2019年1月31日木曜日

センター試験数学IA: 条件付き確率の問題の再考(3)


問題文には、「1回目の操作(試行)で、赤い袋が選ばれ赤玉が選ばれる確率は?」とある。これは赤い袋が選ばれる事象(つまり\(T^C\))と、赤玉が選ばれる事象(R)の積事象\(T^C\cap R\)のことをいっているのか、それとも条件付きの事象\(R|T^C\)のことをいっているのか、いまひとつはっきりしない(もちろん、受験数学の特殊日本語に慣れ親しんだ人々にはいささかの疑問もないだろうが)。

教科書を見ると、どうやらこの日本語の表現は前者であるらしいことがわかる。つまり、「赤い袋が選ばれ、かつ赤玉が選ばれる事象」という意味だ。では、後者の場合にはどういう日本語を使うかというと、「赤い袋が選ばれているとき、赤玉が選ばれる事象」と書き表すようだ。うーむ...実に曖昧だ。これはもう慣れるしかない。いっそのこと、「赤い袋から選ぶという部分集合を考え、その条件のもとで赤玉を取り出す確率」と書いてもらいたいものだ。

教科書でよく扱う例では、前の記事でやったように、全集合Uを、Sで分解する方法と、Fで分解する方法を同時に採用する問題だ。部分集合への二種類の直和分解は、切り口が違うだけで、U=S, U=Fであることは保持される。したがって、S,Fの組み合わせにより、Uは4つの部分集合に分解される。このような場合に「条件付き確率」について考えるのは比較的優しいだろう。

横軸がF、縦軸がSに対応している。

しかし、今回の問題では、サイコロの目という事象Dと、袋の中にある玉の色Bという事象であり、これは共通の全集合Uを切り口の異なる部分集合に分解する状況にはなっていない。そもそも、U自体の姿がこの問題ははっきりしないのが一番の問題ではないだろうか?

2つの事象の組み合わせを新たな事象と考えることで、Uを定義してみよう。つまりU=DBと考えるのである。DBに含まれる事象は(d,b)、ただし\(d\in D, b\in B\)と表すことにする。問題では、三の倍数という条件によってDを2つの部分集合に直和分解している。つまり、\(D=T\oplus T^C\)である。したがって、Uはまず、Tという「座標」によって「縦に2つに分解される」とみなすことができる。

次はBに関する分解であるが、Bは白い袋と赤い袋に分けられ、さらにそれぞれの袋の中に紅白の玉が入っている。Bに含まれる事象をラベルするためには、一種類のラベルではだめで、袋の色と玉の色の二種類が必要になるということだ。袋の色はR,W、玉の色はr,wで分けることにしよう。さらに、同色の玉は\(r_1,r_2,\cdots\)といった具合に番号で区別することにする。そうすると、Bは
\[
B=\{(R,r_1),(R,r_2),(R,w_1),(W,r_1),(W,w_1)\}
\]
という5つの要素を含むことがわかる。これをまとめて、
\[
B=\{b_1,b_2,b_3,b_4,b_5\}
\]
と書くことにしよう。つまり、
\[
b_1=(R,r_1), b_2=(R,r_2),b_3=(R,w_1),\cdots
\]
と定義する。袋の色をつかって、Bは2つの部分集合の直和に分解できる。
\[
B=B_R\oplus B_W,
\]
ただし、
\[
B_R=\{b_1,b_2,b_3\}, \quad B_W=\{b_4,b_5\}
\]
さらに、赤い袋の中にある赤い玉の事象を\(B_{Rr}=(b_1,b_2)\)、赤い袋の中にある白い玉の事象を\(B_{Rw}=(b_3)\)とすると、
\[
B_R = B_{Rr}\oplus B_{Bw}
\]
と書くことができる。同様に、
\[
B_W = B_{Wr}\oplus B_{Ww}
\]
と書ける。

これにより、全集合Uは4つの部分集合に直和分解できる。
\[
 U=DB =(T,B_R)\oplus (T,B_W) \oplus (T^C,B_R) \oplus (T^C,B_W)
\]
要素の数は、
\[
n(U)=n(D)n(B)=6\cdot 5 = 30, \\
n(D)=6, n(T)=2, n(T^C)=4, \\
n(B)=5, n(B_R)=3, n(B_W)=2
\]
となる。

\(T^C,B_R\)はさらに分解できて、
\[
(T^C,B_R)=(T^C,B_{Rr})\oplus (T^C,B_{Rw})
\]
と書ける。したがって、赤い袋で赤玉を取り出す確率は、\(P(T^C\cap B_{Rr})\)と書け、
\[
P(T^C\cap B_{Rr}) = \frac{n(T^C\cap B_{Rr})}{n(U)} = \frac{n(T^C)n(B_{Rr})}{n(U)} =  \frac{n(T^C)n(B_{Rr})}{n(D)n(B)}\\ = \frac{n(T^C)}{n(D)}\cdot\frac{n(B_{Rr})}{n(B_R)}\cdot\frac{n(B_R)}{n(B)}=P(T^C)P(r|R)\frac{n(B_R)}{n(B)}
\]
と書けるような気がするが、これは間違った答えだ。\(n(B_R)/n(B)\)の分だけずれている。これは、赤い袋と白い袋に入っている玉の総数5で、赤い袋の玉の総数3を割った数で、あたかも白い袋の内容と赤い袋の内容がごちゃまぜになっていて、その中から赤い袋に「属している」玉を取り出す確率、という余計な確率が忍び込んでしまっている。つまり、U=DBという形では、この問題は記述できないということだ。この方法だと、目に見えない、触っても感触のない袋に入れられた玉5つが、形式的に白袋、赤袋に属するとされ、同じ箱に混ぜて入れられているのを取り出す、という違う問題になってしまうのだ。

事象Dの結果に応じて、白袋と赤袋は明確に分けられなくてはならない。手を突っ込むのは、どちらかの袋1つであって、白袋なら全部で2つ、赤袋なら全部で3つの玉があって、そこから1つ取り出すという試行にならねばならない。5つの玉が同じ袋に入っており、その玉に(R,r)(R,r),(R,w),(W,r),(W,w)とプリントされているというわけではないのだ。

この問題は、意外に手強い。

2019年1月30日水曜日

センター試験数学IA: 条件付き確率の問題の再考(2)

教科書によくあるタイプの問題では、まず「人間」という「根源事象」uを考え、この根源事象が、たとえば100個集まってできる集合Uを全集合(Universal set)として定義する。

