Loading [MathJax]/extensions/TeX/boldsymbol.js

2019年2月16日土曜日

阪大(2018)問題2: 因数定理と2次式(2)

問(2)は、f(x)が因数分解できるとき、a4を示せ、
というもの。

まずは、f(x)の因数分解がc,c1のdualityにより、
f(x)=(xu)(xu1)(xv)(xv1)
となることは問(1)の結果から言える。またu,v>0も問(1)の結果として再利用する。

上の式を展開すると、
f(x)=x4(p+q)x3+(pq+2)x2(p+q)x+1,
となる。 ただし、
p=u+1u,q=v+1v
とした。u,v>0であることは、(1)で確認済みだが、p,qの範囲については調べないといけない。p=p(u),q=q(v)という関数だと思って解析すればよい。もちろん、こういうのは数値解析すれば一発なのだが、一応「マニュアル方式」もやっておこう。量子力学の1次元問題などでよくやる内容だから、やっておいて損はないだろう。

まずは漸近形である。つまりu,v>0の場合だと、u,v0u,vという2つの極限領域で関数がどのように振る舞うかを調べる。明らかに、
u+1uu(u)u+1u1u(u0)
であることがわかる。つまり、原点付近で+に発散し、(正の)無限遠でx軸に収束するように漸近するという大雑把な形状だ。その間の領域で極値を持つかどうかは、微分してみればすぐにわかるが、2つの漸近形であるuと1/uの競合ということになるから、きっとu=1/uが成立する辺りで極小値を持ちそうだというのは直感的に想像がつくだろう。

微分すると、
dpdu=11u2=(u1)(u+1)u2
であるから、増減表を作れば、u>0の領域では(予想通り)u=1で極小値2を持つことがわかる。つまり、u,v>0という定義域は、変数をp,qに書き変えるとp,q2に変わるということだ。

さて、gnuplotで表示してみよう。

縦軸がp(q)、横軸がu(v)に対応。
 f(x)のそもそもの定義と比べると
a=p+q,b=pq+2
という対応があることがわかる。つまりaおよびbは、pとqの2変数に依存する関数 であるということだ。p,qは独立だからpとqの最小値2をそれぞれ代入すれば
a4(=2+2)
ということが示せる。

最後の問題に取り掛かろう。
問(3) a=5の場合、f(x)が因数分解できるような自然数bの値を求めよ。

問(1)-(2)の結果は全て使える。
b=b(p,q)=pq+2a=p+q=5p,q2
である。まずはp,qが2より大きいという制限がどのような意味をもつか考えよう。pとqはa=5という条件により、今回は「束縛」(数学用語では拘束条件という)が入る。p=2のとき、q=3となる。これは許される。(同様にq=2のとき、p=3である。) pをもう少し増加してみよう。p=3のとき、q=2となり、これはギリギリOKだ。pがこれ以上大きくなると、qは2より小さくなって条件から外れてしまう。つまり、
2p,q3
という制限がつくということだ。この制限を忘れないようにして、bからqを消去して、pの二次式として表し、bの最大最小の問題を考えよう。
b=p(5p)+2=(p52)2+334
となるから、2p3の範囲に(上の凸の)放物線の頂点は含まれている。
頂点の値は8<33/4<9であるから、bが自然数だというなら、まずは1,2,3,4,5,6,7,8に限られることがわかる。p=2のときb= 8。p=3のときもb=8。したがって、pの区間の中でbが取りうる自然数は8に限られる。つまり、答えは8となる。

postscriptで図示してみた。
座標軸において、Xはp、Yはbを表す。





2019年2月15日金曜日

阪大(2018)問題2: 因数定理と2次式

問題2は比較的解きやすい。が、色々な変数を導入して、式を書き換える作業が必要になる。力学でいう「カノニカル変換」みたいなものだ。いちばん解きやすい変数を選び、方程式が解きやすい形になったら、最後にオリジナルな変数に立ち返る必要がある。この問題では、それは新しい変数の定義域を注意深く決めるという作業に相当する。この点に気をつけて解いてみよう。

与えられる式は4次式である。
f(x)=x4ax3+bx2ax+1
ただし、a,b>0は正の実数 である。

(1) f(x)xcで割り切れるとき、x1cでも割り切れることを示すこと。また、c>0も証明すること。

さっそく、因数定理を使う。
f(c)=c4ac3+bc2ac+1=0

cの正負を決めよ、ということだから、cの偶数べきの項と、奇数冪のこうでまとめてみる。
 c2(c2+b)ac(c2+1)+1=0
第二項にcが残り、残りはcの自乗の形となった。自乗部分は必ず正になることを利用し、次のように変形する。
 c=c2(c2+b)+1a(c2+1)
a,b>0だから、上式右辺は正の量であるからc>0は証明された。

次に、f(c)=0の両辺をc4で割ると、
1a1c+b1c2a1c3+1c4=0を得るが、左辺はf(1/c)に等しいから、x1cに関する因数定理とみなせる。したがって、f(x)は(xc)(x1c)を因数に持つ。

上の恒等式が成立する理由は、f(x)の係数を並べて書いてみるとはっきるする。すなわち
1,a,b,a,1
となり、2次の項に対して対照的な配置になっている。全体で4次式だから、全体を4次の単項式で割ると、

4次の項⇄0次の項、 3次の項⇄-1次の項、
2次の項⇄-2次の項、
0次の項⇄-4次の項、1次式⇄−3次の項、

という具合に、符号を除いて「対称的な」関係がある。これを「反対称」と呼ぶべきかどうかはともかく、綺麗な対応関係が存在する。
この問題は、つまり
cc1
という「対称性」が隠れたキーワードとなっていると感じた。

f(c)=0f(c1)=0の式をもう一度書き下してみよう。今度は、「べき」の形を採用する。
f(c)=c4ac3+bc2ac+1=0,f(c1)=c4ac3+bc2ac1+1=0
冪数の正負が変わっただけで、似たような構造をもっていることがわかるだろう。

これと似たような性質は、2次方程式の複素解にみられる。α=a+biが二次方程式の解になっているならば、α=abiも解である、という性質である。ただし、a,bは実数、iは純虚数である。これは、二次方程式x22ax+a2+b2=0の解であるが、
この方程式全体の複素共役をとっても、(x)22a(x)+a2+b2=0となり、同じ形が保たれるから、複素共役も解となることがわかる。これは、一般のn次方程式(ただし、係数は実数でないとだめ)にも成り立つ。

n次方程式の性質として重要な基本事項は、それは複素解を含めれば、n個の解を持つ、という性質だ。今考えているのは4次関数だから、f(x)=0は4つの解をもつ。面白いのは、その全てが「正の実数」となり、複素共役とはちょっと違うが、似たような「ペア」(c,1/c)で現れるという点だ。

