2013年2月23日土曜日

オイラーの公式:n重根の表現

前回の問題で、αm=1の実数解は1(あるいは−1)であることを利用した。実際、x2=1の解はx=±1であり、それ以外にはない。

 ではx3=1はどうか?x=1は自明な解である。(一般に、ベキ数が奇数のときは、x=-1は解とはならない。)しかし、他には解はないのだろうか?答えはYes and Noである。もちろん、実数解に限れば、x3=1の解はx=1以外にはない。しかし、複素数も含めば、x=1を含めて全部で3つの解が存在する。

 実は、xn=1の解は一般にn個ある。しかし、この場合の解は虚数解も含んだ上での話だ。たとえば、2次方程式の「解」の個数は判別式の値によって変わると高校では習う。判別式をDで表すとすると、D>0のときは2つの解が、D=0のときは一つ(重解)、そしてD<0のときは解無し、などと教わる。しかし、これは実数解の数の話であって、虚数解も許すならば、2次方程式の解の個数は、判別式の値に関わらず、必ず2つある。

xn=1を解くにはどうすればよいか? 答えは、オイラーの公式を使うのだ。

オイラーの公式は、指数関数と三角関数を統一する公式で、これを利用すると様々なことが導出できる素晴らしい公式だ。物理学でも非常に重宝するし、必須の基礎知識の一つだから、よく理解しておく必要がある。とはいえ、その内容は非常に簡単で、
式(1)
たったこれだけの式なのに、その威力はすさまじい。ちなみに、exp(iθ)=eのことであり、iは純虚数(i2=-1)。

大学に入って、解析学の授業で(あるいは物理の力学の授業かも)解く練習問題の一つが、三角関数の加法定理の証明だ。高校までの知識、つまりオイラーの公式を使わずに証明すると、幾何学などに頼った面倒くさい証明になるが、オイラーの公式を使えば、機械的に「瞬殺証明」が可能だ。exp(iA)exp(iB)=exp(i(A+B))という恒等式が出発点。これは、指数関数の「基本性質」で、とても重要な恒等式だ。この両辺に、オイラーの公式を代入すれば、cos(A+B)=cos(A)cos(B)-sin(A)sin(B)と、sin(A+B)=sin(A)cos(B)+cos(A)sin(B)とが同時に証明できる。前者は指数関数の「基本性質」の恒等式において実数部分の等式に、後者は虚数部分の等式に相当している。

物理においては、例えば、極座標表示でオイラーの公式が利用されるのがよく見られる。例えば、二次元平面中の点(x,y)を表すのに、(r cosθ, r sinθ)と表す事ができるが、これを極座標表示という。(厳密には、(x,y)→(r,θ)という座標変換に相当するが、幾何的にx=r cosθ, y= r sinθという関係が簡単に得られるので、三角関数も含めて「極座標」と見なすケースが多い。)x,yを別々に扱わず、z=x+iyと複素表示すると、z=r exp(iθ)となる。円形の物体の記述など、極座標に基づいた複素表示により考えている物理の問題を簡単にしてくれる場合がある。

さて、n重根の問題に戻ろう。例として、3重根を扱って見よう。x3=1である。実数解はx=1の一つのみ。しかし、上述したようにこの方程式の解は、複素解も含めば全部で3つあるはずだから、残りの2つは複素数になると思われる。方程式をちょっとだけ書き直すと、x3-1=0となる。左辺は因数分解が可能で、(x-1)(x2+x+1)=0となる。x=1が解であることは、この変形により明瞭にわかる。残りの2つの解は、明らかに左辺の右側因子である2次式の解になっているはずだ。判別式を計算すると、D=1-4=-3<0となるから、解は複素数となり、複素共役の2つが解となっていることがわかる。解の公式を用いると、x= (-1±i√3)/2となる。この答えをよく見ると、x= (-1/2) ± i (√3/2)となっているから、実はx=cos(2π/3)±i sin(2π/3)になっていることがわかる。これはオイラーの公式を用いれば、x=exp(±2πi/3)と書く事ができる。-2π/3 ≡  4π/3 (mod 2π)であること、さらに、1=exp(0)であることを利用すれば、今考えている3次方程式の解は、x=exp(2πni/3)、ただしn=0,1,2、とまとめることができる。

この例をもとに考えれば、xn=1のn個の解が、系統的にx=exp(2πki/n), k=0,1,2,...,n-1と書けることは簡単に推測できるだろう。それぞれの解をガウス平面(複素平面)にプロットすれば、正n角形が浮かび上がる。n乗根というのは、オイラーの公式風に考えれば、expの「角度」の1/nなのだ。よって、解がn個あり、それが正n角形になるのは、ある意味「当然」のことになる。

東大にせよ、京大にせよ、xn=1を扱わせる問題はたくさん出題されているようだし、物理でもよく扱うオイラーの公式のよい練習問題になっているので、式(1)はしっかり頭にいれておいて損はない。

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