では、これまでの準備(その1、その2)を基に、東大2017問題3を再び解いてみよう。
東大の問題では点αの垂直二等分線上を動く点z=x+iyの逆数が描く軌跡を求めることになっていたが、今回はより一般の場合に拡張することにしょう。すなわち、直線ax+by+c=0の上を動く点をz=x+iyと表すとき、1/zが描く描く軌跡が円となることを示そう。
例によって、オイラーの公式(eiθ=cosθ+i sinθ)と極座標(x=r cosθ, y=r sinθ)を用いると、直線上の点はまずz=reiθと書くことができる。この逆数は1/z = (1/r)e-iθとなる。
直線の方程式も極座標で書いてしまおう。
ax+by+c=0 → r(acosθ+bsinθ)+c=0
上の方程式から、rをθ、a, b, cで表すことができる。これを1/zに代入すると
1/z = - e-iθ(acosθ+bsinθ)/c
となる。
次に、
cosθ=(eiθ+e-iθ)/2, sinθ=(eiθ-e-iθ)/(2i)
という恒等式を使って、1/z中の三角関数の表現を消去する。すると、
1/z = (-a+ib)/c - e-2iθ(a+ib)/(2c)
という表現を得る。(a+ib)/2c は複素数だから、
(a+ib)/2c = r0 eiθ0
と表すことができる。ただし、tanθ0 = b/a、および r02 = (a2+b2)/(4c2)である。
したがって、以上をまとめると
1/z = (-a+ib)/c - r0 e-i(2θ-θ0)となる。
すなわち、1/zは円の軌跡であり、中心の位置は(-a+ib)/c、半径はr0である。ちなみに、zの回転方向とは逆向きに回転し、そのスピードは2倍となる。また、回転の出発地点(位相)は-θ0だけずれる。
この結果を東大の問題に適用してみよう。以前の計算結果を利用すると、
a=α0, b=α1, c=-(α02+α12)/2
である。これを代入すると、簡単に以前得た解答が再現される。
この問題の解き方は、以前のゴリゴリ計算した方法よりもずっと楽だ。やはり、複素数は素晴らしい!
2017年4月30日日曜日
2017年4月28日金曜日
複素数の問題をベクトル感覚で解く:線形演算の確認
ベクトルは、ベクトル空間と呼ばれる集合において定義され、和とスカラー積が定義される。ここに内積が付与されれば、ヒルベルト空間とか、ノルム空間とか呼ばれる特別なベクトル空間になるが、まず重要なのは、ベクトル和とスカラー倍だ。この2つをまとめて、線形演算と呼ぶことにしよう。
線形演算はあまりにも当たり前すぎて、辟易することもあるけれど、物理や数学の理論がより精密かつ複雑、高度になっていくにつれて、線形性の単純さが道標の役割を担ってくれることもあるから、重要な概念だ。とりわけ、物理における重要な理論の数々(ニュートンの運動方程式による調和振動子や、マクスウェル方程式、そしてなによりシュレディンガー方程式など)が線形理論となっているので、線型性を理解しておくのは損じゃない。
さて、今回確認しなくてはいけないのは、複素数がベクトル空間と同等の役割をもっているかどうか、という点である。ベクトル空間に定義される線形演算が 、複素平面でも成り立つことが特に重要である。
以下では、ベクトルと複素数の間に、v⇄z, w⇄wという対応が付いているものとする。
ベクトル:λv + μw = (λvx + μwx, λvy+μwy)
複素数:λz+μw = (λzx+μwx) + i (λzy+μwy)
すなわち、ベクトルの線形演算は、複素数の線形演算と等価である。
これはベクトル空間に後付けすべきものであるが、ノルム(すなわちベクトルの大きさ)が、複素数ではどのように表せるかも確認しておこう。内積の定義とピタゴラスの定理により、ベクトルのノルムの自乗は
v・v = vx2+vy2
と書ける。一方で、複素数は、その絶対値がノルムに対応している。
|z|2=zz* = zx2+zy2
注意すべきなのは、複素数では逆数、つまり割り算が定義されているが、ベクトルには定義されていない点である。この対応がないことだけ注意すれば、複素数を使って、ベクトルの問題を解くことは十分可能だろう。