ペア(対)に関しては、東大のランダムウォークの問題でも議論したが、今回のような逆数を用いたペアは、「duality」という概念でよく物理にも登場する。よく知られているのが、電磁気学の真空の誘電率ϵ0と真空の透磁率μ0だ。前者は電場\boldsymbol{E}=-\boldsymbol{\nabla}\phi-\frac{\partial}{\partial t}\boldsymbol{A}を特徴付ける量であり、後者は磁場\boldsymbol{B}=\boldsymbol{\nabla}\times\boldsymbol{A}を特徴付ける。例えば、静電場と静磁場を記述する微分方程式は、双方ともにポワソン方程式で記述されるが、透磁率と誘電率の入り方が「逆転」する。
\boldsymbol{\nabla}^2\phi=-\frac{\rho}{\epsilon_0}\\ \boldsymbol{\nabla}^2\boldsymbol{A} = -\mu_0\boldsymbol{j}
電場のセクターと磁場のセクターで、\epsilon_0^{-1} \leftrightarrow \mu_0という対応があれば、上の2つの式は実に綺麗な対称性をもっているように見える。

東大二次試験(2017)問2: ランダムウォーク

ランダムウォークの理論(酔歩理論ともいう)は、物理学のみならず、コンピューターシミュレーションでもよく利用される模型だ。物理学では、アインシュタインが1905年にブラウン運動の解析に利用し、「原子の実在」を決定づけたことでよく知られる。

ただ、ノーベル賞をもらったのは、アインシュタインの理論に基づいて、実験を行なったペランだった。アインシュタインは、いろいろな理由で(たとえば、妬みや経歴など)色々と損をしていると思う。1905年に発表したアインシュタインの論文は、ブラウン運動のみならず、プランクの光量子理論を光電効果に適用し「量子」の実在を証明した論文、そして特殊相対論の論文の3つあり、それぞれが物理学に革命を引き起こしたことで知られる。1905年は「奇跡の年」と言われるくらいだ。アインシュタインがノーベル賞を受賞したのは、光量子に関する2つ目の業績だけで、残りの2つは受賞対象から外された。誰もが感じるのは、これらの論文一つ一つにノーベル賞を授与してもよいのではないか?という疑問だろう。

問題では、デカルト座標を離散化した「格子」の上で、確率的に移動する点の位置を考える。現代物理では「格子」というのは重要な概念だ。というのは、複雑な問題は数値計算で研究する場合が増えているからだ。例えば、Lattice QCD(格子量子色力学)は、強い核力に従うクォークやグルーオンの物理を、格子化した4次元時空で取り扱う数値計算物理だし、強相関物理や磁性体の模型であるイジング模型でも格子は登場する。

格子の上を確率的に運動するのがランダムウォーク模型であるが、こちらはさまざまな身の回りの現象に適用されてきた。最近でも、カオス力学とか、多体問題のシミュレーションに適用されている。

原点から出発した点が6秒後に到達する場所に関する問題だ。(1)ではy=xつまり(m,m)に来る確率、(2)では原点にいる確率を計算させている。色々な解き方があると思うが、私が考えた方法だと、(2)の方が簡単に計算できる。

x方向に1進む事象をm, -1進む事象を-mと表すことにしよう。同様に、y方向に関してもn, -nという事象を導入しよう。6秒全体の事象は、6文字で表すことができるから、○○○○○○となり、○の中には(m,-m,n,-n)のいずれかが入る。6秒経っても原点に留まるということは、±のペアが3つあるということだ。例えば、(m,-m,-n,n,m,-m)は原点にとどまる事象の一つだ。この場合は、mのペアが2つ、nのペアが1つ、という分類となる。
mに着目すると、(i)mのペアが3つの場合、 (ii)mのペアが2つの場合、(iii)mのペアが1つの場合となるが、もう少し丁寧に書くと、
(i)   3 m-pairs + 0 n-pair,
(ii)  2 m-pairs + 1 n-pair
(iii) 1 m-pair   + 2 n-pairs
(iv) 0 n-pair    + 3 n-pairs
となるが、(i),(ii)と(iii),(iv)は、(m,n)の交換によって対応がつくので、(i),(ii)の場合の数を数えて2倍すれば(i)-(iv)の場合の数の総数となる。

(i) 3 m-pairsの場合。6つの○の中に、m,m,m,-m,-m,-mを割り当てる場合の数を計算すればよい。それは明らかに\frac{6!}{3!3!}で与えられる。

(ii) 2 m-pairs+1 n-pairの場合、6つの○の中にm,m,-m,-m,n,-nを割り当てる場合の数を計算する。まず、6つの○の中に2つのmを入れる場合の数\frac{6!}{2!4!}を数え、次に残りの4つの○の中に-mを入れる場合の数\frac{4!}{2!2!}をかけ、最後にn,-n、および-n,nを最後の2つの○に入れるので2倍する。すなわち、
\frac{6!}{2!4!}\cdot \frac{4!}{2!2!}\cdot 2
が求める場合の数となる。

(i)と(ii)は排反事象だから、足し算すると200となる。(m,n)交換の分を考慮して、さらに2倍すると原点に留まる場合の数は400通りとなる。格子点から4つの方向に移動する確率はそれぞれ等しく1/4だから、ある格子点(m,n)に6秒後にいる確率は(1/4)^6となる。したがって、原点に残る確率は
2\left(\frac{6!}{3!3!}+\frac{6!}{2!4!}\cdot\frac{4!}{2!2!}\cdot 2\right)\cdot\left(\frac{1}{4}\right)^6 = 400\cdot \frac{1}{4^6} = \frac{25}{256}
で与えられる。

問(1)に戻ろう。上のやり方を拡張するだけでよい。まずはy=x上で到達できる最遠の地点は(3,3)あるいは(-3,-3)であることはすぐにわかる。したがって、考えるのは(±3,±3),(±2,±2),(±1,±1),(0,0)の7通りであることがわかる。ただ、最初3つのパターンは+/ーの反転に対して対称的な関係にあるから、正の場合だけを数えてから2倍すればよい。

