2019年2月12日火曜日

東大二次試験(2017)問題1: ボルツァーノーワイエルシュトラスの定理の応用

大学の解析学で習う項目に、ボルツァーノーワイエルシュトラスの定理というのがある。数学科に進んだ人なら覚えているかもしれないが、物理学科に進んだ私には霞の中にぼんやりと浮かぶ提灯の火のように感じられる...などと、言い訳をいってもしかたがない。要は、その詳細な概要は忘れてしまった。2017年の問題を解いてみると、「開区間における最大値、最小値の存在」についての考察が必要になることがわかる。そこで、久しぶりにこの定理に出くわしたというわけだ。正確にいえば、直接使うのは「最大値最小値の定理」という定理だが、この定理の心幹にボルツァーノーワイエルシュトラスの定理がある、という位置付けだ。

今回の問題で利用するのは、「開区間においては、最大値、最小値の存在は担保できない」という連続関数の性質だ。この講義ノート(p.24の定理2.2.9のコメント文)にもはっきり書いてあるように、開区間で単調に変化する関数は最大値、最小値を持たない!たとえば、\(-1<x<1\)で定義された関数\(f(x)=x\)は最大値も最小値も持たないのだ。ただ、極限値として\(f(x)\rightarrow 1 (x\rightarrow 1)\)とか、\(f(x)\rightarrow -1 (x\rightarrow -1)\)を考えることはできるから、この関数の値域に上限と下限がある、\(-1 < f(x) < 1\)ということはいえる。 しかし、最大値も最小値もこの開区間には存在しないのだ。もちろん、関数の定義域を閉区間\(-1\le x \le 1\)に変更するとこの関数f(x)=xは最小値-1、最大値+1を持つ。

まずは、この問題の前半部分をみてみよう。前半部分には最大値最小値定理は登場せず、むしろフーリエ級数展開のような式が与えられる。

問題1(2017)
実数\(a,b\)を用いて、関数\(f(\theta)\)を次のように与える。\[ f(\theta) =\cos3\theta + a\cos2\theta + b \cos\theta,\] また\(0<\theta < \pi\)の領域で定義される関数\(g(\theta\)を次のように与える。\[ g(\theta) = \frac{f(\theta)-f(0)}{\cos\theta - 1} \]このとき,以下の問(1)-(2)に答えよ。

というのが本文である。

f(x)は偶関数のフーリエ級数展開もどき、のような関数に見える。ただ、有限項しか含まないので、「フーリエ多項式」と表現するべきだろうか?\(x=\cos\theta\)とおくやり方は、量子力学や電磁気学で出てくる特殊関数の一つ「ルジャンドル多項式」の扱いでよくみられる。ルジャンドル多項式に関しては、別の機会で詳細に論じることにして、ここは形式的にf(x)をルジャンドル関数で書いてみることにしよう(あくまで練習として)。

そういえば、以前にも似たような考察をしたことがあった。 あのときは、阪大の問題に触発されて、三角関数の冪がどんなフーリエ級数で表されるかを加法定理だけを使って調べたのだった。あれはあれでなかなか面白かったが、今回はその逆である。つまり\(cos(nx)\)を\(\cos x\)の冪で表そうという趣旨だ。とはいえ、\(\cos 3x\)までなので、それほど大変ではない。余力が有り余っていると思うので、今回はそれを「ルジャンドル多項式で表してしまえ」というテーマでやってみよう。

\[
\cos 2\theta = 2\cos^2\theta -1 = 2x^2 -1\\
\cos 3\theta = 4\cos^3\theta - 3\cos\theta = 4x^3 - 3x
\]
である。\(\cos(nx)\)は、nが偶数のときは偶関数で、nが奇数のときは奇関数となるらしいことがわかる。数学的帰納法を使えば、一般の場合も証明可能だろう。

今回はこれをルジャンドル多項式\(P_n(x)\)で表すことにする。ルジャンドル多項式は\(-1\le x \le 1\)で定義されたxの多項式なので、\(x=\cos\theta\)として、角度\(\theta\)方向に依存する量、たとえば静電ポテンシャルや波動関数など、方向依存性をもった物理量の記述に用いられる。ただし、回転対称性をもち方位角(azimuthal angle)に依存しないタイプである。方位角に依存するときは、球面調和関数\(Y_{lm}(\theta\phi)\)で記述する。\(\theta\)のことを極角(polar angle)と呼ぶこともある。