次に、Uの部分集合(subset)を定義するために、性別という事象Sを考える。\(S=M\oplus F\)という直和で書ける(社会的に微妙なところはこの問題では無視し、MとFは互いに排反な事象と仮定し、Sはその和事象であるとする)。したがって、Sの全体は、Uの全体と一致する。事象M、Fが作る部分集合もM、F と表すことにする。その要素の数が例えば、\(n(M)=40, n(F)=60\)であるとする。この集団の中から人間を一人抽出した際に、Mとなる確率はP(M)=0.4、Fとなる確率はP(F)=0.6となる。排反な和事象なのでP(M)+P(F)=1.0という確率保存則も成り立つ。

Uの中に、もう一つ別の部分集合を考える。たとえば、サッカーをやった経験があるかどうかという事象Fを取り上げよう。経験者はY、未経験者をNとすると、この場合も\(F=Y\oplus N = U\)となる。YとNは(通常は)排反事象である。n(Y)=50, n(N)=50とする。
つまり、全事象はSという切り口と、Fという切り口によって、異なるタイプの部分集合の直和として表せることになる。
\[
U=S=M\oplus F \\
=F=Y\oplus N
\]

となると、S,Fを組み合わせると、Uは4つの部分集合に分割できる。
\[
U=(M,Y)\oplus (M,N) \oplus (F,Y) \oplus (F,N)
\]
たとえば、男でサッカー経験者は(M,Y)という集合に属し、その要素数をn(M,Y) で表すことにする。例えば、n(M,Y)=35, n(M,N)=5, n(F,Y)=15, n(F,N)=45としよう。


全集合Uから無作為に一人を選んだとき、その人物が(M,Y)である確率は、積事象\(M\cap Y\)の確率のことであり、
\[
P(M\cap Y) = \frac{n(M,Y)}{n(U)} = \frac{35}{100} = 0.35
\]
となることはすぐにわかる。この式を変形すると
\[
P(M\cap Y) = \frac{n(M,Y)}{n(U)} = \frac{n(M,Y)}{n(M)}\frac{n(M)}{n(U)}\\
= P(Y|M)P(M)
\]
となる。実質上、\(n(M,Y)=n(M\cap Y)\)であるから、条件付き確率の定義は、
\[
 P(Y|M) = \frac{n(M\cap Y)}{n(M)}
\]
となることがわかる。つまり\(M\subset U\)という部分集合の中における\(M\cap Y\)という別の部分集合の割合として、\(P(Y|M)\)は定義されるということだ。

実際, \(P(M)=0.4=2/5, P(Y|M)=\frac{n(M\cap M)}{n(M)} = 35/40=7/8\)なので、
\[
 P(Y|M)P(M) = \frac{7}{8}\cdot\frac{2}{5} = \frac{7}{20}=0.35=P(Y\cap M)
\]
であることが示せる。

これで、条件付き確率\(P(A|B)\)と積事象\(P(A\cap B)\)の確率の違いがわかった。前者は、条件Bで括られる部分集合Bを分母にもつ事象\(A\cap B\)の確率であり、後者は、事象\(A\cap B\)の全集合Uに対する確率である。

この基本事項の理解の基に、センター試験の(1)に戻ってみよう。

(つづく)

2019年1月29日火曜日

センター試験数学IA: 条件付き確率の問題の再考(1)

確率の問題の問(1)を違う角度から再度考察してみたい。

問(1)を条件付き確率を利用する問題、あるいは積事象の問題だと指摘している解説は皆無だ。「赤い袋が選ばれ、赤い玉が取り出される確率」が、なぜ「赤い袋が選ばれる確率(2/3)」と「(赤い袋で)赤い玉が取り出される確率(2/3)」の積になるのか、解説している文章はなく、「直感的に」あるいは「自明に」積となることを強要し、理由も挙げずに答えを書き下している。「センター試験では答えが合えばそれでいい」と考える人には、これでいいのかもしれないが、数学/物理の研究を志す者には到底耐えられない書き方だ。

とある解説では、「独立事象だから赤い袋が選ばれる確率と赤い玉を取り出す確率の積を計算する」と書いているが、それは間違いだろう。もし独立だとしたら、赤い玉を取り出す確率は、サイコロの目に何が出ようと一定のはずだが、問題文では、サイコロの目によって2/3になったり、1/2になったりして変化するのだから、赤い玉を取り出す確率は「赤い玉」という事象だけでは決まらず、サイコロの目に依存した量になっている。しかし、「サイコロの目と玉を取り出す事象は独立」と考えるこの解説は、正しい答えを(誤った根拠に基づき)得ているのである。これは非常におもしろい現象だ。理由が間違っていても、(1)は直感的に解くことが誰にでもできるのだ。

この問題を解くに当たって誰もが容易に推測できるのは、サイコロの目に三の倍数以外の数、つまり1,2,4,5が出るという事象(\(T^C\)の確率\(P(T^C)=2/3\)が重要だろう、という「感覚」だろう。したがって、計算すべき確率を\(P\)と書けば、
\[
 P=X\cdot P(T^C)
\]
となることには誰もがたどりつく。問題は、この比例関係の係数、つまりXが何になるかである。もし、それが赤玉が出るという事象(R)のみに依存する、つまり最初の事象\(T^C\)と独立であるならば、
\[
 P=P(R)P(T^C)
\]
と書けるだろう。

Rと\(T^C\)が独立であるためには、条件付き確率の定義より、
\[
P(R|T)=P(R|T^C)
\]
が成り立つ必要がある。しかし、問題に与えられているように、
\[
P(R|T) = \frac{1}{2}, \quad P(R|T^C) = \frac{2}{3}
\]
となって、2つの条件付き確率に異なる値が割り当てられているから、玉の色という事象Bとサイコロの目という事象D\(=T\oplus T^C\)は独立ではないのだ。

もし、この問題で計算すべき確率が積事象の確率\(P(R\cap T^C)\)だとすれば、定義に基づき、
\[
P(R\cap T^C) = P(R|T^C)P(T^C) = \frac{2}{3}\cdot\frac{2}{3} = \frac{4}{9}
\]
と計算できる。つまり、問(1)は積事象の確率計算であり、条件付き確率をうまく使いこなす問題である、と理解することができる。

