式(1) |
また、前回の考察で、2次元のベクトル空間では、一次独立なベクトルは最大2つまで選べることを学んだ(理由についてはまだ見ていないが)。まず、最初の一つ目をx0とした。最初のベクトルは必ず「一次独立」にとることができる、つまり「自明な候補」だ。問題は2番目以降のベクトルだ。2次元の場合は、2番目のベクトルが最初で最後の「非自明な一次独立候補」となる。この問題では、x1とx2が確実にx0と異なるベクトルだという設定なので、この2つが非自明な一次独立なベクトルの自然な候補となる。仮にx1が2つめの一次独立なベクトルだとしてみよう。
2次元空間において、2つのベクトルが「一次独立」であるということは、幾何学的に考えると、「平行ではない」ということだった。ということは、2つのベクトルはある角度を成して三角形を形作ることになる(ベクトルの始点と終点を結ぶ)。下の図を参照してもらいたい。
2つの「一次独立」なベクトルA,Bと その「和」A+B、がつくる平行四辺形。 |
ここまでの議論を踏まえて、列ベクトルx0とx1を横に並べて行列Uを作る事にする。つまり、
式(2) |
式(3) |
行列と列ベクトルの積の計算では、行列の「行」成分と、列ベクトルの「列」成分の積和(内積に似た演算)をとるから、AmU=(Amx0 Amx1)と書ける。これらのベクトルは固有値方程式、式(1)を満たすから、AmU=(Amx0 Amx1)=(x0 x1)=Uとなる。両辺に右からUの逆行列をかけると、AmUU-1=UU-1、すなわち、Am=Eとなる。つまり、式(3)で与えられたベクトル2つが一次独立ならば、Amは単位行列になるしかないのである。つまり、固有値方程式のように見えた式(1)は、ただの恒等式に成り下がるのである。
まとめると、2次元ベクトル空間において、ある行列Aの固有値が重解となり、その固有値に対応する2つのベクトルが一次独立ならば、この行列Aは単位行列になってしまう、という結論になる。この証明は、n次元の場合にも簡単に拡張できる。一般に、n次元ベクトル空間で、与えられたn次元正方行列がn個の重複固有値を持ち、その固有値に対応するn個の固有ベクトルがそれぞれ一次独立ならば、与えられた行列は単位行列以外にはあり得ない、という定理が成立する。
ところで、京大の試験問題を完全に解き切るには、一次従属の場合も考察しておかなければならない。というのは、高校の数学ではx0=x1の場合だけを「等しいベクトル」と呼ぶからだ。つまり、もしx0=2x1などのように比例関係(幾何的には「平行関係」)にある場合、それらは「異なるベクトル」と見なされる。ということで、x0=αx1(αは1ではない)という関係が成立する場合も、Am=Eが導けることを示す必要がある。続きで、その議論を展開する事にしよう。
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