数IIの大問1は伝統的に、三角関数と対数/指数に関する問題となっている。大学の先生が一番嫌うのは、「パターン化した解法」で次々と問題を「処理」されてしまうことだ。ところが、センター試験の受験時間は短い上に、「パターン化した解法」を身につけていないと解き難い問題が時折含まれていて、受験生はこの矛盾に非常に悩まされる。時間切れの恐怖を感じずに、正々堂々と問題に取り掛かる精神力を身につけるのは並大抵ではない。
そういう面から見ると、数IIの最初の問題に出てくる「対数/指数」の問題は、純粋な対数/指数の内容だけに限って問題を作れば「易問」となる傾向がある。たとえば、平成29年の問題だ。しかし、逆に考えれば、単体で問題をつくるのは難しいので、いろいろな分野と組み合わせることが多く、「難しくなる」ことも多い。例えば、整数の問題と組み合わせたのが平成26年の問題。不等式と組み合わせたのが平成30年。グラフの対称性や逆関数の関係を問題としたのが平成28年。
したがって、数IIの対数/指数問題は、見たことのあるパターン問題ならば、最初にやりきってしまい、見たことない場合は、ちょっと解いてみて行けそうなら行く、時間がかかりそうだったら後に回して先を急ぐ、というやり方がいいのかもしれない。
まずは、対数/指数の典型的な「易問」である平成29年をみてみよう。これは底の変換を題材にした問題で、対数の中だけで問題が閉じていて、他の分野と組み合わせてはいない。ただ、底の変換の公式を忘れてしまうと手も足も出ないので、そうならないように、その場で公式を再導出できるようにしておくと安心だ。
\[
c=\log_b(a)
\]
とする。逆関数の関係を使って、指数の関係に戻すと、上の関係式は
\[
b^c = a
\]
となる。両辺を、底\(k\)の対数をとると
\[
\log_k(b^c) = \log_k(a)
\]
となるが、左辺は\(c\log_k(b)\)となるから、
\[
c = \frac{\log_k(a)}{\log_k(b)}
\]
となって、底の変換の関係式を得る。 ■
さて、平成29年の問題I(2)を見てみよう。
A(0,3/2)があたえられ、さらに関数\(f(x)=\log_2(x)\)に対して、B(p,f(p)), C(q,f(q))が定義される。ABを1:2に内分する点がCになっているとき、p,qを決めてくれ、という問題。
内分点の座標を出す公式というのはあるはずだが、そんなのいちいち覚えてられないという人はベクトルの代数で再導出するとよい。
内分点は\(\vec{AB}\)の上にあり、点Aから見て1/3の場所だというから、\(\frac{1}{3}\vec{AB}\)である。ただし、これは点Aから見た場合であって、座標というのは原点Oから見た場合の位置ベクトルなので、\(\vec{OC}\)を計算する必要がある。Aから見た場合とOから見た場合は、\(\vec{OA}\)だけのズレがあるので、
\[
\vec{OC} = \vec{OA} + \frac{1}{3}\vec{AB}
\]
である。\(\vec{AB}=\vec{OB}-\vec{OA}\)なので、内分点の公式が手に入るというわけだ。物理では力の合成などの計算でこの手の計算はよく出てくる。
この計算により\(\vec{OC} = (\frac{1}{3}p, \frac{1}{3}\log_2 p + 1)=(q,\log_2 q)\)という結果はすぐにわかる。qとpに関する2つの関係式が、これにより手に入ったので、連立方程式を解いてp,qを決めることができる。対数や指数の問題を、連立方程式にするタイプの問題は結構よく出題される(たとえば平成27年もそう)。
通常の一次式の連立方程式は、足し算、引き算が問題となるが、対数や指数では、足し算が掛け算に、引き算が割り算へと変換される、という特性がある。たとえば、\(e^x e^y = e^{x+y}\)とか、\(\log(x/y) = \log x - \log y\)とかいう性質である。
今回は対数から真数への対応を考えるので、足し算/引き算から掛け算/割り算への変換を考えることになる。 たとえば、y座標に関する条件は
\[
\frac{1}{3}\log_2 p + 1 = \log_2 q
\]
だが、足し算/引き算→掛け算/割り算の関係を用いて、上式を単項式にすることができる。そのとき、真数は「掛け算/割り算」でまとまっていくことに注意。
\[
\log_2\left(\frac{p^{1/3}\cdot 2}{q}\right) = 0
\]
となる。この条件式と、x座標の条件式を組み合わせると答えが出てくるが、最後の最後にいやらしい計算問題が待ち構えている。数値計算である...
この問題のいやらしい点は、底の変換をやらせるところである。ここまでの計算は2を底とした対数でやらせておいて、最後は常用対数で計算させるというのである。こういう計算は、関数電卓が存在する現代ではもうやる必要はないはずだが、有効数字を理解させるとか、そういう目的で入っているのかもしれない。にしても、データが小数以下4桁の制度まで書いてあって、計算は小数以下2桁で行えというのは、つじつまがあわない。センター試験でこういう問題を出すのはもう時代遅れではないか?
物理では、対数ー対数グラフとか、片対数グラフというのを、実験の分析などでよく利用したものだ。(gnuplotではset logで利用できるし、PCやmacのソフトを使って実験データを整理すれば、対数グラフのノートはもう必要ないのかもしれないが、もしかすると大学の生協にはまだ売っているかもしれない。)
物理量として非常に大きな値が観測値として出てくるものに関しては、対数に変換してから相関を見るという手法は物理でよく用いる。最初に思いつくのは、磁気ボーデの法則だ。惑星の自転による角運動量と、惑星の磁場の強さについて、それぞれの対数をとってプロットすると、火星と金星を除いて直線上に乗るという相関が見られる。(どうして「火星と金星を除き」なのかという問題は、現代の天文学にとって大きな問題であり、まだ完全には解明されていない。実際、昨年末に火星に着陸したNASAのInSightは、この特異性を解明するために派遣された。)
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