2018年3月22日木曜日
2018年3月15日木曜日
阪大2018問題1:テイラー展開の2次までが一致する多項式、超越関数、代数関数の大小関係
この問題は、とにかくf(x)-g(x)という関数を微分して単調増加であることを示し、f(x)>g(x)が常に成り立つことを丁寧に示せば解ける。
ここでは、この問題においてどうしてこのような不等式が成立しているのか考えて見たい。まずは、テイラー展開を適用してみよう。一般の関数(ただし無限回微分できる性質をもつもの)f(x)のテイラー展開は、次の公式により与えられる。
\[\begin{equation}
f(x+h) = f(x) + \frac{df(x)}{dx} h + \frac{1}{2!}\frac{d^2f(x)}{dx^2} h^2 + \cdots
=\sum_{n=0}^\infty\frac{1}{n!}\frac{d^nf(x)}{dx^n}h^n
\end{equation}\]
この公式をもちいて\(log(1+x)\)などの関数をテイラー展開してみると
\[\begin{equation}
\log(1+x) = x - \frac{x^2}{2} + \frac{x^3}{3} - \frac{x^4}{4} + \cdots
\end{equation}\]
\[\begin{equation}
\frac{x}{\sqrt{1+x}} = x(1+x)^{-1/2} = x\left(1-\frac{x}{2} + \frac{3}{8}x^2 - \frac{5}{16}x^3+\cdots\right)
\end{equation}\]
となる。したがって、与えられた不等式は
\[\begin{equation}
x - \frac{x^2}{2} < x - \frac{x^2}{2} + \frac{x^3}{3} - \frac{x^4}{4} + \cdots <
x-\frac{x^2}{2} + \frac{3}{8}x^3 - \frac{5}{16}x^4+\cdots
\end{equation}\]
である。第二項目までは、どの関数も共通であり、これらの関数の性質に違いが見られるのが3次以降の項の影響であることは明らかである。0<x<1の場合とx>1の場合にわけて、次数ごとに項別に比較をしてもよいかもしれない。ここを出発点にして、いろいろと面白いことが導けるだろう。
ちなみに、不等式の一番左は有限項からなるので「多項式」、真ん中の対数関数は無限べき級数(テイラー展開)となるので「超越関数」、一番右は無限級数にはなるが代数方程式の根として定義できるので「代数関数」である。したがって、この問題は「これら3種類の解析性をもつ関数のうち、最初の2項が一致するものの大小を比較して見た」という問題になっているのである。
ここでは、この問題においてどうしてこのような不等式が成立しているのか考えて見たい。まずは、テイラー展開を適用してみよう。一般の関数(ただし無限回微分できる性質をもつもの)f(x)のテイラー展開は、次の公式により与えられる。
\[\begin{equation}
f(x+h) = f(x) + \frac{df(x)}{dx} h + \frac{1}{2!}\frac{d^2f(x)}{dx^2} h^2 + \cdots
=\sum_{n=0}^\infty\frac{1}{n!}\frac{d^nf(x)}{dx^n}h^n
\end{equation}\]
この公式をもちいて\(log(1+x)\)などの関数をテイラー展開してみると
\[\begin{equation}
\log(1+x) = x - \frac{x^2}{2} + \frac{x^3}{3} - \frac{x^4}{4} + \cdots
\end{equation}\]
\[\begin{equation}
\frac{x}{\sqrt{1+x}} = x(1+x)^{-1/2} = x\left(1-\frac{x}{2} + \frac{3}{8}x^2 - \frac{5}{16}x^3+\cdots\right)
\end{equation}\]
となる。したがって、与えられた不等式は
\[\begin{equation}
x - \frac{x^2}{2} < x - \frac{x^2}{2} + \frac{x^3}{3} - \frac{x^4}{4} + \cdots <
x-\frac{x^2}{2} + \frac{3}{8}x^3 - \frac{5}{16}x^4+\cdots
\end{equation}\]
である。第二項目までは、どの関数も共通であり、これらの関数の性質に違いが見られるのが3次以降の項の影響であることは明らかである。0<x<1の場合とx>1の場合にわけて、次数ごとに項別に比較をしてもよいかもしれない。ここを出発点にして、いろいろと面白いことが導けるだろう。
ちなみに、不等式の一番左は有限項からなるので「多項式」、真ん中の対数関数は無限べき級数(テイラー展開)となるので「超越関数」、一番右は無限級数にはなるが代数方程式の根として定義できるので「代数関数」である。したがって、この問題は「これら3種類の解析性をもつ関数のうち、最初の2項が一致するものの大小を比較して見た」という問題になっているのである。
2018年3月14日水曜日
阪大2018問4の後半:平面と平面の交線を利用する
3次元ビデオゲームや、映画やコマーシャルのCG、プロジェクションマッピングなど、3次元ベクトルデータを回転させたり、拡大縮小したりする処理は重要性を増している。阪大の問4では、こういった実践問題の練習が可能であり、その点からみれば興味深い問題である。しかし、このような計算を手計算で行うのは大変であり、試験問題を(時間内に)解く、という観点から非常に厳しいやり方かもしれない。
理論物理学の観点からすれば、3次元の力学モデルを構築し、1次変換を駆使して自由自在に処理したい、というのは自然な欲求であり、興味深い。このような計算で研鑽を積んでおけばプログラマーになったときにきっと役に立つはずだ。
4点PQRSがつくる平面、これは(1)で考えた平面であるが、これが八面体ABCDEFを切り取る断面積を計算する問題である。まずはこの平面の方程式を考えてみよう。平面の方程式の一般形は\(ax+by+cz+d=0\)と表される。したがって、条件が4つあれば未定係数\(a,b,c,d\)が決定できるように思える。しかしそうは問屋が卸さない。なぜだろうか?仮に、4つの異なる点がこの平面にあることがわかったとしよう。方程式は\[ax_i+by_i+cz_i+d=0, \quad (i=1,2,3,4)\]となる。条件を満たす\(i\)番目の点を\((x_i,y_i,z_i)\)と表す。4つの連立方程式をa,b,c,dについて解くことになるが、行列を用いると\[\left(\begin{array}{cccc}x_1 & y_1 & z_1 & 1\\ x_2 & y_2 & z_2 & 1\\ x_3 & y_3 & z_3 & 1\\ x_4 & y_4 & z_4 & 1\end{array}\right) \left(\begin{array}{c}a \\ b\\ c\\ d\end{array}\right) = \vec{0} \]と表せるが、逆行列が存在しても(a,b,c,d)は自明な解、つまりすべて0、になってしまうし、逆行列が存在しなくてもこの連立方程式は解けないことになる。何れにしても手詰まりということである。
これはどうしてかというと、平面の方程式がどのように得られたか考え、この問題の(1)を思い出せばすぐにわかる。平面の方程式は、平面にある一点\((x_0,y_0,z_0)\)と、平面の法線ベクトル\((a,b,c)\)、さらに平面内の任意の点\((x,y,z)\)を使って\[a(x-x_0)+b(y-y_0)+c(z-z_0)=0\]すなわち平面上の直線と法線は直交する(内積が0)という条件により記述される。点\((x,y,z)\)と\((x_0,y_0,z_0)\)を結ぶ直線の上に無い点\((x_,y_1,z_1)\)を用いてもう一つの条件\[a(x-x_1)+b(y-y_1)+c(z-z_1)=0\]までは独立した条件として認めることができる。すなわち、平面上の2点が分かれば(a,b,c,d)のうち2つまでは決めることができる。しかし、3つ目の点\((x_2,y_2,z_2)\)がわかっても、それは役に立たない。というのは、平面内のベクトル\((x-x_2,y-y_2,z-z_2)\)は、先の2つのベクトルとは独立ではなくて、むしろ先の2つのベクトルの線型結合で書けてしまうからである。つまり、\[\left(\begin{array}{c}x-x_2\\y-y_2\\z-z_2\end{array}\right)=p\left(\begin{array}{c}x-x_0\\y-y_0\\z-z_0\end{array}\right) + q\left(\begin{array}{c}x-x_1\\y-y_1\\z-z_1\end{array}\right)\]が成立するので、新しい方程式にならないのだ。ここで\(p,q\)は適当な実数である。平面上のベクトルの一次独立性とは、問(1)の答えに他ならない。
したがって、平面の方程式を決めるなら、平面上の一点を探すこと、そして次は法線ベクトルを直接見つけることなのである。ただし、法線ベクトルは平面上にある3点を見つけることができれば、計算することができる。
法線ベクトルは、平面上の任意のベクトルと直交するので、平面上の2つの独立なベクトルの「外積」を計算するばよいのである。例えば、平面上の3点(三角形をなすような3点)を用いて2つの独立のベクトル\(\mathbf{e}_1=(x_1-x_0, y_1-y_0,z_1-z_0),\quad \mathbf{e}_2=(x_2-x_0, y_2-y_0,z_2-z_0)\)を作り、この2つの外積\(\mathbf{e}_1\times\mathbf{e}_2\)を計算すると、\[\mathbf{e}_1\times\mathbf{e}_2 \parallel \left(\begin{array}{c}a\\ b\\ c\end{array}\right)\]となっているのである。
すなわち、平面の方程式は
\[\begin{equation}\left(\mathbf{e}_1\times\mathbf{e}_2\right)\cdot\left(\mathbf{r}-\mathbf{r}_0\right)={0}\end{equation}\]とまとめることができる。ただし、\(\mathbf{r}=(x,y,z), \quad \mathbf{r}_0=(x_0,y_0,z_0)\)である。
式(1)を使って、まずは平面PQRSの方程式を求めてみよう。 題意に与えられているように、点PはABを\(1-s:s\)に分割する点だから\(\vec{OP}=s\vec{OA}+(1-s)\vec{OB}\)である。これをデカルト座標で表現すると\(P=(1-s,0,s)\)である。同様の計算により\(Q=(0,1-s,s), R=(-1+t,0,-t)\)となる。一次独立なベクトルとして、\(\vec{PQ}\)と\(\vec{PR}\)を取ろう。この2つのベクトルは\[\vec{PQ}=(1-s)\left(\begin{array}{c}-1\\ 1 \\ 0\end{array}\right), \quad \vec{PR}=\left(\begin{array}{c}-2+t+s\\ 0\\ -(t+s)\end{array}\right)\]と計算される。この2つのベクトルの外積\(\vec{PQ}\times\vec{PR}\)は\[\vec{PQ}\times\vec{PR}=\left(\begin{array}{c} -t-s\\ -t-s \\ 2-t-s\end{array}\right)\]となる。点P(1-s,0,s)を使って平面の方程式を書き下すと\[\begin{equation}
(t+s)(x+y)+(t+s-2)z+s-t=0
\end{equation}\]
となる。
次に三角形ABCが作る平面の方程式を求めてみる。この平面上の独立な基底として\(\vec{AB}\)と\(\vec{AC}\)を選ぶ。\[\vec{AB}=\left(\begin{array}{c}1\\ 0\\ -1\end{array}\right), \quad \vec{AC}=\left(\begin{array}{c}0\\ 1\\ -1\end{array}\right)\]であるから、\[\vec{AB}\times\vec{AC} = \left(\begin{array}{c}1\\ 1\\ 1\end{array}\right)\]となる。したがって、対応する平面の方程式は\[\begin{equation}{\rm ABC:} \quad x+y+z-1=0\end{equation}\]である。
式(2)から式(3)を引くと\(z=s\), 足すと\(x+y+s-1=0\)を得る。つまり、これが平面PQRSと平面ABCの交線の方程式である。 この交線のうち、交線上にある点Pから点Qまでの線分が求める八面体ABCDEFと平面PQRSの交線である。
平面ABCの隣の面は三角形ABEである。同じように計算すると、
\[
\vec{AE}=\left(\begin{array}{c}0\\ -1\\ -1\end{array}\right), \quad
\vec{AE}\times\vec{AB} = \left(\begin{array}{c}1\\ -1\\ 1\end{array}\right)
\]したがって、点Aを通ることも使うと、平面の方程式は\[\begin{equation}x-y+z-1=0\end{equation}\]となる。これをPQRSの方程式と連立させると、交線の方程式が得られ、それは\[x+(t+s-1)y+s-1=0, \quad (t+s)y-z+s=0\]となる。この線分のうち、Pから始まりxy平面と交わるところまでが求める断面の辺に相当する。交点をTと名付ければ、Tの座標は(上の方程式から)\[T(\frac{t}{t+s},-\frac{s}{t+s},0)\]であることが計算できる。
この「地道な作業」を平面BEF, ACD, EDF,CDF、そしておまけとして平面BCDEについて行えば、断面積の形や寸法がわかるだろう。以下、必要な計算の結果だけをまとめて書いておこう。
(1)△BEF:
\[\begin{equation}
\vec{FB}=\left(\begin{array}{c} 1\\ 0 \\ 1\end{array}\right), \quad
\vec{FE}=\left(\begin{array}{c} 0\\ -1 \\ 1\end{array}\right), \quad
\vec{FB}\times\vec{FE} = \left(\begin{array}{c}1\\ -1\\ -1\end{array}\right), \\
x-y-z-1=0
\end{equation}\]
PQRSとの交線は\[y=(1-t-s)x+t-1, \quad z=(t+s)x-t\]
交点はTと\(S(0, -1+t,-t)\)になる。
(2)△EDF:
\[\begin{equation}
\vec{FD}=\left(\begin{array}{c} -1\\ 0 \\ 1\end{array}\right), \quad
\vec{FD}\times\vec{FE} = \left(\begin{array}{c}1\\ 1\\ 1\end{array}\right), \\
x+y+z+1=0
\end{equation}\]
PQRSとの交線は\[x+y-t+1=0, \quad z=-t\]
交点は\(R(-1+t,0,-t)\),S。
(3)△CDF:
\[\begin{equation}
\vec{FC}=\left(\begin{array}{c} 0\\ 1 \\ 1\end{array}\right), \quad
\vec{FC}\times\vec{FD} = \left(\begin{array}{c}1\\ -1\\ 1\end{array}\right), \\
x-y-z+1=0
\end{equation}\]
PQRSとの交線は\[x+(t+s-1)y-t+1=0, \quad z=(t+s)y-t\]
交点はR,\[U(-\frac{s}{t+s},\frac{t}{t+s},0)\]
(4)△ACD
\[\begin{equation}
\vec{AD}=\left(\begin{array}{c} -1\\ 0 \\ -1\end{array}\right), \quad
\vec{AD}\times\vec{AC} = \left(\begin{array}{c}1\\ -1\\ -1\end{array}\right), \\
x-y-z+1=0
\end{equation}\]
PQRSとの交線は\[(t+s-1)x+y+s-1=0, \quad z=(t+s)x+s\]
交点はU,Q。
以上より、断面は六角形QPTSRUであり、直線PQ, TU, SRはxy平面に対し水平であるから、互いに平行の関係にある。したがって、六角形の面積は2つの台形QPTUとRSTUに分解して求めることができる。PQ=\(\sqrt{2}(1-s)\), SR=\(\sqrt{2}(1-t)\), TU=\(\sqrt{2}\)であることはすぐにわかる。また、PQとTUの距離はs、TUとSRの距離はtであることも(座標の情報より)自明である。したがって、六角形の面積Xは
\[