[ケース0] (0,0)の場合。この場合は、すでに(2)で考察した。400通りある。

[ケース3] (3,3)の場合。この場合は(m,n)のペアを3つ使って○を埋めることになる。
したがって、[m,m,m,n,n,n]を6つの○に割り当てる場合の数を計算することになるので、
\frac{6!}{3!3!} =20
となる。

[ケース2] (2,2)の場合。今度は(m,n)のペアを2つ使う。残りは(+,-)ペアになるが、mのペアとnのペアの二種類がある。最初の場合は[m,n,m,n,m,-m] = [m,m,m,n,n,-m]を6つの○に割り当てる場合の数となり、これはm⇄n交換の対称性により、もう一つのペア、つまりn-pairの場合と同じ数になる。したがって、
\frac{6!}{3!3!}\cdot\frac{3!}{2!} \times 2 = 120
を得る。

最後に
[ケース1](1,1)の場合。(m,n)pairは一つだけ。残りは(+,-)ペアとなるが、2 m-pairs, 2 n-pairs, 1m-1n pairsの3通りある。最初の場合は[m,n,m,-m,m,-m] = [m,m,m,-m,-m,n]となる。これは2 n-pairsケースと同じ数になるから、
\frac{6!}{3!3!}\cdot \frac{3!}{2!} \cdot 2 = 120
次に、1m-1n pairsの場合は[m,n,m,-m,n,-n] = [m,m,n,n,-m,-n]であるが、この場合の数は
\frac{6!}{2!4!} \cdot \frac{4!}{2!2!}\cdot 2 = 300
となる。

ケース0-3までの場合の数を足し合わせる(ただし、ケース-1,-2,-3の場合を考慮し、ケース0以外の場合の数は2倍する)と、
400 + 2(20 +120+300) = 1280 = 4^4\cdot 5
を得る。したがって、y=xに留まる確率は
\frac{4^4 \cdot 5}{4^6} = \frac{5}{16}
となる。■

プラスマイナスのペア(対)を考えるというのは、超伝導を記述するBCS理論や、ヘリウム3の超流動を記述するLeggett理論などで導入されている。これらの理論では、電子やフェルミオンのスピンの+/ーに関してのペアを考える(クーパーペアという)。「対相関」、pair correlationというのは、現代物理、特に凝縮系の物理(物性のみならず、原子核や素粒子にも適用される)で非常に重要な役割を果たす。自発的対称性の破れを考案し、ノーベル賞を受賞した南部陽一郎先生の理論は、素粒子(π中間子など)に質量が発生する機構を解明した理論だが、この理論を思いついたきっかけは、対相関を導入し超伝導を記述する方程式と、電子などフェルミオンの相対論的量子力学を記述するディラック方程式が、数理的に類似性を持っていることに気づいたことである。この発見を報告した南部先生の論文を初めて読んだ時、非常に感動したものである。

この問題は東大の入試問題としては非常に簡単だと思うが、対の考えやその他の概念が盛りだくさんに詰め込まれていて、物理を志す者には親近感が湧いてくるはずである。

2019年2月12日火曜日

東大二次試験(2017)問題1: ボルツァーノーワイエルシュトラスの定理の応用

大学の解析学で習う項目に、ボルツァーノーワイエルシュトラスの定理というのがある。数学科に進んだ人なら覚えているかもしれないが、物理学科に進んだ私には霞の中にぼんやりと浮かぶ提灯の火のように感じられる...などと、言い訳をいってもしかたがない。要は、その詳細な概要は忘れてしまった。2017年の問題を解いてみると、「開区間における最大値、最小値の存在」についての考察が必要になることがわかる。そこで、久しぶりにこの定理に出くわしたというわけだ。正確にいえば、直接使うのは「最大値最小値の定理」という定理だが、この定理の心幹にボルツァーノーワイエルシュトラスの定理がある、という位置付けだ。

今回の問題で利用するのは、「開区間においては、最大値、最小値の存在は担保できない」という連続関数の性質だ。この講義ノート(p.24の定理2.2.9のコメント文)にもはっきり書いてあるように、開区間で単調に変化する関数は最大値、最小値を持たない!たとえば、-1<x<1で定義された関数f(x)=xは最大値も最小値も持たないのだ。ただ、極限値としてf(x)\rightarrow 1 (x\rightarrow 1)とか、f(x)\rightarrow -1 (x\rightarrow -1)を考えることはできるから、この関数の値域に上限と下限がある、-1 < f(x) < 1ということはいえる。 しかし、最大値も最小値もこの開区間には存在しないのだ。もちろん、関数の定義域を閉区間-1\le x \le 1に変更するとこの関数f(x)=xは最小値-1、最大値+1を持つ。

まずは、この問題の前半部分をみてみよう。前半部分には最大値最小値定理は登場せず、むしろフーリエ級数展開のような式が与えられる。

問題1(2017)
実数a,bを用いて、関数f(\theta)を次のように与える。 f(\theta) =\cos3\theta + a\cos2\theta + b \cos\theta, また0<\theta < \piの領域で定義される関数g(\thetaを次のように与える。 g(\theta) = \frac{f(\theta)-f(0)}{\cos\theta - 1} このとき,以下の問(1)-(2)に答えよ。

というのが本文である。

f(x)は偶関数のフーリエ級数展開もどき、のような関数に見える。ただ、有限項しか含まないので、「フーリエ多項式」と表現するべきだろうか?x=\cos\thetaとおくやり方は、量子力学や電磁気学で出てくる特殊関数の一つ「ルジャンドル多項式」の扱いでよくみられる。ルジャンドル多項式に関しては、別の機会で詳細に論じることにして、ここは形式的にf(x)をルジャンドル関数で書いてみることにしよう(あくまで練習として)。

そういえば、以前にも似たような考察をしたことがあった。 あのときは、阪大の問題に触発されて、三角関数の冪がどんなフーリエ級数で表されるかを加法定理だけを使って調べたのだった。あれはあれでなかなか面白かったが、今回はその逆である。つまりcos(nx)\cos xの冪で表そうという趣旨だ。とはいえ、\cos 3xまでなので、それほど大変ではない。余力が有り余っていると思うので、今回はそれを「ルジャンドル多項式で表してしまえ」というテーマでやってみよう。

\cos 2\theta = 2\cos^2\theta -1 = 2x^2 -1\\ \cos 3\theta = 4\cos^3\theta - 3\cos\theta = 4x^3 - 3x
である。\cos(nx)は、nが偶数のときは偶関数で、nが奇数のときは奇関数となるらしいことがわかる。数学的帰納法を使えば、一般の場合も証明可能だろう。

