2017年3月3日金曜日

東大2次試験(2017): 問題4(その3)

問(2)で、μと√νの部分に分ける考え方を少しやった。また、逆数1/p=qを考えることで、μの符号を反転できることもみた。この考え方を推し進めて、問(3)を解いてみる。

(3)anが自然数であることを示せ。
この問題で登場する自然数はμ=2とν=5である。これらの和/差そして積の組み合わせで表現されるのがanである。a1もa2も自然数であることは問(1)で確認したので、n>2においてもanが自然数という集合から抜け出していかない(はみ出していかない)ことを示すのがこの問題である。(ちなみに自然数の集合は、割り算に対して「はみ出してしまう」性質がある。例えば2÷3は自然数ではなく、より広い有理数へとはみ出す。)

ここでは二項展開の公式を利用して、物理でよく使う「パリティ」によく似た考え方で問題を分析してみよう。まずは公式をそのまま展開して、p2がμと√νの(有限項の)積和で書けることを確認する。
 nCkもμのベキ乗も自然数である。その積も和も自然数の集合からはみ出すことはない。しかし、√νのベキ乗はkが偶数のときは自然数だが、奇数の場合は無理数となってしまう。無理数と自然数の和、あるいは積は無理数となるから、pnは一般には無理数である。

ただ、この問題で登場する無理数は平方根√νだけであり、その奇数べきはνm√νという形に限られるから、pnは自然数の部分と、自然数×√νという部分との和の形になる。pの逆数q=1/pはμの符号反転させるので、うまい具合に√νに比例する部分が相殺してくれたら、anは自然数になるだろう、という予想が立つ。

実際、逆数のべきを二項展開すると
 となるので、和か差をとればうまく消えてくれそうである。

anを計算してみると

となる。ただし(-1)2n=1を利用した。kが奇数の項は最後の因子が0となるので消えてしまうので、kが偶数の項の和だけをとることになる。またこのとき(√ν)kはうまい具合に平方根が消えて自然数になってくれる。したがって、自然数同士の積の和によってanは表現されていることになるので、anは自然数からはみ出さないことがわかる。

ちなみに、物理学では、σk=1+(-)kというタイプの因子は、量子力学における波動関数のパリティや、対称/反対称性の議論で よく出てくる。実際、大学3年ごろになると、1次元井戸型ポテンシャルの量子化について習うことになるだろうが、kを量子数とみなし、波動関数の分類に役立つことを学ぶことだろう。

量子力学の波動関数の対称性の議論では、力学変数qの符号を変えたときの波動関数ψ(q)の対称性を考える。そのときψ(-q)=ψ(q)なら対称、ψ(-q)=-ψ(q)なら反対称と呼んで区別する。一次元の問題では、両者は直交し、一次独立な解になる。

この問題ではp→1/p (つまりpとqを交換する変換に相当)とする操作に対し、
an = pn+(-q)n→(-)n(pn+(-q)n)=(-)nanという対称性がある。σ=(-)nがパリティ(あるいはシグナチャーと呼んでもよいかも)のような量に相当するという訳だ。nが奇数とき「反対称」、nが偶数のとき「対称」と呼んで良いだろう。

σの値は+1あるいは−1だが、どちらの値の場合でも、anは(自然数という)同じ種類の集合に属するということを示したのがこの問題といえる(どちらかは無理数になり、どちらかは自然数になる、とかいうことはないという意味)。こういう証明は物理ではときどき必要になる。たとえば、SO(3)に属する力学変数ならその行列表現Aは必ずdet (A)=1を満たさなければならない..などなど。

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