2018年3月8日木曜日

阪大2018問題3(2):グラフの対称性を利用する

(2)では、グラフの対称性をネタに問題が作られている。

\(0 \leqq t_1<  t_2 \leqq \frac{\pi}{2}\)かつ、\(f(t_1)=f(t_2)\)が成り立つとき、\(g(t_1)^2 - g(t_2)^2 >0\)が成立することを示せ。
tの範囲を気にしないで、ぐるぐる回せばCは3回対称な図形になることは(gnuplotさえ使えれば)すぐにわかる。ただ、この問題ではtの範囲が0からπ/2までなので、図形の一部を考えなくてはならない。

φが0から2π/3まで変化するとき、(x,y)はx軸上の点(-3,0)から、「棘の張り出し」に相当する点\((3/2, 3\sqrt{3}/2)\)まで滑らかに変化する。これをθ(つまりt)の範囲に直すと、-π/2からπ/6までに相当する。tは0からなので、この範囲ではまずい。t=0のとき、φ=π/2であるが、この点に対応するのが(1,2)である。

次は、φが2π/3から4π/3まで変化するときであるが、このときは点\((3/2,3\sqrt{3}/2)\)から、x軸に線対称な点\((3/2,-3\sqrt{3}/2)\)まで滑らかに変化する。この範囲はtでいうとπ/6から5π/6であるが、tはπ/2までであるから\(\frac{\pi}{6} \leqq t \leqq \frac{\pi}{2}\)である。t=π/2というのはφ=πの点で、x軸上の点(1,0)に相当する。

まとめると、\(0\leqq t \leqq \frac{\pi}{6}\)において(これを領域Iと呼ぼう)、Cは点(1,2)から点\((\frac{3}{2},\frac{3\sqrt{3}}{2})\)まで滑らかに変化する単調増加なグラフである。一方、\(\frac{\pi}{6}\leqq t \leqq \frac{\pi}{2}\)では(これを領域IIと呼ぼう)、Cは点\((\frac{3}{2},\frac{3\sqrt{3}}{2})\)から点(1,0)まで滑らかに変化する単調減少のグラフである。2つの領域を同時に考えると、\(1\leqq x \leqq \frac{3\sqrt{3}}{2}\)の領域でy=y(x)は二価関数となる(つまり、y=f(x)を考えた時、同じxに対して異なる2つのyの値が対応しているということで、グラフで考えるとx軸に対する垂線がyのグラフと異なる2箇所で交点をもつということ)。ただし、yやxをtの関数と見なせば、それぞれは一価関数である(同じxでも\(x=f(t_1)=f(t_2)\)となって、異なるtになっているということ)。

領域Iと領域IIをグラフで観察すると、その形から常に\(g(I) > g(II) > 0\)が成立しているのがわかる。 したがって、\(g(I)+g(II) > 0\)は自明であるので、上の関係を用いると\[\left\{g(I)+g(II)\right\}\left\{g(I)-g(II)\right\} > 0\]が成り立つのは自明である。領域Iと領域IIはtの立場からすると、\(t_1\)が属するのが領域I, \(t_2\)が属するのが領域IIであるから、題意は証明されたといってよい。つまり、\(f(t_1)=f(t_2)\)という条件は、Cの「二価性」から, \(t_1\)はIに、\(t_2\)はIIに属し、両者が同じ領域に属することはないことを保証する条件に相当している。この部分が読み取れれば、証明の残りの部分はまさに自明なのである。

ここまでくれば、(3)は簡単、と書こうと思ったが、この問題は実によく練られていて、まだ油断ができない。計算すべきは領域Iにおけるy(t)とx軸の間の面積から、領域IIにおけるy(t)とx軸の間の面積を引いたもの(差)である。したがって、
\[\begin{eqnarray}S &=&\int_1^{\frac{3\sqrt{3}}{2}}ydx - \int_1^{\frac{3\sqrt{3}}{2}}ydx \\ &=&\int_0^{\frac{\pi}{6}}g(t)\frac{dx}{dt}dt - \int^{\frac{\pi}{6}}_{\frac{\pi}{2}}g(t)\frac{dx}{dt}dt \\
&=&\int_0^{\frac{\pi}{6}}g(t)\frac{dx}{dt}dt +\int_{\frac{\pi}{6}}^{\frac{\pi}{2}}g(t)\frac{dx}{dt}dt \\
&=&\int_{0}^{\frac{\pi}{2}}g(t)\frac{dx}{dt}dt \end{eqnarray}\]を計算すればよい。

ここで変数変換のために導入した\(dx = \frac{dx}{dt}dt\) という関係式だが、これはニュートンの微分記号x'に比べて、ライプニッツの微分記号dxの方が強力であることを示す、有名な一例である。ニュートンの記号は、計算における筆記量を削減してくれるので「便利」ではあるが、微分演算が通常の割り算や代数演算に従って変形できる性質を持つことを示してはくれないので発展性の観点からは「不便」なのである。また、ニュートンがy'とかy''という記号を導入したのは、力学では2階微分までしか計算しないからであった(運動方程式は2階微分方程式なので、それ以上の高次の微分は計算しなくてよいのである)。ライプニッツは、実用的な運動方程式のみならず、より一般化した「力学」への発展を考えていたのかもしれない。そこでn階の微分が記述できる\(d^n/dx^n\)という記法を導入したのであろう。

さて、もとの計算に戻ると、xの微分、つまりfの微分は\(2\cos t - 2\sin 2t\)であるから、被積分関数は\[\begin{equation}g(t)\frac{df(t)}{dt}=2(2\cos t  + \sin 2t)(\cos t - \sin 2t)\end{equation}\]である。これを展開するとかなり面倒な形となる。因子2を除いて計算すると
\[ \begin{equation} 2\cos^2 t -2\sin t \cos^2 t - 4 \cos^2 t ( 1-\cos^2 t) = -2\sin t \cos^2 t  -2\cos^2 t + 4\cos^4 t\end{equation}\]
初項は\(k=\cos t\)と置換することで簡単に積分でき、\(\frac{2}{3}\cos^3 t\)となる。第二項は倍角の公式を使って\(-2\cos^2 t = -1-\cos 2t\)と変形すればよく、その積分は\(-t -\frac{1}{2}\sin 2t\)となる。最後の項は、\(4\cos^4 t = 4\left(\frac{1+\cos 2t}{2}\right)^2 = 1 + 2\cos 2t + \cos^2 2t\)であるが、\(\cos^2 2t = (1+\cos 4t)/2\)であるので、これを代入すると、\(\frac{3}{2} + 2\cos 2t +\frac{1}{2}\cos 4t\)である。その積分は\(\frac{3}{2}t +\sin 2t +\frac{1}{8}\sin 4t\)となる。以上の結果をまとめると
\[\int_0^{\frac{\pi}{2}} g(t)\frac{f(t)}{dt}dt = \left[\frac{4}{3}\cos^3 t +t + \sin 2t + \frac{1}{4}\sin 4t\right]_0^{\frac{\pi}{2}}=\frac{\pi}{2}-\frac{4}{3}\]
を得る。

それにしても、ここまでの計算は、「見てはならないもの(グラフの概形)」を見たから たどり着けたようなものである(鶴の恩返し?)。(gnuplotに頼らず)グラフの概形を簡単に得る方法はあるのだろうか?また、積分の計算をもう少し簡単に行う方法はあるのだろうか?

この辺りが、これからの課題であろう。

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