ベクトルは、ベクトル空間と呼ばれる集合において定義され、和とスカラー積が定義される。ここに内積が付与されれば、ヒルベルト空間とか、ノルム空間とか呼ばれる特別なベクトル空間になるが、まず重要なのは、ベクトル和とスカラー倍だ。この2つをまとめて、線形演算と呼ぶことにしよう。
線形演算はあまりにも当たり前すぎて、辟易することもあるけれど、物理や数学の理論がより精密かつ複雑、高度になっていくにつれて、線形性の単純さが道標の役割を担ってくれることもあるから、重要な概念だ。とりわけ、物理における重要な理論の数々(ニュートンの運動方程式による調和振動子や、マクスウェル方程式、そしてなによりシュレディンガー方程式など)が線形理論となっているので、線型性を理解しておくのは損じゃない。
さて、今回確認しなくてはいけないのは、複素数がベクトル空間と同等の役割をもっているかどうか、という点である。ベクトル空間に定義される線形演算が 、複素平面でも成り立つことが特に重要である。
以下では、ベクトルと複素数の間に、v⇄z, w⇄wという対応が付いているものとする。
ベクトル:λv + μw = (λvx + μwx, λvy+μwy)
複素数:λz+μw = (λzx+μwx) + i (λzy+μwy)
すなわち、ベクトルの線形演算は、複素数の線形演算と等価である。
これはベクトル空間に後付けすべきものであるが、ノルム(すなわちベクトルの大きさ)が、複素数ではどのように表せるかも確認しておこう。内積の定義とピタゴラスの定理により、ベクトルのノルムの自乗は
v・v = vx2+vy2
と書ける。一方で、複素数は、その絶対値がノルムに対応している。
|z|2=zz* = zx2+zy2
注意すべきなのは、複素数では逆数、つまり割り算が定義されているが、ベクトルには定義されていない点である。この対応がないことだけ注意すれば、複素数を使って、ベクトルの問題を解くことは十分可能だろう。
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