三角関数のn乗が一般にどのように展開されるのかわからないので、まずはいくつか具体例を計算してみよう。
(1) n=2
\[\begin{equation}\cos^2 x = \frac{1}{2} + \frac{1}{2}\cos 2x , \quad \sin^2 x = \frac{1}{2} - \frac{1}{2}\cos 2x\end{equation}\]
(2) n=3
\[ \begin{equation} \cos^3 x = \frac{3}{4}\cos x + \frac{1}{4}\cos 3x, \quad
\sin^3 x = \frac{3}{4}\sin x - \frac{1}{4}\sin 3x\end{equation}\]
(3) n=4
\[\begin{equation} \cos^4 x = \frac{3}{8} + \frac{1}{2}\cos 2x + \frac{1}{8}\cos 4x, \quad \sin^4 x = \frac{3}{8} - \frac{1}{2}\cos 2x + \frac{1}{8}\cos 4x\end{equation}\]
(4) n=5
\[\begin{equation}\cos^5 x = \frac{5}{8}\cos x + \frac{5}{16} \cos 3x + \frac{1}{16}\cos 5x, \quad \sin^5 x = \frac{5}{8}\sin x - \frac{5}{16}\sin 3x + \frac{1}{16}\sin 5x\end{equation}\]
この結果を得るための計算手法について少しだけ言及しておこう。(1)n=2の場合は高校の数学でもやるのでおなじみだろう。いわゆる倍角公式とか、加法定理とかいうものである。(3)n=4の場合は、n=2の公式を応用して得ることができる。これは前回の議論で考察した。 骨が折れるのが(2)や(4)に相当するn=奇数の場合だが、これも加法定理を応用し、n=2の場合と組み合わせれば、高校数学の範囲で計算することができる。例えば、\(\sin^3 x=\sin^2 x \cdot \sin x\)と分解し、2乗の部分にn=2の公式を適用する。
\[\begin{equation} \frac{1-\cos 2x}{2} \cdot \sin x = \frac{1}{2}\sin x - \frac{1}{2}\cos 2x \sin x\end{equation}\]となる。右辺第二項を、加法定理の逆
\[\begin{equation}2\cos 2x \sin x = \sin (x + 2x) + \sin (x - 2x)\end{equation}\]を使って書き直すと、
\[\begin{equation} \sin^3 x=\frac{1}{2}\sin x - \frac{1}{4}\left(\sin 3x - \sin x\right) =\frac{3}{4}\sin x - \frac{1}{4}\sin 3x\end{equation}\]を得る。
ここまでの結果をみて、ある程度傾向が見えてきたのではないかと思う。まず、n=偶数の場合、三角関数をべき乗したものの全てが偶関数になる。したがって、そのフーリエ級数(ここでは、三角関数の有限和も「級数」と呼ぶことにしよう)は余弦関数のみの和となている。さらに、含まれる余弦関数の周波数は0, 2, 4, ..., n=偶数のものに限られ(これをパリティが0の周波数と呼ぶことにしよう)、1,3,...といったパリティが1の周波数成分はフーリエ級数展開の中に含まれないという特徴が見られる。また、級数の展開係数の分母は\(2^n\)になっているらしく、各項の分子の総和が\(2^n\)に等しくなっている。つまり、展開係数の和はどんな場合も1になっている。
n=奇数の場合は、余弦の場合は偶関数なので、上と同じように\(\cos kx\)による級数展開となるが、正弦の場合には奇関数となるので、級数展開には\(\sin kx\)のみが使われる。符号も次数に対し交代で入ってくるようだ。
もう一つ面白いのは、n=奇数の場合は、\(\cos x\)や\(\sin x\)の成分(展開係数の大きさのこと)が最大、つまり主成分となる点である。n=1,3,5の場合をまとめて見ると
n =1 n=3 n=5
100% 75% 62.5%
といった具合である。
nが大きいときに、\(\sin^n x \simeq \frac{1}{2}\sin x\)と近似して、たとえば積分しても結構いい値がでるのではないだろうか?数値実験してみるとおもしろいかもしれない。
またn=偶数の時は、1の成分と\(\cos 2x\)の成分がほぼ同じくらいの割合で主成分になっている。すなわち\(\cos ^ nx \simeq \frac{1}{2}\left(1+\cos 2x\right)\)と近似しても結構いい値が出るのではないか?これも調べて見たらおもしろいだろう。
これらの性質を統一的に公式にまとめ上げるには、オイラーの公式\(\cos x + i\sin x={\rm e}^{ix}\)を使うのがよいだろう。例えば、n=3の場合について考えて見る。
\[\begin{equation} \left(\cos x + i\sin x\right)^3 = \left({\rm e}^{ix}\right)^3 ={\rm e}^{3ix} = \cos 3x + i \sin 3x \end{equation}\]であるが、一番左を二項展開すると、\[\begin{equation}\cos^3 x + 3i\cos^2 x \sin x - 3\cos x \sin^2 x - i\sin^3 x = \cos 3x + i \sin 3x\end{equation}\]を得る。実数部と虚数部を整理して書くと、
\[\begin{equation} \left(\cos^3 x -3\cos x \sin^2 x - \cos 3x\right) + i\left( 3\cos^2 x \sin x - \sin^3 x - \sin 3x\right) = 0\end{equation}\]となる。この式の複素共役を作って、(10)式と足したり、引いたりすることで、三角関数の3乗の公式を得ることができる。が、まだシステマティックに計算するには見通しが悪い。この先をどのように進めていくかは、次の課題としよう。一つ確かなのは、係数は二項展開の係数と関連付けられそうだという点である。この点には着目すべきだと思う。
ここまでで思いついたことで、簡単に証明できそうなことをメモしておく。
三角関数のn乗のフーリエ級数展開において、\(\cos nx\)や\(\sin nx\)に対応する成分の展開係数は, \(\frac{1}{2^{n-1}}\)になっているように見える。これを帰納法で証明することは可能かどうか?
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