しかし、この問題で計算すべき確率が、条件付き確率\(P(R|T^C)\)そのものだとしたら、答えは単に2/3となる。 しかし、問題文には「赤い袋が選ばれ」とあるから、その確率\(P(T^C)\)を普通は使いたくなるから、直感的に掛けたくなるはずだ。(そしてそれはあっているのである。)「直感的に」というのは数学の研究にならないから、なんとかして理由を見出さねばならない。ここで、積事象の定義に立ち戻って考えることにしょう。

(つづく)

2019年1月28日月曜日

確率の基礎:(2)積事象

積事象についてまとめておこう。事象Aと事象Bの積事象とは、事象Aに対応する集合Aと事象Bに対応する集合Bの「共通部分(重なり部分)」に対応する事象のことであり、\(A\cap B\)と表される。和事象の関係式を変形すると、
\[
A\cap B = A+B - A\cup B
\]
とも表せるが、あまりこの式は重要ではない。
積事象の確率\(P(A\cap B)\)を\(P(A)\)や\(P(B)\)を使ってどのように表すことができるかが一番の興味だが、和事象の場合と同じように、条件によって表現が変わる。

和事象では「排反」という概念が重要だったが、積事象では「独立」という概念が重要となる。一般には、
\[
P(A\cap B) = P(A|B)P(B) = P(B|A)P(A)
\]
などと表すことができるが、\(P(A|B)\)とか\(P(B|A)\)という確率が何を表すかが重要となる。これらは「条件付き確率」と呼ばれる。

結局、積事象とは、「Aであり、かつBである」ということだから、「Aが成り立つ」とか、「Bが成り立つ」という単発の条件は、必要条件とみなされる。したがって、積事象が成立するには、「まずBが成り立ち、その上でAも成り立つ」、あるいは「まずAが成り立ち、その上でBも成り立つ」という具合に考える必要がある。上の式の\(P(B)\)とか\(P(A)\)というのが、「まずBが成り立ち」とか「まずAがなりたち」という部分に相当する。ということは、\(P(A|B)\)というのは「(Bが成り立ち)その上でAが成り立つ」という部分に相当する。

独立事象というのは、P(A|B)=P(A)、あるいはP(B|A)=P(B)と書けるかどうか、という点で重要な概念であり、数学的には
\[
P(A|B)=P(A|B^C)
\]
が成立するとき、つまりBであろうとなかろうと、Aの確率が一定であるとき、
\[
P(A|B)=P(A)
\]
が成り立ち、積事象は
\[
P(A\cap B) = P(A)P(B)
\]
となる。

つまり、P(A|B)の値がBに依存しないとき、AとBは「独立事象」である。このとき、
\[
P(A|B) = P(A), \quad P(B|A) = P(B)
\]
であり、
\[
P(A\cap B)=P(A)P(B)
\]
となる。

たとえば、同じサイコロを2度振る事象を考えよう。1回目のサイコロの目という事象を\(A_1\)、2回目のサイコロの目という事象を\(A_2\)とすると、\(A_1\)と\(A_2\)は独立であるから、\(A_1A_2\)は\(A_1\otimes A_2\)と表せる。\(A_1A_2\)の全事象Uの要素はしたがって6x6=36個となる。

一方で、男女50-50%の集団を、喫煙/非喫煙で分けたとき、喫煙者の男女比が50-50となり、非喫煙者の男女比も50-50となるだろうか?もしそうならば、喫煙の有無と男女との間には関係(相関)はないから、それぞれの事象は独立となる。しかし、現実にはそうならず、喫煙者には男が、非喫煙者には女が多く含まれ、喫煙有無と性別は「独立な事象」とは認められない。

以上の内容は、こちらのノートを参考にした。

2019年1月27日日曜日

確率の基礎:(1)和事象

和事象についてまとめておこう。事象Aと事象Bの和事象は\(A\cup B\)と表される。これは、
\[
A\cup B = A + B - A\cap B
\]
とも表せる。この関係式は、A+Bは重なり部分\(A\cap B\)が二重勘定してしまうから、その補正を引いておく必要があるという意味だ。
和事象\(A\cup B\)は、2つの円の外縁に相当する。
事象A,Bは重なり\(A\cap B\)を持つことを考慮する必要がある。
全事象Uが\(U=A\cup B\)であるとする。つまり、AにもBにも属さない事象はないものとする。このとき、確率\(P(U)\)は1に規格化される(確率の保存則といってもよいかも)。
\[
P(U) = 1
\]
事象Aが起きる確率を\(P(A)\)、事象Bが起きる確率を\(P(B)\)とすると、P(A)+P(B)は1を越えてしまう。というのは、重なり部分が二重勘定されているからだ。したがって、AかつBという事象が起きる確率\(P(A\cap B)\)を用いて、
\[
P(A\cup B) = P(U) = P(A) + P(B) - P(A\cap B)
\]
となる。特に、AとBが排反事象の場合、つまり\(A\cap B = \phi\)のとき、
\[
P(U) = P(A) + P(B)
\]
となる。このとき全集合ZはAとBの直和で書ける。
\[
 U = A\oplus B
\]
従って、
\[
P(U) = P(A\oplus B) = P(A) + P(B)
\]
が成り立つ。


2019年1月26日土曜日

センター試験数学IA: 確率の問題

数IAの第3問の確率の問題を見てみよう。

この問題は「確率の問題」の形態をとってはいるが、確率の計算を公式に当てはめるだけ、という考え方をするのではなく、「アルゴリズム」とか「シミュレーション」という観点から問題を捉えることにしよう。現実の現象の解析、たとえば、自動車の運転席の窓ガラスが事故で割れるメカニズムとか、風に吹かれた落ち葉が散った先の地面における分布だとかは、その運動を規定する方程式を完全に解き切って、解析的な解(厳密解という)を手にすることが、多くの場合、困難だ。そこで、方程式を細切れに切って(つまり離散近似して)数値計算によるシミュレーションを行い、運動の概略を知ろうとする。この場合、運動の分岐は確率的に取り扱い、分岐のタイプを「アルゴリズム」という形で定式化する。

この問題では赤白の袋やら玉が登場するが、「赤白」を分岐のパターンとみなせば、シミューレションの一種だと考えることが可能だろう。たとえば、白玉、赤玉という代わりに、ガラスの亀裂が右に入る、左に入る、という具合に考えることは可能だ、ということだ。

能書きはこの辺でやめておこう。この問題では、取り出した玉は袋にまた戻す。つまり、特定の色を取り出す確率は変化しないという性質は、アルゴリズムの観点からは重要な性質なので、忘れないようにしたい。