線形演算はあまりにも当たり前すぎて、辟易することもあるけれど、物理や数学の理論がより精密かつ複雑、高度になっていくにつれて、線形性の単純さが道標の役割を担ってくれることもあるから、重要な概念だ。とりわけ、物理における重要な理論の数々(ニュートンの運動方程式による調和振動子や、マクスウェル方程式、そしてなによりシュレディンガー方程式など)が線形理論となっているので、線型性を理解しておくのは損じゃない。
さて、今回確認しなくてはいけないのは、複素数がベクトル空間と同等の役割をもっているかどうか、という点である。ベクトル空間に定義される線形演算が 、複素平面でも成り立つことが特に重要である。
以下では、ベクトルと複素数の間に、v⇄z, w⇄wという対応が付いているものとする。
ベクトル:λv + μw = (λvx + μwx, λvy+μwy)
複素数:λz+μw = (λzx+μwx) + i (λzy+μwy)
すなわち、ベクトルの線形演算は、複素数の線形演算と等価である。
これはベクトル空間に後付けすべきものであるが、ノルム(すなわちベクトルの大きさ)が、複素数ではどのように表せるかも確認しておこう。内積の定義とピタゴラスの定理により、ベクトルのノルムの自乗は
v・v = vx2+vy2
と書ける。一方で、複素数は、その絶対値がノルムに対応している。
|z|2=zz* = zx2+zy2
注意すべきなのは、複素数では逆数、つまり割り算が定義されているが、ベクトルには定義されていない点である。この対応がないことだけ注意すれば、複素数を使って、ベクトルの問題を解くことは十分可能だろう。
2017年4月27日木曜日
複素数の問題をベクトル感覚で解く:円と直線の表現
以前「複素数の問題を幾何の問題にしてしま」った、東大2017問題3だが、再び解いてみることにした。今回試すのはベクトルの考え方である。
複素数z=x+iyは、そもそも二次元の情報(x,y)をもっている。ガウス平面を、xy座標系とみなすことができるから、前回のように「複素数の問題を幾何の問題として捉える」ことが可能となる。前回は、幾何学の考え方を推し進めたが、今回は代数幾何的な考え方、つまりベクトルと対比しながら解いてみたいと思う。
単位円の表現
まずは、ベクトルによる単位円の表現を考える。まずは原点を中心とする円の周上に点Pをおく。この点の位置を示す位置ベクトルrは
r=R(θ)ex
と表すことができる。ex はx方向の単位ベクトルを表し、R(θ)は2次元の回転行列である。円周上の点Pはθによって指定されるからr=r(θ)と書いた方がよいだろう。
次に、円の中心位置を示すベクトルをr0とし、この円を平行移動する。
r(θ)=R(θ)ex + r0
これがベクトルによる円の表現である。
次に、複素数によって上の方程式と等価な式を導出する。r(θ)→Z(θ), r0→αとするところまでは簡単である。問題は、単位円のの中心と円周上の点を結ぶ単位ベクトルの表現であるが、これは複素数の方が簡単な表記ですむ。R(θ)ex →eiθとなる。まとめると
Z(θ) = eiθ + α
となる。
オイラーの公式によると、
eiθ = cosθ + i sinθ
と表すことができる。物理学者が複素数を使うのは、このオイラーの公式と、複素積分(ローラン級数展開と線積分)くらいといってもよいかもしれない。量子力学の位相がこの形で書かれるせいもあってか、物理学者はとにかくオイラーの公式が大好きである。
直線の表現
こんどは、平面中の直線の表現をベクトル風に書いてみる。2点A,Bを通るのが直線である。この2点のベクトルをaとbと書くことにする。直線に平行な単位ベクトルeは
e=(b-a)/|b-a|と書ける。直線はaを通るのだから、平行移動して
r(t) = a + te
と書くことができる。
複素数で書くと、r(t)→Z(t), a→αという対応の下に
Z(t) = α + t eiθ
と表せる。このとき、θは定数で、直線の傾きを表すことに注意。tが変数である。
ここでまとめたような、円と直線のベクトル表現は、大学初年度でやる力学で出てきそうな表現だ。それを、あえて複素数でやろうというわけである。行列を習っていない最近の学生なら、回転行列を学ぶよりも、オイラーの公式を使う複素数の方がとっつきやすいかもしれない。