X=\frac{s(2-s)}{\sqrt{2}} + \frac{t(2-t)}{\sqrt{2}} = \sqrt{2}(t+s) - \frac{1}{\sqrt{2}}(t^2+s^2)
\]
とかける。\(t^2+s^2 = (t+s)^2 - 2ts\)であることを用い、さらに\(t+s=2/3\)という条件を代入するとXはsの二次式になる。
\[
X= \frac{5\sqrt{2}}{9}-\sqrt{2}\left(s-\frac{1}{3}\right)^2
\]
したがって、最大値は\(s=t=1/3\)のときで\(5\sqrt{2}/{9}\)である。
\(s+t=2/3\)という条件は最後の最後まで使わない方がよい。なぜか途中で中途半端に使用すると、まちがった答えへといってしまう(非常に不思議)。
この問題では、3次元空間中の座標を使って解いたが、回転によってもう少し見通しをよくしてから解くこともできる。次はその方法を試してみよう。
理論物理学の観点からすれば、3次元の力学モデルを構築し、1次変換を駆使して自由自在に処理したい、というのは自然な欲求であり、興味深い。このような計算で研鑽を積んでおけばプログラマーになったときにきっと役に立つはずだ。
4点PQRSがつくる平面、これは(1)で考えた平面であるが、これが八面体ABCDEFを切り取る断面積を計算する問題である。まずはこの平面の方程式を考えてみよう。平面の方程式の一般形は\(ax+by+cz+d=0\)と表される。したがって、条件が4つあれば未定係数\(a,b,c,d\)が決定できるように思える。しかしそうは問屋が卸さない。なぜだろうか?仮に、4つの異なる点がこの平面にあることがわかったとしよう。方程式は\[ax_i+by_i+cz_i+d=0, \quad (i=1,2,3,4)\]となる。条件を満たす\(i\)番目の点を\((x_i,y_i,z_i)\)と表す。4つの連立方程式をa,b,c,dについて解くことになるが、行列を用いると\[\left(\begin{array}{cccc}x_1 & y_1 & z_1 & 1\\ x_2 & y_2 & z_2 & 1\\ x_3 & y_3 & z_3 & 1\\ x_4 & y_4 & z_4 & 1\end{array}\right) \left(\begin{array}{c}a \\ b\\ c\\ d\end{array}\right) = \vec{0} \]と表せるが、逆行列が存在しても(a,b,c,d)は自明な解、つまりすべて0、になってしまうし、逆行列が存在しなくてもこの連立方程式は解けないことになる。何れにしても手詰まりということである。
これはどうしてかというと、平面の方程式がどのように得られたか考え、この問題の(1)を思い出せばすぐにわかる。平面の方程式は、平面にある一点\((x_0,y_0,z_0)\)と、平面の法線ベクトル\((a,b,c)\)、さらに平面内の任意の点\((x,y,z)\)を使って\[a(x-x_0)+b(y-y_0)+c(z-z_0)=0\]すなわち平面上の直線と法線は直交する(内積が0)という条件により記述される。点\((x,y,z)\)と\((x_0,y_0,z_0)\)を結ぶ直線の上に無い点\((x_,y_1,z_1)\)を用いてもう一つの条件\[a(x-x_1)+b(y-y_1)+c(z-z_1)=0\]までは独立した条件として認めることができる。すなわち、平面上の2点が分かれば(a,b,c,d)のうち2つまでは決めることができる。しかし、3つ目の点\((x_2,y_2,z_2)\)がわかっても、それは役に立たない。というのは、平面内のベクトル\((x-x_2,y-y_2,z-z_2)\)は、先の2つのベクトルとは独立ではなくて、むしろ先の2つのベクトルの線型結合で書けてしまうからである。つまり、\[\left(\begin{array}{c}x-x_2\\y-y_2\\z-z_2\end{array}\right)=p\left(\begin{array}{c}x-x_0\\y-y_0\\z-z_0\end{array}\right) + q\left(\begin{array}{c}x-x_1\\y-y_1\\z-z_1\end{array}\right)\]が成立するので、新しい方程式にならないのだ。ここで\(p,q\)は適当な実数である。平面上のベクトルの一次独立性とは、問(1)の答えに他ならない。
したがって、平面の方程式を決めるなら、平面上の一点を探すこと、そして次は法線ベクトルを直接見つけることなのである。ただし、法線ベクトルは平面上にある3点を見つけることができれば、計算することができる。
法線ベクトルは、平面上の任意のベクトルと直交するので、平面上の2つの独立なベクトルの「外積」を計算するばよいのである。例えば、平面上の3点(三角形をなすような3点)を用いて2つの独立のベクトル\(\mathbf{e}_1=(x_1-x_0, y_1-y_0,z_1-z_0),\quad \mathbf{e}_2=(x_2-x_0, y_2-y_0,z_2-z_0)\)を作り、この2つの外積\(\mathbf{e}_1\times\mathbf{e}_2\)を計算すると、\[\mathbf{e}_1\times\mathbf{e}_2 \parallel \left(\begin{array}{c}a\\ b\\ c\end{array}\right)\]となっているのである。
すなわち、平面の方程式は
\[\begin{equation}\left(\mathbf{e}_1\times\mathbf{e}_2\right)\cdot\left(\mathbf{r}-\mathbf{r}_0\right)={0}\end{equation}\]とまとめることができる。ただし、\(\mathbf{r}=(x,y,z), \quad \mathbf{r}_0=(x_0,y_0,z_0)\)である。
式(1)を使って、まずは平面PQRSの方程式を求めてみよう。 題意に与えられているように、点PはABを\(1-s:s\)に分割する点だから\(\vec{OP}=s\vec{OA}+(1-s)\vec{OB}\)である。これをデカルト座標で表現すると\(P=(1-s,0,s)\)である。同様の計算により\(Q=(0,1-s,s), R=(-1+t,0,-t)\)となる。一次独立なベクトルとして、\(\vec{PQ}\)と\(\vec{PR}\)を取ろう。この2つのベクトルは\[\vec{PQ}=(1-s)\left(\begin{array}{c}-1\\ 1 \\ 0\end{array}\right), \quad \vec{PR}=\left(\begin{array}{c}-2+t+s\\ 0\\ -(t+s)\end{array}\right)\]と計算される。この2つのベクトルの外積\(\vec{PQ}\times\vec{PR}\)は\[\vec{PQ}\times\vec{PR}=\left(\begin{array}{c} -t-s\\ -t-s \\ 2-t-s\end{array}\right)\]となる。点P(1-s,0,s)を使って平面の方程式を書き下すと\[\begin{equation}
(t+s)(x+y)+(t+s-2)z+s-t=0
\end{equation}\]
となる。
次に三角形ABCが作る平面の方程式を求めてみる。この平面上の独立な基底として\(\vec{AB}\)と\(\vec{AC}\)を選ぶ。\[\vec{AB}=\left(\begin{array}{c}1\\ 0\\ -1\end{array}\right), \quad \vec{AC}=\left(\begin{array}{c}0\\ 1\\ -1\end{array}\right)\]であるから、\[\vec{AB}\times\vec{AC} = \left(\begin{array}{c}1\\ 1\\ 1\end{array}\right)\]となる。したがって、対応する平面の方程式は\[\begin{equation}{\rm ABC:} \quad x+y+z-1=0\end{equation}\]である。
式(2)から式(3)を引くと\(z=s\), 足すと\(x+y+s-1=0\)を得る。つまり、これが平面PQRSと平面ABCの交線の方程式である。 この交線のうち、交線上にある点Pから点Qまでの線分が求める八面体ABCDEFと平面PQRSの交線である。
平面ABCの隣の面は三角形ABEである。同じように計算すると、
\[
\vec{AE}=\left(\begin{array}{c}0\\ -1\\ -1\end{array}\right), \quad
\vec{AE}\times\vec{AB} = \left(\begin{array}{c}1\\ -1\\ 1\end{array}\right)
\]したがって、点Aを通ることも使うと、平面の方程式は\[\begin{equation}x-y+z-1=0\end{equation}\]となる。これをPQRSの方程式と連立させると、交線の方程式が得られ、それは\[x+(t+s-1)y+s-1=0, \quad (t+s)y-z+s=0\]となる。この線分のうち、Pから始まりxy平面と交わるところまでが求める断面の辺に相当する。交点をTと名付ければ、Tの座標は(上の方程式から)\[T(\frac{t}{t+s},-\frac{s}{t+s},0)\]であることが計算できる。
この「地道な作業」を平面BEF, ACD, EDF,CDF、そしておまけとして平面BCDEについて行えば、断面積の形や寸法がわかるだろう。以下、必要な計算の結果だけをまとめて書いておこう。
(1)△BEF:
\[\begin{equation}
\vec{FB}=\left(\begin{array}{c} 1\\ 0 \\ 1\end{array}\right), \quad
\vec{FE}=\left(\begin{array}{c} 0\\ -1 \\ 1\end{array}\right), \quad
\vec{FB}\times\vec{FE} = \left(\begin{array}{c}1\\ -1\\ -1\end{array}\right), \\
x-y-z-1=0
\end{equation}\]
PQRSとの交線は\[y=(1-t-s)x+t-1, \quad z=(t+s)x-t\]
交点はTと\(S(0, -1+t,-t)\)になる。
(2)△EDF:
\[\begin{equation}
\vec{FD}=\left(\begin{array}{c} -1\\ 0 \\ 1\end{array}\right), \quad
\vec{FD}\times\vec{FE} = \left(\begin{array}{c}1\\ 1\\ 1\end{array}\right), \\
x+y+z+1=0
\end{equation}\]
PQRSとの交線は\[x+y-t+1=0, \quad z=-t\]
交点は\(R(-1+t,0,-t)\),S。
(3)△CDF:
\[\begin{equation}
\vec{FC}=\left(\begin{array}{c} 0\\ 1 \\ 1\end{array}\right), \quad
\vec{FC}\times\vec{FD} = \left(\begin{array}{c}1\\ -1\\ 1\end{array}\right), \\
x-y-z+1=0
\end{equation}\]
PQRSとの交線は\[x+(t+s-1)y-t+1=0, \quad z=(t+s)y-t\]
交点はR,\[U(-\frac{s}{t+s},\frac{t}{t+s},0)\]
(4)△ACD
\[\begin{equation}
\vec{AD}=\left(\begin{array}{c} -1\\ 0 \\ -1\end{array}\right), \quad
\vec{AD}\times\vec{AC} = \left(\begin{array}{c}1\\ -1\\ -1\end{array}\right), \\
x-y-z+1=0
\end{equation}\]
PQRSとの交線は\[(t+s-1)x+y+s-1=0, \quad z=(t+s)x+s\]
交点はU,Q。
以上より、断面は六角形QPTSRUであり、直線PQ, TU, SRはxy平面に対し水平であるから、互いに平行の関係にある。したがって、六角形の面積は2つの台形QPTUとRSTUに分解して求めることができる。PQ=\(\sqrt{2}(1-s)\), SR=\(\sqrt{2}(1-t)\), TU=\(\sqrt{2}\)であることはすぐにわかる。また、PQとTUの距離はs、TUとSRの距離はtであることも(座標の情報より)自明である。したがって、六角形の面積Xは
\[
X=\frac{s(2-s)}{\sqrt{2}} + \frac{t(2-t)}{\sqrt{2}} = \sqrt{2}(t+s) - \frac{1}{\sqrt{2}}(t^2+s^2)
\]
とかける。\(t^2+s^2 = (t+s)^2 - 2ts\)であることを用い、さらに\(t+s=2/3\)という条件を代入するとXはsの二次式になる。
\[
X= \frac{5\sqrt{2}}{9}-\sqrt{2}\left(s-\frac{1}{3}\right)^2
\]
したがって、最大値は\(s=t=1/3\)のときで\(5\sqrt{2}/{9}\)である。
\(s+t=2/3\)という条件は最後の最後まで使わない方がよい。なぜか途中で中途半端に使用すると、まちがった答えへといってしまう(非常に不思議)。
この問題では、3次元空間中の座標を使って解いたが、回転によってもう少し見通しをよくしてから解くこともできる。次はその方法を試してみよう。
2018年3月8日木曜日
阪大2018問題4の前半:線形代数(ベクトル空間)に関する良い問題
阪大数学(2018)のの問題4は、空間図形の問題であるが、東大の問題6や問題3と違って、線形代数やベクトル空間の考え方が利用できる素晴らしい問題である。このような良い問題を解いて阪大に進んだ学生たちは、あの変な「ベクトル問題」を解いて東大に進んだ場合よりも、大学に入ってからの進歩がきっと速いだろう。
(1)と(2)は簡単に解けるのでさっそく取り掛かってみよう。注意:「簡単に解けるから重要ではない」というのは間違いである。簡単に解けるが数学の本質を捉えた重要な問題もある。それがこの問題である。
まず、(数学上の)3次元ベクトル空間を、(物理的な)実際の3次元空間と一致させることができるのは自明としよう。3次元ベクトル空間に属する任意のベクトルは、一次独立な3つのベクトル(基底という)の線型結合で表すことができる。線型独立の正確な定義は大学の線形代数で習うのでここでは飛ばすが、高校生の段階では「互いに直交する3つのベクトル」程度の理解から始めればよいと思う。(そのうち、直交する必要がないことは自然と理解できるであろう。)
2次元空間、すなわち平面においては、次元が1つ下がるので、一次独立なベクトルの数、すなわち基底の数は2つに減る。一次独立を理解する最初の一歩は、「直交する2つのベクトル」になるわけだが、2次元空間なら「非直交な基底」のイメージがしやすいだろうから、ここで簡単に述べておく。そもそも、(1)を解くにも非直交な基底の理解は必要になる。それは、平行でない2つのベクトルの組みのことである。例えば、\(\vec{PQ}\)と\(\vec{PR}\)は一次独立である。デカルト座標系で計算してみるとすぐにわかると思うが、この2つのベクトルは平行でないからである。
3点P,Q,Rが決まると、P、Q、Rを通過する平面が決まる。この平面の基準点(つまり原点に相当するもの)としてPを選ぼう。「この平面内にある任意の点Xに対応するベクトル \(\vec{PX}\)は、この平面に相当する2次元ベクトル空間の基底2つの線型結合で表せる」というのが、線形代数の重要な定理の1つである。上で見たように、この基底として\(\vec{PQ}\)と\(\vec{PR}\)を選ぶことができる。したがって、\[\begin{equation}\vec{PX}=x\vec{PQ}+y\vec{PR}\end{equation}\]と表せる。\(x,y\)は実数であり、この平面における「座標(x,y)」に相当するものである。基底が非直交なので、この座標系は非直交座標である(相対性理論で出てくるような座標である)。
(1)で聞かれているのは、「X=S」とできるかどうか?ということである。できるならばSは平面PQRにあることになる。できなければ、平面PQRにはないということになる。与えられた3次元デカルト座標の値を 代入して、丁寧に計算していくと
\[ x=-\frac{t-1}{s-1}, \quad y=1\]となり、Sは平面PQR上にあることが示せる。
(2)はもっと簡単で、\[\vec{LM}=\left(\begin{array}{c}\frac{t+s-2}{2}\\ \frac{t+s-2}{2}\\ -(t+s)\end{array}\right)\]と表せることを利用して、ピタゴラスの定理を用いて長さ(の2乗)を\(q=t+s\)の2次関数として表わし、その最小値ががqの定義域の中においてどこで起きるか調べるだけでよい。\(m^2 = 4/3, q=t+s=2/3\)の時が答えに相当する状況である。
(1)と(2)は簡単に解けるのでさっそく取り掛かってみよう。注意:「簡単に解けるから重要ではない」というのは間違いである。簡単に解けるが数学の本質を捉えた重要な問題もある。それがこの問題である。