サイコロはアルゴリズムの初期値の設定につかう。つまり最初に玉を取り出す袋の色を決めるためにだけ使う。それは3の倍数か否かだ。

確率の問題の定式化で役に立つ概念は「集合」の概念だ。アルゴリズムの分岐や分岐条件は、現実に発生する事象をすべて網羅する必要がある。考慮すべき事象に漏れがあると、想定外の過程が発生するたびにシミュレーションの質が下がってしまう。

まずは、サイコロの目という事象を考え、これをdとおこう。dは1から6の間の整数値をとる。この集合をDと書こう。\(D=\{d=1,2,3,4,5,6\}\)。Dは2つの部分集合に分かれ、それは三の倍数の集合\(T=\{3,6\}\)と、その補集合\({T}^c=D-T=\{1,2,4,5\}\)だ。

\(D=T\oplus{T}^c=\{3,6\}\oplus\{1,2,4,5\}\)と直和の形に書ける。直和というのは、2つ(以上)の集合の間に重なりがない、つまり\(A\cap B = \phi\)が成り立つときの、和集合\(A\cup B\)のことだ。AとBは「排反事象」の関係にある、ともいう。

確率は
\[
P(T) = \frac{2}{6} = \frac{1}{3}, \\
P(T^C) = P(D-T) = 1 - \frac{1}{3} = \frac{2}{3}
\]
と書ける。当然ながら\(P(D) = P(T)+P(T^C)=1\)だ。

最初にサイコロを振る理由は、その結果を用いて、紅白の袋のどちらから玉を取り出し始めるか決めるためだ。袋の色の初期値決めみたいなものだ。n回目の取り出しに使う袋の色をC(n)と表せば、C(1)を決めるためにサイコロを振るということだ。\(T\)の場合は白い袋、\(T^C\)の場合は赤い袋を選ぶことになる。

プログラムでこのアルゴリズムを表せば、

if(\(T\))
   C(1) = W
else if (\(T^C\))
   C(1) = R 

といった感じだろう。

当然ながら、
 
白い袋を選ぶ確率 \(=P(T)=\frac{1}{3}\),
赤い袋を選ぶ確率\(=P(T^C)=1-P(T)=\frac{2}{3}\)

となる。

さて、赤い袋には赤:白=2:1、白い袋には赤:白=1:1で入っている。この事象をどう記号に表すかは、実は重要なポイントだ。当初は袋の色で事象を分けて、赤い袋ならR、白い袋ならWとしていた。これは、上のプログラムの内容を踏襲している。しかし、このやり方が色々と問題を起こすことはやってみるとわかる。「サイコロの目」という事象Dの次に問題となる事象は、「玉の色」であり、「袋の色」としない方が頭の中を整理しやすい。つまり、この問題は2つの事象が独立でない場合の「条件付き確率」の問題であり、Dに応じて「玉の色」という事象の確率が変わってくることを認識した方がいい。「玉の色」という事象をbで表す。bはr(赤)あるいはw(白)の二種類の値だけを持つ。この集合をBであ表すことにする。
\[B=\{b=r,w\}=R(r)\oplus W(w)\]
Bという集合がDの結果によって変わることを表すために、\(B_W, B_R\)という具合に識別することにしよう。前者が三の倍数、すなわちTが発生した場合の集合Bであり、後者がそうでない場合、つまり\(T^C\)の場合の集合Bに対応する。これらの集合の違いを際立たせるには、色が同じものには番号をつけて識別できるようにしておくのが良い(量子力学では識別できなくなるが、この問題で扱う玉は古典物理のそれだとしよう...)。つまり、
\[
B_R =\{b=r_1,r_2, w_1\}=R_R(r_1,r_2)\oplus W_R(w_1), \\
B_W=\{b=r_1, w_1\}=R_W(r_1)\oplus W_W(w_1)
\]
この表現は、「条件付き確率」の概念にフィットする。つまり、n=1の時の、赤い袋で赤い玉を出す確率というのは、Tが発生した下での赤玉が出る確率であり、それはP(r|T)と書くべきだろう。もちろん、それは2/3である。

条件付き確率をまとめておくと、
\[
P(r|T)=\frac{2}{3}, \quad P(w|T)= \frac{1}{3}\\
P(r|T^C)=\frac{1}{2}, \quad P(w|T^C)=\frac{1}{2}
\]
となる。

条件付き確率の引数となる「事象」は通常の「事象」とちょっと違う感じがする。例えば、A|Bというのは、「Bが起きた上でのAという事象」という風に表現できるが、\(A\cap B\)、つまり「AかつBという事象」とは違うものであることに注意しないといけない。前者の場合は、もうBが起きてしまっていることが仮定されている。つまり、「赤い袋を選んだ場合に、赤玉が出てくる確率」という類の確率だ。赤い袋を選ぶ過程に確率的なものが入っていないことが重要だ。一方で、\(P(A\cap B)\)の計算には、Bが起きるかもしれないし、起きないかもしれないしという確率的な過程が入り込み、その上でAが起きる確率を考えるために、\(P(A|B)\)が必要となる。結局は問(1)の場合をよく理解すると、具体的な「感覚」が身につくだろう。

問(1)は、最初のステージn=1での話である。サイコロによって決まった袋の色に対して、何色の玉が出るかを考える問題だから、典型的な条件付き確率の問題だ。しかも、最初の事象Dの結果によって、特定の色が出る確率が変化するから、DとBが独立でない場合になっている。つまり、DとBの組み合わせ事象DBが、集合の直積\(D\otimes B\)とは表せない場合に相当する。問題となるのは、\(P(r|T)\)を答えるのか、それとも\(P(R\cap T)\)を答えるのか、という判断であるが、問題文をよく読むと「赤い袋が選ばれ」とあるから、赤い袋が選ばれる過程に確率的な過程が入り込んでいる。したがって、計算するのは、後者、つまりDとBの積事象の確率\(P(R\cap T)\)である。したがって、積事象の公式により、
\[
P(R\cap T) = P(r|T)P(T) = \frac{2}{3}\cdot\frac{2}{3}=\frac{4}{9}
\]
となる。同様に、n=1で白い袋が選ばれ、そこから赤い玉を取り出す確率は、
\[
P(W\cap T^C)=P(w|T^C)P(T^C) = \frac{1}{2}\cdot\frac{1}{3} = \frac{1}{6}
\]
と計算される。