複素数z=x+iyは、そもそも二次元の情報(x,y)をもっている。ガウス平面を、xy座標系とみなすことができるから、前回のように「複素数の問題を幾何の問題として捉える」ことが可能となる。前回は、幾何学の考え方を推し進めたが、今回は代数幾何的な考え方、つまりベクトルと対比しながら解いてみたいと思う。
単位円の表現
まずは、ベクトルによる単位円の表現を考える。まずは原点を中心とする円の周上に点Pをおく。この点の位置を示す位置ベクトルrは
r=R(θ)ex
と表すことができる。ex はx方向の単位ベクトルを表し、R(θ)は2次元の回転行列である。円周上の点Pはθによって指定されるからr=r(θ)と書いた方がよいだろう。
次に、円の中心位置を示すベクトルをr0とし、この円を平行移動する。
r(θ)=R(θ)ex + r0
これがベクトルによる円の表現である。
次に、複素数によって上の方程式と等価な式を導出する。r(θ)→Z(θ), r0→αとするところまでは簡単である。問題は、単位円のの中心と円周上の点を結ぶ単位ベクトルの表現であるが、これは複素数の方が簡単な表記ですむ。R(θ)ex →eiθとなる。まとめると
Z(θ) = eiθ + α
となる。
オイラーの公式によると、
eiθ = cosθ + i sinθ
と表すことができる。物理学者が複素数を使うのは、このオイラーの公式と、複素積分(ローラン級数展開と線積分)くらいといってもよいかもしれない。量子力学の位相がこの形で書かれるせいもあってか、物理学者はとにかくオイラーの公式が大好きである。
直線の表現
こんどは、平面中の直線の表現をベクトル風に書いてみる。2点A,Bを通るのが直線である。この2点のベクトルをaとbと書くことにする。直線に平行な単位ベクトルeは
e=(b-a)/|b-a|と書ける。直線はaを通るのだから、平行移動して
r(t) = a + te
と書くことができる。
複素数で書くと、r(t)→Z(t), a→αという対応の下に
Z(t) = α + t eiθ
と表せる。このとき、θは定数で、直線の傾きを表すことに注意。tが変数である。
ここでまとめたような、円と直線のベクトル表現は、大学初年度でやる力学で出てきそうな表現だ。それを、あえて複素数でやろうというわけである。行列を習っていない最近の学生なら、回転行列を学ぶよりも、オイラーの公式を使う複素数の方がとっつきやすいかもしれない。
2017年4月14日金曜日
三角関数をつかった整数の問題:京大2017問3
問題文の詳細は、クリックして拡大。 |
ただ、tan(x)のそもそもの定義は「直角三角形の(斜辺以外の)2辺の比」であるから、tan(x)=1/pとか1/qというのは、底辺がp(もしくはq)で、高さが1の直角三角形を考えよう、ということになる。この比をもつ直角三角形の角度をα、βとしよう、というわけである。
この状況をもとに、その底辺の長さが1/2, 高さが1の直角三角形を考えたとき、その見込む角度がα+2βとなることはあり得ますか?というのがこの問題の解釈であり、それは幾何の問題といってもいいだろう。整数の問題は、三角関数の問題から結構作れるのかもしれない。
ちなみに、 この問題の答えを基に、底辺の長さがp=2,q=3,1/2、高さが1の三角形に相当する直線をそれぞれ描いてみると、下の図のような感じになる。x軸から緑線までの角度がα、x軸から紫線までの角度がβ、x軸から水色までの角度がα+2β, したがって、紫色から水色の線までの角度がαとなる。
それでは早速、どうやったらtan(α+2β)=2のとき、tan(α)=1/2, tan(β)=1/3という値が得られるのか、計算してみよう。
まずは正接の加法公式は
tan(x+y) = {tan(x)+ tan(y)} / {1+tan(x)tan(y)}
となるか確認しておこう。これは、tan(x)=sin(x)/cos(y)という正接の定義、それから通常の加法定理、たとえばcos(x+y)=cos(x)cos(y)-sin(x)sin(y)など、を使えば、上の公式は簡単に導出できる。tan(2x)= 2tan(x)/(1+tan(x)*tan(x))というのは、x=yとすることで簡単に導き出せる。
