(1)と(2)は簡単に解けるのでさっそく取り掛かってみよう。注意:「簡単に解けるから重要ではない」というのは間違いである。簡単に解けるが数学の本質を捉えた重要な問題もある。それがこの問題である。
座標空間に6点A(0,0,1), B(1.0,0), C(0,1,0), D(-1,0,0), E(0,-1,0), F(0,0,-1)を頂点とする正八面体ABCDEFがある。\(s, t\)を\(0<s<1, 0<t<1\)を満たす実数とする。P,QはAB, ACを\(1-s:s\)にそれぞれ内分する点とし、R,SはFD, FEをそれぞれ\(1-t:t\)に内分する点とする。
(1)4つの点P,Q,R,S が同一平面上にあることを示せ。(1)が特に重要である。ベクトル空間の線型独立や線型従属を理解しているかどうかを問う問題であり、これがきちんと書ければ(予備校や高校の教科書が提供するような解答法ではない)、大学の線形代数の最初の関門はすでに乗り越えたと思ってよいだろう。
(2)PQの中点をL、RSの中点をMとする。\(s,t\)が問題で与えられた範囲を動くとき、線分LMの最小値mを求めよ。
まず、(数学上の)3次元ベクトル空間を、(物理的な)実際の3次元空間と一致させることができるのは自明としよう。3次元ベクトル空間に属する任意のベクトルは、一次独立な3つのベクトル(基底という)の線型結合で表すことができる。線型独立の正確な定義は大学の線形代数で習うのでここでは飛ばすが、高校生の段階では「互いに直交する3つのベクトル」程度の理解から始めればよいと思う。(そのうち、直交する必要がないことは自然と理解できるであろう。)
2次元空間、すなわち平面においては、次元が1つ下がるので、一次独立なベクトルの数、すなわち基底の数は2つに減る。一次独立を理解する最初の一歩は、「直交する2つのベクトル」になるわけだが、2次元空間なら「非直交な基底」のイメージがしやすいだろうから、ここで簡単に述べておく。そもそも、(1)を解くにも非直交な基底の理解は必要になる。それは、平行でない2つのベクトルの組みのことである。例えば、\(\vec{PQ}\)と\(\vec{PR}\)は一次独立である。デカルト座標系で計算してみるとすぐにわかると思うが、この2つのベクトルは平行でないからである。
3点P,Q,Rが決まると、P、Q、Rを通過する平面が決まる。この平面の基準点(つまり原点に相当するもの)としてPを選ぼう。「この平面内にある任意の点Xに対応するベクトル \(\vec{PX}\)は、この平面に相当する2次元ベクトル空間の基底2つの線型結合で表せる」というのが、線形代数の重要な定理の1つである。上で見たように、この基底として\(\vec{PQ}\)と\(\vec{PR}\)を選ぶことができる。したがって、\[\begin{equation}\vec{PX}=x\vec{PQ}+y\vec{PR}\end{equation}\]と表せる。\(x,y\)は実数であり、この平面における「座標(x,y)」に相当するものである。基底が非直交なので、この座標系は非直交座標である(相対性理論で出てくるような座標である)。
(1)で聞かれているのは、「X=S」とできるかどうか?ということである。できるならばSは平面PQRにあることになる。できなければ、平面PQRにはないということになる。与えられた3次元デカルト座標の値を 代入して、丁寧に計算していくと
\[ x=-\frac{t-1}{s-1}, \quad y=1\]となり、Sは平面PQR上にあることが示せる。
(2)はもっと簡単で、\[\vec{LM}=\left(\begin{array}{c}\frac{t+s-2}{2}\\ \frac{t+s-2}{2}\\ -(t+s)\end{array}\right)\]と表せることを利用して、ピタゴラスの定理を用いて長さ(の2乗)を\(q=t+s\)の2次関数として表わし、その最小値ががqの定義域の中においてどこで起きるか調べるだけでよい。\(m^2 = 4/3, q=t+s=2/3\)の時が答えに相当する状況である。
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