座標空間に6点A(0,0,1), B(1.0,0), C(0,1,0), D(-1,0,0), E(0,-1,0), F(0,0,-1)を頂点とする正八面体ABCDEFがある。\(s, t\)を\(0<s<1, 0<t<1\)を満たす実数とする。P,QはAB, ACを\(1-s:s\)にそれぞれ内分する点とし、R,SはFD, FEをそれぞれ\(1-t:t\)に内分する点とする。
(1)4つの点P,Q,R,S が同一平面上にあることを示せ。(1)が特に重要である。ベクトル空間の線型独立や線型従属を理解しているかどうかを問う問題であり、これがきちんと書ければ(予備校や高校の教科書が提供するような解答法ではない)、大学の線形代数の最初の関門はすでに乗り越えたと思ってよいだろう。
(2)PQの中点をL、RSの中点をMとする。\(s,t\)が問題で与えられた範囲を動くとき、線分LMの最小値mを求めよ。
まず、(数学上の)3次元ベクトル空間を、(物理的な)実際の3次元空間と一致させることができるのは自明としよう。3次元ベクトル空間に属する任意のベクトルは、一次独立な3つのベクトル(基底という)の線型結合で表すことができる。線型独立の正確な定義は大学の線形代数で習うのでここでは飛ばすが、高校生の段階では「互いに直交する3つのベクトル」程度の理解から始めればよいと思う。(そのうち、直交する必要がないことは自然と理解できるであろう。)
2次元空間、すなわち平面においては、次元が1つ下がるので、一次独立なベクトルの数、すなわち基底の数は2つに減る。一次独立を理解する最初の一歩は、「直交する2つのベクトル」になるわけだが、2次元空間なら「非直交な基底」のイメージがしやすいだろうから、ここで簡単に述べておく。そもそも、(1)を解くにも非直交な基底の理解は必要になる。それは、平行でない2つのベクトルの組みのことである。例えば、\(\vec{PQ}\)と\(\vec{PR}\)は一次独立である。デカルト座標系で計算してみるとすぐにわかると思うが、この2つのベクトルは平行でないからである。
3点P,Q,Rが決まると、P、Q、Rを通過する平面が決まる。この平面の基準点(つまり原点に相当するもの)としてPを選ぼう。「この平面内にある任意の点Xに対応するベクトル \(\vec{PX}\)は、この平面に相当する2次元ベクトル空間の基底2つの線型結合で表せる」というのが、線形代数の重要な定理の1つである。上で見たように、この基底として\(\vec{PQ}\)と\(\vec{PR}\)を選ぶことができる。したがって、\[\begin{equation}\vec{PX}=x\vec{PQ}+y\vec{PR}\end{equation}\]と表せる。\(x,y\)は実数であり、この平面における「座標(x,y)」に相当するものである。基底が非直交なので、この座標系は非直交座標である(相対性理論で出てくるような座標である)。
(1)で聞かれているのは、「X=S」とできるかどうか?ということである。できるならばSは平面PQRにあることになる。できなければ、平面PQRにはないということになる。与えられた3次元デカルト座標の値を 代入して、丁寧に計算していくと
\[ x=-\frac{t-1}{s-1}, \quad y=1\]となり、Sは平面PQR上にあることが示せる。
(2)はもっと簡単で、\[\vec{LM}=\left(\begin{array}{c}\frac{t+s-2}{2}\\ \frac{t+s-2}{2}\\ -(t+s)\end{array}\right)\]と表せることを利用して、ピタゴラスの定理を用いて長さ(の2乗)を\(q=t+s\)の2次関数として表わし、その最小値ががqの定義域の中においてどこで起きるか調べるだけでよい。\(m^2 = 4/3, q=t+s=2/3\)の時が答えに相当する状況である。
三角関数のベキ乗をフーリエ級数展開する
阪大2018問題3を解いているうちに、三角関数のベキ乗、例えば\(\cos^n x\)などをフーリエ級数で展開することを思いついた。積分するときは、三角関数のベキ乗を直接計算することはできず、必ず\(\cos nx\)とか\(\sin nx\)のような形に変換してから積分計算しなくてはならない。これはつまり、フーリエ級数展開するということと同じではないか?
三角関数のn乗が一般にどのように展開されるのかわからないので、まずはいくつか具体例を計算してみよう。
(1) n=2
\[\begin{equation}\cos^2 x = \frac{1}{2} + \frac{1}{2}\cos 2x , \quad \sin^2 x = \frac{1}{2} - \frac{1}{2}\cos 2x\end{equation}\]
(2) n=3
\[ \begin{equation} \cos^3 x = \frac{3}{4}\cos x + \frac{1}{4}\cos 3x, \quad
\sin^3 x = \frac{3}{4}\sin x - \frac{1}{4}\sin 3x\end{equation}\]
(3) n=4
\[\begin{equation} \cos^4 x = \frac{3}{8} + \frac{1}{2}\cos 2x + \frac{1}{8}\cos 4x, \quad \sin^4 x = \frac{3}{8} - \frac{1}{2}\cos 2x + \frac{1}{8}\cos 4x\end{equation}\]
(4) n=5
\[\begin{equation}\cos^5 x = \frac{5}{8}\cos x + \frac{5}{16} \cos 3x + \frac{1}{16}\cos 5x, \quad \sin^5 x = \frac{5}{8}\sin x - \frac{5}{16}\sin 3x + \frac{1}{16}\sin 5x\end{equation}\]
この結果を得るための計算手法について少しだけ言及しておこう。(1)n=2の場合は高校の数学でもやるのでおなじみだろう。いわゆる倍角公式とか、加法定理とかいうものである。(3)n=4の場合は、n=2の公式を応用して得ることができる。これは前回の議論で考察した。 骨が折れるのが(2)や(4)に相当するn=奇数の場合だが、これも加法定理を応用し、n=2の場合と組み合わせれば、高校数学の範囲で計算することができる。例えば、\(\sin^3 x=\sin^2 x \cdot \sin x\)と分解し、2乗の部分にn=2の公式を適用する。
\[\begin{equation} \frac{1-\cos 2x}{2} \cdot \sin x = \frac{1}{2}\sin x - \frac{1}{2}\cos 2x \sin x\end{equation}\]となる。右辺第二項を、加法定理の逆
\[\begin{equation}2\cos 2x \sin x = \sin (x + 2x) + \sin (x - 2x)\end{equation}\]を使って書き直すと、
\[\begin{equation} \sin^3 x=\frac{1}{2}\sin x - \frac{1}{4}\left(\sin 3x - \sin x\right) =\frac{3}{4}\sin x - \frac{1}{4}\sin 3x\end{equation}\]を得る。
ここまでの結果をみて、ある程度傾向が見えてきたのではないかと思う。まず、n=偶数の場合、三角関数をべき乗したものの全てが偶関数になる。したがって、そのフーリエ級数(ここでは、三角関数の有限和も「級数」と呼ぶことにしよう)は余弦関数のみの和となている。さらに、含まれる余弦関数の周波数は0, 2, 4, ..., n=偶数のものに限られ(これをパリティが0の周波数と呼ぶことにしよう)、1,3,...といったパリティが1の周波数成分はフーリエ級数展開の中に含まれないという特徴が見られる。また、級数の展開係数の分母は\(2^n\)になっているらしく、各項の分子の総和が\(2^n\)に等しくなっている。つまり、展開係数の和はどんな場合も1になっている。
n=奇数の場合は、余弦の場合は偶関数なので、上と同じように\(\cos kx\)による級数展開となるが、正弦の場合には奇関数となるので、級数展開には\(\sin kx\)のみが使われる。符号も次数に対し交代で入ってくるようだ。
もう一つ面白いのは、n=奇数の場合は、\(\cos x\)や\(\sin x\)の成分(展開係数の大きさのこと)が最大、つまり主成分となる点である。n=1,3,5の場合をまとめて見ると
n =1 n=3 n=5
100% 75% 62.5%
といった具合である。
nが大きいときに、\(\sin^n x \simeq \frac{1}{2}\sin x\)と近似して、たとえば積分しても結構いい値がでるのではないだろうか?数値実験してみるとおもしろいかもしれない。
またn=偶数の時は、1の成分と\(\cos 2x\)の成分がほぼ同じくらいの割合で主成分になっている。すなわち\(\cos ^ nx \simeq \frac{1}{2}\left(1+\cos 2x\right)\)と近似しても結構いい値が出るのではないか?これも調べて見たらおもしろいだろう。
これらの性質を統一的に公式にまとめ上げるには、オイラーの公式\(\cos x + i\sin x={\rm e}^{ix}\)を使うのがよいだろう。例えば、n=3の場合について考えて見る。
\[\begin{equation} \left(\cos x + i\sin x\right)^3 = \left({\rm e}^{ix}\right)^3 ={\rm e}^{3ix} = \cos 3x + i \sin 3x \end{equation}\]であるが、一番左を二項展開すると、\[\begin{equation}\cos^3 x + 3i\cos^2 x \sin x - 3\cos x \sin^2 x - i\sin^3 x = \cos 3x + i \sin 3x\end{equation}\]を得る。実数部と虚数部を整理して書くと、
\[\begin{equation} \left(\cos^3 x -3\cos x \sin^2 x - \cos 3x\right) + i\left( 3\cos^2 x \sin x - \sin^3 x - \sin 3x\right) = 0\end{equation}\]となる。この式の複素共役を作って、(10)式と足したり、引いたりすることで、三角関数の3乗の公式を得ることができる。が、まだシステマティックに計算するには見通しが悪い。この先をどのように進めていくかは、次の課題としよう。一つ確かなのは、係数は二項展開の係数と関連付けられそうだという点である。この点には着目すべきだと思う。
ここまでで思いついたことで、簡単に証明できそうなことをメモしておく。
三角関数のn乗が一般にどのように展開されるのかわからないので、まずはいくつか具体例を計算してみよう。
(1) n=2
\[\begin{equation}\cos^2 x = \frac{1}{2} + \frac{1}{2}\cos 2x , \quad \sin^2 x = \frac{1}{2} - \frac{1}{2}\cos 2x\end{equation}\]
(2) n=3
\[ \begin{equation} \cos^3 x = \frac{3}{4}\cos x + \frac{1}{4}\cos 3x, \quad
\sin^3 x = \frac{3}{4}\sin x - \frac{1}{4}\sin 3x\end{equation}\]
(3) n=4
\[\begin{equation} \cos^4 x = \frac{3}{8} + \frac{1}{2}\cos 2x + \frac{1}{8}\cos 4x, \quad \sin^4 x = \frac{3}{8} - \frac{1}{2}\cos 2x + \frac{1}{8}\cos 4x\end{equation}\]
(4) n=5
\[\begin{equation}\cos^5 x = \frac{5}{8}\cos x + \frac{5}{16} \cos 3x + \frac{1}{16}\cos 5x, \quad \sin^5 x = \frac{5}{8}\sin x - \frac{5}{16}\sin 3x + \frac{1}{16}\sin 5x\end{equation}\]
この結果を得るための計算手法について少しだけ言及しておこう。(1)n=2の場合は高校の数学でもやるのでおなじみだろう。いわゆる倍角公式とか、加法定理とかいうものである。(3)n=4の場合は、n=2の公式を応用して得ることができる。これは前回の議論で考察した。 骨が折れるのが(2)や(4)に相当するn=奇数の場合だが、これも加法定理を応用し、n=2の場合と組み合わせれば、高校数学の範囲で計算することができる。例えば、\(\sin^3 x=\sin^2 x \cdot \sin x\)と分解し、2乗の部分にn=2の公式を適用する。
\[\begin{equation} \frac{1-\cos 2x}{2} \cdot \sin x = \frac{1}{2}\sin x - \frac{1}{2}\cos 2x \sin x\end{equation}\]となる。右辺第二項を、加法定理の逆
\[\begin{equation}2\cos 2x \sin x = \sin (x + 2x) + \sin (x - 2x)\end{equation}\]を使って書き直すと、
\[\begin{equation} \sin^3 x=\frac{1}{2}\sin x - \frac{1}{4}\left(\sin 3x - \sin x\right) =\frac{3}{4}\sin x - \frac{1}{4}\sin 3x\end{equation}\]を得る。
ここまでの結果をみて、ある程度傾向が見えてきたのではないかと思う。まず、n=偶数の場合、三角関数をべき乗したものの全てが偶関数になる。したがって、そのフーリエ級数(ここでは、三角関数の有限和も「級数」と呼ぶことにしよう)は余弦関数のみの和となている。さらに、含まれる余弦関数の周波数は0, 2, 4, ..., n=偶数のものに限られ(これをパリティが0の周波数と呼ぶことにしよう)、1,3,...といったパリティが1の周波数成分はフーリエ級数展開の中に含まれないという特徴が見られる。また、級数の展開係数の分母は\(2^n\)になっているらしく、各項の分子の総和が\(2^n\)に等しくなっている。つまり、展開係数の和はどんな場合も1になっている。
n=奇数の場合は、余弦の場合は偶関数なので、上と同じように\(\cos kx\)による級数展開となるが、正弦の場合には奇関数となるので、級数展開には\(\sin kx\)のみが使われる。符号も次数に対し交代で入ってくるようだ。
もう一つ面白いのは、n=奇数の場合は、\(\cos x\)や\(\sin x\)の成分(展開係数の大きさのこと)が最大、つまり主成分となる点である。n=1,3,5の場合をまとめて見ると
n =1 n=3 n=5
100% 75% 62.5%
といった具合である。
nが大きいときに、\(\sin^n x \simeq \frac{1}{2}\sin x\)と近似して、たとえば積分しても結構いい値がでるのではないだろうか?数値実験してみるとおもしろいかもしれない。
またn=偶数の時は、1の成分と\(\cos 2x\)の成分がほぼ同じくらいの割合で主成分になっている。すなわち\(\cos ^ nx \simeq \frac{1}{2}\left(1+\cos 2x\right)\)と近似しても結構いい値が出るのではないか?これも調べて見たらおもしろいだろう。
これらの性質を統一的に公式にまとめ上げるには、オイラーの公式\(\cos x + i\sin x={\rm e}^{ix}\)を使うのがよいだろう。例えば、n=3の場合について考えて見る。
\[\begin{equation} \left(\cos x + i\sin x\right)^3 = \left({\rm e}^{ix}\right)^3 ={\rm e}^{3ix} = \cos 3x + i \sin 3x \end{equation}\]であるが、一番左を二項展開すると、\[\begin{equation}\cos^3 x + 3i\cos^2 x \sin x - 3\cos x \sin^2 x - i\sin^3 x = \cos 3x + i \sin 3x\end{equation}\]を得る。実数部と虚数部を整理して書くと、
\[\begin{equation} \left(\cos^3 x -3\cos x \sin^2 x - \cos 3x\right) + i\left( 3\cos^2 x \sin x - \sin^3 x - \sin 3x\right) = 0\end{equation}\]となる。この式の複素共役を作って、(10)式と足したり、引いたりすることで、三角関数の3乗の公式を得ることができる。が、まだシステマティックに計算するには見通しが悪い。この先をどのように進めていくかは、次の課題としよう。一つ確かなのは、係数は二項展開の係数と関連付けられそうだという点である。この点には着目すべきだと思う。
ここまでで思いついたことで、簡単に証明できそうなことをメモしておく。
三角関数のn乗のフーリエ級数展開において、\(\cos nx\)や\(\sin nx\)に対応する成分の展開係数は, \(\frac{1}{2^{n-1}}\)になっているように見える。これを帰納法で証明することは可能かどうか?