さて、x=α, y=2βとして、tan(α)=1/p, tan(β)=1/qを、加法定理の結果に代入し、少しだけ整理すると、
を得る。これが2となる場合の(p,q)を探せばよい。ちなみに、p=2, q=3を代入すると、ちゃんと2になることは確認できる。どのようにtan(α+2β)=2という条件式を使って答えにたどり着くか、決まり切ったやり方はない。しかし、答えが自然数である、という強い制限を利用するのは常套手段といえるだろう。
自然数は「割り算」に対して閉じていない。にもかかわらず、上の条件式は商の形となっている。このあたりがうまく使えそうだ。
商を考える際、2つの方針がある。pでまとめるか、qでまとめるかである。
ちなみにqでまとめると2次式になる。2次式の一般解は無理数となるから、qが自然数となるためには判別式が自乗の形式をとることがまず要求される。また、2次方程式の解の公式は、商の形になっている。したがて、うまい具合に分子/分母が割り切れる形になって、分母が消えてくれたらqは自然数になる。こうして、qについてまとめると2つも条件が出てくるから、pについての制限がすぐに見つかって、問題が解けそうな気配がある。しかし、この方面で挑むと途中で壁に当たってしまう。こういうときは、すぐに別のやり方に切り替えるべきだ。
ということで、pについてまとめると、1次式が手にはいる。
左辺はpについて1次式というだけでなく、偶数でもある。にもかかわらず、右辺には1が現れている。2pは自然数にならなくてはならないのが、その前に5q/(q2-q-1)が1よりも大きくないと、2pが2, 4, 6,...といった偶数の自然数になれない。したがって、最初の条件として
が得られる。これがうまい具合にqの取り得る範囲を狭めてくれると嬉しい。
まずは q2-q-1 > 0の場合を考える。両辺にこの量をかけても不等号の向きはかわらない。ちょっとだけ式を整理して整式の不等式として表すと、
となる。これを解くと
となる。q2-q-1 > 0を解くとq≥2を得るので、上の条件と合わせると
q= 2, 3, 4, 5, 6
だけが答えの候補となる。この候補を 5q/(q2-q-1)に代入して、奇数になるものが解である。すべての候補を試してみると、q=3の場合だけ条件は満たされる。このとき、2p=1+3, すなわちp=2が得られる。すなわち(p,q)=(2,3)だけが解となる。
次に q2-q-1 < 0の場合を考える。この場合は不等式を解くとq>6かつq≤1となるが、この条件を満たすqは存在しない。
以上より、(p,q)=(2,3)だけが求める答えとなる。
2pについてまとめた式が手に入った時、問題はほぼ解けたと思ってよいだろう。狙い通りに、その条件式がqの範囲を絞ってくれた。ただ、いつもこのようにうまくいくとは限らない。qについてまとめる方法は今回はうまくいかなかったが、別の問題では救いの一手になるかもしれない。いつでも、いろいろな方法について考察するのは大切だろう。
しかし、なにより大切なのは、自然数と有理数の違いや、無理数の意味など、数の定義に関する基本的な理解だろう。この基礎知識こそが様々な手法を編み出すアイデアの源泉となる。
こういう考え方は、物理では量子力学でときどき必要になる。連続的に思える物理量(たとえばエネルギー)が、量子化される条件というのは、まさに整数と実数の違いをよく理解することから出発するのだ。
2017年4月13日木曜日
複素数の問題を幾何の問題にしてしまう(おまけ):京大2017問題1
前回の東大2017問3によく似た問題が、京都大学でも出題されていた。が、こちらの方は随分簡単に解ける。とはいえ、数学の基礎に関して、大切な事柄が詰まっていて、とても良い問題だと思う。(東大の問題は、結果は面白かったのだが、途中に至る計算が煩雑で、あまり面白くなかった。京大のこの問題は、複雑な計算はないし、結果に至るまでの計算もなかなか面白い。)
設問で(x,y)を使うように誘導されているが、これは前回我々が採用した考え方と同じだ。複素数の問題を、幾何の問題に焼き直して考えよう、というアプローチだ。(この問題を作ったのは、きっと工学系か物理系の先生じゃないだろうか?)