次の問(2)は、袋の色を考える事象の問題で、「2回目が白い袋」である確率を計算せよ、というのだが、2回目が白袋、というのは「1回目が赤袋で2回目が白袋」という事象と「1回目が白袋で2回目も白袋」という事象の2つの合計であるから、それぞれの確率の和になる。しかし、2回目の袋の色が白になるためには、1回目に取り出した玉が白でないといけないから、より厳密に書くと、「1回目が赤い袋となり、そこで白い玉を取り出す確率」+「1回目が白い袋となり、そこで白い玉を取り出す確率」ということになる。つまり、
\[
P(T^C\otimes R_w)+P(T\otimes W_w) =  P(T^C)P(R_w) + P(T)P(W_w) =
\frac{2}{3}\cdot\frac{1}{3} + \frac{1}{3}\cdot\frac{1}{2} = \frac{7}{18}
\]

(3)にいこう。1回目の操作で白玉を出す確率pと2回目の操作で白玉を出す確率wの間には線形関係\(w=kp+\frac{1}{3}\)が成り立つそうで、その比例係数kを求める問題である。

2回目の操作で白玉を出すというのは、(i)2回目に白い袋で白玉を出す場合と(ii)2回目に赤い袋で白玉を出す場合の2通りがある。

(i)の場合、1回目がどちらの袋であろうとそこで白玉を出さないと、2回目に白い袋から取り出せないので、\(p\cdot \frac{1}{2}\)という確率になる。

(ii)の場合は、1回目に赤玉を取りだし、2回目に赤い袋で白玉を取り出す確率となるので、\((1-p)\cdot\frac{1}{3}\)という確率になる。

したがって、2回目に白玉を取り出す確率\(w\)は、
\[
w = p\cdot\frac{1}{2} + (1-p)\cdot\frac{1}{3} = \frac{1}{6}p + \frac{1}{3}
\]
となる。 つまり\(k=1/6\)となる。

1回目の操作で白玉を出す確率pは、白袋で白玉を選ぶ確率\(\frac{1}{3}\cdot\frac{1}{2}\)と、赤袋で白玉を選ぶ確率\(\frac{2}{3}\cdot\frac{1}{3}\)の和になるので、
\[
 p = \frac{1}{6} + \frac{2}{9} = \frac{7}{18}
\]
と求まるが、これは(2)の答えと一致している。(2)は「2回目に白い袋」の確率なので、1回目に白玉を引いた確率、つまりpと同じ意味になっている。これに気づけば、上の計算は必要なくなる。いずれにせよ、これをwとpの関係式に代入すると、
\[
w = \frac{1}{6}\cdot\frac{7}{18} + \frac{1}{3} = \frac{43}{108}
\]
となる。
続けて、3回目に白玉が取り出される確率uは、2回目に白玉が取り出される確率wを用いて、\(u = \frac{1}{6} w + \frac{1}{3}\)と表せるので、\(w=43/108\)を代入し、\[u=\frac{259}{648}\]という結果を得る。

確率の問題では、センター試験でも結構えげつない数字が出てくるのをみて、少し安心した。いつでも、教科書に出てくるような簡単な数字に抑えるのはやはりちょっと無理のようだ。受験生は、こういう数字が出てきても驚かないように心の準備をしておくべきだろう。

さて、いよいよ最後の(4)にとりかかろう。条件付き確率の計算法の確認問題で、内容は簡単だ。が、計算すべき分数が複雑になるので、計算間違いに気をつけたい。

2回目の事象が白玉となる場合というのは、(i)白い袋で白玉を取り出す場合と、(ii)赤い袋で白玉を取り出す場合の2通りあるが、この場合はすでに問(3)で考察済みで、前者は\(p/2\)、後者は\((1-p)/3\)となる。したがって、この条件のうち、白袋で白玉を取り出す条件付き確率は、
\[
 P(w|W)=\frac{p/2}{p/2 + (1- p)/3} = \frac{p/2}{p/6+1/3}
\]
と表せ、これに上で求めた\(p=7/18\)を代入すると\(P(w|W)=\frac{21}{43}\)を得る。

一方、3回目の事象が白玉だったとき、それが初めてだった条件付き確率というのは、3回目の事象が白玉であるすべての事象をひとつひとつチェックしていけば基本的には解ける。ただ、(3)で3回目が白玉だった確率が259/648で与えられているから、条件付き確率の分母にはこの数字がくるはずである。とすると、1回目に赤袋で赤玉あるいは白袋で赤玉、2回目に(赤袋で)赤玉、そして3回目に赤袋で白玉が出る確率は、
\[
 \left(\frac{2}{3}\cdot\frac{2}{3}+\frac{1}{3}\cdot\frac{1}{2}\right) \frac{2}{3}\frac{1}{3} = \frac{11}{81}
\]
と計算されるので、答えは
\[
\frac{\frac{11}{81}}{\frac{259}{648}} =  \frac{88}{259}
\]
となる。




2019年1月21日月曜日

センター試験数学II (2019) : 対数と指数

ようやく2019年の問題が公開されたので、さっそく数IIの指数/対数の問題を解いてみよう。今年は、指数と対数が混ざった問題で、結局は連立方程式を解くことになるパターンだった。

与えられた式は、対数関数の方程式と指数関数 の方程式、ひとつずつ。
\[
\log_2(x+2)-2\log_4(y+3) = -1 \\
\left(\frac{1}{3}\right)^y - 11\left(\frac{1}{3}\right)^{x+1} + 6 = 0
\]

まずは、対数の方程式から簡単にしていこう。一目瞭然なのは、この方程式は初項と第二項で底が一致していないので、揃えることにする。\(4=2^2\)なので、底は2で揃えるのが便利だろう。
\[
\log_4( y+3) = \frac{\log_2(y+3)}{\log_2 2^2} = \frac{1}{2}\log_2(y+3)
\]
であるから、最初の方程式は
\[
\log_2(x+2) -\log_2(y+3) = -1 \Longleftrightarrow \log_2\left(\frac{2(x+2)}{y+3}\right) = 0
\]
と変形できる。\(\log_2 1 = 0\)だから、
\[
y= 2x + 1
\]
という線形方程式が出てくる。つまり、最初の式は、結局はこの簡単な線形方程式にすぎないのに、「わざわざ対数表現を使って、「京都弁」のような持って回った表現をしていたということだ(京都の皆様、ごめんなさい)。しかし、注意する点が一つだけある。それは、最初の対数方程式と、上の線形方程式が対応している場所が、真数条件によって限られているという点である。その条件を満たさない場所では、両者は等価とはいえない。等価であることがいえる領域とは、
\[
x+2 > 0, y+3 > 0
\]
である。この条件は後で方程式の解を決めるときに重要な役割を果たす。 

