確率の問題の問(1)を違う角度から再度考察してみたい。
問(1)を条件付き確率を利用する問題、あるいは積事象の問題だと指摘している解説は皆無だ。「赤い袋が選ばれ、赤い玉が取り出される確率」が、なぜ「赤い袋が選ばれる確率(2/3)」と「(赤い袋で)赤い玉が取り出される確率(2/3)」の積になるのか、解説している文章はなく、「直感的に」あるいは「自明に」積となることを強要し、理由も挙げずに答えを書き下している。「センター試験では答えが合えばそれでいい」と考える人には、これでいいのかもしれないが、数学/物理の研究を志す者には到底耐えられない書き方だ。
とある解説では、「独立事象だから赤い袋が選ばれる確率と赤い玉を取り出す確率の積を計算する」と書いているが、それは間違いだろう。もし独立だとしたら、赤い玉を取り出す確率は、サイコロの目に何が出ようと一定のはずだが、問題文では、サイコロの目によって2/3になったり、1/2になったりして変化するのだから、赤い玉を取り出す確率は「赤い玉」という事象だけでは決まらず、サイコロの目に依存した量になっている。しかし、「サイコロの目と玉を取り出す事象は独立」と考えるこの解説は、正しい答えを(誤った根拠に基づき)得ているのである。これは非常におもしろい現象だ。理由が間違っていても、(1)は直感的に解くことが誰にでもできるのだ。
この問題を解くに当たって誰もが容易に推測できるのは、サイコロの目に三の倍数以外の数、つまり1,2,4,5が出るという事象(\(T^C\)の確率\(P(T^C)=2/3\)が重要だろう、という「感覚」だろう。したがって、計算すべき確率を\(P\)と書けば、
\[
P=X\cdot P(T^C)
\]
となることには誰もがたどりつく。問題は、この比例関係の係数、つまりXが何になるかである。もし、それが赤玉が出るという事象(R)のみに依存する、つまり最初の事象\(T^C\)と独立であるならば、
\[
P=P(R)P(T^C)
\]
と書けるだろう。
Rと\(T^C\)が独立であるためには、条件付き確率の定義より、
\[
P(R|T)=P(R|T^C)
\]
が成り立つ必要がある。しかし、問題に与えられているように、
\[
P(R|T) = \frac{1}{2}, \quad P(R|T^C) = \frac{2}{3}
\]
となって、2つの条件付き確率に異なる値が割り当てられているから、玉の色という事象Bとサイコロの目という事象D\(=T\oplus T^C\)は独立ではないのだ。
もし、この問題で計算すべき確率が積事象の確率\(P(R\cap T^C)\)だとすれば、定義に基づき、
\[
P(R\cap T^C) = P(R|T^C)P(T^C) = \frac{2}{3}\cdot\frac{2}{3} = \frac{4}{9}
\]
と計算できる。つまり、問(1)は積事象の確率計算であり、条件付き確率をうまく使いこなす問題である、と理解することができる。
しかし、この問題で計算すべき確率が、条件付き確率\(P(R|T^C)\)そのものだとしたら、答えは単に2/3となる。 しかし、問題文には「赤い袋が選ばれ」とあるから、その確率\(P(T^C)\)を普通は使いたくなるから、直感的に掛けたくなるはずだ。(そしてそれはあっているのである。)「直感的に」というのは数学の研究にならないから、なんとかして理由を見出さねばならない。ここで、積事象の定義に立ち戻って考えることにしょう。
(つづく)
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