今年の前期は非常に忙しく、諸々の会議、新しい講義、カリキュラムの準備等に忙殺されてしまった...久方ぶりとなるが、夏休みにようやく入ったので、センター試験の数学の分析を続けよう(来年にならないうちに...)。
第一問の前半は無理数を用いた多項式の計算だった。多項式は量子力学でよく出てくるし(例えばエルミート多項式は、一次元調和振動子の波動関数に使われる)、電磁気の多重極展開や角運動量理論の球面テンソルなど、物理ではあちらこちらで使われる。また、行列式やパフィアンなど、線形代数に関連する物理理論(つまり量子力学とその応用理論)でも頻出するので、多項式のトレーニングが足りないと意外と苦労する。
さて、第一問の後半は、がらっと趣が変わって、連立不等式の問題だ。かなり初等的な問題なので、現代物理の観点からするとスキップしたいところだが、実はこの年のセンター試験はこの後の問題もこれに似たり寄ったりのレベルなので(あくまで私見だが)、この問題をスキップしたら、残りもスキップしてしまうことになる。ここは我慢して解いてみることにする。
扱う連立不等式は次の通り、
aは定数。(x,a共に実数かどうかは明記してないが、そうじゃないと、そもそも「不等式」の概念が成り立たないから、ここは記述がなくとも「実数なのは自明のこと」として許すことにしよう。しかし、意地悪くとれば、aは整数、xは無理数に限る、などといった制限をかけてもよいのだから、高校の数学を越えて一般の数学に入るときは要注意だ。さらに、一般の問題では「xは実変数」とも書いておくべきだろう。)
この問題ではxが変数で、aが定数のはずだが、続く問ではxが指定されて、aの範囲を求める問題がまず出てくる。aは定数なのに、変数のように考える必要が出て来て、戸惑う人もいるかもしれないが、物理ではよく出てくる考え方だ。つまり、xは変数で、aが「パラメータ」に相当する。たとえば、場の理論の基礎、φ4理論で自発的対称性の破れを考えるとき、パラメータ「質量μ」は重要な役割を果たす。(当然だが、この場合の変数は「場の変数φ(x,y,z,t)」にあたる。)質量パラメータの値に応じて、φが織りなす物理が根元から変わってしまうような物理現象がある、というのがこの理論の中心部分だ。これは「現象の相転移」に似たような枠組みといえるのかもしれない。パラメータの範囲によって、変数の取り得る「物理」が大きく変わる、という考え方に似たものが、実は第2問の最後に登場するので、その時に再度喚起を促したいと思う。
さて、能書きはこのくらいにして、問題に入ろう。
(1)x=1と変数が指定されてしまい、あたかもパラメータのように扱われる。不満はあるだろうが、ここはひとつ我慢して問題を解くことにしよう。連立不等式にこの値を代入し、aについての不等式を解けば、簡単に答えは出る(a<=1/3)。
(2)今度はx=2と指定されて、求める領域の「補集合」的領域を求める問題。計算すると、「満たす領域」はa<=1/2となるので、その「補集合」a>1/2が答え。
(3)やっとaがパラメータとなる。これも簡単に解けて、-1 <= x < 6を得る。
(4)不等式2の解というのが、-4-a < x < 6-a、不等式1の解は x >= 6a-1。前者が上限と下限が定まった「有限区間」(しかし数学では「開区間」という!)、後者は下限だけが与えられた開いた区間(でも数学では「無限閉区間」というらしい)。とすると、連立解が、不等式2のみの解と一致するには不等式1の下限が、不等式2の区間を「切り取らない」ような場所にくればよい。つまり、6a-1が-4-a「以下」であればよい。(ちなみに、前問のa=0のケースでは、「切り取る」状況になっているので、この問題の解とはならない。最後に、自分の答えを確認して、(3)の結果、つまりa=0が範囲外になっているかぐらいは確認しておきたいものだ。)「以下」か「未満」か、というのがちょっと迷う所だが、「連立解」であることを考えれば、「以下」でよいことは確認できる。すなわち、a <= -3/7が答え。(忘れずに「確認」しておくと、この領域はa=0を含んでいないから、辻褄はあっている。)
(2)今度はx=2と指定されて、求める領域の「補集合」的領域を求める問題。計算すると、「満たす領域」はa<=1/2となるので、その「補集合」a>1/2が答え。
(3)やっとaがパラメータとなる。これも簡単に解けて、-1 <= x < 6を得る。
(4)不等式2の解というのが、-4-a < x < 6-a、不等式1の解は x >= 6a-1。前者が上限と下限が定まった「有限区間」(しかし数学では「開区間」という!)、後者は下限だけが与えられた開いた区間(でも数学では「無限閉区間」というらしい)。とすると、連立解が、不等式2のみの解と一致するには不等式1の下限が、不等式2の区間を「切り取らない」ような場所にくればよい。つまり、6a-1が-4-a「以下」であればよい。(ちなみに、前問のa=0のケースでは、「切り取る」状況になっているので、この問題の解とはならない。最後に、自分の答えを確認して、(3)の結果、つまりa=0が範囲外になっているかぐらいは確認しておきたいものだ。)「以下」か「未満」か、というのがちょっと迷う所だが、「連立解」であることを考えれば、「以下」でよいことは確認できる。すなわち、a <= -3/7が答え。(忘れずに「確認」しておくと、この領域はa=0を含んでいないから、辻褄はあっている。)
この問題は特にコメントすることはこれ以上はない。強いて言えば、(4)が物理でよくみられる「パラメータの値によって物理が変わる」タイプの問題といえなくもない。が、それ以外の問題は正直あまり面白くないので、ここでは取り上げたくなかった... 最近「絶対値の定義に慣れておらず、その外し方のところで間違える初学者が多い」と聞くので、この問題はきっと「絶対値の使い方をちゃんと勉強してね」というのがメッセージなんだろう。
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