次は2つ目の式の変形に移ろう。この式は特に京都風の表現になっているわけではないが、上の線形関係を代入することで2次方程式と等価であることが示せる。yを消去するパターンを問題では想定しているが、両方でやってみよう(こういう考察は新しい共通試験の対策にもなるので)。

まずはyを消去する。この場合、指数に分数が登場しないので面倒なことは発生しない。
\[
 \left(\frac{1}{3}\right)^{2x+1} - 11 \left(\frac{1}{3}\right)^{x+1} + 6 = 0
\]
この問題は教科書によく出ているタイプの方程式で、\(t = (1/3)^x\)という変数を導入して書き直すのだ。そうすると、
\[
\frac{1}{3}\left(t^2 - 11 t\right) + 6 =0
\]
となる。両辺に3をかけて因数分解をすると、上式は\((t-2)(t-9)=0\)とまとまるので、この2次方程式の解は\(t=2,9\)、すなわち\((1/3)^x = 2, 9\)を得る。両辺の対数をとると
\[
x\log_3\frac{1}{3} = \log_3 2, \log_3 3^2 \Leftrightarrow x = -\log_3 2 , -2
\]
という結果を得る。しかし、真数条件により\(x>-2\)であるから、2つ目の解は除外しなくてはならない。したがって、答えは\(t=2\)のとき、すなわち
\[
x = -\log_3 2 = \log_3\frac{1}{2}
\]
である。この結果を線形関係式に代入すると\(y=\log_3\frac{3}{4}\)を得る。

問題では、真数条件をtに対して再解釈させているが、この問題に答えるには指数関数の性質を利用する。tとxの関係を
\[
t(x) = \left(\frac{1}{3}\right)^x  =3^{-x}
\]
という関数だと考えればよい。まず、負冪の指数関数は単調減少のグラフとなり、\(x\rightarrow\infty\)で0に収束する(\(t(x)\rightarrow 0\))。したがって、t(x)の上限値はxの下限\(x\rightarrow -2\)に対応するから、t(x)<9である。t(x)の下限は、収束値と単調減少性を考慮すると\(x\rightarrow\infty\)のときだから0となる。まとめると、0<t(x)<9が答えとなる。

参考のためにyでまとめたらどうなるかやってみよう。x = (y-1)/2だから、
\[
\left(\frac{1}{3}\right)^y - 11\left(\frac{1}{3}\right)^{\frac{y-1}{2}} + 6 = 0
\]
となる。一番自然な選び方は
\[
s = \left(\frac{1}{3}\right)^{y/2}
\]
だと思うので、これを採用すると、上式は
\[
s^2 - {11}{\sqrt{3}}s + 6 = 0 
\]
となり、無理数を係数にもつ2次方程式となる。この方程式は解けないわけではないが、xについてまとめた場合に比べて格段に面倒臭いのがわかる。来年の受験生なら、計算力のトレーニングのために、やり続けるのはためになるだろう。再来年以降の受験生なら、どうしてyではなく、xについてまとめた方がいいのか、その理由を考えるというのは、よい勉強になると思う。もちろん、その答えの一つが「無理数の係数が入るから」であるが、そのほかにもあるかどうか、いろいろと分析してみたらよいだろう。







2019年1月20日日曜日

センター試験の数学II:指数と対数(2)

数IIの大問1の半分は指数/対数の問題で、これらは他の分野と結合することが多い。平成26年の問題は整数の問題と結合している。

m,nは自然数。つまり、1,2,3,...という、1以上の正の整数とする。(0が入らないのがポイントで、それは対数の真数条件を満たすため。)与えられた式は
\[
\log_2m^3 + \log_3 n^2 \leqq 3
\]
という不等式で、これを満たす整数(m,n)を全部探してね、という問題だ。

最初の2つは具体例であり、こういう計算はこの問題に限らず、いつでもやってみる価値はある。具体的な計算を通して、見通しを明らかにするのである。現代数学でも、最初にコンピューターで数値計算してみて、公式や定理の傾向を掴んで定式化する方法論も取り入れられつつあると聞く。

(m,n)=(2,1)のときは、左辺が3になるので条件を満たす(等号の場合)。
(m,n)=(4,3)=(\(2^2,3\))のときは、 左辺=6+2=8なので条件を満たさない。

上の計算をやってみると、整数m,nのべきの数が不等式を成立を左右しているように見える。そこで、べきの部分を対数の中から引っ張り出してみたくなる。

\[
3\log_2 m + 2\log_3 n  \leqq 3
\]

真数条件より\(m,n > 0\)だし、そもそも\(m,n\)は自然数だから\(\log_2 m\)も\(\log_3 n\)も正数となる。したがって, \(x,y\geqq 0\)に対し、\[3x+2y \leqq 3\]のような関係式を考えるのと同じだ。

ただし、xは整数mによって決められるので、小さい順に並べると、m=1のときx=0, m=2のときx=1, m=3のとき\(x=\log_2 3\), m=4のとき, x=2,...といった感じである。しかし、3x+2y=3のx切片は1なので、m=1,2の場合のみを考えればよいことがわかる。

xと同様に、yの値も離散的になっている。小さい順にy=0(n=1), \(y=\log_3 2\)(n=2), y=1 (n=3),...となる。yが取りうる最大値は3x+2y = 3のグラフのy切片である3/2だが、y=3/2のときに対応するnはどのくらいの値になるだろうか?\(y=\log_3 n = 3/2\)をnについて整理すると\(n=3^{3/2}=3\sqrt{3}=3\cdot 1.73...\sim 5.19...< 6\)となる。つまり、nに関しては、n=1,2,3,4,5を考えることになる。

したがって、m=1,2の2通り、n=1-5の5通り、合計10通りについて不等式成立の有無を調べればよいことになる。

この問題の最初でやった具体的計算はy=0(つまりn=1)の場合に相当する。このとき不等式を満たすx軸の領域は\(0\leqq x \leqq 1\)である。\(x=\log_2 m\)だから、この領域は
\[
0 \leqq \log_2 m \leqq 1 \Longleftrightarrow \log_2 1 \leqq \log_2 m \leqq \log_2 2
\]
と表せるが、対数関数は一様増加な関数だから
\[
1 \leqq m \leqq 2
\]
と同じこととなり、mは自然数だからm=1,2となる。つまり、y=0(n=1)のときは、(m,n)=(1,1),(2,1)が不等式を満たす組み合わせである。