阪大2018問題3(2):グラフの対称性を利用する
(2)では、グラフの対称性をネタに問題が作られている。
φが0から2π/3まで変化するとき、(x,y)はx軸上の点(-3,0)から、「棘の張り出し」に相当する点\((3/2, 3\sqrt{3}/2)\)まで滑らかに変化する。これをθ(つまりt)の範囲に直すと、-π/2からπ/6までに相当する。tは0からなので、この範囲ではまずい。t=0のとき、φ=π/2であるが、この点に対応するのが(1,2)である。
次は、φが2π/3から4π/3まで変化するときであるが、このときは点\((3/2,3\sqrt{3}/2)\)から、x軸に線対称な点\((3/2,-3\sqrt{3}/2)\)まで滑らかに変化する。この範囲はtでいうとπ/6から5π/6であるが、tはπ/2までであるから\(\frac{\pi}{6} \leqq t \leqq \frac{\pi}{2}\)である。t=π/2というのはφ=πの点で、x軸上の点(1,0)に相当する。
まとめると、\(0\leqq t \leqq \frac{\pi}{6}\)において(これを領域Iと呼ぼう)、Cは点(1,2)から点\((\frac{3}{2},\frac{3\sqrt{3}}{2})\)まで滑らかに変化する単調増加なグラフである。一方、\(\frac{\pi}{6}\leqq t \leqq \frac{\pi}{2}\)では(これを領域IIと呼ぼう)、Cは点\((\frac{3}{2},\frac{3\sqrt{3}}{2})\)から点(1,0)まで滑らかに変化する単調減少のグラフである。2つの領域を同時に考えると、\(1\leqq x \leqq \frac{3\sqrt{3}}{2}\)の領域でy=y(x)は二価関数となる(つまり、y=f(x)を考えた時、同じxに対して異なる2つのyの値が対応しているということで、グラフで考えるとx軸に対する垂線がyのグラフと異なる2箇所で交点をもつということ)。ただし、yやxをtの関数と見なせば、それぞれは一価関数である(同じxでも\(x=f(t_1)=f(t_2)\)となって、異なるtになっているということ)。
領域Iと領域IIをグラフで観察すると、その形から常に\(g(I) > g(II) > 0\)が成立しているのがわかる。 したがって、\(g(I)+g(II) > 0\)は自明であるので、上の関係を用いると\[\left\{g(I)+g(II)\right\}\left\{g(I)-g(II)\right\} > 0\]が成り立つのは自明である。領域Iと領域IIはtの立場からすると、\(t_1\)が属するのが領域I, \(t_2\)が属するのが領域IIであるから、題意は証明されたといってよい。つまり、\(f(t_1)=f(t_2)\)という条件は、Cの「二価性」から, \(t_1\)はIに、\(t_2\)はIIに属し、両者が同じ領域に属することはないことを保証する条件に相当している。この部分が読み取れれば、証明の残りの部分はまさに自明なのである。
ここまでくれば、(3)は簡単、と書こうと思ったが、この問題は実によく練られていて、まだ油断ができない。計算すべきは領域Iにおけるy(t)とx軸の間の面積から、領域IIにおけるy(t)とx軸の間の面積を引いたもの(差)である。したがって、
\[\begin{eqnarray}S &=&\int_1^{\frac{3\sqrt{3}}{2}}ydx - \int_1^{\frac{3\sqrt{3}}{2}}ydx \\ &=&\int_0^{\frac{\pi}{6}}g(t)\frac{dx}{dt}dt - \int^{\frac{\pi}{6}}_{\frac{\pi}{2}}g(t)\frac{dx}{dt}dt \\
&=&\int_0^{\frac{\pi}{6}}g(t)\frac{dx}{dt}dt +\int_{\frac{\pi}{6}}^{\frac{\pi}{2}}g(t)\frac{dx}{dt}dt \\
&=&\int_{0}^{\frac{\pi}{2}}g(t)\frac{dx}{dt}dt \end{eqnarray}\]を計算すればよい。
ここで変数変換のために導入した\(dx = \frac{dx}{dt}dt\) という関係式だが、これはニュートンの微分記号x'に比べて、ライプニッツの微分記号dxの方が強力であることを示す、有名な一例である。ニュートンの記号は、計算における筆記量を削減してくれるので「便利」ではあるが、微分演算が通常の割り算や代数演算に従って変形できる性質を持つことを示してはくれないので発展性の観点からは「不便」なのである。また、ニュートンがy'とかy''という記号を導入したのは、力学では2階微分までしか計算しないからであった(運動方程式は2階微分方程式なので、それ以上の高次の微分は計算しなくてよいのである)。ライプニッツは、実用的な運動方程式のみならず、より一般化した「力学」への発展を考えていたのかもしれない。そこでn階の微分が記述できる\(d^n/dx^n\)という記法を導入したのであろう。
さて、もとの計算に戻ると、xの微分、つまりfの微分は\(2\cos t - 2\sin 2t\)であるから、被積分関数は\[\begin{equation}g(t)\frac{df(t)}{dt}=2(2\cos t + \sin 2t)(\cos t - \sin 2t)\end{equation}\]である。これを展開するとかなり面倒な形となる。因子2を除いて計算すると
\[ \begin{equation} 2\cos^2 t -2\sin t \cos^2 t - 4 \cos^2 t ( 1-\cos^2 t) = -2\sin t \cos^2 t -2\cos^2 t + 4\cos^4 t\end{equation}\]
初項は\(k=\cos t\)と置換することで簡単に積分でき、\(\frac{2}{3}\cos^3 t\)となる。第二項は倍角の公式を使って\(-2\cos^2 t = -1-\cos 2t\)と変形すればよく、その積分は\(-t -\frac{1}{2}\sin 2t\)となる。最後の項は、\(4\cos^4 t = 4\left(\frac{1+\cos 2t}{2}\right)^2 = 1 + 2\cos 2t + \cos^2 2t\)であるが、\(\cos^2 2t = (1+\cos 4t)/2\)であるので、これを代入すると、\(\frac{3}{2} + 2\cos 2t +\frac{1}{2}\cos 4t\)である。その積分は\(\frac{3}{2}t +\sin 2t +\frac{1}{8}\sin 4t\)となる。以上の結果をまとめると
\[\int_0^{\frac{\pi}{2}} g(t)\frac{f(t)}{dt}dt = \left[\frac{4}{3}\cos^3 t +t + \sin 2t + \frac{1}{4}\sin 4t\right]_0^{\frac{\pi}{2}}=\frac{\pi}{2}-\frac{4}{3}\]
を得る。
それにしても、ここまでの計算は、「見てはならないもの(グラフの概形)」を見たから たどり着けたようなものである(鶴の恩返し?)。(gnuplotに頼らず)グラフの概形を簡単に得る方法はあるのだろうか?また、積分の計算をもう少し簡単に行う方法はあるのだろうか?
この辺りが、これからの課題であろう。
tの範囲を気にしないで、ぐるぐる回せばCは3回対称な図形になることは(gnuplotさえ使えれば)すぐにわかる。ただ、この問題ではtの範囲が0からπ/2までなので、図形の一部を考えなくてはならない。
\(0 \leqq t_1< t_2 \leqq \frac{\pi}{2}\)かつ、\(f(t_1)=f(t_2)\)が成り立つとき、\(g(t_1)^2 - g(t_2)^2 >0\)が成立することを示せ。
φが0から2π/3まで変化するとき、(x,y)はx軸上の点(-3,0)から、「棘の張り出し」に相当する点\((3/2, 3\sqrt{3}/2)\)まで滑らかに変化する。これをθ(つまりt)の範囲に直すと、-π/2からπ/6までに相当する。tは0からなので、この範囲ではまずい。t=0のとき、φ=π/2であるが、この点に対応するのが(1,2)である。
次は、φが2π/3から4π/3まで変化するときであるが、このときは点\((3/2,3\sqrt{3}/2)\)から、x軸に線対称な点\((3/2,-3\sqrt{3}/2)\)まで滑らかに変化する。この範囲はtでいうとπ/6から5π/6であるが、tはπ/2までであるから\(\frac{\pi}{6} \leqq t \leqq \frac{\pi}{2}\)である。t=π/2というのはφ=πの点で、x軸上の点(1,0)に相当する。
まとめると、\(0\leqq t \leqq \frac{\pi}{6}\)において(これを領域Iと呼ぼう)、Cは点(1,2)から点\((\frac{3}{2},\frac{3\sqrt{3}}{2})\)まで滑らかに変化する単調増加なグラフである。一方、\(\frac{\pi}{6}\leqq t \leqq \frac{\pi}{2}\)では(これを領域IIと呼ぼう)、Cは点\((\frac{3}{2},\frac{3\sqrt{3}}{2})\)から点(1,0)まで滑らかに変化する単調減少のグラフである。2つの領域を同時に考えると、\(1\leqq x \leqq \frac{3\sqrt{3}}{2}\)の領域でy=y(x)は二価関数となる(つまり、y=f(x)を考えた時、同じxに対して異なる2つのyの値が対応しているということで、グラフで考えるとx軸に対する垂線がyのグラフと異なる2箇所で交点をもつということ)。ただし、yやxをtの関数と見なせば、それぞれは一価関数である(同じxでも\(x=f(t_1)=f(t_2)\)となって、異なるtになっているということ)。
領域Iと領域IIをグラフで観察すると、その形から常に\(g(I) > g(II) > 0\)が成立しているのがわかる。 したがって、\(g(I)+g(II) > 0\)は自明であるので、上の関係を用いると\[\left\{g(I)+g(II)\right\}\left\{g(I)-g(II)\right\} > 0\]が成り立つのは自明である。領域Iと領域IIはtの立場からすると、\(t_1\)が属するのが領域I, \(t_2\)が属するのが領域IIであるから、題意は証明されたといってよい。つまり、\(f(t_1)=f(t_2)\)という条件は、Cの「二価性」から, \(t_1\)はIに、\(t_2\)はIIに属し、両者が同じ領域に属することはないことを保証する条件に相当している。この部分が読み取れれば、証明の残りの部分はまさに自明なのである。
ここまでくれば、(3)は簡単、と書こうと思ったが、この問題は実によく練られていて、まだ油断ができない。計算すべきは領域Iにおけるy(t)とx軸の間の面積から、領域IIにおけるy(t)とx軸の間の面積を引いたもの(差)である。したがって、
\[\begin{eqnarray}S &=&\int_1^{\frac{3\sqrt{3}}{2}}ydx - \int_1^{\frac{3\sqrt{3}}{2}}ydx \\ &=&\int_0^{\frac{\pi}{6}}g(t)\frac{dx}{dt}dt - \int^{\frac{\pi}{6}}_{\frac{\pi}{2}}g(t)\frac{dx}{dt}dt \\
&=&\int_0^{\frac{\pi}{6}}g(t)\frac{dx}{dt}dt +\int_{\frac{\pi}{6}}^{\frac{\pi}{2}}g(t)\frac{dx}{dt}dt \\
&=&\int_{0}^{\frac{\pi}{2}}g(t)\frac{dx}{dt}dt \end{eqnarray}\]を計算すればよい。
ここで変数変換のために導入した\(dx = \frac{dx}{dt}dt\) という関係式だが、これはニュートンの微分記号x'に比べて、ライプニッツの微分記号dxの方が強力であることを示す、有名な一例である。ニュートンの記号は、計算における筆記量を削減してくれるので「便利」ではあるが、微分演算が通常の割り算や代数演算に従って変形できる性質を持つことを示してはくれないので発展性の観点からは「不便」なのである。また、ニュートンがy'とかy''という記号を導入したのは、力学では2階微分までしか計算しないからであった(運動方程式は2階微分方程式なので、それ以上の高次の微分は計算しなくてよいのである)。ライプニッツは、実用的な運動方程式のみならず、より一般化した「力学」への発展を考えていたのかもしれない。そこでn階の微分が記述できる\(d^n/dx^n\)という記法を導入したのであろう。
さて、もとの計算に戻ると、xの微分、つまりfの微分は\(2\cos t - 2\sin 2t\)であるから、被積分関数は\[\begin{equation}g(t)\frac{df(t)}{dt}=2(2\cos t + \sin 2t)(\cos t - \sin 2t)\end{equation}\]である。これを展開するとかなり面倒な形となる。因子2を除いて計算すると
\[ \begin{equation} 2\cos^2 t -2\sin t \cos^2 t - 4 \cos^2 t ( 1-\cos^2 t) = -2\sin t \cos^2 t -2\cos^2 t + 4\cos^4 t\end{equation}\]
初項は\(k=\cos t\)と置換することで簡単に積分でき、\(\frac{2}{3}\cos^3 t\)となる。第二項は倍角の公式を使って\(-2\cos^2 t = -1-\cos 2t\)と変形すればよく、その積分は\(-t -\frac{1}{2}\sin 2t\)となる。最後の項は、\(4\cos^4 t = 4\left(\frac{1+\cos 2t}{2}\right)^2 = 1 + 2\cos 2t + \cos^2 2t\)であるが、\(\cos^2 2t = (1+\cos 4t)/2\)であるので、これを代入すると、\(\frac{3}{2} + 2\cos 2t +\frac{1}{2}\cos 4t\)である。その積分は\(\frac{3}{2}t +\sin 2t +\frac{1}{8}\sin 4t\)となる。以上の結果をまとめると
\[\int_0^{\frac{\pi}{2}} g(t)\frac{f(t)}{dt}dt = \left[\frac{4}{3}\cos^3 t +t + \sin 2t + \frac{1}{4}\sin 4t\right]_0^{\frac{\pi}{2}}=\frac{\pi}{2}-\frac{4}{3}\]
を得る。
それにしても、ここまでの計算は、「見てはならないもの(グラフの概形)」を見たから たどり着けたようなものである(鶴の恩返し?)。(gnuplotに頼らず)グラフの概形を簡単に得る方法はあるのだろうか?また、積分の計算をもう少し簡単に行う方法はあるのだろうか?