この問題でもオイラーの公式をつかって、複素数を極座標表示で扱うのがよいだろう。すなわち、w=reiθ=r(cosθ+i sinθ)とおく。(1)ではr=R, (2)ではθ=αと定数におき、残りの自由度(最初の問題ではθ,二番目の問題ではr)を動かしたときの軌跡を求めさせている。どちらの場合も、答えが円錐曲線となるところが面白い。パラメータを消去する時、足し算を使う(1)は楕円に、引き算を使う(2)は双曲線になる。
(1) R>1であることは後で効いてくるかもしれないから、忘れないようにしておこう。w+1/w = Reiθ+R-1e-iθなので、
x=(R+R-1)cosθ, y=(R-R-1)sinθ
となる。θの定義域は0≤ θ< 2πとなる。cos2θ+sin2θ=1を使って、θを消去するだけで, xとyの関係式が手にはいる。それはx,yに関しての2次式であるから、軌跡は楕円である。
R>1なのでRの逆数をとっても問題ない(R=0が抜けている)。また、R> R-1も常に成り立つ(R-R-1≠0が保障される)。したがって、短半径、長半径ともに、常にwell-definedである。
x,yが唯一つのパラメータ(θだけ)で表せるのが非常に重要である。これがために、前回の東大の問題と違って、非常に解きやすいのだ。
(2)今度は偏角を固定して、動径を変数にするとどんな軌跡になるか、という問題である。
ここでもαの値の範囲が0からπ/2までであることを記憶しておこう。これはsin(α), cos(α)ともに正値をとる、という意味である。
w +1/w = reiα+r-1e-iα=(r+r-1)cos(α) + i(r-r-1)sin(α)なので、
x= (r+r-1)cos(α), y=(r-r-1)sin(α)
である。ただし、0<rという定義域をrは持つ。この表式からrを消去して、x,yの関係式を求めれば良い。
指定されたαの範囲においては、cosαもsinαも0にならないから、次のように変形する。
x/cos(α) = (r+r-1), y/sin(α) = (r-r-1)
そして両辺を自乗すると、素晴らしいことに2次の項と定数項だけが残る。r/r=1だからである。
続いて、辺辺を「引き算」してrを消去するため、(x,y)は双曲線の軌跡となる。
ただし、 r>0なので、x>0という制限がかかる(xのパラメータ表示を参照せよ)。一方、yに関しては制限がない。これは、直感的に言えば、双曲線のうち「右側」のものだけ、という意味に他ならない。双曲線の2つの漸近線y=±tan(α)xのうち、傾きが負のもの(-tan(α))よりも上側にある双曲線、と表してもいいだろう。(予備校ではこの部分を 2r = x/cos(α) + y/sin(α) > 0という形で表しているようだ。)
個人的には、漸近線の傾きがtan(α)となるあたりが、さすがに京大の数学だ、と関心した。
問題文はクリックして拡大可能 |
この問題でもオイラーの公式をつかって、複素数を極座標表示で扱うのがよいだろう。すなわち、w=reiθ=r(cosθ+i sinθ)とおく。(1)ではr=R, (2)ではθ=αと定数におき、残りの自由度(最初の問題ではθ,二番目の問題ではr)を動かしたときの軌跡を求めさせている。どちらの場合も、答えが円錐曲線となるところが面白い。パラメータを消去する時、足し算を使う(1)は楕円に、引き算を使う(2)は双曲線になる。
(1) R>1であることは後で効いてくるかもしれないから、忘れないようにしておこう。w+1/w = Reiθ+R-1e-iθなので、
x=(R+R-1)cosθ, y=(R-R-1)sinθ
となる。θの定義域は0≤ θ< 2πとなる。cos2θ+sin2θ=1を使って、θを消去するだけで, xとyの関係式が手にはいる。それはx,yに関しての2次式であるから、軌跡は楕円である。
R>1なのでRの逆数をとっても問題ない(R=0が抜けている)。また、R> R-1も常に成り立つ(R-R-1≠0が保障される)。したがって、短半径、長半径ともに、常にwell-definedである。
x,yが唯一つのパラメータ(θだけ)で表せるのが非常に重要である。これがために、前回の東大の問題と違って、非常に解きやすいのだ。
(2)今度は偏角を固定して、動径を変数にするとどんな軌跡になるか、という問題である。
ここでもαの値の範囲が0からπ/2までであることを記憶しておこう。これはsin(α), cos(α)ともに正値をとる、という意味である。
w +1/w = reiα+r-1e-iα=(r+r-1)cos(α) + i(r-r-1)sin(α)なので、