今回はこれをルジャンドル多項式P_n(x)で表すことにする。ルジャンドル多項式は-1\le x \le 1で定義されたxの多項式なので、x=\cos\thetaとして、角度\theta方向に依存する量、たとえば静電ポテンシャルや波動関数など、方向依存性をもった物理量の記述に用いられる。ただし、回転対称性をもち方位角(azimuthal angle)に依存しないタイプである。方位角に依存するときは、球面調和関数Y_{lm}(\theta\phi)で記述する。\thetaのことを極角(polar angle)と呼ぶこともある。

ルジャンドル関数を用いると、
\cos(3\theta) = \frac{8}{5}P_3(\cos\theta) - \frac{3}{5}P_1(\cos\theta)\\ \cos(2\theta) = \frac{4}{3}P_2(\cos\theta) -\frac{1}{3}P_0(\cos\theta)
などと表すことができる。ただし、
P_0(x) = 1, \quad  P_1(x) = x, \quad P_2(x) = \frac{1}{2}\left(3x^2-1\right), \quad P_3(x) = \frac{1}{2}\left(5x^x -3x\right)
と与えられている。

ルジャンドル多項式は直交多項式であり、
\int_{-1}^1 P_{m}(x)P_n(x) dx = \frac{2}{2n+1}\delta_{mn}
を満たす。したがって、次の積分が成り立つ。
\int_{-1}^1 P_n(x) dx = 2\delta_{n0}\\ \int_{-1}^1xP_n(x)dx = \frac{2}{3}\delta_{n1}\\ \int_{-1}^1x^2P_n(x)dx = \frac{2}{3}\left(\delta_{n0}+\frac{2}{5}\delta_{n2}\right)\\ \int_{-1}^1x^3P_n(x)dx = \frac{2}{5}\left(\delta_{n1}+\frac{2}{7}\delta_{n3}\right)
x^{2k+1} x^{2k}にルジャンドル多項式P_n(x)をかけて積分すると、n=1,3,\cdots,2k+1あるいはn=0,2,\cdots,2kに対応するルジャンドル多項式は非零な寄与を与えることがわかる。

xについての3次式f(x) = \sum_{k=0}^3c_kx^kは、3次のルジャンドル多項式までで展開し直すことができる。つまり、
f(x) = \sum_{k=0}^3 c_kx^k = \sum_{l=0}^3e_lP_l(x)
したがって、展開係数e_mを求めるには両辺にP_m(x)をかけて積分すればよい。
\sum_{l=0}^3 \int_{-1}^1e_l P_l(x)P_m(x) dx = \sum_{k=0}^3 c_k\int_{-1}^{1}x^k P_m(x)dx
左辺に直交条件を適用すると、上式は
e_m = \frac{2m+1}{2} \sum_{k=0}^3c_k\int_{-1}^1x^kP_m(x)dx
と書き直せる。

ルジャンドル多項式で遊ぶのはこの辺にしておこう。

(1)
xの冪でf(x), g(x)を書くと
f(x) = 4x^3+2ax^2+(b-3)x-a, \\ g(x) = \frac{4x^3 + 2ax^2+(b-3)x-2a-b-1}{x-1}
を得る。問題は、g(x)が割り切れて、「整式」つまり多項式になっていることを示せるかどうかである。これは簡単にできて、
g(x) = 4x^2 + 2(a+2)x + 2a+b+1\\ =4\left(x+\frac{a+2}{4}\right)^2+1+b-\left(\frac{a-2}{2}\right)^2
という2次関数になる。

(2) g(\theta)0<\theta<\piで最小値0をとるための条件を求めよ。また、その条件が満たす図形を図示せよ。

-1< x < 1の範囲に極小値、つまり放物線の頂点が入る場合と入らない場合に分ける。入る場合、つまり
-1 < -\frac{a+2}{4} < 1, \rightarrow -6 < a < 2
のときは、最小値は放物線の頂点としてよいから、
1+b-\left(\frac{a-2}{2}\right)^2 = 0, \rightarrow b = \left(\frac{a-2}{2}\right)^2 -1
が成立する。

白丸は区間に含まれない点
この問題の最重要ポイントはa<-6, a>2のときだ。つまり、放物線の頂点が開区間-1<x<1の中に入らないときである。このときこの開区間でg(x)は単調減少、あるいは単調増加の関数となる。開区間の場合、このような関数は「最大最小定理」によって最大値、最小値が存在しない!つまり、考えなくてよいのである。■

2019年2月9日土曜日

センター試験の数IA問題5: 後半

後半部分に入ろう。問題文の記号と違う記号を採用してしまったので、その確認から。
我々の接点Tは問題文では接点Dとして、我々の接点Sは接点Eとして記されている。つまり、
T\leftrightarrow D, \quad S\leftrightarrow E
という対応だ。

さて、接点T,Sから頂点C,Bへたすき掛けに線分を張って、その交点をPとする。また、この交点Pと頂点Aを結んで直線APを張り、線分BCとの交点をQとする。これだけ読んでもなんのことかよくわからない。図に描こうとしても様々な線が絡み合って実に複雑だ。こういう時ほど代数幾何法は力を発揮する。

まず今までの状況を整理しておこう。


線分CTと線分SBの交点がPだ。内接円の中心Kの付近に来そうだが、来ないかもしれない。まずはPの座標を計算してみよう。我々は既にC、T、B、Sの座標は全て計算してある。この情報を使って、直線CT, BSの方程式をまず導こう。

 CT: y=\frac{0-2\sqrt{6}}{1-(-1)}(x-1) = -\sqrt{6}\left(x-1\right)\\  BS: y=\frac{0-\frac{2\sqrt{6}}{5}}{4-(-\frac{1}{5})}(x-4) = -\frac{2\sqrt{6}}{21}(x-4)
この連立方程式の解を求めると、交点Pの座標がわかる。それは
P\left(\frac{13}{19},\frac{6\sqrt{6}}{19}\right)
となる。これは(予想通り)Kとは異なる点であることが確認できた。

この計算結果から、直線AP(=OP)の方程式がわかる。\angle BOP = \alphaとおくと、
\tan\alpha = \frac{6\sqrt{6}/19}{13/19} = \frac{6\sqrt{6}}{13} であるから、
OP: y=\left(\tan\alpha\right) x = \frac{6\sqrt{6}}{13}x
となる。