この辺りが、これからの課題であろう。
2018年3月7日水曜日
阪大2018問題3:フーリエ級数展開もどき?(でも複素数で解く)
今年の東大の問題でも多かったのが、曲線や領域のパラメータ表示の問題だ。パラメータをうまく消去して軌跡の関係式を手に入れるために、ごちゃごちゃと解析的な計算を繰り返す、というのがこの問題の中心部分だが、それだけになってしまってはつまらない。
この問題でも、(x,y)が作る軌跡を考えることになるのだが、そのパラメータ表示がフーリエ級数展開もどきに見えるところが、ちょっと面白い。
\[ x=f(t) = 2\sin t + \cos 2t, \quad y=g(t) = 2\cos t + \sin 2t\]で与えられる曲線Cを考えようという問題である。ただし問題ではtに範囲が付いていて\(0\leqq t \leqq \pi/2\)となっているが、曲線Cの本当の「美しさ」を楽しむためにはtは2πまで回した方がいい。gnuplotで描画してみると、次の図のようになった。
正三角形を内側に凹ませたような図形である。多分、頂点と頂点の間の角度は120度になっているのであろう。このような「離散回転」がもつ対称性は、結晶の構造などの分析で重要になる。今考えている図形の場合は「三回対称性」を持っている。数学的には、点群の中の巡回群というものに相当する概念によって取り扱うことができる。
この図形で気になるのは、頂点の位置である。そして、対称の軸や点はどこにくるのか、そしてこの図形の面積である。試験中はgnuplotが使えないから、手計算だけで分析を進めていかなくてはならないのが辛いところだ。(出題者はこの形を知った上で問題を出しているから、すごく不公平に感じる....まあ、入試とはそういうものである。)
まずは、図の概形を知らぬふりをして、この問題を解いてみよう。
この小問は、図形Cが閉曲線になっているので、その存在範囲を調べよ、ということである。この情報は、面積を求める時の積分範囲に相当するから重要である。東大2018(問5)では、\(Q(u)=2z - z^2\)という式が出てきた。これをベクトル風に書くと
\[ \left(\begin{array}{c}x\\y\end{array}\right) = 2 \left(\begin{array}{c}\cos\theta\\ \sin\theta\end{array}\right) + \left(\begin{array}{c}\cos 2\theta\\ \sin 2\theta\end{array}\right)
\] である。一方、阪大のこの問題では右辺第一項に対応するところで、正弦と余弦がひっくり返った形ににはなっているが、ほぼ同じような形式である。正弦と余弦をひっくり返すには位相をπ/2だけずらせば良い。つまり、阪大の場合は
\[ \left(\begin{array}{c}x\\y\end{array}\right) = 2 \left(\begin{array}{c}-\cos(\theta+\frac{\pi}{2})\\ \sin(\theta+\frac{\pi}{2})\end{array}\right) + \left(\begin{array}{c}\cos 2\theta\\ \sin 2\theta\end{array}\right)
\]である。
問題ではθはtと書かれているので、tを時間(time)とみなすことにしよう。力学的に表現すれば、第一項は、周期が2π(振動数が1)の調和振動(単振動)であり、第二項は周期がπ(振動数が2)の調和振動を表す。つまり、周期の異なる2つの調和振動子の線形合成(重ね合わせ)であるから、フーリエ級数の一番簡単な場合に相当する。
角度依存性が第一項と第二項で異なっているのは、見通しが悪いので、統一してしまおう。すなわち、上式を書き直して、
\[ \left(\begin{array}{c}x\\y\end{array}\right) = -2 \left(\begin{array}{c}\cos(\theta+\frac{\pi}{2})\\ -\sin(\theta+\frac{\pi}{2})\end{array}\right) -\left(\begin{array}{c}\cos 2(\theta+\frac{\pi}{2})\\ \sin 2(\theta+\frac{\pi}{2})\end{array}\right)
\]とする。θ+π/2=φと置けば、この形式は東大の問題と(第二項の符号を除いて)よく似た形となる。すなわち、複素数表示で\(C(z)=-2z^*-z^2, z=e^{i\varphi}\)と表せる。
さて、我々は曲線Cの概形を知らないふりをしていても、やはりもう知ってしまっているのであるから、C(z)の絶対値を計算してみたくなるのである。ここから、最大値についての情報は手にはいるであろう。\[ |C(z)|^2 = |(-2z^*-z^2) |^2 = (-2z^*-z^2)(-2z^*-z^2)^* \\ = 4|z|^2+2(z^3*+(z^*)^3)+|z|^4 = 5+2(z^3+z^{*3})\]となる。|z|=1であることを利用した。最後の結果で、3次式(3次の多項式)になっているのがポイントである。ここから、冒頭で観測した「3回対称性」が出てくるのである!
このことをよりよく見るためには、極座標表示を代入して見ると
\[|C(z)|^2 = 5 + 4\cos 3\varphi\]という形を得る。最大値は\(3\varphi= 2k\pi\)のとき\((k=0, \pm 1, \pm 2, \cdots\))で、その値は9、すなわち\(|C(z)|\)の最大値は3である。図を見ると、これは正しいことが確認できる。つまり、\(\varphi=0, \pi/3, 2\pi/3\)の3点で最大値を周期的にとるのである。
面白いことに、\(\varphi=0\)の点は(x,y)座標では(-3, 0)に相当する。これは\(C(z)=-2z^*-z^2\)の負の符号によるものである。また、\(\varphi=2\pi/3\)の点は\((\frac{3}{2},\frac{3\sqrt{3}}{2})\)である。そして\(\varphi=4\pi/3\)の点は\((\frac{3}{2},-\frac{3\sqrt{3}}{2})\)となる。つまり、φの増加(反時計回り)に対して、対応する図形上の点(x,y)は時計回りに動いていく。これは\(2z^*\)の効果である。一方、\(z^2\)は時計回りに動いていくが、振幅(つまり絶対値)が、初項の2に比べて半分しかないため、その効果は半減する。しかし、両者の位相が一致した時に、干渉のように大きな重ね合わせが発生し、図でみるような「棘の張り出し」のような形になるのである。
出発点から、\(2z^*\)の点は時計回りに角速度1でまわり、\(z^2\)の点は反時計回りに角速度2で回る。時間をtで表すと、時間tにおける両者の角度は\(\varphi_0(t)=t, \varphi_1(t)=-2t\)と表せる。両者の角度の差は\(\varphi_0(t)-\varphi_1(t) = 3t\)だが、これが0となるときに上述した「干渉」が起きて、「棘の張り出し」が発生する。角度の差が0と書いたが、一般角に拡張すると、差が2πの整数倍のとき(つまり周回遅れのような状況)も角度は一致する。したがって、\(3t=2n\pi\)のときに「干渉」が発生する。これが、3回対称性の(力学的考察に基づく)起源である。
(1)の答えは、当然「干渉」に相当するときである。計算を逆に辿って、干渉発生時のθを求め、その場合のxの値とyの値を書き出せば良い。ちなみに、「逆干渉」の場合、つまり、振幅の符号が正反対になる場合の条件を調べれば、そこが原点からの距離の最小値、つまり図形の凹んだところ、がもとまるはずである。 干渉とか、逆干渉とかいう概念は波動力学、ひいては量子力学でも出てくるから、理論物理を目指すなら、よく慣れておいたほうがよいだろう。
以上は、図形の形がわかってしまった前提で解く方法だが、図形の概形を知るのは結構面倒である。図形を知らずにこの問題を特にはどうしたらよいだろうか?次の課題としたい。
この問題でも、(x,y)が作る軌跡を考えることになるのだが、そのパラメータ表示がフーリエ級数展開もどきに見えるところが、ちょっと面白い。
\[ x=f(t) = 2\sin t + \cos 2t, \quad y=g(t) = 2\cos t + \sin 2t\]で与えられる曲線Cを考えようという問題である。ただし問題ではtに範囲が付いていて\(0\leqq t \leqq \pi/2\)となっているが、曲線Cの本当の「美しさ」を楽しむためにはtは2πまで回した方がいい。gnuplotで描画してみると、次の図のようになった。
正三角形を内側に凹ませたような図形である。多分、頂点と頂点の間の角度は120度になっているのであろう。このような「離散回転」がもつ対称性は、結晶の構造などの分析で重要になる。今考えている図形の場合は「三回対称性」を持っている。数学的には、点群の中の巡回群というものに相当する概念によって取り扱うことができる。
この図形で気になるのは、頂点の位置である。そして、対称の軸や点はどこにくるのか、そしてこの図形の面積である。試験中はgnuplotが使えないから、手計算だけで分析を進めていかなくてはならないのが辛いところだ。(出題者はこの形を知った上で問題を出しているから、すごく不公平に感じる....まあ、入試とはそういうものである。)
まずは、図の概形を知らぬふりをして、この問題を解いてみよう。
(1) f(t)とg(t)の最大値を求めよ。ただし、\(0\leqq t \leqq \frac{\pi}{2}\)
この小問は、図形Cが閉曲線になっているので、その存在範囲を調べよ、ということである。この情報は、面積を求める時の積分範囲に相当するから重要である。東大2018(問5)では、\(Q(u)=2z - z^2\)という式が出てきた。これをベクトル風に書くと
\[ \left(\begin{array}{c}x\\y\end{array}\right) = 2 \left(\begin{array}{c}\cos\theta\\ \sin\theta\end{array}\right) + \left(\begin{array}{c}\cos 2\theta\\ \sin 2\theta\end{array}\right)
\] である。一方、阪大のこの問題では右辺第一項に対応するところで、正弦と余弦がひっくり返った形ににはなっているが、ほぼ同じような形式である。正弦と余弦をひっくり返すには位相をπ/2だけずらせば良い。つまり、阪大の場合は
\[ \left(\begin{array}{c}x\\y\end{array}\right) = 2 \left(\begin{array}{c}-\cos(\theta+\frac{\pi}{2})\\ \sin(\theta+\frac{\pi}{2})\end{array}\right) + \left(\begin{array}{c}\cos 2\theta\\ \sin 2\theta\end{array}\right)
\]である。
問題ではθはtと書かれているので、tを時間(time)とみなすことにしよう。力学的に表現すれば、第一項は、周期が2π(振動数が1)の調和振動(単振動)であり、第二項は周期がπ(振動数が2)の調和振動を表す。つまり、周期の異なる2つの調和振動子の線形合成(重ね合わせ)であるから、フーリエ級数の一番簡単な場合に相当する。
角度依存性が第一項と第二項で異なっているのは、見通しが悪いので、統一してしまおう。すなわち、上式を書き直して、
\[ \left(\begin{array}{c}x\\y\end{array}\right) = -2 \left(\begin{array}{c}\cos(\theta+\frac{\pi}{2})\\ -\sin(\theta+\frac{\pi}{2})\end{array}\right) -\left(\begin{array}{c}\cos 2(\theta+\frac{\pi}{2})\\ \sin 2(\theta+\frac{\pi}{2})\end{array}\right)
\]とする。θ+π/2=φと置けば、この形式は東大の問題と(第二項の符号を除いて)よく似た形となる。すなわち、複素数表示で\(C(z)=-2z^*-z^2, z=e^{i\varphi}\)と表せる。
さて、我々は曲線Cの概形を知らないふりをしていても、やはりもう知ってしまっているのであるから、C(z)の絶対値を計算してみたくなるのである。ここから、最大値についての情報は手にはいるであろう。\[ |C(z)|^2 = |(-2z^*-z^2) |^2 = (-2z^*-z^2)(-2z^*-z^2)^* \\ = 4|z|^2+2(z^3*+(z^*)^3)+|z|^4 = 5+2(z^3+z^{*3})\]となる。|z|=1であることを利用した。最後の結果で、3次式(3次の多項式)になっているのがポイントである。ここから、冒頭で観測した「3回対称性」が出てくるのである!
