2019年2月15日金曜日

阪大(2018)問題2: 因数定理と2次式

問題2は比較的解きやすい。が、色々な変数を導入して、式を書き換える作業が必要になる。力学でいう「カノニカル変換」みたいなものだ。いちばん解きやすい変数を選び、方程式が解きやすい形になったら、最後にオリジナルな変数に立ち返る必要がある。この問題では、それは新しい変数の定義域を注意深く決めるという作業に相当する。この点に気をつけて解いてみよう。

与えられる式は4次式である。
\[
f(x) = x^4 - ax^3 + bx^2-ax+1
\]
ただし、\(a,b>0\)は正の実数 である。

(1) \(f(x)\)が\(x-c\)で割り切れるとき、\(x-\frac{1}{c}\)でも割り切れることを示すこと。また、\(c>0\)も証明すること。

さっそく、因数定理を使う。
\[
f(c) = c^4-ac^3+bc^2-ac+1 = 0
\]

cの正負を決めよ、ということだから、cの偶数べきの項と、奇数冪のこうでまとめてみる。
 \[
c^2(c^2+b)- ac(c^2+1) + 1 = 0
\]
第二項にcが残り、残りはcの自乗の形となった。自乗部分は必ず正になることを利用し、次のように変形する。
 \[
c=\frac{c^2(c^2+b)+1}{a(c^2+1)}
\]
\(a,b>0\)だから、上式右辺は正の量であるから\(c>0\)は証明された。

次に、\(f(c)=0\)の両辺を\(c^4\)で割ると、
\[
1-a\frac{1}{c}+b\frac{1}{c^2} - a\frac{1}{c^3} + \frac{1}{c^4} = 0
\]を得るが、左辺は\(f(1/c)\)に等しいから、\(x-\frac{1}{c}\)に関する因数定理とみなせる。したがって、f(x)は\((x-c)(x-\frac{1}{c})\)を因数に持つ。

上の恒等式が成立する理由は、f(x)の係数を並べて書いてみるとはっきるする。すなわち
\[
1, -a, b, -a, 1
\]
となり、2次の項に対して対照的な配置になっている。全体で4次式だから、全体を4次の単項式で割ると、

4次の項⇄0次の項、 3次の項⇄-1次の項、
2次の項⇄-2次の項、
0次の項⇄-4次の項、1次式⇄−3次の項、

という具合に、符号を除いて「対称的な」関係がある。これを「反対称」と呼ぶべきかどうかはともかく、綺麗な対応関係が存在する。
この問題は、つまり
\[
c \leftrightarrow c^{-1}
\]
という「対称性」が隠れたキーワードとなっていると感じた。

\(f(c)=0\)と\(f(c^{-1})=0\)の式をもう一度書き下してみよう。今度は、「べき」の形を採用する。
\[
f(c) = c^4 -a c^3 + bc^2 -ac + 1 = 0, \\
f(c^{-1}) = c^{-4} -a c^{-3} + bc^{-2} - ac^{-1} + 1 =0
\]
冪数の正負が変わっただけで、似たような構造をもっていることがわかるだろう。

これと似たような性質は、2次方程式の複素解にみられる。\(\alpha=a+bi\)が二次方程式の解になっているならば、\(\alpha^*=a-bi\)も解である、という性質である。ただし、a,bは実数、iは純虚数である。これは、二次方程式\(x^2-2ax+a^2+b^2=0\)の解であるが、
この方程式全体の複素共役をとっても、\((x^*)^2-2a(x^*)+a^2+b^2=0\)となり、同じ形が保たれるから、複素共役も解となることがわかる。これは、一般のn次方程式(ただし、係数は実数でないとだめ)にも成り立つ。

n次方程式の性質として重要な基本事項は、それは複素解を含めれば、n個の解を持つ、という性質だ。今考えているのは4次関数だから、f(x)=0は4つの解をもつ。面白いのは、その全てが「正の実数」となり、複素共役とはちょっと違うが、似たような「ペア」(c,1/c)で現れるという点だ。

ペア(対)に関しては、東大のランダムウォークの問題でも議論したが、今回のような逆数を用いたペアは、「duality」という概念でよく物理にも登場する。よく知られているのが、電磁気学の真空の誘電率\(\epsilon_0\)と真空の透磁率\(\mu_0\)だ。前者は電場\(\boldsymbol{E}=-\boldsymbol{\nabla}\phi-\frac{\partial}{\partial t}\boldsymbol{A}\)を特徴付ける量であり、後者は磁場\(\boldsymbol{B}=\boldsymbol{\nabla}\times\boldsymbol{A}\)を特徴付ける。例えば、静電場と静磁場を記述する微分方程式は、双方ともにポワソン方程式で記述されるが、透磁率と誘電率の入り方が「逆転」する。
\[
\boldsymbol{\nabla}^2\phi=-\frac{\rho}{\epsilon_0}\\
\boldsymbol{\nabla}^2\boldsymbol{A} = -\mu_0\boldsymbol{j}
\]
電場のセクターと磁場のセクターで、\(\epsilon_0^{-1} \leftrightarrow \mu_0\)という対応があれば、上の2つの式は実に綺麗な対称性をもっているように見える。

0 件のコメント:

コメントを投稿