ここで、前回の二等分線の性質で導出した幾つかの性質を利用しよう。まず、問題文で、
CQ: BQの比の値を計算させているが、これはOPが角Aの二等分線であったなら 、「瞬殺」で、CQ:BQ = OC:OB=b:cとなる。しかし、OPは二等分線ではない。その情報は角αの中に含まれている。二等分線のときと同じように、三角形の面積を2つの方法で求めておき、その比を考えることで、比の公式の拡張ができるはずだ。

三角形OBQの面積S_1を2通りの方法で求めよう。まずは、底辺BQ、高さhを使った表現を用いるとS_1=BQ\cdot h / 2となる。hは点Oと線分BCの距離と定義しても良い。次に、αを用いるとS_1=OQ\cdot OB \cdot \sin\alpha /2とも表現できる。これと同じようにして、三角形OCQの面積を表現することもできる。最初の表現の比と二つ目の表現の比は等しいから、
\frac{BQ}{CQ} = \frac{OB\cdot \sin\alpha}{OC\cdot \sin(\theta-\alpha)}
となる。二等分線の場合は、\theta = 2\alphaだったから、BQ:CQ=OB:OCという公式が得られたわけだ。今回はその状況の拡張とみなせる。\sin\theta\cos\thetaの値は問題文に与えられている。また\sin\alphaの値は\tan\alphaから計算できるから、加法定理を用いて上の式は計算することができる。ただ、ここではせっかく\sin\alpha/\sin(\theta-\alpha)の比で与えられているから、それを最大限活用しよう。
\frac{\sin\alpha}{\sin(\theta-\alpha)} = \frac{\sin\alpha}{\sin\theta\cos\alpha-\cos\theta\sin\alpha} = \frac{\tan\alpha}{\sin\theta-\cos\theta\tan\alpha} \\ =\frac{6\sqrt{6}/13}{2\sqrt{6}/5 - (-1/5)(6\sqrt{6}/13)} = \frac{15}{16}
が求まる。したがって、OB=4, OC=7を代入すると、
\frac{BQ}{CQ} = \frac{4}{5}\cdot\frac{15}{16} = \frac{3}{4}
を得ることができる。BC = BQ+CQ = 7だから、BQ=3, CQ=4はすぐにわかる。

実は、この計算法は「代数幾何法」の観点からすると、まだ「邪道」である。代数幾何法を徹底するなら、Qの座標を求めてしまうのがよい!BCの方程式とOPの方程式の連立方程式を解くとQの座標が手に入る。

BC: y=- \frac{2\sqrt{6}}{5}x + \frac{8\sqrt{6}}{5} \\ OP: y= \frac{6\sqrt{6}}{13}x
これを解くと、
Q(\frac{13}{7},\frac{6\sqrt{6}}{7})
を得る。
したがって、
CQ = \sqrt{\left(\frac{13}{7} - (-1)\right)^2 + \left(\frac{6\sqrt{6}}{7}- 2\sqrt{6}\right)^2} =4\\ BQ = \sqrt{\left(\frac{13}{7} - 4\right)^2 + \left(\frac{6\sqrt{6}}{7}\right)^2} =3
となって、比どころか絶対値が先にわかってしまう。

さて、ここまでの結果をpostscriptで描いてみよう。

 まず、直線BSと直線CTの交点Pは、ほんのわずかながら角Aの二等分線には乗っていないことがわかる。したがって、直線OPは、二等分線からわずかにずれる。面白いことに、直線OPは内接円の接点Rに向かって進み、そこでBCと交差する!つまり、R=Qなのである。

上の計算では、Q(\frac{13}{7},\frac{6\sqrt{6}}{7}) という結果だが、最初にやった計算ではR(\frac{91}{49},\frac{6\sqrt{6}}{7})としていた。つまり、Rのx座標の分数は7を使って約分できるのだ....そう言われれば、91 = 7×13であるし、49=7×7である。

内接円にはこんな面白い性質があったのだ!今年のセンター試験は問題の難易はともかく、おもしろい内容が多く、とても勉強になったと思う。

R=Qであれば、Qは接点なのであるから、KQ=KRは内接円の半径に他ならない。こうして、最後から2つ目まで解くことができた。とはいえ、代数幾何学法にこだわるなら、こういうことは何も考えず、KとQの座標をピタゴラスの定理(距離の公式)に適用して計算すればよい。いずれにせよ、正解を得ることができる。

最後の問題は、 直線CTと内接円の交点F(ただしFはTとは異なる)に対する円周角\angle SFTの余弦を求める問題である。角Aの二等分線と内接円の交点をGとすれば、円周角の定理により、これは\angle SGTに等しい。三角形SRTは二等辺三角形だから、\angle OGTの大きさが分かれば良い。これも円周角の定理により、\angle OKTの半分の角度に等しい。三角形OKTは直角三角形であり、Tは接点なので、KTとOBは垂直の関係にある。\angle KOT=\theta/2という定義だから、三角形の内角の和の性質を使って、\angle OKT = \frac{\pi}{2} - \frac{\theta}{2}であることがわかる。したがって、\angle OGT = (1/2) \angle OKT = \frac{\pi}{4}-\frac{\theta}{4}となる。したがって、\angle SGT = 2 \angle OGT = \angle OKTであるから、
\cos\angle SFT = \cos\left(\frac{\pi}{2}-\frac{\theta}{2}\right) = \cos\frac{\pi}{2}\cos\frac{\theta}{2} + \sin\frac{\pi}{2}\sin\frac{\theta}{2}\\ = \sin\frac{\theta}{2} = \frac{\sqrt{15}}{5}
が求まる。最後のところは、すでに求めた\tan\frac{\theta}{2}=\frac{\sqrt{6}}{2}の値と、1+\frac{1}{\tan^2x} = \frac{1}{\sin^2x}の関係式を用いた。

円周角の知識を使わず、「代数幾何法」を貫徹するつもりなら、直線CTと内接円の方程式を連立して交点Fの座標を求め、それをつかって線分FT, FS, TSの長さを求めた後に、余弦定理TS^2 = FT^2 + FS^2 - 2FT\cdot FS\cos\angle SFTを計算すればよい。が、そこまで執着せずとも、お許しいただけるであろう。

角の二等分線を使った性質

先ほどの問題では、三角形の角を二等分する直線について考えた。この直線は内接円の中心を通るわけだが、そこを突き抜けて対辺と交差するとき、その交点Pは、内接円の接点Rとは異なることを確かめた。