このことをよりよく見るためには、極座標表示を代入して見ると
\[|C(z)|^2 = 5 + 4\cos 3\varphi\]という形を得る。最大値は\(3\varphi= 2k\pi\)のとき\((k=0, \pm 1, \pm 2, \cdots\))で、その値は9、すなわち\(|C(z)|\)の最大値は3である。図を見ると、これは正しいことが確認できる。つまり、\(\varphi=0, \pi/3, 2\pi/3\)の3点で最大値を周期的にとるのである。
面白いことに、\(\varphi=0\)の点は(x,y)座標では(-3, 0)に相当する。これは\(C(z)=-2z^*-z^2\)の負の符号によるものである。また、\(\varphi=2\pi/3\)の点は\((\frac{3}{2},\frac{3\sqrt{3}}{2})\)である。そして\(\varphi=4\pi/3\)の点は\((\frac{3}{2},-\frac{3\sqrt{3}}{2})\)となる。つまり、φの増加(反時計回り)に対して、対応する図形上の点(x,y)は時計回りに動いていく。これは\(2z^*\)の効果である。一方、\(z^2\)は時計回りに動いていくが、振幅(つまり絶対値)が、初項の2に比べて半分しかないため、その効果は半減する。しかし、両者の位相が一致した時に、干渉のように大きな重ね合わせが発生し、図でみるような「棘の張り出し」のような形になるのである。
出発点から、\(2z^*\)の点は時計回りに角速度1でまわり、\(z^2\)の点は反時計回りに角速度2で回る。時間をtで表すと、時間tにおける両者の角度は\(\varphi_0(t)=t, \varphi_1(t)=-2t\)と表せる。両者の角度の差は\(\varphi_0(t)-\varphi_1(t) = 3t\)だが、これが0となるときに上述した「干渉」が起きて、「棘の張り出し」が発生する。角度の差が0と書いたが、一般角に拡張すると、差が2πの整数倍のとき(つまり周回遅れのような状況)も角度は一致する。したがって、\(3t=2n\pi\)のときに「干渉」が発生する。これが、3回対称性の(力学的考察に基づく)起源である。
(1)の答えは、当然「干渉」に相当するときである。計算を逆に辿って、干渉発生時のθを求め、その場合のxの値とyの値を書き出せば良い。ちなみに、「逆干渉」の場合、つまり、振幅の符号が正反対になる場合の条件を調べれば、そこが原点からの距離の最小値、つまり図形の凹んだところ、がもとまるはずである。 干渉とか、逆干渉とかいう概念は波動力学、ひいては量子力学でも出てくるから、理論物理を目指すなら、よく慣れておいたほうがよいだろう。
以上は、図形の形がわかってしまった前提で解く方法だが、図形の概形を知るのは結構面倒である。図形を知らずにこの問題を特にはどうしたらよいだろうか?次の課題としたい。
2018年3月6日火曜日
東大数学2018の全体的な感想
「理論物理学の考え方が楽しめるかどうか」という観点から見ると、今年の東大の数学の問題は面白みがあまりなかった。唯一楽しめたのは、複素数を扱った問題5。座標変換をうまく利用して、一見面倒に見える問題を簡易化して解く、という理論物理における常套手段を存分に使うことができた。
問題5では、x軸上に頂点を持つ「横倒し」になった放物線の方程式\(x=-y^2+\frac{1}{4}\)が、原点からの角度θを用いて\[x=-\frac{1}{2}\frac{\cos\theta}{1-\cos\theta}, \quad y= \frac{1}{2}\frac{\sin\theta}{1-\cos\theta}\]とパラメーター表示できることを学んだ。これはnon-trivialな表現だと思う。ある意味「発見」である。どこかでまた使えるかもしれない。
ちなみに、このパラメータ表現を\(-\pi/2\)だけ回転させたら、\(y=x^2+b\)のパラメータ表示が手に入るだろうか?ちょっと考えてみよう。まず対応する回転行列\(R(-\frac{\pi}{2})\)を計算してみる。\(\sin\frac{\pi}{2}=1, \cos\frac{\pi}{2}=0\)だから、
\[R(-\pi/2)=\left(\begin{array}{cc} 0 & 1 \\ -1 & 0\end{array}\right)\]である。\(x=-y^2+\frac{1}{4}\)上の点(x,y)を回転させて得た点の座標を(x',y')とすると、2つの点は線形変換
\[\left(\begin{array}{c} x' \\ y'\end{array}\right) = R(\pi/2)\left(\begin{array}{c} x \\ y\end{array}\right)\]
によって結ばれている。これを逆に解けば、xとyがx'とy'で記述された表式(具体的にはx=-y', y=x')が手に入り、これをもとの放物線に代入して整理すると、\(y'=x'^2-\frac{1}{4}\)を得る。つまり\(b=-1/4\)だったというわけで、予想通りである。パラメータ表示はしたがって、xとyに対応するものを交換すれば(片方の符号は変えねばならないが)それが、「通常の放物線」のパラメータ表示となるはずだ。すなわち、\(y=x^2-\frac{1}{4}\)のパラメータ表示は\[ x=\frac{1}{2}\frac{\sin\theta}{1-\cos\theta}, \quad y=\frac{1}{2}\frac{\cos\theta}{1-\cos\theta}\]となる。検算して見ると、たしかにこのパラメータ表示は、通常の放物線の方程式に対応していることが確認できる。ここで面白いのは、θが原点の周りの(x軸から測った)角度になっていることである。(放物線の焦点や凖線と呼ばれるものは、この場合はどこにくるか調べて見るのもおもしろいだろう。)この表現は、どこかで役に立つ日がくるだろう。こういうのは、頭の片隅に置いておくと、ある日、大きな発見につながるものである。
ところで、この問題で求めたQ(u)、すなわち円周上の接線P(z)に対し、A(1)と線対称な位置にくる点、の表現が、今年の阪大の問題3とよく似た表現になっている。なぜこんな偶然がおきるかというと、きっとこれは偶然ではなく、両者ともにフーリエ級数を念頭に問題を作っているからではないかと思われる。これに関しては、別の機会に検討してみよう。
東大の問題1では、テイラー展開や極限の考えを適用することができた。2つの極限を、例えば、x=0とx=+∞で考え、その両者の漸近形を中間領域でうまく結ぶ、という考え方は、プランクがその放射公式の導出で利用した、まさに現象論的な考え方である。ボルツマンの「離散化計算の癖」を踏襲した点は見過ごせないが、プランクが量子の概念にたどり着けたのは、この問題で考えたような方法論に従ったからである。問題の難易ではなく、このような観点から問題に向き合うことも、意外に大切なのではないだろうか?
問題2でも、漸近形の考察や現象論的な方法論が重要になった。理論物理では、こういう泥臭いやり方も多様するので、よく練習して習熟しておくとよいと思う。具体例をたくさん計算して、傾向を見抜き、そこから現象論的な法則を導いたり、原理を探ったりする、というこのやり方は、ファインマンが得意としたやり方である。最近、「ファインマン流物理がわかるコツ」という本を最近読み始めたのだが、これは落第寸前のカルテックの学生に向けて行われた補講の講義録である(カルテックのみならず、東大に入っても、かならず一定の割合で落第してしまう学生がいるのは、宇宙の普遍的な真理らしい)。この本の最初で「複雑な関数の微分を簡単に行うやり方」というのを彼は披露しているのだが、その方法は非常に独特で、どうしてそれが正しいか理解するには、実のところ、相当な知識と理解力が要求され、落第寸前の学生には到底わからないだろうと思う。が、彼が「落第寸前の学生を救うために」といいながらも、こういう「新しい計算法」を編み出しては自分が一番楽しんでしまっているのである。「計算を楽しむ」彼の一面(そしてそれは出来の悪い学生には非情である)がよくわかって、思わず笑ってしまったのである。
今年は、軌跡やその類を調べさせる問題がたくさんでた。問題3、4、5、6と、後半の問題はすべて関連している。ただ、問題3で見られたようにパラメータをただ単に消していくだけの問題は(理論物理の観点から見ると)つまらない。せっかくベクトルを持ち出しているのだから、もっと線形代数やベクトル空間の考え方をなぞるような問題にして欲しかった。こういう問題が「ベクトル」だと思われてしまうと、大学で物理学を教える立場からすると、非常に厄介である。高校の指導要領で歪んでしまった「高校生の頭」を、物理を学ぶ「大学生の頭」へと変えるのに、多大な労力が必要となるのである。ある意味、「優秀な」大学1年生ほど、頭がかちこちに固まっていて、そこからなかなか抜け出せず、「落第」していくのである....できるかぎり、高校の段階で、大学で学ぶような「普通の数学的感覚」を教えてあげてほしい。そのためには、東大の数学の問題は、指導要領に基づくのではなくて、出題者自らの研究内容をアレンジして作ってもらいたいのである。
ちなみに、確率の問題が今年は出なかったのは興味深い。量子力学の問題を組み込めたらよいのだが、場合の数の数えあげばかりでは、出題する方も飽きがくるというものである。波動関数がダメなら、ブラウン運動とかどうだろうか?つまり、ランダムウォークである。
問題5では、x軸上に頂点を持つ「横倒し」になった放物線の方程式\(x=-y^2+\frac{1}{4}\)が、原点からの角度θを用いて\[x=-\frac{1}{2}\frac{\cos\theta}{1-\cos\theta}, \quad y= \frac{1}{2}\frac{\sin\theta}{1-\cos\theta}\]とパラメーター表示できることを学んだ。これはnon-trivialな表現だと思う。ある意味「発見」である。どこかでまた使えるかもしれない。
ちなみに、このパラメータ表現を\(-\pi/2\)だけ回転させたら、\(y=x^2+b\)のパラメータ表示が手に入るだろうか?ちょっと考えてみよう。まず対応する回転行列\(R(-\frac{\pi}{2})\)を計算してみる。\(\sin\frac{\pi}{2}=1, \cos\frac{\pi}{2}=0\)だから、
\[R(-\pi/2)=\left(\begin{array}{cc} 0 & 1 \\ -1 & 0\end{array}\right)\]である。\(x=-y^2+\frac{1}{4}\)上の点(x,y)を回転させて得た点の座標を(x',y')とすると、2つの点は線形変換
\[\left(\begin{array}{c} x' \\ y'\end{array}\right) = R(\pi/2)\left(\begin{array}{c} x \\ y\end{array}\right)\]
によって結ばれている。これを逆に解けば、xとyがx'とy'で記述された表式(具体的にはx=-y', y=x')が手に入り、これをもとの放物線に代入して整理すると、\(y'=x'^2-\frac{1}{4}\)を得る。つまり\(b=-1/4\)だったというわけで、予想通りである。パラメータ表示はしたがって、xとyに対応するものを交換すれば(片方の符号は変えねばならないが)それが、「通常の放物線」のパラメータ表示となるはずだ。すなわち、\(y=x^2-\frac{1}{4}\)のパラメータ表示は\[ x=\frac{1}{2}\frac{\sin\theta}{1-\cos\theta}, \quad y=\frac{1}{2}\frac{\cos\theta}{1-\cos\theta}\]となる。検算して見ると、たしかにこのパラメータ表示は、通常の放物線の方程式に対応していることが確認できる。ここで面白いのは、θが原点の周りの(x軸から測った)角度になっていることである。(放物線の焦点や凖線と呼ばれるものは、この場合はどこにくるか調べて見るのもおもしろいだろう。)この表現は、どこかで役に立つ日がくるだろう。こういうのは、頭の片隅に置いておくと、ある日、大きな発見につながるものである。
ところで、この問題で求めたQ(u)、すなわち円周上の接線P(z)に対し、A(1)と線対称な位置にくる点、の表現が、今年の阪大の問題3とよく似た表現になっている。なぜこんな偶然がおきるかというと、きっとこれは偶然ではなく、両者ともにフーリエ級数を念頭に問題を作っているからではないかと思われる。これに関しては、別の機会に検討してみよう。
東大の問題1では、テイラー展開や極限の考えを適用することができた。2つの極限を、例えば、x=0とx=+∞で考え、その両者の漸近形を中間領域でうまく結ぶ、という考え方は、プランクがその放射公式の導出で利用した、まさに現象論的な考え方である。ボルツマンの「離散化計算の癖」を踏襲した点は見過ごせないが、プランクが量子の概念にたどり着けたのは、この問題で考えたような方法論に従ったからである。問題の難易ではなく、このような観点から問題に向き合うことも、意外に大切なのではないだろうか?