x= (r+r-1)cos(α), y=(r-r-1)sin(α)
である。ただし、0<rという定義域をrは持つ。この表式からrを消去して、x,yの関係式を求めれば良い。
指定されたαの範囲においては、cosαもsinαも0にならないから、次のように変形する。
x/cos(α) = (r+r-1), y/sin(α) = (r-r-1)
そして両辺を自乗すると、素晴らしいことに2次の項と定数項だけが残る。r/r=1だからである。
続いて、辺辺を「引き算」してrを消去するため、(x,y)は双曲線の軌跡となる。
ただし、 r>0なので、x>0という制限がかかる(xのパラメータ表示を参照せよ)。一方、yに関しては制限がない。これは、直感的に言えば、双曲線のうち「右側」のものだけ、という意味に他ならない。双曲線の2つの漸近線y=±tan(α)xのうち、傾きが負のもの(-tan(α))よりも上側にある双曲線、と表してもいいだろう。(予備校ではこの部分を 2r = x/cos(α) + y/sin(α) > 0という形で表しているようだ。)
個人的には、漸近線の傾きがtan(α)となるあたりが、さすがに京大の数学だ、と関心した。
2017年4月11日火曜日
複素数の問題を幾何の問題にしてしまう(その2):東大2017問題3
前問につづいて問(2)を問いてみよう。
オイラーの公式を用いてz=reiθとおくと(rは非負の実数,θは偏角)、z3=1が解くべき方程式だから、r3e3iθ=e2nπiとなり(ただしnは整数)、r=1, eiθ=e2nπi/3を得る。したがって、z=e2nπi/3が解である。nは任意の自然数だが、3つに大別できる。n=0 (mod 3)のときz=1, n=1(mod 3)のときz=β=(-1+i√3)/2, n=2 (mod 3)のときz=β2=(-1-i√3)/2となる。
ちなみに、3つの解、1, β, β2は正三角形をなす。上の表式から明らかなように、βとβ2はy軸に沿って、つまりx軸と垂直に位置する。したがって、問(1)の観点からすると、Lはβとβ2を結ぶ、垂直線x=-1/2に対応する(ただしz=x+iyとxy座標系を対応させた)。
したがって、a=2, b=0, c=1とおくことができる。
また、問(1)のαに相当するのがx=-1である。以上を踏まえ、問(1)の結論を拝借すれば、問(2)で扱うのは、半径1の円であり、その中心は(-1, 0)である。ただ、問題となるのは、問(1)と異なり、Lの長さが限られている点である。a,b,cの値を代入すると、yをパラメータとしてw=u+ivは次のように表せる。
u = (-2)/(4y2+1), v=(-4y)/(4y2+1) ..... (1)
また-√3/2 <= y <= √3/2である。yの境界値を代入して計算すると、u(y=±√3/2) = -1/2、およびv(y=√3/2) = -√3/2となる。したがって、点(-1/2, √3/2)から反時計回りに円周上を移動して、点(-1/2, -√3/2)に到るまでが求める軌跡である。円と垂直線が交わる交点から左側の円周に相当する、と言い換えてもいいだろう。
問(1)では計算に若干苦労するだろうが、それは問(2)で報われる。一般的な状況を考えると、導出するのは一見大変になるのだが、一旦結果を手に入れると適用範囲が広いので、苦労は必ず報われる。「将来を見据えた先行投資」にちょっとだけ似ているかも。
問題文はクリックして拡大可能 |
ちなみに、3つの解、1, β, β2は正三角形をなす。上の表式から明らかなように、βとβ2はy軸に沿って、つまりx軸と垂直に位置する。したがって、問(1)の観点からすると、Lはβとβ2を結ぶ、垂直線x=-1/2に対応する(ただしz=x+iyとxy座標系を対応させた)。
したがって、a=2, b=0, c=1とおくことができる。
解の軌跡は、bからb2に到るまでの円周を反時計回りにたどった曲線。 |
また、問(1)のαに相当するのがx=-1である。以上を踏まえ、問(1)の結論を拝借すれば、問(2)で扱うのは、半径1の円であり、その中心は(-1, 0)である。ただ、問題となるのは、問(1)と異なり、Lの長さが限られている点である。a,b,cの値を代入すると、yをパラメータとしてw=u+ivは次のように表せる。
u = (-2)/(4y2+1), v=(-4y)/(4y2+1) ..... (1)
