号の向きは変わらないから、不等号の向きが逆転する以外は、上の考察の場合とほぼ同じになって27(4k-1)>0となる。しかし、もともとk>3/8 (> 1/4)の場合を考えていたので、まとめるとk > 3/8になる。一方、8k-3 < 0の場合、2つ目の不等式は恒等的に成り立つのに対し、最初の不等式については初項を右辺に移行してから自乗し、4k+3(>0)で両辺を割る。その結果は27(4k-1) > 0となる。k>0, 8k-3<0の結果と合わせると、1/4 < k < 3/8となる。以上の分析をまとめると、k>0の場合、共通接線が3つ存在するのは 1/4 < kの領域である。

ここまでの分析でわかったのは、
k < -3/4 の場合、共通接線は3つ。
-3/4 < k < 0 の場合、共通接線は1つ。
k > 1/4 の場合、共通接線は3つ。
である。

やり残したのは、2つの臨界点(k=-3/4, 1/4)における考察と、0 < k < 1/4において、共通接線が1つしかないことの証明だが、これらも極値の位置関係を調べることで、答えが得られる。

最後に、3次関数y=f(x)が、パラメータkに対し、どのように振る舞いを変えていくかを、解の個数の観点から図にまとめてみた。 左上から、時計回りにkが減少していくように配置した。
赤い丸に対応するのが、「蛾の羽の先端解」で、x=-1/2に相当する。この解は、どの場合にも存在していることがわかる。各グラフの左上の数字は、解の個数、すなわち共通接線の個数を表す。

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