 ここでは、点Rではなく、点Pのもつ性質について考えてみたい。内接円の半径を求める時、面積を利用した手法を導入したが、ここでもその手法が使える。ここで証明したい性質は、
CP: BP = OC: OB
だ。二等分線の性質、および面積を使って証明できる。

S(\triangle OPC) = \frac{1}{2}OC\cdot OP\sin\theta = \frac{1}{2}CP\cdot h\\ S(\triangle OPB) = \frac{1}{2}OB\cdot OP\sin\theta = \frac{1}{2}BP\cdot h, \\ S(\triangle OBC) = \frac{1}{2}OB\cdot OC\sin(2\theta)
が成り立つ。ただし、hというのは、点Oと線分BCの距離である。
故に、
\frac{S(\triangle OPC)}{S(\triangle OPB)} = \frac{OC}{OB} = \frac{CP}{BP}
となり、与えられた性質が証明できた。

また、S(\triangle OBC)=S(\triangle OPC) + S(\triangle OPB)であることから、
\frac{1}{2}OC\cdot OP \sin\theta + \frac{1}{2}OB\cdot OP \sin\theta = \frac{1}{2}OB\cdot OC\sin(2\theta)
がなりたつ。これを整理すると
OP = \frac{2bc}{b+c}\cos\theta
という関係式が得られる。ただしb=OB, c=OCとした。

たとえば、今年(2019年)のセンター試験の数IA問題5の場合、b=4, c=5,\cos\theta = \sqrt{\frac{2}{5}}だから、OP=\frac{8}{9}\sqrt{10}と計算できる。

さらに、三角形OBPについて余弦定理を適用すると、
PB^2 = OP^2 + b^2 - 2b\cdot OP \cos\theta
となるが、最初に証明した辺の比に関する関係式により、
PB = \frac{ab}{b+c}
が成り立つ。ただし、BC=aとした。これを代入すると、
\left(\frac{ab}{b+c}\right)^2 = p^2 + b^2 - 2bp\cos\theta
が成立する。ただしOP=pとした。

2019年2月8日金曜日

センター試験の数IA問題5: 内接円

取り扱う図形は下図の通り。

\angle BAC \equiv \thetaとおこう。問題ではこの角度に対する三角比が与えられていて、
\cos\theta =-\frac{1}{5}, \quad \sin\theta = \frac{2\sqrt{6}}{5}
である。前回やったように\cos\thetaに関する計算は、三辺の長さa,b,cから計算できる。
\cos\theta = \frac{b^2+c^2-a^2}{2bc} = \frac{5^2 + 4^2 - 7^2}{2\cdot 5\cdot 4} = \frac{29+16-49}{20} = \frac{-4}{20}
どうしてわざわざ問題でこの値をおしえてくれたのだろう?と不思議に感じる人もいるはずだ。 しかし、\sin\thetaに関しては正負の分だけ曖昧さが残る。というのは、
\sin\theta = \pm \sqrt{1-\cos^2\theta} = \pm \frac{2\sqrt{6}}{5}
となるからだ。もちろん、負符号の場合は、点Cはx軸に対して線対称な位置に動くだけだから、本質的な違いはない。が、この問題では、上のような図形と座標系をあらかじめ指定してきているのが、特徴的である。

3頂点の座標は、前の考察により
A(0,0), \quad B(4,0), \quad C(-1, 2\sqrt{6})
となる。 Cが第4象限にあるから、この三角形は鈍角三角形になることがわかる。

さて、さっそくこの三角形に内接する内接円(inscribed circle)の半径を出せといってきた。postscriptで描くためには、この円の中心座標も知りたいところだ。

まず言えるのは、三角形の辺全てが内接円の接線となることである。まず、辺AB, ACに着目する。幾何学的な考察により、内接円の中心Kと点Aを結ぶ直線AKは、角Aの二等分線になることである。

この二等分線の方程式は
y=\tan(\theta/2)x
で与えられる。ここで、\thetaを含む様々な三角比の計算をやってしまおう。

まず問題文には(上記の通り)
\cos\theta = -\frac{1}{5}, \quad \sin\theta = \frac{2\sqrt{6}}{5}
と与えられている。したがって、
\tan\theta = - 2\sqrt{6}
である。また、
\tan\theta = \tan\left(2\frac{\theta}{2}\right) = \frac{2\sin\frac{\theta}{2}\cos\frac{\theta}{2}}{\cos^2\frac{\theta}{2} - \sin^2\frac{\theta}{2}} = \frac{2\tan\frac{\theta}{2}}{1-\tan^2\frac{\theta}{2}}
であるから、整理して、
\tan\theta s^2 + 2s - \tan\theta = 0
ただし、s=\tan\frac{\theta}{2}とおいた。これをsについて解くと、
\tan\frac{\theta}{2} =  \frac{\pm 1-\cos\theta }{\sin\theta}
を得る。与えられた\cos\theta, \sin\thetaの値を代入すると
\tan\frac{\theta}{2} = \frac{\sqrt{6}}{2}, -\frac{\sqrt{6}}{3}
となるが、二等分線の傾きは正だから最初の解を採用する。
すなわち、
y=\frac{\sqrt{6}}{2}x
が二等分線の方程式となる。すなわち内心円の中心KはK(x, \frac{\sqrt{6}}{2}x)と表せる。

内心円は、三角形の全ての辺と接するから、中心Kと接点Tを結ぶ直線は、三角形の辺と直行し、最短距離にある。線分ABと中心C、およびAB上の接点Tの関係は自明であって、
T(x,0), KT=\frac{\sqrt{6}}{2}xとなる。

次に線分ACについて考えよう。この線分上の接点Sの座標は、点と直線の距離に関する考察に基づき、計算することができる。直線ACの方程式は
AC: y=\tan\theta x = -2\sqrt{6}x
である。したがって、中心KとACの距離KSは
KS = \frac{\frac{\sqrt{6}}{2}x+2\sqrt{6}x}{\sqrt{1+(-2\sqrt{6})^2} } = \frac{\sqrt{6}}{2}x
で与えられ、その座標は
S=(-\frac{x}{5}, \frac{2\sqrt{6}}{5}x)
となる。

