2018年2月1日木曜日

センター試験の数学IIB2018:第4問(重心の性質の拡張)


数II・Bの問題にはあまり面白い問題はなかったが、第4問だけは1次独立の概念の練習になるだろうと思って取り上げることに決めた。

下の図は、a=3/5とし、\(\angle ABC = 60^\circ\)とおいてpostscriptで作図したものである。BCの長さは4とした。これらの仮定によりA(-4,0), B(0,0), C(-2,-2√3)が決まる。ちなみに、問題文では\(AD:BD=1:3, BE:CE=a:1-a\)と与えられているだけであるが、上の仮定を用いると、D(-3,0), E(-6/5, 6√3/5)であることも決まる。Fの座標も計算できるだろが、ここではCDとAEの交点として表すにとどめておく。

三角形が成立している時点で、任意の二辺を選び、その方向にベクトルを設定すれば、それらは1次独立なベクトルになっていることは保証される。したたって、これら2つの1次独立なベクトルをこの平面の基底ベクトルに選べば、平面にある任意のベクトルは、この基底の線形結合で表すことができる。一般にn次元(ベクトル)空間における、1次独立な基底の最大数はnであり、そのn個の基底の組のことを完全系という。これは線形代数の基本であり、量子力学やその他の物理学で重要な役割を果たす概念である。

この問題では、完全系に選ぶべき基底の候補として\(\mathbf{p}=\vec{FA}, \mathbf{q}=\vec{FB}, \mathbf{r}=\vec{FC}\)を提案している。ちなみに、大学の物理ではベクトルを太字で表すので、ここでもそれを採用した。完全系を作るには2つで十分なので、どれか一つは余分(redundant)である。つまり、3つのうち、2つは独立に取れるが、最後の1つは独立な2つの基底の線形結合で書けることになる。この問題では、この性質を(暗に)使って解かせている。

この問題でもう一つ大事な点は、内分点の表現である。例えば、問題では\(\vec{FD}\)を\(\mathbf{p}\)と\(\mathbf{q}\)の線形結合で表せ、という問があるが、これは直線ABを1:3に内分する点Dに(点Fから)向かうベクトルに相当する。

問題を一般化して、AD:BD=m:nの場合、FDはどのように表現できるか調べてみる。
\[\vec{FD}=\vec{FA}+\vec{AD}\]である。右辺を\(\mathbf{p}\)と\(\mathbf{q}\)で書き直すのが目標である。右辺第一項は定義により\(\mathbf{p}\)である。第二項は、\[\vec{AB}=\vec{FB}-\vec{FA} = \mathbf{q}-\mathbf{p}\]を用いて、\(\vec{AD} = \frac{m}{m+n}\vec{AB}\)と表すことができる。これを代入すると、
\[\vec{FD}=\frac{n}{m+n}\mathbf{p} + \frac{m}{m+n}\mathbf{q}\]を得る。まとめると、始点を共有する2つの(1次独立な)ベクトル\(\mathbf{p},\mathbf{q}\)が成す三角形を考える時、ベクトルの始点の先にある「斜辺」の内分点に、(始点から)向かう「内分ベクトル」は上の公式で表せる、ということだ。

\(\vec{FD}\)は\(\mathbf{r}\)に平行(1次従属)なので、\[\vec{FD}=s\mathbf{r}\]と書いてもよい。ただし、sは負の実数。この関係と上の内分点公式から、\(\mathbf{r}\)を\(\mathbf{p}\)と\(\mathbf{q}\)の線形結合表現を手にいれることができることを示している点が、この問題の面白いところである。すなわち、
\[\mathbf{r}=\frac{1}{s(m+n)}\left(n\mathbf{p} + m\mathbf{q}\right)\]
この関係式は一意的(英語ではuniqueという)なので、pとqの線形結合でrを表す別の表現というものは存在しないのである。この性質を用いて、今度は(\vec{FE}\)に関して同じように考え、pをrとqの線形結合で表してみる。BE:CE=a:1-aなので、今度は
\[\mathbf{p} = \frac{1}{t}\left((1-a)\mathbf{q}+a\mathbf{r}\right)\]という関係式を得る。ただし、tは負の実数で、\(\vec{FE}=t\mathbf{p}\)という形で定義する。上式をrについて解き直すと、\[\mathbf{r}=\frac{t}{a}\mathbf{p} -\frac{1-a}{a}\mathbf{q}\]
 である。先に求めたrの関係式と、今求めたrの関係式は「等価」でなくてはならない、というのがベクトル空間の性質であるから、係数の間に関係式が発生し、sとtが定まる。
\[s=\frac{m}{m+n}\frac{a}{1-a}, t = \frac{n}{m}(1-a)\]

これにより、線分CDは、点Fによって、CF:DF=1:sに内分されていることや、線分AEは点Fによって、AF:EF=1:tに内分されていることもわかってしまう。

応用問題として、m=n, a=1/2の場合を考えてみよう。これはAからBCの中点Eに直線(AE)を引き、Cから直線(AB)の中点Dへ直線(CD)を下ろした状況に一致する。直線AEとCDの交点Fはいわゆる「重心」である。重心Fによって直線AEやCDは、2:1に分割されることが知られているが、それを確認してみよう。\(s=\frac{m}{2m}\frac{1/2}{1-1/2} =\frac{1}{2}, t=\frac{1}{2}\)であるから、CF:DF=AF:EF=1:1/2=2:1となり、確認ができた。

此の問題は、おそらく重心の性質を一般化することから思いついたものであろう。三角形の2つの辺をm:n,およびa:1-aに分割する頂点からの直線同士の交点が、その直線を1:sや1:tに分割するという「新しい」性質を解明したことに相当する。

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