次にn=2の場合について考えてみたいのだが、このとき\(x=\log_3 2\)となるが、この値を記憶している人はそうはいないだろう。もしかすると\(\log_{10} 2=0.301, \log_{10} 3 = 0.4771\)を覚えている稀有な人が若干はいて、底の変換を用いて
\[
\log_3 2 = \frac{\log_10 3}{\log_10 2} = \frac{0.4771}{0.3010} \sim 1.58...
\]
と計算できる人がいるかもしれない。が、これは面倒だ。しかも、nを走らせて、対応するmを探すのは場合分けが増えてしまって手間がかかる。したがって、nの代わりにmを走らせて、つまりm=1とm=2の場合についてnを動かしながら考察する方が効率的に思える。

m=1の時、つまりx=0のとき、条件式は\(y\leqq \frac{3}{2}\)となる。 これを満たすyは上ですでに考察している。つまりm=1,2,3,4,5の5通りである。

次にm=2の時、つまりx=1のとき、条件式は\(y\leqq 0\)となるから、y=0、つまりn=1の場合に限られる。

したがって、不等式を満たすm,nの組みは(m,n)=(1,1),(1,2),(1,3),(1,4),(1,5), (2,1) の6通りとなる。

対数関数は実数関数ので取りうる値は実数全体となる。しかし、対数の引数(真数)が整数に限られる時、対数が取りうる値は離散的になり、制限が加わる。こういうタイプの計算は量子力学で見かけるので、楽しんで解いておくとよいだろう。

センター試験の数学II:指数と対数の問題

数IIの大問1は伝統的に、三角関数と対数/指数に関する問題となっている。大学の先生が一番嫌うのは、「パターン化した解法」で次々と問題を「処理」されてしまうことだ。ところが、センター試験の受験時間は短い上に、「パターン化した解法」を身につけていないと解き難い問題が時折含まれていて、受験生はこの矛盾に非常に悩まされる。時間切れの恐怖を感じずに、正々堂々と問題に取り掛かる精神力を身につけるのは並大抵ではない。

そういう面から見ると、数IIの最初の問題に出てくる「対数/指数」の問題は、純粋な対数/指数の内容だけに限って問題を作れば「易問」となる傾向がある。たとえば、平成29年の問題だ。しかし、逆に考えれば、単体で問題をつくるのは難しいので、いろいろな分野と組み合わせることが多く、「難しくなる」ことも多い。例えば、整数の問題と組み合わせたのが平成26年の問題。不等式と組み合わせたのが平成30年。グラフの対称性や逆関数の関係を問題としたのが平成28年。

したがって、数IIの対数/指数問題は、見たことのあるパターン問題ならば、最初にやりきってしまい、見たことない場合は、ちょっと解いてみて行けそうなら行く、時間がかかりそうだったら後に回して先を急ぐ、というやり方がいいのかもしれない。

まずは、対数/指数の典型的な「易問」である平成29年をみてみよう。これは底の変換を題材にした問題で、対数の中だけで問題が閉じていて、他の分野と組み合わせてはいない。ただ、底の変換の公式を忘れてしまうと手も足も出ないので、そうならないように、その場で公式を再導出できるようにしておくと安心だ。

\[
c=\log_b(a)
\]
とする。逆関数の関係を使って、指数の関係に戻すと、上の関係式は
\[
b^c = a
\]
となる。両辺を、底\(k\)の対数をとると
\[
\log_k(b^c) = \log_k(a)
\]
となるが、左辺は\(c\log_k(b)\)となるから、
\[
 c = \frac{\log_k(a)}{\log_k(b)}
\]
となって、底の変換の関係式を得る。 ■


さて、平成29年の問題I(2)を見てみよう。


A(0,3/2)があたえられ、さらに関数\(f(x)=\log_2(x)\)に対して、B(p,f(p)), C(q,f(q))が定義される。ABを1:2に内分する点がCになっているとき、p,qを決めてくれ、という問題。

内分点の座標を出す公式というのはあるはずだが、そんなのいちいち覚えてられないという人はベクトルの代数で再導出するとよい。

内分点は\(\vec{AB}\)の上にあり、点Aから見て1/3の場所だというから、\(\frac{1}{3}\vec{AB}\)である。ただし、これは点Aから見た場合であって、座標というのは原点Oから見た場合の位置ベクトルなので、\(\vec{OC}\)を計算する必要がある。Aから見た場合とOから見た場合は、\(\vec{OA}\)だけのズレがあるので、
\[
\vec{OC} = \vec{OA} + \frac{1}{3}\vec{AB}
\]
である。\(\vec{AB}=\vec{OB}-\vec{OA}\)なので、内分点の公式が手に入るというわけだ。物理では力の合成などの計算でこの手の計算はよく出てくる。

この計算により\(\vec{OC} = (\frac{1}{3}p, \frac{1}{3}\log_2 p + 1)=(q,\log_2 q)\)という結果はすぐにわかる。qとpに関する2つの関係式が、これにより手に入ったので、連立方程式を解いてp,qを決めることができる。対数や指数の問題を、連立方程式にするタイプの問題は結構よく出題される(たとえば平成27年もそう)。

通常の一次式の連立方程式は、足し算、引き算が問題となるが、対数や指数では、足し算が掛け算に、引き算が割り算へと変換される、という特性がある。たとえば、\(e^x e^y = e^{x+y}\)とか、\(\log(x/y) = \log x - \log y\)とかいう性質である。

今回は対数から真数への対応を考えるので、足し算/引き算から掛け算/割り算への変換を考えることになる。 たとえば、y座標に関する条件は
\[
\frac{1}{3}\log_2 p + 1 = \log_2 q
\]
だが、足し算/引き算→掛け算/割り算の関係を用いて、上式を単項式にすることができる。そのとき、真数は「掛け算/割り算」でまとまっていくことに注意。
\[
\log_2\left(\frac{p^{1/3}\cdot 2}{q}\right) = 0
\]
となる。この条件式と、x座標の条件式を組み合わせると答えが出てくるが、最後の最後にいやらしい計算問題が待ち構えている。数値計算である...

