2013年2月28日木曜日

阪大2次試験(2013):問題1

大阪大学(2013)の問題1。
limh→0 sin(x)/x = 1であることを示し、sin(x)の導関数がcos(x)であることを証明せよ。
結構おもしろそう。

物理の入試問題を見ていると、あちこちの大学で結構頻繁に「θは小さいものとして、sinθ〜θと近似してよい」というただし書きが添えられているのを見かける。この近似も、上の極限値問題も、テイラー展開というものに関連していることは、高校生でも知っておくべきだろう。理論物理学をやる立場からすれば、古代ギリシアの幾何学に頼った証明なんかより、解析学や線形代数の観点から、この問題に対処すべきだろう。

テイラー展開というのは、関数f(x)をx=0の周辺でベキ展開する解析法のことだ。大学に入ったら解析学の講義で真っ先に習う(もしかしたら、物理の講義で最初に習う人もいるかも)。それだけ、物理をやる上で大切な数学手法のひとつだ。 収束の問題とか、数学的には細かいところまで気にしないといけないだろうが、物理や工学で使う「道具」としては、まず概念の概要を掴むのが大切なので、数学的には粗い議論だとは思うが、テイラー展開とは何かについて、直感的な説明をしてみる。(テイラー展開の理論でも、ベクトル空間や一次独立の基底など、といった概念は必要になる。そして、それは量子力学の波動関数の数学的な扱いなどへと発展していく。関数が「無限次元のベクトル」だという認識を知った時、結構驚く学生はいるのではないか?)

ある変数xのベキ乗項xn, n=0, 1, 2, 3....を考える。これをあたかも「一次独立なベクトル」のように考えて、この「ベクトル」が形成する「ベクトル空間」に含まれる「任意のベクトル」を線形結合で表すことを考える。この「任意のベクトル」というのが、関数f(x)に相当する。nは0から始まって∞まで続くから、もしそれぞれのベキ乗項が「独立」ならば、このベクトル空間は「無限大次元」ということになる。独立だと仮定してやると、「任意のベクトル」であるf(x)を、「独立なベクトル(つまり基底)」xnによって線形結合で表すことができるから、f(x)=Σn=0 (cnxn)とかくことができる。これがベキ級数展開と呼ばれる展開法だ。

c0を求めるには、x=0を代入すればよい。もちろん、c0=f(0)となる。c1を求めるときはどうしたらよいか?それには、f(x)を一回微分してからx=0を代入すればよい。c0は定数項だから微分によって消える。一方、一次の項は(x)'=1だから係数だけになる。二次以上の高次項にはxが残るから、x=0を代入することで消えてしまうというわけだ。こうして、c1=f'(0)を得る。このようにして、順に展開係数を求める事は可能で、cn=f(n)(0)/n!となる。f(n)(x)はn階微分を意味する。この結果をベキ級数展開に入れた結果を、テイラー展開と呼ぶ(正確にはマクローリン展開という。展開をx=0の周りに行っているからだ。一般のx=h周りのベキ級数展開をテイラー展開という。だから、マクローリン展開はテイラー展開の一種とみなすこともできる)。

試験会場では、こういう事をぐたぐたと答案に書く訳にはいかないが、三角関数は無限回微分可能であり、ベキ級数展開の展開係数が高階微分によって表されることを述べて、「三角関数はベキ級数展開可能だ」と一言断っておけば、採点官は文句は言わないだろう。

とはいうものの、三角関数の冪級数展開で議論を始めると、最後に定数項の決定で困る事になる。そこで、より扱いが楽な指数関数のベキ級数展開をまず調べておいてから、オイラーの公式によって、三角関数に議論を橋渡しすることにする。

まず、f(x)=exp(x)とし、上で議論した様に冪級数展開する。
式(1)
まず、この式にx=0を代入する。exp(0)=1だから、c0=1を得る。次に両辺を一度微分する。exp(x)の微分は自分自身、つまりexp(x)のままだから、
式(2)
またx=0を代入すると、c1=1を得る。このように、微分を何度も計算し、その度にx=0を代入する事で、展開係数cnは次々と求まる。それは、cn=1/n!となる。こうして、
式(3)
を得る。これは指数関数のテイラー展開(マクローリン展開)に他ならない。

最後に、x=iθを上の展開式に代入する。すると、実数項と虚数項が交互に現れる級数になる。
式(4)
左辺にオイラーの公式を適用すると、右辺の実数部分はcosθに対応し、虚数部分はsinθに対応することがわかる。よって、sinとcosのテイラー展開は次のようになることがわかる。
式(5)
この段階で、sin(x)の微分はcos(x)になり、cos(x)の微分は-sin(x)になることは、右辺のベキ級数展開の部分を項別微分したものを比べれば明らかとなる。(とはいえ、数学的には無限級数の場合の収束については慎重に議論を進める必要があるのだが...)

このテイラー展開を利用すると、sin(x)/xのx→0の極限値が1であること、そして(1-cos(x))/xのx→0の極限値が0であることなどは簡単に証明できてしまう。

しかし、問題文の書き方からすると、テイラー展開によってsin(x)の微分がcos(x)になっていることを証明しても点はもらえないので、とりあえずテイラー展開によって
式(6)
であることを示し、x→0で右辺が1に収束することを証明する。つまり、lim(sin(x)/x)=1を証明したとここで宣言しておく。次に(不自然だが)、微分の定義式から {cos(x+h)-cos(h)}/hの極限値(h→0)を考察する。cos(x+h)=cos(x)cos(h)-sin(x)sin(h)であることを利用すると、{cos(x+h)-cos(h) }/h = cos(x)  {cos(h)-1}/h + sin(x) sin(h)/hを得る。初項は0になり、第二項が残るのでcos(x)の微分はsin(x)だということになる。

これなら文句は言えまい。もちろん、オイラーの公式は大学に入らないと習わない...が、それに目をつぶれば、満点近くもらえるはず。

0 件のコメント:

コメントを投稿