2019年1月31日木曜日

センター試験数学IA: 条件付き確率の問題の再考(3)


問題文には、「1回目の操作(試行)で、赤い袋が選ばれ赤玉が選ばれる確率は?」とある。これは赤い袋が選ばれる事象(つまり\(T^C\))と、赤玉が選ばれる事象(R)の積事象\(T^C\cap R\)のことをいっているのか、それとも条件付きの事象\(R|T^C\)のことをいっているのか、いまひとつはっきりしない(もちろん、受験数学の特殊日本語に慣れ親しんだ人々にはいささかの疑問もないだろうが)。

教科書を見ると、どうやらこの日本語の表現は前者であるらしいことがわかる。つまり、「赤い袋が選ばれ、かつ赤玉が選ばれる事象」という意味だ。では、後者の場合にはどういう日本語を使うかというと、「赤い袋が選ばれているとき、赤玉が選ばれる事象」と書き表すようだ。うーむ...実に曖昧だ。これはもう慣れるしかない。いっそのこと、「赤い袋から選ぶという部分集合を考え、その条件のもとで赤玉を取り出す確率」と書いてもらいたいものだ。

教科書でよく扱う例では、前の記事でやったように、全集合Uを、Sで分解する方法と、Fで分解する方法を同時に採用する問題だ。部分集合への二種類の直和分解は、切り口が違うだけで、U=S, U=Fであることは保持される。したがって、S,Fの組み合わせにより、Uは4つの部分集合に分解される。このような場合に「条件付き確率」について考えるのは比較的優しいだろう。

横軸がF、縦軸がSに対応している。

しかし、今回の問題では、サイコロの目という事象Dと、袋の中にある玉の色Bという事象であり、これは共通の全集合Uを切り口の異なる部分集合に分解する状況にはなっていない。そもそも、U自体の姿がこの問題ははっきりしないのが一番の問題ではないだろうか?

2つの事象の組み合わせを新たな事象と考えることで、Uを定義してみよう。つまりU=DBと考えるのである。DBに含まれる事象は(d,b)、ただし\(d\in D, b\in B\)と表すことにする。問題では、三の倍数という条件によってDを2つの部分集合に直和分解している。つまり、\(D=T\oplus T^C\)である。したがって、Uはまず、Tという「座標」によって「縦に2つに分解される」とみなすことができる。

次はBに関する分解であるが、Bは白い袋と赤い袋に分けられ、さらにそれぞれの袋の中に紅白の玉が入っている。Bに含まれる事象をラベルするためには、一種類のラベルではだめで、袋の色と玉の色の二種類が必要になるということだ。袋の色はR,W、玉の色はr,wで分けることにしよう。さらに、同色の玉は\(r_1,r_2,\cdots\)といった具合に番号で区別することにする。そうすると、Bは
\[
B=\{(R,r_1),(R,r_2),(R,w_1),(W,r_1),(W,w_1)\}
\]
という5つの要素を含むことがわかる。これをまとめて、
\[
B=\{b_1,b_2,b_3,b_4,b_5\}
\]
と書くことにしよう。つまり、
\[
b_1=(R,r_1), b_2=(R,r_2),b_3=(R,w_1),\cdots
\]
と定義する。袋の色をつかって、Bは2つの部分集合の直和に分解できる。
\[
B=B_R\oplus B_W,
\]
ただし、
\[
B_R=\{b_1,b_2,b_3\}, \quad B_W=\{b_4,b_5\}
\]
さらに、赤い袋の中にある赤い玉の事象を\(B_{Rr}=(b_1,b_2)\)、赤い袋の中にある白い玉の事象を\(B_{Rw}=(b_3)\)とすると、
\[
B_R = B_{Rr}\oplus B_{Bw}
\]
と書くことができる。同様に、
\[
B_W = B_{Wr}\oplus B_{Ww}
\]
と書ける。

これにより、全集合Uは4つの部分集合に直和分解できる。
\[
 U=DB =(T,B_R)\oplus (T,B_W) \oplus (T^C,B_R) \oplus (T^C,B_W)
\]
要素の数は、
\[
n(U)=n(D)n(B)=6\cdot 5 = 30, \\
n(D)=6, n(T)=2, n(T^C)=4, \\
n(B)=5, n(B_R)=3, n(B_W)=2
\]
となる。

\(T^C,B_R\)はさらに分解できて、
\[
(T^C,B_R)=(T^C,B_{Rr})\oplus (T^C,B_{Rw})
\]
と書ける。したがって、赤い袋で赤玉を取り出す確率は、\(P(T^C\cap B_{Rr})\)と書け、
\[
P(T^C\cap B_{Rr}) = \frac{n(T^C\cap B_{Rr})}{n(U)} = \frac{n(T^C)n(B_{Rr})}{n(U)} =  \frac{n(T^C)n(B_{Rr})}{n(D)n(B)}\\ = \frac{n(T^C)}{n(D)}\cdot\frac{n(B_{Rr})}{n(B_R)}\cdot\frac{n(B_R)}{n(B)}=P(T^C)P(r|R)\frac{n(B_R)}{n(B)}
\]
と書けるような気がするが、これは間違った答えだ。\(n(B_R)/n(B)\)の分だけずれている。これは、赤い袋と白い袋に入っている玉の総数5で、赤い袋の玉の総数3を割った数で、あたかも白い袋の内容と赤い袋の内容がごちゃまぜになっていて、その中から赤い袋に「属している」玉を取り出す確率、という余計な確率が忍び込んでしまっている。つまり、U=DBという形では、この問題は記述できないということだ。この方法だと、目に見えない、触っても感触のない袋に入れられた玉5つが、形式的に白袋、赤袋に属するとされ、同じ箱に混ぜて入れられているのを取り出す、という違う問題になってしまうのだ。

事象Dの結果に応じて、白袋と赤袋は明確に分けられなくてはならない。手を突っ込むのは、どちらかの袋1つであって、白袋なら全部で2つ、赤袋なら全部で3つの玉があって、そこから1つ取り出すという試行にならねばならない。5つの玉が同じ袋に入っており、その玉に(R,r)(R,r),(R,w),(W,r),(W,w)とプリントされているというわけではないのだ。

この問題は、意外に手強い。

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