この問題のいやらしい点は、底の変換をやらせるところである。ここまでの計算は2を底とした対数でやらせておいて、最後は常用対数で計算させるというのである。こういう計算は、関数電卓が存在する現代ではもうやる必要はないはずだが、有効数字を理解させるとか、そういう目的で入っているのかもしれない。にしても、データが小数以下4桁の制度まで書いてあって、計算は小数以下2桁で行えというのは、つじつまがあわない。センター試験でこういう問題を出すのはもう時代遅れではないか?

物理では、対数ー対数グラフとか、片対数グラフというのを、実験の分析などでよく利用したものだ。(gnuplotではset logで利用できるし、PCやmacのソフトを使って実験データを整理すれば、対数グラフのノートはもう必要ないのかもしれないが、もしかすると大学の生協にはまだ売っているかもしれない。)

物理量として非常に大きな値が観測値として出てくるものに関しては、対数に変換してから相関を見るという手法は物理でよく用いる。最初に思いつくのは、磁気ボーデの法則だ。惑星の自転による角運動量と、惑星の磁場の強さについて、それぞれの対数をとってプロットすると、火星と金星を除いて直線上に乗るという相関が見られる。(どうして「火星と金星を除き」なのかという問題は、現代の天文学にとって大きな問題であり、まだ完全には解明されていない。実際、昨年末に火星に着陸したNASAのInSightは、この特異性を解明するために派遣された。)

2019年1月19日土曜日

センター試験の数学II:相加相乗平均

センター試験の時期となった。今年も面白い問題がいろいろと出てくることを期待したい。

まずは、センター試験で時々出題される「相加相乗平均」の関係式
\[
 \frac{a+b}{2} \geqq \sqrt{ab}
\]
について復習しておこう。例えば、平成27年に出題されている。

等号が成立する条件、すなわち相加平均の最小値、も合わせて記憶しておかねばならないが、それは\(a=b\)の時である。どうして\(a=b\)のときに等号が成り立つかというと、それは証明をみれば明らかとなる。

[よくある証明]

\(a,b>0\)に対し、
\[ \left(\sqrt{a}- \sqrt{b}\right)^2 \geqq 0 \] は常に成立する。当然、等号が成り立つのは\(a=b\)の時に限られる。左辺を展開すると\(a+b-2\sqrt{ab}\)となるが、最後の項を右辺に移項して両辺を2で割れば、相加相乗平均の式となる。■

正の数が3つに増えた場合、すなわち
\[
\frac{a+b+c}{3} \geqq \left(abc\right)^{1/3}
\]
も成り立ち、等号はこの場合も\(a=b=c\)のとき成り立つ。

さらに、\(n\)この場合にも成立し、等号はこのときも\(a_1=a_2=\cdots = a_n\)のとき成り立つ。
\[
\frac{1}{n}\sum_{i=1}^n a_i \geqq \left(\prod_{i=1}^n a_i\right)^{1/n}
\]

\(n=3\)の場合の証明、さらには帰納法を使った一般の場合の証明の例は、こちらの論文で確認できる。

さて、平成27年の問題において、相加相乗平均の公式を忘れてしまったとしても、普通に微分すれば答えは出ることを確認しておこう。

\(x=2^{-3}a^{-2}, y=2^2a^2\)の場合、\(a>0\)を動かした時に、\(x+y=f(a)\)の最小値を見つける問題だ。相加相乗平均の公式を適用するときは、\(xy=2^{-1}\)を計算しておけばよい。積を計算すると、\(a\)に依存する部分が相殺するのがこの問題の「うまい」ところだ。これにより計算は簡単となって、\(x+y\)の最小値は\(2/\sqrt{2}=\sqrt{2}\)とあっという間に求まる。最小値となるのは\(x=y\)のときなので、
\[
 2^{-3}a^{-2} = 2^2a^2
\]
を\(a\)について解けば、\(a=2^{-5/4}\)を得る。

この問題を解くだけなら、こういう「幸運」にすがってもよいのだろうが、実際の研究においてこんなうまいことばかりが起きるとは限らない。
\[
f(a) = x + y = 2^{-3}a^{-2} + 2^2a^2
\]
を\(a\)の関数だと思って、\(a>0\)の領域で\(f(a)\)の最小値を計算してみる。まず微分すると、
\[
\frac{df(a)}{da} = -2^{-1}a^{-3}+ 2^3a
\]
となる。したがって、\(df(a)/da=0\)の解を求めると\(a=\pm 2^{-5/4}\)を得る。増減表を丁寧に作れば、\(a=2^{5/4}\)のときに極小値を得る。最小値かどうかは\(a\rightarrow 0\)の時の\(f(a)\)の振る舞いで決まるが、
\[
\lim_{a\rightarrow 0} f(a) = +\infty
\]
なので、極小値は最小値であることがわかる。したがって、\(x+y\)の最小値\(f(2^{5/4})=\sqrt{2}\)を得る。

上で見たように、掛けると指数部分が相殺して0となるようにしておけば、微分積分をするよりも、相加相乗平均の公式の方が簡単に求まる。とすると、次のようなタイプの関数の最小値は相加相乗平均で求まるということだろう。

\[
f(x)= c_0 x^{n} + c_1x^{-n}
\]

ただし、相加相乗平均の公式を使うときは、初項と第二項が正値のときに限られることには注意しないといけないので、例えば\(x>0, c_0, c_1>0\)のとき、最小値は
\[
x_0=\left(\frac{c_1}{c_0}\right)^{\frac{1}{2n}}
\]
のときで、\(f(x_0) = 2\sqrt{c_0c_1}\)となるが、この結果は微分しても、相加相乗平均でやっても同じ結果だ。

指数関数の場合もいけるだろう。

\[
g(x) = d_0 \exp(x) + d_1\exp(-x),
\]
 ただし\(d_0, d_1 > 0\)とする。

こういうタイプの関数は(1次元の)量子力学の計算で出てきそうな感じがする。実例はいまのところ思い浮かばないが、出くわしたら追記に書いておこう。

面白いのは、正負のべきが対称的に含まれる多項式の最小値は、一般の相加相乗の公式で簡単に求まるはずだ。例えば、
\[
 f(x) = 2x^3 + 3x^2 + x + 3 + 2x^{-1} + x^{-2} + 2x^{-3}
\]
という関数の最小値は、相乗平均により\(2\cdot 3 \cdot 1\cdot 3 \cdot 2 \cdot 1 \cdot 2=2^3\cdot 3^2\)の7乗根に7を掛けたものとして求まるのだろうか?