ルジャンドル関数を用いると、
\[
\cos(3\theta) = \frac{8}{5}P_3(\cos\theta) - \frac{3}{5}P_1(\cos\theta)\\
\cos(2\theta) = \frac{4}{3}P_2(\cos\theta) -\frac{1}{3}P_0(\cos\theta)
\]
などと表すことができる。ただし、
\[
P_0(x) = 1, \quad  P_1(x) = x, \quad P_2(x) = \frac{1}{2}\left(3x^2-1\right), \quad P_3(x) = \frac{1}{2}\left(5x^x -3x\right)
\]
と与えられている。

ルジャンドル多項式は直交多項式であり、
\[
\int_{-1}^1 P_{m}(x)P_n(x) dx = \frac{2}{2n+1}\delta_{mn}
\]
を満たす。したがって、次の積分が成り立つ。
\[
\int_{-1}^1 P_n(x) dx = 2\delta_{n0}\\
\int_{-1}^1xP_n(x)dx = \frac{2}{3}\delta_{n1}\\
\int_{-1}^1x^2P_n(x)dx = \frac{2}{3}\left(\delta_{n0}+\frac{2}{5}\delta_{n2}\right)\\
\int_{-1}^1x^3P_n(x)dx = \frac{2}{5}\left(\delta_{n1}+\frac{2}{7}\delta_{n3}\right)
\]
\(x^{2k+1} \)や\(x^{2k}\)にルジャンドル多項式\(P_n(x)\)をかけて積分すると、\(n=1,3,\cdots,2k+1\)あるいは\(n=0,2,\cdots,2k\)に対応するルジャンドル多項式は非零な寄与を与えることがわかる。

\(x\)についての3次式\(f(x) = \sum_{k=0}^3c_kx^k\)は、3次のルジャンドル多項式までで展開し直すことができる。つまり、
\[
f(x) = \sum_{k=0}^3 c_kx^k = \sum_{l=0}^3e_lP_l(x)
\]
したがって、展開係数\(e_m\)を求めるには両辺に\(P_m(x)\)をかけて積分すればよい。
\[
\sum_{l=0}^3 \int_{-1}^1e_l P_l(x)P_m(x) dx = \sum_{k=0}^3 c_k\int_{-1}^{1}x^k P_m(x)dx
\]
左辺に直交条件を適用すると、上式は
\[
e_m = \frac{2m+1}{2} \sum_{k=0}^3c_k\int_{-1}^1x^kP_m(x)dx
\]
と書き直せる。

ルジャンドル多項式で遊ぶのはこの辺にしておこう。

(1)
xの冪でf(x), g(x)を書くと
\[
f(x) = 4x^3+2ax^2+(b-3)x-a, \\
g(x) = \frac{4x^3 + 2ax^2+(b-3)x-2a-b-1}{x-1}
\]
を得る。問題は、g(x)が割り切れて、「整式」つまり多項式になっていることを示せるかどうかである。これは簡単にできて、
\[
g(x) = 4x^2 + 2(a+2)x + 2a+b+1\\
=4\left(x+\frac{a+2}{4}\right)^2+1+b-\left(\frac{a-2}{2}\right)^2
\]
という2次関数になる。

(2) \(g(\theta)\)が\(0<\theta<\pi\)で最小値0をとるための条件を求めよ。また、その条件が満たす図形を図示せよ。

\(-1< x < 1\)の範囲に極小値、つまり放物線の頂点が入る場合と入らない場合に分ける。入る場合、つまり
\[
-1 < -\frac{a+2}{4} < 1, \rightarrow -6 < a < 2
\]
のときは、最小値は放物線の頂点としてよいから、
\[
1+b-\left(\frac{a-2}{2}\right)^2 = 0, \rightarrow b = \left(\frac{a-2}{2}\right)^2 -1
\]
が成立する。

白丸は区間に含まれない点
この問題の最重要ポイントは\(a<-6, a>2\)のときだ。つまり、放物線の頂点が開区間\(-1<x<1\)の中に入らないときである。このときこの開区間で\(g(x)\)は単調減少、あるいは単調増加の関数となる。開区間の場合、このような関数は「最大最小定理」によって最大値、最小値が存在しない!つまり、考えなくてよいのである。■

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