この問題でも、(x,y)が作る軌跡を考えることになるのだが、そのパラメータ表示がフーリエ級数展開もどきに見えるところが、ちょっと面白い。
\[ x=f(t) = 2\sin t + \cos 2t, \quad y=g(t) = 2\cos t + \sin 2t\]で与えられる曲線Cを考えようという問題である。ただし問題ではtに範囲が付いていて\(0\leqq t \leqq \pi/2\)となっているが、曲線Cの本当の「美しさ」を楽しむためにはtは2πまで回した方がいい。gnuplotで描画してみると、次の図のようになった。
正三角形を内側に凹ませたような図形である。多分、頂点と頂点の間の角度は120度になっているのであろう。このような「離散回転」がもつ対称性は、結晶の構造などの分析で重要になる。今考えている図形の場合は「三回対称性」を持っている。数学的には、点群の中の巡回群というものに相当する概念によって取り扱うことができる。
この図形で気になるのは、頂点の位置である。そして、対称の軸や点はどこにくるのか、そしてこの図形の面積である。試験中はgnuplotが使えないから、手計算だけで分析を進めていかなくてはならないのが辛いところだ。(出題者はこの形を知った上で問題を出しているから、すごく不公平に感じる....まあ、入試とはそういうものである。)
まずは、図の概形を知らぬふりをして、この問題を解いてみよう。
(1) f(t)とg(t)の最大値を求めよ。ただし、\(0\leqq t \leqq \frac{\pi}{2}\)
この小問は、図形Cが閉曲線になっているので、その存在範囲を調べよ、ということである。この情報は、面積を求める時の積分範囲に相当するから重要である。東大2018(問5)では、\(Q(u)=2z - z^2\)という式が出てきた。これをベクトル風に書くと
\[ \left(\begin{array}{c}x\\y\end{array}\right) = 2 \left(\begin{array}{c}\cos\theta\\ \sin\theta\end{array}\right) + \left(\begin{array}{c}\cos 2\theta\\ \sin 2\theta\end{array}\right)
\] である。一方、阪大のこの問題では右辺第一項に対応するところで、正弦と余弦がひっくり返った形ににはなっているが、ほぼ同じような形式である。正弦と余弦をひっくり返すには位相をπ/2だけずらせば良い。つまり、阪大の場合は
\[ \left(\begin{array}{c}x\\y\end{array}\right) = 2 \left(\begin{array}{c}-\cos(\theta+\frac{\pi}{2})\\ \sin(\theta+\frac{\pi}{2})\end{array}\right) + \left(\begin{array}{c}\cos 2\theta\\ \sin 2\theta\end{array}\right)
\]である。
問題ではθはtと書かれているので、tを時間(time)とみなすことにしよう。力学的に表現すれば、第一項は、周期が2π(振動数が1)の調和振動(単振動)であり、第二項は周期がπ(振動数が2)の調和振動を表す。つまり、周期の異なる2つの調和振動子の線形合成(重ね合わせ)であるから、フーリエ級数の一番簡単な場合に相当する。
角度依存性が第一項と第二項で異なっているのは、見通しが悪いので、統一してしまおう。すなわち、上式を書き直して、
\[ \left(\begin{array}{c}x\\y\end{array}\right) = -2 \left(\begin{array}{c}\cos(\theta+\frac{\pi}{2})\\ -\sin(\theta+\frac{\pi}{2})\end{array}\right) -\left(\begin{array}{c}\cos 2(\theta+\frac{\pi}{2})\\ \sin 2(\theta+\frac{\pi}{2})\end{array}\right)
\]とする。θ+π/2=φと置けば、この形式は東大の問題と(第二項の符号を除いて)よく似た形となる。すなわち、複素数表示で\(C(z)=-2z^*-z^2, z=e^{i\varphi}\)と表せる。
さて、我々は曲線Cの概形を知らないふりをしていても、やはりもう知ってしまっているのであるから、C(z)の絶対値を計算してみたくなるのである。ここから、最大値についての情報は手にはいるであろう。\[ |C(z)|^2 = |(-2z^*-z^2) |^2 = (-2z^*-z^2)(-2z^*-z^2)^* \\ = 4|z|^2+2(z^3*+(z^*)^3)+|z|^4 = 5+2(z^3+z^{*3})\]となる。|z|=1であることを利用した。最後の結果で、3次式(3次の多項式)になっているのがポイントである。ここから、冒頭で観測した「3回対称性」が出てくるのである!
このことをよりよく見るためには、極座標表示を代入して見ると
\[|C(z)|^2 = 5 + 4\cos 3\varphi\]という形を得る。最大値は\(3\varphi= 2k\pi\)のとき\((k=0, \pm 1, \pm 2, \cdots\))で、その値は9、すなわち\(|C(z)|\)の最大値は3である。図を見ると、これは正しいことが確認できる。つまり、\(\varphi=0, \pi/3, 2\pi/3\)の3点で最大値を周期的にとるのである。
面白いことに、\(\varphi=0\)の点は(x,y)座標では(-3, 0)に相当する。これは\(C(z)=-2z^*-z^2\)の負の符号によるものである。また、\(\varphi=2\pi/3\)の点は\((\frac{3}{2},\frac{3\sqrt{3}}{2})\)である。そして\(\varphi=4\pi/3\)の点は\((\frac{3}{2},-\frac{3\sqrt{3}}{2})\)となる。つまり、φの増加(反時計回り)に対して、対応する図形上の点(x,y)は時計回りに動いていく。これは\(2z^*\)の効果である。一方、\(z^2\)は時計回りに動いていくが、振幅(つまり絶対値)が、初項の2に比べて半分しかないため、その効果は半減する。しかし、両者の位相が一致した時に、干渉のように大きな重ね合わせが発生し、図でみるような「棘の張り出し」のような形になるのである。
出発点から、\(2z^*\)の点は時計回りに角速度1でまわり、\(z^2\)の点は反時計回りに角速度2で回る。時間をtで表すと、時間tにおける両者の角度は\(\varphi_0(t)=t, \varphi_1(t)=-2t\)と表せる。両者の角度の差は\(\varphi_0(t)-\varphi_1(t) = 3t\)だが、これが0となるときに上述した「干渉」が起きて、「棘の張り出し」が発生する。角度の差が0と書いたが、一般角に拡張すると、差が2πの整数倍のとき(つまり周回遅れのような状況)も角度は一致する。したがって、\(3t=2n\pi\)のときに「干渉」が発生する。これが、3回対称性の(力学的考察に基づく)起源である。
(1)の答えは、当然「干渉」に相当するときである。計算を逆に辿って、干渉発生時のθを求め、その場合のxの値とyの値を書き出せば良い。ちなみに、「逆干渉」の場合、つまり、振幅の符号が正反対になる場合の条件を調べれば、そこが原点からの距離の最小値、つまり図形の凹んだところ、がもとまるはずである。 干渉とか、逆干渉とかいう概念は波動力学、ひいては量子力学でも出てくるから、理論物理を目指すなら、よく慣れておいたほうがよいだろう。
以上は、図形の形がわかってしまった前提で解く方法だが、図形の概形を知るのは結構面倒である。図形を知らずにこの問題を特にはどうしたらよいだろうか?次の課題としたい。
0 件のコメント:
コメントを投稿