2018年3月5日月曜日

整数問題における極限の利用:東大2018(問2)

東大数学2018の問2を見てみよう。これも簡単な問題ではあるが、方針が定まるまでは色々と試して見なくてはならないだろう。

数列\(a_1, a_2,\cdots\)を\[a_n= \frac{_{2n+1}C_n}{n!} \quad (n=1,2,\cdots)\]で定める。
(1) \(n\geqq 2\)とする。\(\frac{a_n}{a_{n-1}}\)を既約分数\(\frac{q_n}{p_n}\)として表したときの分母\(p_n \geqq 1\)と分子\(q_n\)を求めよ。
(2)\(a_n\)が整数となる\(n\geqq 1\)をすべて求めよ。

(1)は簡単で、すぐに\(q_n/p_n = \frac{2(2n+1)}{n(n+1)}\)であることが計算できる。細かいチェックは必要だと思うので、答案にはそういうのも書き込んでおく必要があろう。が、ここでは省略する。大切なことは、分母を2で割っておく必要があるということである。つまり、分子に出た2を、分母で1/2と書きあらわす必要があるということである。これはnが偶数のときと、奇数の時に分けて考えれば明らかとなる。すなわち、
\[
\frac{q_{2k}}{p_{2k}} = \frac{4k+1}{k(2k+1)}, \quad 
\frac{q_{2k-1}}{p_{2k-1}} = \frac{4k-1}{k(2k-1)}
\]

(2)に移ろう。理論物理でいう「現象論」のアプローチを取ってみる。つまり、いくつか実例を観察してみて、その上で「現象論的な法則」を見つけ出すというやり方である。簡単にいうと、数列をいくつか計算してみるのである。

\(a_1=3, a_2=5, a_3=35/6 = 5.8..., a_4=21/4=5.25, a_5=77/20 = 3.8..., \\ a_6=143/60 = 2.38..., a_7=143/112 = 1.27..., a_8=2431/4032 < 1, \cdots\)
という結果となる。

最初の2つが整数値を取り、あとは分数になるように見える。 グラフにまとめてみると、下のようになった。

横軸はn。紫の線は\(a_n\)、水色が\(q_n/p_n\)、緑が\(4/n\)に対応。
大事な点は、\(a_n\)が一旦分数の値を取り始めた\(n=3\)以上では、数列の値が単調減少しているように見えることだ。これが本当かどうか調べてみよう。n番目とn-1番目の数列の要素の関係は、
\[
a_n=\left(\frac{q_n}{p_n}\right)a_{n-1} = \frac{2n+1}{n(n+1)/2}a_{n-1}
\]
である。nが大きな値をとった時の\(q_n/p_n\)の漸近形は
\[
\frac{q_n}{p_n}=\frac{2+\frac{1}{n}}{\frac{n}{2}\left(1+\frac{1}{n}\right)} \rightarrow \frac{4}{n}
\]
である。上のグラフで4/xのグラフ(緑色)を重ねたのは、これが\(q_n/p_n\)の漸近形となっているからである。実際n=8付近でよく両者は一致しているのが確認できる。

\(n\gg 4\)のとき、\(q_n/p_n\)は1より小さいので、\(a_n < a_{n-1}\)であることが証明できる。つまり、nが大きいところで、この数列は単調減少なのである。問題はどのnからが「十分大きいn」なのかどうか、という判断である。 

この判断をしやすくするために、\(q_n/p_n\)を下のように書き換えてみる。\[\frac{2(2n+1)}{n(n+1)} = 2 \frac{2(n+1)-1}{n(n+1)} = \frac{4}{n} - \frac{2}{n(n+1)} = \frac{2}{n}\left(2-\frac{1}{n+1}\right)\]
最後の等式のところに着目する。\(2-1/(n+1)\)というのは単調増加な双曲線上にあり、大きなnに対し2に収束する。n=4を代入してみると1.8という値を与えるので、\(n\geq 4\)において、ほぼ2に近い値を持ち続けることになる。そこで\(n\geq 4\) において
\[1.8 < 2-\frac{1}{n+1} < 2\]
となるので、この結果を\(q_n/p_n\)に代入すると、
\[\frac{3.6}{n} < q_n/p_n < \frac{4}{n}\]
の範囲で近似できる。いずれにしても、これは単調減少な数列である。

\(q_4/p_4 = 9/10 < 1\)だから、n=4より大きなところで数列は単調減少となることがわかる。つまり、「大きなn」というのは「4以上のn」ということなのであった。

最後のポイントは、数列自体の値が1より小さくなるのはどこか、ということである。数列の値が1より小さくなれば、そこより大きなnにおいて数列は1より小さな分数となるから、整数となることは2度とありえない。上の「現象論的計算」によれば、数列が1を切るのはn=8のときである。したがって、n=8より大きなときは整数となる数列は存在しないのである。

n=7以下の場合で数列が整数になるのは、計算によりn=1,2の2つの場合だけである。したがって、これが答えになる。

0 件のコメント:

コメントを投稿