問題2でも、漸近形の考察や現象論的な方法論が重要になった。理論物理では、こういう泥臭いやり方も多様するので、よく練習して習熟しておくとよいと思う。具体例をたくさん計算して、傾向を見抜き、そこから現象論的な法則を導いたり、原理を探ったりする、というこのやり方は、ファインマンが得意としたやり方である。最近、「ファインマン流物理がわかるコツ」という本を最近読み始めたのだが、これは落第寸前のカルテックの学生に向けて行われた補講の講義録である(カルテックのみならず、東大に入っても、かならず一定の割合で落第してしまう学生がいるのは、宇宙の普遍的な真理らしい)。この本の最初で「複雑な関数の微分を簡単に行うやり方」というのを彼は披露しているのだが、その方法は非常に独特で、どうしてそれが正しいか理解するには、実のところ、相当な知識と理解力が要求され、落第寸前の学生には到底わからないだろうと思う。が、彼が「落第寸前の学生を救うために」といいながらも、こういう「新しい計算法」を編み出しては自分が一番楽しんでしまっているのである。「計算を楽しむ」彼の一面(そしてそれは出来の悪い学生には非情である)がよくわかって、思わず笑ってしまったのである。
今年は、軌跡やその類を調べさせる問題がたくさんでた。問題3、4、5、6と、後半の問題はすべて関連している。ただ、問題3で見られたようにパラメータをただ単に消していくだけの問題は(理論物理の観点から見ると)つまらない。せっかくベクトルを持ち出しているのだから、もっと線形代数やベクトル空間の考え方をなぞるような問題にして欲しかった。こういう問題が「ベクトル」だと思われてしまうと、大学で物理学を教える立場からすると、非常に厄介である。高校の指導要領で歪んでしまった「高校生の頭」を、物理を学ぶ「大学生の頭」へと変えるのに、多大な労力が必要となるのである。ある意味、「優秀な」大学1年生ほど、頭がかちこちに固まっていて、そこからなかなか抜け出せず、「落第」していくのである....できるかぎり、高校の段階で、大学で学ぶような「普通の数学的感覚」を教えてあげてほしい。そのためには、東大の数学の問題は、指導要領に基づくのではなくて、出題者自らの研究内容をアレンジして作ってもらいたいのである。
ちなみに、確率の問題が今年は出なかったのは興味深い。量子力学の問題を組み込めたらよいのだが、場合の数の数えあげばかりでは、出題する方も飽きがくるというものである。波動関数がダメなら、ブラウン運動とかどうだろうか?つまり、ランダムウォークである。
2018年3月5日月曜日
ベクトルの問題とは言えないベクトルの問題:東大2018(問3)
東大数学2018の問3は一見してベクトルの問題であるが、あまりベクトルの性質を使って解く問題ではないことがわかり、興味を失った。行列も使う必要がないように見える。
この「つまらなさ」は、パラメータkの逆数が問題に入り込んでいる点にあると思う。割り算という演算は、線形代数やベクトル空間とは親和性があまりないのだ。ベクトル空間や線形空間というのは、やはり「足し算」である(「引き算」も「足し算」に含まれる)。拡張的な内容としては、内積や外積などの「積」の定義をどうするか、というのもある。しかし、この問題ではこのようなテーマの切り口で解釈することはできなかった。残念である。
この問題はkが1/kの形で分母にあるのが邪魔である。そこで、早々と全てをk倍してしまって、「割り算」を消すところから始めることになる。まずは定義から
\[ \vec{OR} =\frac{1}{k}\left(\begin{array}{c} x \\ x^2\end{array}\right) + k\left(\begin{array}{c} t \\ 0\end{array}\right) \equiv \left(\begin{array}{c}X\\Y\end{array}\right) \]である。両辺にkをかけて、xを消去することにする。tというのは\(\vec{OA}\)のx座標であるが、Xにしか現れない。YとXの関係式を得るためには、両方の変数に関わるxを消去した方が便利であるのは明らかである。
この結果として、
\[
Y=k(X-kt)^2
\]
を得る。これは頂点(kt,0)、すなわちX軸に接した放物線である。tの範囲は0から1までだから、この放物線は0からkまで頂点がX軸上を移動することになる。また、Xの範囲はxとXの関係を逆に解いて
\[
kt - \frac{1}{k} \leq X \leq kt + \frac{1}{k}
\]
となる。tを動かしながら、これらの情報をうまく利用して\(S(k)\)を求めれば、この問題はそれほど難しくない。
以上のことから、一次変換も、線形独立性も、考える必要がないので、この問題は単なるパラメータを消す練習としか解釈できなかった。理論物理学の観点からは「残念な問題」であった。
ちなみに、続く問4も素直にやれば解ける問題であり、 高校数学の発想の範囲内でやるだけであろう。やる気が失せたので、こちらも省略。問6は空間の認識のトレーニングであるが、少し捻って2次方程式の問題に持ち込めるかなという希望がちょっとあったのだが、結局は球を引きずり回すだけの話に落ち着いてしまい、理論物理学の考え方を持ち込む余地はあまりなかった。これも省略。
この「つまらなさ」は、パラメータkの逆数が問題に入り込んでいる点にあると思う。割り算という演算は、線形代数やベクトル空間とは親和性があまりないのだ。ベクトル空間や線形空間というのは、やはり「足し算」である(「引き算」も「足し算」に含まれる)。拡張的な内容としては、内積や外積などの「積」の定義をどうするか、というのもある。しかし、この問題ではこのようなテーマの切り口で解釈することはできなかった。残念である。
この問題はkが1/kの形で分母にあるのが邪魔である。そこで、早々と全てをk倍してしまって、「割り算」を消すところから始めることになる。まずは定義から
\[ \vec{OR} =\frac{1}{k}\left(\begin{array}{c} x \\ x^2\end{array}\right) + k\left(\begin{array}{c} t \\ 0\end{array}\right) \equiv \left(\begin{array}{c}X\\Y\end{array}\right) \]である。両辺にkをかけて、xを消去することにする。tというのは\(\vec{OA}\)のx座標であるが、Xにしか現れない。YとXの関係式を得るためには、両方の変数に関わるxを消去した方が便利であるのは明らかである。
この結果として、
\[
Y=k(X-kt)^2
\]
を得る。これは頂点(kt,0)、すなわちX軸に接した放物線である。tの範囲は0から1までだから、この放物線は0からkまで頂点がX軸上を移動することになる。また、Xの範囲はxとXの関係を逆に解いて
\[
kt - \frac{1}{k} \leq X \leq kt + \frac{1}{k}
\]
となる。tを動かしながら、これらの情報をうまく利用して\(S(k)\)を求めれば、この問題はそれほど難しくない。
以上のことから、一次変換も、線形独立性も、考える必要がないので、この問題は単なるパラメータを消す練習としか解釈できなかった。理論物理学の観点からは「残念な問題」であった。
ちなみに、続く問4も素直にやれば解ける問題であり、 高校数学の発想の範囲内でやるだけであろう。やる気が失せたので、こちらも省略。問6は空間の認識のトレーニングであるが、少し捻って2次方程式の問題に持ち込めるかなという希望がちょっとあったのだが、結局は球を引きずり回すだけの話に落ち着いてしまい、理論物理学の考え方を持ち込む余地はあまりなかった。これも省略。
整数問題における極限の利用:東大2018(問2)
東大数学2018の問2を見てみよう。これも簡単な問題ではあるが、方針が定まるまでは色々と試して見なくてはならないだろう。
(1)は簡単で、すぐに\(q_n/p_n = \frac{2(2n+1)}{n(n+1)}\)であることが計算できる。細かいチェックは必要だと思うので、答案にはそういうのも書き込んでおく必要があろう。が、ここでは省略する。大切なことは、分母を2で割っておく必要があるということである。つまり、分子に出た2を、分母で1/2と書きあらわす必要があるということである。これはnが偶数のときと、奇数の時に分けて考えれば明らかとなる。すなわち、
\[
\frac{q_{2k}}{p_{2k}} = \frac{4k+1}{k(2k+1)}, \quad
\frac{q_{2k-1}}{p_{2k-1}} = \frac{4k-1}{k(2k-1)}
\]
(2)に移ろう。理論物理でいう「現象論」のアプローチを取ってみる。つまり、いくつか実例を観察してみて、その上で「現象論的な法則」を見つけ出すというやり方である。簡単にいうと、数列をいくつか計算してみるのである。
\(a_1=3, a_2=5, a_3=35/6 = 5.8..., a_4=21/4=5.25, a_5=77/20 = 3.8..., \\ a_6=143/60 = 2.38..., a_7=143/112 = 1.27..., a_8=2431/4032 < 1, \cdots\)
という結果となる。
最初の2つが整数値を取り、あとは分数になるように見える。 グラフにまとめてみると、下のようになった。
大事な点は、\(a_n\)が一旦分数の値を取り始めた\(n=3\)以上では、数列の値が単調減少しているように見えることだ。これが本当かどうか調べてみよう。n番目とn-1番目の数列の要素の関係は、
\[
a_n=\left(\frac{q_n}{p_n}\right)a_{n-1} = \frac{2n+1}{n(n+1)/2}a_{n-1}
\]
である。nが大きな値をとった時の\(q_n/p_n\)の漸近形は
\[
\frac{q_n}{p_n}=\frac{2+\frac{1}{n}}{\frac{n}{2}\left(1+\frac{1}{n}\right)} \rightarrow \frac{4}{n}
\]
である。上のグラフで4/xのグラフ(緑色)を重ねたのは、これが\(q_n/p_n\)の漸近形となっているからである。実際n=8付近でよく両者は一致しているのが確認できる。
数列\(a_1, a_2,\cdots\)を\[a_n= \frac{_{2n+1}C_n}{n!} \quad (n=1,2,\cdots)\]で定める。
(1) \(n\geqq 2\)とする。\(\frac{a_n}{a_{n-1}}\)を既約分数\(\frac{q_n}{p_n}\)として表したときの分母\(p_n \geqq 1\)と分子\(q_n\)を求めよ。
(2)\(a_n\)が整数となる\(n\geqq 1\)をすべて求めよ。
(1)は簡単で、すぐに\(q_n/p_n = \frac{2(2n+1)}{n(n+1)}\)であることが計算できる。細かいチェックは必要だと思うので、答案にはそういうのも書き込んでおく必要があろう。が、ここでは省略する。大切なことは、分母を2で割っておく必要があるということである。つまり、分子に出た2を、分母で1/2と書きあらわす必要があるということである。これはnが偶数のときと、奇数の時に分けて考えれば明らかとなる。すなわち、
\[
\frac{q_{2k}}{p_{2k}} = \frac{4k+1}{k(2k+1)}, \quad
\frac{q_{2k-1}}{p_{2k-1}} = \frac{4k-1}{k(2k-1)}
\]
(2)に移ろう。理論物理でいう「現象論」のアプローチを取ってみる。つまり、いくつか実例を観察してみて、その上で「現象論的な法則」を見つけ出すというやり方である。簡単にいうと、数列をいくつか計算してみるのである。
\(a_1=3, a_2=5, a_3=35/6 = 5.8..., a_4=21/4=5.25, a_5=77/20 = 3.8..., \\ a_6=143/60 = 2.38..., a_7=143/112 = 1.27..., a_8=2431/4032 < 1, \cdots\)
という結果となる。
最初の2つが整数値を取り、あとは分数になるように見える。 グラフにまとめてみると、下のようになった。
横軸はn。紫の線は\(a_n\)、水色が\(q_n/p_n\)、緑が\(4/n\)に対応。 |
\[
a_n=\left(\frac{q_n}{p_n}\right)a_{n-1} = \frac{2n+1}{n(n+1)/2}a_{n-1}
\]
である。nが大きな値をとった時の\(q_n/p_n\)の漸近形は
\[
\frac{q_n}{p_n}=\frac{2+\frac{1}{n}}{\frac{n}{2}\left(1+\frac{1}{n}\right)} \rightarrow \frac{4}{n}
\]
である。上のグラフで4/xのグラフ(緑色)を重ねたのは、これが\(q_n/p_n\)の漸近形となっているからである。実際n=8付近でよく両者は一致しているのが確認できる。
\(n\gg 4\)のとき、\(q_n/p_n\)は1より小さいので、\(a_n < a_{n-1}\)であることが証明できる。つまり、nが大きいところで、この数列は単調減少なのである。問題はどのnからが「十分大きいn」なのかどうか、という判断である。
この判断をしやすくするために、\(q_n/p_n\)を下のように書き換えてみる。\[\frac{2(2n+1)}{n(n+1)} = 2 \frac{2(n+1)-1}{n(n+1)} = \frac{4}{n} - \frac{2}{n(n+1)} = \frac{2}{n}\left(2-\frac{1}{n+1}\right)\]
最後の等式のところに着目する。\(2-1/(n+1)\)というのは単調増加な双曲線上にあり、大きなnに対し2に収束する。n=4を代入してみると1.8という値を与えるので、\(n\geq 4\)において、ほぼ2に近い値を持ち続けることになる。そこで\(n\geq 4\) において
\[1.8 < 2-\frac{1}{n+1} < 2\]
となるので、この結果を\(q_n/p_n\)に代入すると、
\[\frac{3.6}{n} < q_n/p_n < \frac{4}{n}\]
の範囲で近似できる。いずれにしても、これは単調減少な数列である。
\(q_4/p_4 = 9/10 < 1\)だから、n=4より大きなところで数列は単調減少となることがわかる。つまり、「大きなn」というのは「4以上のn」ということなのであった。
最後のポイントは、数列自体の値が1より小さくなるのはどこか、ということである。数列の値が1より小さくなれば、そこより大きなnにおいて数列は1より小さな分数となるから、整数となることは2度とありえない。上の「現象論的計算」によれば、数列が1を切るのはn=8のときである。したがって、n=8より大きなときは整数となる数列は存在しないのである。
n=7以下の場合で数列が整数になるのは、計算によりn=1,2の2つの場合だけである。したがって、これが答えになる。
テイラー展開で解く:東大2018(問1)
2013年の阪大の問題で使ったテイラー展開を、今年の東大の問題でも使ってみよう。
テイラー展開は大学の物理でよく使う。例えば、\(g\)を重力定数、\(l\)を振り子の糸の長さとすると、振り子運動を記述する運動方程式は
\[
\frac{d^2\theta}{dt^2} = - \frac{g}{l}\sin\theta
\]となるが、振り子の振角θが微小であるとき(つまり\(|\theta|\ll 1\))、「調和振動子」に近似することができる。調和振動子とは、大雑把にいうと、バネのような復元力による周期運動のことで、力学はもちろん量子力学で重要な役割を果たす。上式の微分方程式で表される調和振動子の解は三角関数となる(後述する)。ちなみに、微小近似が使えないような大きな振幅で運動する場合は、上の微分方程式の解として、三角関数よりも複雑な「楕円関数」というものを導入しなくてはならない。
この「微小振動近似」のときに使う近似が、
\[
\sin\theta \simeq \theta \quad \cdots [A]
\]
というものである。この近似は正弦関数のテイラー展開
\[
\sin\theta = \theta - \frac{\theta^3}{3!} + \frac{\theta^5}{5!} + \cdots \quad [B]
\]
によって正当化できる(このテイラー展開はθ=0周辺の展開となっているので、マクローリン展開と呼ばれるときもある)。余弦関数のテイラー展開は、上式の両辺を微分することで(形式的に)得ることができて、
\[
\cos\theta = 1 - \frac{\theta^2}{2!} + \frac{\theta^4}{4!} + \cdots \quad [C]
\]
となる。
上の式の右辺のような無限和は、べき(冪)級数(すなわち、θの冪関数\(\theta^n\)の無限和)と呼ばれる。冪関数よりも複雑な関数、たとえば三角関数や指数関数など、を冪級数で表す(「展開する」という)とき、この級数のことをテイラー展開(あるいはテイラー級数展開)という。
