\(\angle BAC \equiv \theta\)とおこう。問題ではこの角度に対する三角比が与えられていて、
\[
\cos\theta =-\frac{1}{5}, \quad \sin\theta = \frac{2\sqrt{6}}{5}
\]
である。前回やったように、\(\cos\theta\)に関する計算は、三辺の長さ\(a,b,c\)から計算できる。
\[
\cos\theta = \frac{b^2+c^2-a^2}{2bc} = \frac{5^2 + 4^2 - 7^2}{2\cdot 5\cdot 4} = \frac{29+16-49}{20} = \frac{-4}{20}
\]
どうしてわざわざ問題でこの値をおしえてくれたのだろう?と不思議に感じる人もいるはずだ。 しかし、\(\sin\theta\)に関しては正負の分だけ曖昧さが残る。というのは、
\[
\sin\theta = \pm \sqrt{1-\cos^2\theta} = \pm \frac{2\sqrt{6}}{5}
\]
となるからだ。もちろん、負符号の場合は、点Cはx軸に対して線対称な位置に動くだけだから、本質的な違いはない。が、この問題では、上のような図形と座標系をあらかじめ指定してきているのが、特徴的である。
3頂点の座標は、前の考察により
\[
A(0,0), \quad B(4,0), \quad C(-1, 2\sqrt{6})
\]
となる。 Cが第4象限にあるから、この三角形は鈍角三角形になることがわかる。
さて、さっそくこの三角形に内接する内接円(inscribed circle)の半径を出せといってきた。postscriptで描くためには、この円の中心座標も知りたいところだ。
まず言えるのは、三角形の辺全てが内接円の接線となることである。まず、辺AB, ACに着目する。幾何学的な考察により、内接円の中心Kと点Aを結ぶ直線AKは、角Aの二等分線になることである。
この二等分線の方程式は
\[
y=\tan(\theta/2)x
\]
で与えられる。ここで、\(\theta\)を含む様々な三角比の計算をやってしまおう。
まず問題文には(上記の通り)
\[
\cos\theta = -\frac{1}{5}, \quad \sin\theta = \frac{2\sqrt{6}}{5}
\]
と与えられている。したがって、
\[
\tan\theta = - 2\sqrt{6}
\]
である。また、
\[
\tan\theta = \tan\left(2\frac{\theta}{2}\right) = \frac{2\sin\frac{\theta}{2}\cos\frac{\theta}{2}}{\cos^2\frac{\theta}{2} - \sin^2\frac{\theta}{2}}
= \frac{2\tan\frac{\theta}{2}}{1-\tan^2\frac{\theta}{2}}
\]
であるから、整理して、
\[
\tan\theta s^2 + 2s - \tan\theta = 0
\]
ただし、\(s=\tan\frac{\theta}{2}\)とおいた。これをsについて解くと、
\[
\tan\frac{\theta}{2} = \frac{\pm 1-\cos\theta }{\sin\theta}
\]
を得る。与えられた\(\cos\theta, \sin\theta\)の値を代入すると
\[
\tan\frac{\theta}{2} = \frac{\sqrt{6}}{2}, -\frac{\sqrt{6}}{3}
\]
となるが、二等分線の傾きは正だから最初の解を採用する。
すなわち、
\[
y=\frac{\sqrt{6}}{2}x
\]
が二等分線の方程式となる。すなわち内心円の中心Kは\(K(x, \frac{\sqrt{6}}{2}x)\)と表せる。
内心円は、三角形の全ての辺と接するから、中心Kと接点Tを結ぶ直線は、三角形の辺と直行し、最短距離にある。線分ABと中心C、およびAB上の接点Tの関係は自明であって、
T(x,0), \(KT=\frac{\sqrt{6}}{2}x\)となる。
次に線分ACについて考えよう。この線分上の接点Sの座標は、点と直線の距離に関する考察に基づき、計算することができる。直線ACの方程式は
\[
AC: y=\tan\theta x = -2\sqrt{6}x
\]
である。したがって、中心KとACの距離KSは
\[
KS = \frac{\frac{\sqrt{6}}{2}x+2\sqrt{6}x}{\sqrt{1+(-2\sqrt{6})^2} }
= \frac{\sqrt{6}}{2}x
\]
で与えられ、その座標は
\[
S=(-\frac{x}{5}, \frac{2\sqrt{6}}{5}x)
\]
となる。
最後に線分BCとの距離を計算しよう。直線BCの方程式は
\[
y=\frac{0-2\sqrt{6}}{4-(-1)}\left(x-4\right) = -\frac{2\sqrt{6}}{5}x + \frac{8\sqrt{6}}{5}
\]
であるから、中心Kとの距離が最短となる場所(接点R)のx座標は
\[
x_R = \frac{ -\frac{2\sqrt{6}}{5}\left(\frac{\sqrt{6}}{2}x\right) + x -\left(-\frac{2\sqrt{6}}{5}\right)\left(\frac{8\sqrt{6}}{5}\right)}{\frac{7^2}{5^2}}
= -\frac{5}{49}x + \frac{96}{49}
\]
で表現でき、距離KRは
\[