また-√3/2 <= y <= √3/2である。yの境界値を代入して計算すると、u(y=±√3/2) = -1/2、およびv(y=√3/2) = -√3/2となる。したがって、点(-1/2, √3/2)から反時計回りに円周上を移動して、点(-1/2, -√3/2)に到るまでが求める軌跡である。円と垂直線が交わる交点から左側の円周に相当する、と言い換えてもいいだろう。
問(1)では計算に若干苦労するだろうが、それは問(2)で報われる。一般的な状況を考えると、導出するのは一見大変になるのだが、一旦結果を手に入れると適用範囲が広いので、苦労は必ず報われる。「将来を見据えた先行投資」にちょっとだけ似ているかも。
2017年4月10日月曜日
複素数の問題を幾何の問題にしてしまう:東大2017問題3
複素数を用いた問題。でも実際は図形の問題に過ぎない。予備校が発表した模範解答は、どれも複素数の性質を駆使した「エレガントな」解法を採用しているようだが、よっぽど複素数の美しさに心打たれてない限り、実数+図形問題に落として考えた方が勉強時間の節約になる。つまり、複素数が苦手な人向けの模範解答を今回は考えてみよう。
[問題文] 原点以外の点zに対し、w=1/zとする。
(1)αを0でない複素数とする。点αと原点Oを結ぶ線分の垂直2等分線をLとする。点zがLを動くとき、点wの軌跡は円から1点を除いたものになる。この円の中心と半径を求めよ。
[解答] 複素数zは2つの実数x, yを用いて、z=x+iyと表せる。これをxy-座標系と同一視することができるから、zを点(x,y)と解釈することができる。
さて、w=1/z = (x-iy)/(x2+y2) = u+iv とする。u, vは実数であり、今x,yによってパラメータ表示されている。すなわち、
u = x/(x2+y2), v = - y/(x2+y2) ..... (1)
ただし、x2+y2=0の場合は除外する必要がある。 この表式からxとyを消去して、s,tだけの関係式を求めることができれば、それが求める軌跡となる。しかし、まだzが線分Lの上を動くという条件を使っていない。この条件を使う前に、「Lの上」というどんぴしゃの条件を少し緩和して、一般の直線上をzが動く場合をまずは考えて見よう。つまり、xとyの間には線形関係、ax+by+c=0, (a,b,c)は定数、が成立している場合を考えることにする。
この条件を適用すると、パラメータ表示の式(1)からyもしくはxを消去することができる。ここでは、問(2)のことを考え、xを消去してみることにする。つまり、a≠0を仮定して、x = -(b/a)y-(c/a)と条件式を変形し、(1)からxを消去する。
ここからyを消去するのは、一見非常に難しいことのように思える。しかし、問題文には「軌跡は円となる」とありがたいヒントがあるので、それを利用することにする。つまり、中心(u0,v0)と半径Rを未知数として、
(u-u0)2+(v-v0)2=R2 .........(2)
と書き下し、そこに上のパラメータ表示を代入する。すると、(2)式の左辺は、yについて4次式同士の商の形になる。
望むらくは、上の表式において、「分子 = 半径の自乗×分母」の形が実現していることである。4次の項を比較して見ると、この構造が可能かどうか見当がつく。分母の方は(a2+b2)2である。一方、分子の方は
と計算される。したがって、半径の目星として
が成立していたらとても嬉しい。この予想を元に、今度は0次の項を比較する。そうすると、ac2(a+2cu0)=0という条件式が手に入る。a,cともに0でないとすると
を得る。次は3次の項を比較して見る。そうすると、2a(a2+b2)(bu0+av0)=0という条件式が得られる。a,bともに0でないとすれば、bu0+av0=0であり、これに上の結果を合わせると、
を得る。さて、これで答えの候補は見つかったが、残りの1次と2次の項に、これらの推測を代入し、辻褄があうかどうかは確認する必要がある。実際にやってみると、上の推理に基づいても矛盾のない結果をC1, C2について導出することができる。計算量はそれなりにはあるが、それほど複雑でもない。ここでは計算の詳細は省略する。
以上の結果をまとめると、求めるべき解は
となった。これまでの考察により、直線ax+by+c=0上を動くzに対し、w=1/zは円の軌跡を与え、その中心と半径は上の表式で一般に与えられることが示された。
さて、この問題で与えられた条件を使って、a,b,cに具体的な値を入れてしまおう。それがこの問の最終的な解になる。
まずα=α0+iα1とおく。α0, α1は実数である。