つまり、近似式[A]は、正弦関数をテイラー展開したとき(最初の等号)、θが小さいという条件の下で、3次以上の高次項は、1次の項に比べて無視できるほと小さいと見なせるという意味である。近似式[A]を用いれば、微小振動の場合の振り子の運動方程式は、テイラー展開に基づく近似によって
\[
\frac{d^2\theta}{dt^2} = -\frac{g}{l}\theta
\]
と近似できる。これが「調和振動子」の運動方程式である。解が三角関数\(\theta(t)=A\cos(\omega t+\delta)\)であることは、代入してみればすぐにわかる。ただし、\(A, \delta\)は定数であり、\(\omega = \sqrt{\frac{g}{l}}\)である。
Taylor展開を行う御利益は、上の例をみても明らかであるが、次の通りである。冪関数ほど解析的に扱いが簡単な関数はないわけで、三角関数や指数関数などの「複雑な」関数の性質を、冪級数で表し、関連する計算や理論を簡易化しようというのである。(\(\sin x\)が\(x\)で近似できたら、問題は劇的に簡易化するのは自明であろう!)こうなると、問題の焦点は展開/級数の収束性に移ってくる。実際、大学に入って解析の講義を受けると、収束判定条件などについて学ぶことになる。
ちなみに、無限に続くこのような和(すなわち級数)で表される関数のことを超越関数(transcendental function)という。つまり、三角関数も指数関数も超越関数である。一方、冪関数の有限和は「多項式」という(高校数学では、なぜか「整式」という)。多項式と超越関数の違いは、有限和と無限和の違いであり、この違いが量子力学で大きな役割を果たす(例えば、1次元調和振動子のエネルギーが量子化され、対応する波動関数がエルミート多項式となるのは、無限和だと思っていたものが、実は有限和でなければならぬという条件、より正確には波動関数が発散せず二乗可積分であるべし、という条件から決まる)。
さて、この問題(問1)で扱うのは次の関数である。
\[
f(x) = \frac{x}{\sin x} + \cos x, \quad (0<x<\pi)
\]
三角関数のテイラー展開、式[B][C]を代入すると、
\[
f(x)= \frac{x}{x-\frac{x^3}{3!} + \cdots} + 1-\frac{x^2}{2!} + \cdots
= \left( 1 - \frac{x^2}{3!} + \cdots\right)^{-1} + 1 - \frac{x^2}{2!} + \cdots
\]
上の式をつかって\(\displaystyle \lim_{x\rightarrow +0}f(x)\)を計算するのは簡単である(答えは2)。これがテイラー展開の強みである。冪級数で表せば、複雑な関数の解析的な性質が簡易化するのである。
上式をさらに「簡易化」するために、\(g(x)=(1+x)^n\)のテイラー展開を考える。nが整数のときは二項展開が利用できるが、より一般の場合に拡張するのはそれほど難しくない。結論だけまとめると、
\[
g(x)=1+nx + \frac{n(n-1)}{2}x^2 + \cdots
\]
となる。
この「二項展開」のテイラー展開を利用して、f(x)のテイラー展開の負べきの部分を近似すると
\[
f(x) = \left( 1 +\frac{x^2}{3!} - \cdots\right) + \left(1 - \frac{x^2}{2!} + \cdots\right)
\]
となる。\(|x|\ll 1\)であることを使って、2次関数で近似すると
\[
f(x) \simeq 2 + \left(\frac{1}{3!}-\frac{1}{2!}\right) x^2
\]
を得る。これは頂点が(0,2)の、上に凸の放物線である。x→+0の極限が2であることがすぐにわかるし、f(x)の解析的な性質がx=0の周辺でどんな感じになっているか直感的に理解することができる。
今度は\(x=\pi\)周辺のテイラー展開を考える。xの範囲はπまでなので\(x=\pi - \xi\)と置く。ただし\(0<\xi\ll 1\)とする。f(x)は\(\xi\)の関数になるので\(f(x)\rightarrow f(\xi)\)と書き直すことにする。すなわち、
\[
f(x) = \frac{\pi-\xi}{\sin(\pi-\xi)} + \cos(\pi-\xi) = \frac{\pi - \xi}{\sin\xi} - \cos\xi \equiv f(\xi)
\]
である。\(\xi\)についてテイラー展開すると、
\[
f(\xi) = \left(\pi - \xi\right)\left( \xi - \frac{\xi^3}{3!} + \cdots\right)^{-1} + \left(1-\frac{\xi^2}{2!}+\cdots\right)
\]
\(\sin\xi\)を分母で展開した部分に、二項展開のテイラー展開を適用するために、\(\xi\)で括りだし、
\[
f(\xi) = \left(\frac{\pi}{\xi} - 1\right) \left( 1 - \frac{\xi^2}{3!}+\cdots\right)^{-1} + \left(1-\frac{\xi^2}{2!}+\cdots\right) \\ \simeq \left(\frac{\pi}{\xi} - 1\right) \left( 1 + \frac{\xi^2}{3!}-\cdots\right) + \left(1-\frac{\xi^2}{2!}+\cdots\right)
\]
とする。\(\xi\)は微小量であるから、1と比較して無視できる。したがって、\(\xi\rightarrow 0\)の極限において、\(f(\xi)\)は双曲線関数
\[
f(\xi) \simeq \frac{\pi}{\xi}
\]
のように振る舞うことがわかる。つまり\(x\rightarrow \pi - 0\)の極限でf(x)は+∞に発散することがわかる。また、\(f(\xi)\)の二階微分は\(f''(\xi)=2\xi^{-3}\)なので、\(\xi = +0\)で正値を取る。つまり、大雑把に言って「下に凸」のグラフとなる。
\(x=+0\)付近で上に凸の放物線、\(x=\pi-0\)付近で下に凸の双曲線でよく近似されるf(x)であるから、この2つのグラフをxの中間領域でなめらかに繋ぐには変曲点が少なくとも1つ(より正確には奇数個)は存在しているはずである。とすると、極値点というよりも極小点が一つは存在するだろう、という予想が立つ。f'(x)を計算すると\(x=\pi/2\)に極小点があることがわかる。x=0付近のテイラー展開(放物線)と、x=π付近のテイラー展開(双曲線)とをグラフにプロットすると、次の図のようになる。
極小点はx=π/2であるが、その付近でテイラー展開はオリジナルの関数f(x)から大きくずれていることがわかる。ここで曲率が変わらないと、2つのグラフがなめらかにつながらないからだが、放物線も双曲線も曲率は一定のままであるから、f(x)からずれていくのである。
極値がx=π/2以外では発生しないことを、きちんと証明するには、\(x>0\)の領域で、\(\sin x - x < 0\)が常に成り立つことを示す必要があるが、これは簡単にできるのでここでは割愛したい。
テイラー展開は大学の物理でよく使う。例えば、\(g\)を重力定数、\(l\)を振り子の糸の長さとすると、振り子運動を記述する運動方程式は
\[
\frac{d^2\theta}{dt^2} = - \frac{g}{l}\sin\theta
\]となるが、振り子の振角θが微小であるとき(つまり\(|\theta|\ll 1\))、「調和振動子」に近似することができる。調和振動子とは、大雑把にいうと、バネのような復元力による周期運動のことで、力学はもちろん量子力学で重要な役割を果たす。上式の微分方程式で表される調和振動子の解は三角関数となる(後述する)。ちなみに、微小近似が使えないような大きな振幅で運動する場合は、上の微分方程式の解として、三角関数よりも複雑な「楕円関数」というものを導入しなくてはならない。
この「微小振動近似」のときに使う近似が、
\[
\sin\theta \simeq \theta \quad \cdots [A]
\]
というものである。この近似は正弦関数のテイラー展開
\[
\sin\theta = \theta - \frac{\theta^3}{3!} + \frac{\theta^5}{5!} + \cdots \quad [B]
\]
によって正当化できる(このテイラー展開はθ=0周辺の展開となっているので、マクローリン展開と呼ばれるときもある)。余弦関数のテイラー展開は、上式の両辺を微分することで(形式的に)得ることができて、
\[
\cos\theta = 1 - \frac{\theta^2}{2!} + \frac{\theta^4}{4!} + \cdots \quad [C]
\]
となる。
上の式の右辺のような無限和は、べき(冪)級数(すなわち、θの冪関数\(\theta^n\)の無限和)と呼ばれる。冪関数よりも複雑な関数、たとえば三角関数や指数関数など、を冪級数で表す(「展開する」という)とき、この級数のことをテイラー展開(あるいはテイラー級数展開)という。
つまり、近似式[A]は、正弦関数をテイラー展開したとき(最初の等号)、θが小さいという条件の下で、3次以上の高次項は、1次の項に比べて無視できるほと小さいと見なせるという意味である。近似式[A]を用いれば、微小振動の場合の振り子の運動方程式は、テイラー展開に基づく近似によって
\[
\frac{d^2\theta}{dt^2} = -\frac{g}{l}\theta
\]
と近似できる。これが「調和振動子」の運動方程式である。解が三角関数\(\theta(t)=A\cos(\omega t+\delta)\)であることは、代入してみればすぐにわかる。ただし、\(A, \delta\)は定数であり、\(\omega = \sqrt{\frac{g}{l}}\)である。
Taylor展開を行う御利益は、上の例をみても明らかであるが、次の通りである。冪関数ほど解析的に扱いが簡単な関数はないわけで、三角関数や指数関数などの「複雑な」関数の性質を、冪級数で表し、関連する計算や理論を簡易化しようというのである。(\(\sin x\)が\(x\)で近似できたら、問題は劇的に簡易化するのは自明であろう!)こうなると、問題の焦点は展開/級数の収束性に移ってくる。実際、大学に入って解析の講義を受けると、収束判定条件などについて学ぶことになる。
ちなみに、無限に続くこのような和(すなわち級数)で表される関数のことを超越関数(transcendental function)という。つまり、三角関数も指数関数も超越関数である。一方、冪関数の有限和は「多項式」という(高校数学では、なぜか「整式」という)。多項式と超越関数の違いは、有限和と無限和の違いであり、この違いが量子力学で大きな役割を果たす(例えば、1次元調和振動子のエネルギーが量子化され、対応する波動関数がエルミート多項式となるのは、無限和だと思っていたものが、実は有限和でなければならぬという条件、より正確には波動関数が発散せず二乗可積分であるべし、という条件から決まる)。
さて、この問題(問1)で扱うのは次の関数である。
\[
f(x) = \frac{x}{\sin x} + \cos x, \quad (0<x<\pi)
\]
三角関数のテイラー展開、式[B][C]を代入すると、
\[
f(x)= \frac{x}{x-\frac{x^3}{3!} + \cdots} + 1-\frac{x^2}{2!} + \cdots
= \left( 1 - \frac{x^2}{3!} + \cdots\right)^{-1} + 1 - \frac{x^2}{2!} + \cdots
\]
上の式をつかって\(\displaystyle \lim_{x\rightarrow +0}f(x)\)を計算するのは簡単である(答えは2)。これがテイラー展開の強みである。冪級数で表せば、複雑な関数の解析的な性質が簡易化するのである。
上式をさらに「簡易化」するために、\(g(x)=(1+x)^n\)のテイラー展開を考える。nが整数のときは二項展開が利用できるが、より一般の場合に拡張するのはそれほど難しくない。結論だけまとめると、
\[
g(x)=1+nx + \frac{n(n-1)}{2}x^2 + \cdots
\]
となる。
この「二項展開」のテイラー展開を利用して、f(x)のテイラー展開の負べきの部分を近似すると
\[
f(x) = \left( 1 +\frac{x^2}{3!} - \cdots\right) + \left(1 - \frac{x^2}{2!} + \cdots\right)
\]
となる。\(|x|\ll 1\)であることを使って、2次関数で近似すると
\[
f(x) \simeq 2 + \left(\frac{1}{3!}-\frac{1}{2!}\right) x^2
\]
を得る。これは頂点が(0,2)の、上に凸の放物線である。x→+0の極限が2であることがすぐにわかるし、f(x)の解析的な性質がx=0の周辺でどんな感じになっているか直感的に理解することができる。
今度は\(x=\pi\)周辺のテイラー展開を考える。xの範囲はπまでなので\(x=\pi - \xi\)と置く。ただし\(0<\xi\ll 1\)とする。f(x)は\(\xi\)の関数になるので\(f(x)\rightarrow f(\xi)\)と書き直すことにする。すなわち、
\[
f(x) = \frac{\pi-\xi}{\sin(\pi-\xi)} + \cos(\pi-\xi) = \frac{\pi - \xi}{\sin\xi} - \cos\xi \equiv f(\xi)
\]
である。\(\xi\)についてテイラー展開すると、
\[
f(\xi) = \left(\pi - \xi\right)\left( \xi - \frac{\xi^3}{3!} + \cdots\right)^{-1} + \left(1-\frac{\xi^2}{2!}+\cdots\right)
\]
\(\sin\xi\)を分母で展開した部分に、二項展開のテイラー展開を適用するために、\(\xi\)で括りだし、
\[
f(\xi) = \left(\frac{\pi}{\xi} - 1\right) \left( 1 - \frac{\xi^2}{3!}+\cdots\right)^{-1} + \left(1-\frac{\xi^2}{2!}+\cdots\right) \\ \simeq \left(\frac{\pi}{\xi} - 1\right) \left( 1 + \frac{\xi^2}{3!}-\cdots\right) + \left(1-\frac{\xi^2}{2!}+\cdots\right)
\]
とする。\(\xi\)は微小量であるから、1と比較して無視できる。したがって、\(\xi\rightarrow 0\)の極限において、\(f(\xi)\)は双曲線関数
\[
f(\xi) \simeq \frac{\pi}{\xi}
\]
のように振る舞うことがわかる。つまり\(x\rightarrow \pi - 0\)の極限でf(x)は+∞に発散することがわかる。また、\(f(\xi)\)の二階微分は\(f''(\xi)=2\xi^{-3}\)なので、\(\xi = +0\)で正値を取る。つまり、大雑把に言って「下に凸」のグラフとなる。
\(x=+0\)付近で上に凸の放物線、\(x=\pi-0\)付近で下に凸の双曲線でよく近似されるf(x)であるから、この2つのグラフをxの中間領域でなめらかに繋ぐには変曲点が少なくとも1つ(より正確には奇数個)は存在しているはずである。とすると、極値点というよりも極小点が一つは存在するだろう、という予想が立つ。f'(x)を計算すると\(x=\pi/2\)に極小点があることがわかる。x=0付近のテイラー展開(放物線)と、x=π付近のテイラー展開(双曲線)とをグラフにプロットすると、次の図のようになる。
紫色のグラフがオリジナルのf(x)のグラフ。緑色がx=0でテイラー展開した結果の放物線、水色はx=π付近で展開した結果の双曲線。それぞれの点で展開した結果は、それぞれの点の付近でよくオリジナルの関数と一致している。極小点はπ/2=1.57...あたりに発生しているように見え、その付近で2つのグラフは接続している。 |
極値がx=π/2以外では発生しないことを、きちんと証明するには、\(x>0\)の領域で、\(\sin x - x < 0\)が常に成り立つことを示す必要があるが、これは簡単にできるのでここでは割愛したい。
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