KR= \frac{\left|\frac{\sqrt{6}}{2}x-\left(-\frac{2\sqrt{6}}{5}\right)x-\frac{8\sqrt{6}}{5}\right|} {\sqrt{1+\left(-\frac{2\sqrt{6}}{5}\right)^2}}=\frac{\sqrt{6}}{7}\left|\frac{9}{2}x-8\right|
\]
となる。絶対値が出てくる理由について考察してみよう。\(x=16/9\)で距離がゼロになる。つまり、二等分線と直線BCがそこで交差するということだ。\(x=0\)は頂点A(つまり原点O)に相当するから、\(0<x<16/9\)の範囲のとき、点Kは\(\triangle ABC\)の内部にあることがわかる。一方、\(x>16/9\)の領域で、Kは三角形の外側に出てしまうのである。Kが三角形の内部にあるとき、\(9x/2 -8 <0\)なので、絶対値を外す時は負符号をつけることになる。
Kのy座標、つまりKT, そしてKS, KRは内接円の半径rに他ならない。\(KT=KS=\sqrt{6}x/2\)なので、これとKRが等しいという方程式から、xの値がわかる。
解くべき方程式は
\[
\frac{\sqrt{6}x}{2} = \frac{\sqrt{6}}{7}(-\frac{9}{2}x+8)
\]
であり、これを解くと\(x=1\)を得る。つまり、内接円の中心Kの座標は
\[
K\left(1, \frac{\sqrt{6}}{2}\right)
\]
であることがわかった。
内接円の半径は、Kのy座標に他ならないから、
\[
r=\frac{\sqrt{6}}{2}
\]
であることもわかった。これが最初の問の答えだ。
また、接点S,Rの座標もわかる。
\[
S(-\frac{1}{5},\frac{2\sqrt{6}}{5}), \quad R(\frac{91}{49},\frac{6\sqrt{6}}{7})
\]
さて、上の情報を元に、postscriptで描画してみよう。書き込むのは円の方程式
\[
\left(x-1\right)^2 + \left(y-\frac{\sqrt{6}}{2}\right)^2 = \left(\frac{\sqrt{6}}{2}\right)^2
\]
だ。やってみると、見事に内接円が現れた!
\(\angle A\)の二等分線\(y=\sqrt{6}/2 x\)も描き入れてみよう。
ついでに、接点3つも描き入れてみた。ひとつ気がついたのは、二等分線は接点Rを通らないという点である。内接円は接点において三角形の辺と接するから、そこで半径と辺は垂直になる必要がある。つまり\(KR\perp BC\)。しかし、角Aの二等分線がBCと垂直になるのは、三角形ABCがAB=ACの二等辺三角形の場合に限られる。したがって、二等分線は一般に接点を通らないのである。この性質はとても重要だ。
ちなみに、接点T,S,Rから中心Kに向かって線分を引くと、その線分は三角形の対応する辺と垂直になるから、三角形ABCを3つの部分に分け、\(\triangle AKC, \triangle AKB, \triangle BKC\)とすると、それぞれの三角形の面積はbr/2, cr/2, ar/2となる。したがって、三角形ABCの面積Sは
\[
S(\triangle ABC) = \frac{a+b+c}{2}r
\]
と表すことができる。今問題文には\(\sin\theta \)の値が与えられているので、
\[
S(\triangle ABC)=\frac{1}{2}bc\sin\theta = \frac{1}{2}\cdot 4 \cdot \frac{2\sqrt{6}}{5} = 4\sqrt{6}
\]
と計算することができる。したがって、内接円の半径は、
\[
r = \frac{2\cdot 4\sqrt{6}}{7+5+4} = \frac{\sqrt{6}}{2}
\]
と計算できる。もちろん、試験会場ではこちらの計算をした方が手っ取り早い。しかし、なかなかこの性質を思い浮かべることができなかったら、躊躇せずに最初に考察した「代数幾何法」をやってみるべきだろう。(おそらくAIなら、代数幾何法を採用して問題解決を図るはずだ。)
試験問題では、続いてADおよびDEの長さを尋ねている。我々の記号ではDはT、EはSのことである。OT=1はすでに(x=1として)求めてあるし、TSの長さは、点Tと点Sの座標がわかっているので、ピタゴラスの定理により
\[
TS = \sqrt{(-\frac{1}{5}-1)^2 + (\frac{2\sqrt{6}}{5})^2} = \frac{2\sqrt{15}}{5}
\]
とすぐに求まる。
試験会場では、直角三角形OKTに着目する。KTは内接円の半径rであり、角TOKは\(\theta/2\)だから、\(\tan\frac{\theta}{2}=\frac{r}{OT}\)の値を使って計算できる。また、DEの長さは三角形STOに対して余弦定理を使えば良い。その際、OT=OSを利用する。すなわち、
\[
AE^2 = OT^2 + OS^2 - 2 OT\cdot OS\cos\theta = 2OT^2 (1-\cos\theta)\
\]
を計算する。内接円に関連する幾何学的な基本的な特質をちゃんと覚えているかを問う、なかなか良い問題だが、試験の緊張の中では「ど忘れ」とか、「勘違い」というのがあるかもしれない。そう言う時は、系統的に計算できる「代数幾何法」を援用してミスを減らしたいものだ(つまり、受験生なら短時間で効率よく解ける受験技術でサッと解いた後に、見直しの手段として代数幾何法をやってみたらどうだろうか?)
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