最後に線分BCとの距離を計算しよう。直線BCの方程式は
y=\frac{0-2\sqrt{6}}{4-(-1)}\left(x-4\right) = -\frac{2\sqrt{6}}{5}x + \frac{8\sqrt{6}}{5}
であるから、中心Kとの距離が最短となる場所(接点R)のx座標は
x_R = \frac{ -\frac{2\sqrt{6}}{5}\left(\frac{\sqrt{6}}{2}x\right) + x -\left(-\frac{2\sqrt{6}}{5}\right)\left(\frac{8\sqrt{6}}{5}\right)}{\frac{7^2}{5^2}} = -\frac{5}{49}x + \frac{96}{49}
で表現でき、距離KRは
KR= \frac{\left|\frac{\sqrt{6}}{2}x-\left(-\frac{2\sqrt{6}}{5}\right)x-\frac{8\sqrt{6}}{5}\right|}  {\sqrt{1+\left(-\frac{2\sqrt{6}}{5}\right)^2}}=\frac{\sqrt{6}}{7}\left|\frac{9}{2}x-8\right|
となる。絶対値が出てくる理由について考察してみよう。x=16/9で距離がゼロになる。つまり、二等分線と直線BCがそこで交差するということだ。x=0は頂点A(つまり原点O)に相当するから、0<x<16/9の範囲のとき、点Kは\triangle ABCの内部にあることがわかる。一方、x>16/9の領域で、Kは三角形の外側に出てしまうのである。Kが三角形の内部にあるとき、9x/2 -8 <0なので、絶対値を外す時は負符号をつけることになる。

Kのy座標、つまりKT, そしてKS, KRは内接円の半径rに他ならない。KT=KS=\sqrt{6}x/2なので、これとKRが等しいという方程式から、xの値がわかる。
解くべき方程式は
\frac{\sqrt{6}x}{2} = \frac{\sqrt{6}}{7}(-\frac{9}{2}x+8)
であり、これを解くとx=1を得る。つまり、内接円の中心Kの座標は
K\left(1, \frac{\sqrt{6}}{2}\right)
であることがわかった。
内接円の半径は、Kのy座標に他ならないから、
r=\frac{\sqrt{6}}{2}
であることもわかった。これが最初の問の答えだ。

また、接点S,Rの座標もわかる。
S(-\frac{1}{5},\frac{2\sqrt{6}}{5}), \quad R(\frac{91}{49},\frac{6\sqrt{6}}{7})

さて、上の情報を元に、postscriptで描画してみよう。書き込むのは円の方程式
\left(x-1\right)^2 + \left(y-\frac{\sqrt{6}}{2}\right)^2 = \left(\frac{\sqrt{6}}{2}\right)^2
だ。やってみると、見事に内接円が現れた!

\angle Aの二等分線y=\sqrt{6}/2 xも描き入れてみよう。


ついでに、接点3つも描き入れてみた。ひとつ気がついたのは、二等分線は接点Rを通らないという点である。内接円は接点において三角形の辺と接するから、そこで半径と辺は垂直になる必要がある。つまりKR\perp BC。しかし、角Aの二等分線がBCと垂直になるのは、三角形ABCがAB=ACの二等辺三角形の場合に限られる。したがって、二等分線は一般に接点を通らないのである。この性質はとても重要だ。

ちなみに、接点T,S,Rから中心Kに向かって線分を引くと、その線分は三角形の対応する辺と垂直になるから、三角形ABCを3つの部分に分け、\triangle AKC, \triangle AKB, \triangle BKCとすると、それぞれの三角形の面積はbr/2, cr/2, ar/2となる。したがって、三角形ABCの面積Sは
S(\triangle ABC) = \frac{a+b+c}{2}r
と表すことができる。今問題文には\sin\theta の値が与えられているので、
S(\triangle ABC)=\frac{1}{2}bc\sin\theta = \frac{1}{2}\cdot 4 \cdot \frac{2\sqrt{6}}{5} = 4\sqrt{6}
と計算することができる。したがって、内接円の半径は、
r = \frac{2\cdot 4\sqrt{6}}{7+5+4} = \frac{\sqrt{6}}{2}
と計算できる。もちろん、試験会場ではこちらの計算をした方が手っ取り早い。しかし、なかなかこの性質を思い浮かべることができなかったら、躊躇せずに最初に考察した「代数幾何法」をやってみるべきだろう。(おそらくAIなら、代数幾何法を採用して問題解決を図るはずだ。)

試験問題では、続いてADおよびDEの長さを尋ねている。我々の記号ではDはT、EはSのことである。OT=1はすでに(x=1として)求めてあるし、TSの長さは、点Tと点Sの座標がわかっているので、ピタゴラスの定理により
TS = \sqrt{(-\frac{1}{5}-1)^2 + (\frac{2\sqrt{6}}{5})^2} = \frac{2\sqrt{15}}{5}
とすぐに求まる。

試験会場では、直角三角形OKTに着目する。KTは内接円の半径rであり、角TOKは\theta/2だから、\tan\frac{\theta}{2}=\frac{r}{OT}の値を使って計算できる。また、DEの長さは三角形STOに対して余弦定理を使えば良い。その際、OT=OSを利用する。すなわち、
AE^2 =  OT^2 + OS^2 - 2 OT\cdot OS\cos\theta = 2OT^2 (1-\cos\theta)\
を計算する。内接円に関連する幾何学的な基本的な特質をちゃんと覚えているかを問う、なかなか良い問題だが、試験の緊張の中では「ど忘れ」とか、「勘違い」というのがあるかもしれない。そう言う時は、系統的に計算できる「代数幾何法」を援用してミスを減らしたいものだ(つまり、受験生なら短時間で効率よく解ける受験技術でサッと解いた後に、見直しの手段として代数幾何法をやってみたらどうだろうか?)