直線Lの方程式を得るには、線分L'(すなわち原点Oと点αを結ぶ線分)の傾きを知る必要があるが、それはα1/α0と与えられる(これはαの偏角をθとしたとき, tanθに対応している)。したがって、直線Lの傾きは-α0/α1となる(L'の垂直二等分線だから)。また、直線Lは、L'の中点α/2を通過する。したがって、Lの方程式は y = -(α0/α1)(x-α0/2)+α1/2 と書ける。もう少し整理して、a,b,cに対応するものを算出すると
a=α0, b=α1, c=-(α02+α12)/2
となる。したがって、
[問題文] 原点以外の点zに対し、w=1/zとする。
(1)αを0でない複素数とする。点αと原点Oを結ぶ線分の垂直2等分線をLとする。点zがLを動くとき、点wの軌跡は円から1点を除いたものになる。この円の中心と半径を求めよ。
[解答] 複素数zは2つの実数x, yを用いて、z=x+iyと表せる。これをxy-座標系と同一視することができるから、zを点(x,y)と解釈することができる。
さて、w=1/z = (x-iy)/(x2+y2) = u+iv とする。u, vは実数であり、今x,yによってパラメータ表示されている。すなわち、
u = x/(x2+y2), v = - y/(x2+y2) ..... (1)
ただし、x2+y2=0の場合は除外する必要がある。 この表式からxとyを消去して、s,tだけの関係式を求めることができれば、それが求める軌跡となる。しかし、まだzが線分Lの上を動くという条件を使っていない。この条件を使う前に、「Lの上」というどんぴしゃの条件を少し緩和して、一般の直線上をzが動く場合をまずは考えて見よう。つまり、xとyの間には線形関係、ax+by+c=0, (a,b,c)は定数、が成立している場合を考えることにする。
この条件を適用すると、パラメータ表示の式(1)からyもしくはxを消去することができる。ここでは、問(2)のことを考え、xを消去してみることにする。つまり、a≠0を仮定して、x = -(b/a)y-(c/a)と条件式を変形し、(1)からxを消去する。
(u-u0)2+(v-v0)2=R2 .........(2)
と書き下し、そこに上のパラメータ表示を代入する。すると、(2)式の左辺は、yについて4次式同士の商の形になる。
望むらくは、上の表式において、「分子 = 半径の自乗×分母」の形が実現していることである。4次の項を比較して見ると、この構造が可能かどうか見当がつく。分母の方は(a2+b2)2である。一方、分子の方は
と計算される。したがって、半径の目星として
が成立していたらとても嬉しい。この予想を元に、今度は0次の項を比較する。そうすると、ac2(a+2cu0)=0という条件式が手に入る。a,cともに0でないとすると
を得る。次は3次の項を比較して見る。そうすると、2a(a2+b2)(bu0+av0)=0という条件式が得られる。a,bともに0でないとすれば、bu0+av0=0であり、これに上の結果を合わせると、
を得る。さて、これで答えの候補は見つかったが、残りの1次と2次の項に、これらの推測を代入し、辻褄があうかどうかは確認する必要がある。実際にやってみると、上の推理に基づいても矛盾のない結果をC1, C2について導出することができる。計算量はそれなりにはあるが、それほど複雑でもない。ここでは計算の詳細は省略する。
以上の結果をまとめると、求めるべき解は
となった。これまでの考察により、直線ax+by+c=0上を動くzに対し、w=1/zは円の軌跡を与え、その中心と半径は上の表式で一般に与えられることが示された。
さて、この問題で与えられた条件を使って、a,b,cに具体的な値を入れてしまおう。それがこの問の最終的な解になる。
まずα=α0+iα1とおく。α0, α1は実数である。
直線Lの方程式を得るには、線分L'(すなわち原点Oと点αを結ぶ線分)の傾きを知る必要があるが、それはα1/α0と与えられる(これはαの偏角をθとしたとき, tanθに対応している)。したがって、直線Lの傾きは-α0/α1となる(L'の垂直二等分線だから)。また、直線Lは、L'の中点α/2を通過する。したがって、Lの方程式は y = -(α0/α1)(x-α0/2)+α1/2 と書ける。もう少し整理して、a,b,cに対応するものを算出すると
a=α0, b=α1, c=-(α02+α12)/2
となる。したがって、
|α|2=αα*=α02+α12だから、円の中心w0、および半径Rを複素数を用いて表現すると
となる。これが最終的な答えである。
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