2019年2月7日木曜日

点と直線の距離:忘れた時に

点P(x_0,y_0)と直線y=ax+bの距離を求める公式を忘れてしまった時にやるべき計算をここに書いておこう。

直線上の点は(x,y)=(x,ax+b)と表せる。したがって、直線上の任意の点と点Pの間の距離L二乗は、
L^2 = (x-x_0)^2 + (y-y_0)^2
となる。この量をxで微分して、最小値を与えるQ(x,y) が求まった時、線分PQの長さが、点Pと直線の最短距離となる。

d^2をxで微分すると
\frac{dL^2}{dx} = 2(x-x_0) + 2(y-y_0)\frac{dy}{dx} =2(x-x_0) + 2a(ax+b-y_0)
したがって、極値(最小値)を与えるxは
x=\frac{ay_0 + x_0 - ab}{1+a^2}
である。これをL^2に代入すると、
L^2 = \frac{(y_0-ax_0-b)^2}{1+a^2}
を得る。したがって、点Pと直線の距離は
L = \frac{\left|y_0-ax_0-b\right|}{\sqrt{1+a^2}}
という形で与えられる。

この方法の「優れている点」は、高校の教科書には載っていない、直線上にある、点Pへの最短地点の座標が求まる点である。この座標の公式もセットで「記録」(記憶ではない)しておくと、いろいろな場面でいろいろ役立つだろう。


センター試験の数学IA問5:(1)ポストスクリプト

毎年恒例のポストスクリプトによる幾何問題の勉強を始めよう。

今年は、3辺の長さが与えられた「鈍角三角形」に、円が内接する問題だ。まずは、該当する図形をpostscriptで描いてみたい。

私の基本方針は、幾何の問題は代数の問題に落として解く、というデカルトの「代数幾何」の精神に従うこと。したがって、図形を描く際には、まず座標系を導入する。一番やりやすいのはAを原点とし、ABをx軸に合わせることだ。したがって、問題文の設定からA=O(0,0), B=(4,0)とおける。

問題はCの座標である。これは計算しないとわからないので、まずC(x,y)と置くことにしよう。

ACは原点から伸びる線分(長さ5)になっているので、 x軸から線分ACまでの角度を\thetaとおき、極座標を用いて
x = 5\cos\theta, \quad y=5\sin\theta
と表すことにしよう。問題文をよく読むと\cos\theta = -\frac{1}{5}, \sin\theta=\frac{2\sqrt{6}}{5}がすでに与えられているから、Cの座標はすぐに、
C=(-1, 2\sqrt{6})であることが計算できる。

 3点の座標がわかれば、postscriptで三角形を描くことは簡単だ。

0 0 moveto
4 0 lineto
-1 2 6 sqrt mul lineto
closepath

でOK(もちろん、相対座標と絶対座標の調整とか、細かい設定は必要だが、エッセンスは上の3行)。

 このままでは面白くないので、3辺の長さa,b,cが与えられた時に座標A,B,Cを計算して、三角形ABCを描くpostscriptのプログラムを考えてみよう。a=BC, b=CA, c=ABとおく。

上の考察に習えば、点A,B,Cの座標は(0,0), (c,0), (b\cos\theta,b\sin\theta)とおける。ただし\theta = \angle\text{BAC}とした。A,Bは確定だから、あとはCの座標を計算するだけだ。これも上と同じようにして、ピタゴラスの定理により
a^2 = (b\cos\theta - c)^2 +(b\sin\theta)^2
これを整理すると
\cos\theta =  \frac{b^2+c^2-a^2}{2bc},\quad \sin\theta = \frac{\sqrt{(a-b+c)(a+b-c)(b+c-a)(b+c+a)}}{2bc}
を得る。ただし、\sin\theta\sin^2\theta+\cos^2\theta=1を利用した。

よく見ると、\cos\thetaの式の方は、余弦定理を変形したものであることに気づくだろう。つまり、余弦定理を記憶していれば、座標を用いた代数計算をしなくても、この問題を解くことはできる。一方、逆に考えれば、余弦定理など覚えていなくても、ピタゴラスの定理さえ知っていれば、代数幾何の手法で余弦定理を自分で導出し、この問題を解くことができる、ということだ。

以上の結果をプログラムすると、次のようなprocedure(関数のようなもの)を定義できる。

\triangle0 {

  /c exch def
  /b exch def
  /a exch def

  /x b b mul c c mul add a a mul sub 2 b mul c mul div def
  /y 4 b b mul mul c c mul mul a a mul add b b mul sub c c mul sub sqrt 2 b mul c mul div def

  0 0 moveto
  c 0 lineto
  x y lineto
  closepath

} def

使い方は、

a b c triangle0

である。これを使えば、上図のような図形が簡単に描けるようになる。もちろん、今回の問題では

7 5 4 triangle0

と打てば良い。

さて、基本的な図が手に入ったので、これを元に問題を解いてみよう。

2019年2月4日月曜日

センター試験数学IA: 条件付き確率の問題の再考(4)

問(1)では、全体集合Uがなんなのか、いまひとつはっきりしない、という議論を前回行った。前にも書いたが、この問題は答えだけは正しく求められるのである。では、その正解を用いて、全体集合Uについてなにか手がかりを得られないか、「逆アセンブル」してみよう。

正解はもちろん、
P(T^C\cap B_{Rr}) = P(r|B_R)P(T^C) =  \frac{n(B_{Rr})}{n(B_R)}\cdot\frac{n(T^C)}{n(D)} =\frac{2}{3}\cdot\frac{2}{3}
分子の部分は十分に納得できる内容だ。すなわち、考えるべき最初の事象T^C\subset Dと次に起きるもう一つの事象r\subset B_r\subset B の部分集合同士の直積集合T^C\otimes B_{Rr}=T^C\cap B_{Rr}に対応している。
n(T^C\cap B_{Rr}) = n(T^C)n(B_{Rr}) = 4\cdot 2
となると、分母の部分が全集合に相当する部分であるから、
n(B_R)n(D) \rightarrow n(U) = 3\cdot 6
と理解するべきということだ。つまり、
U=D\otimes B_R
と理解しなさい、というのが「逆アセンブル」の結果ということになる。

サイコロの目に三の倍数が出る場合は、白い袋での試行となるので、その場合は
U=D\otimes B_W
となるだろう。

全集合UがDの結果によって変わるというのは、DとBは独立事象でないことから(なんとか)理解できる。しかし、上の結果をちょっと意外に感じる人は多いのではないだろうか?

Dの結果により袋の色は変わるので、 T\subset DB_Wと接続し、T^CB_Rと接続する。したがって、全集合はU=B_W\otimes T + B_R\otimes T^Cという風に書けるのでは、と考える人は一定の割合でいると思う。しかし、これでは正解にたどり着けない。

条件付き確率の問題というのは、意外に難しいということが、今回の分析でもあぶり出されたような気がする。高校の教科書では全集合Uが変わる可能性などは解説されていないし、全体集合が表現しにくい場合も書いてない。大学で学ぶ確率論では、こういう問題はどのように取り扱っているのか、興味が湧いてきた。

とはいえ、これ以上、この問題に時間を割くのは得策ではないだろう。条件付き確率の問題は、なかなか難しいということを肝に銘じつつ、精進を積んでいくことにしよう。いずれ、この疑問に対する答えは与えられるものと信じることにして。