ということで、さっそく5番から解いて見たいと思う。
問題5:複素平面上の原点を中心とする半径1の円をCとする。点\(P(z)\)はC上にあり,点A(1)とは異なるとする。点Pにおける円Cの接線に関して, 点Aと対称な点を\(Q(u)\)とする。\(\displaystyle w=\frac{1}{1-u}\)とおき,\(w\)と共役な複素数を\(\bar{w}\)で表す。
(1) \(u\)と\(\displaystyle \frac{\bar{w}}{w}\)を\(z\)についての整式として表し,絶対値の商\(\displaystyle\frac{\left|w+\bar{w}-1\right|}{\left|w\right|}\)を求めよ。複素数の問題を解く方針として、「複素数の問題は幾何学で解く」という方針を昨年掲げた。今年もこれでいってみよう。
最初に、この問題で採用されている記号の意味を明らかにしておこう。例えば、P(z)という表現だが、これは「点Pは複素数zによって表される」という意味になるらしい。A(1)は、「点Aすなわちz=1」ということである。ベクトル風に書けば、z=x+iyとしたとき、P(z)=P(x,y), A(1)=A(1,0)ということになる。
次に、\(z\)の複素共役を\(\bar{z}\)ではなく、\(z^*\)で表すことにする。前者は高校数学では採用されているらしいが、物理では世界的に後者を採用している。
(1)をオイラーの公式と代数幾何で解いてみよう。円C上の点Pはベクトル風に書けば\((\cos\theta,\sin\theta)\)となる。この問題では\(0\le\theta<2\pi\)という範囲を考えれば十分である。オイラーの公式を使ってまとめると\(z=\exp(i\theta)=\cos\theta + i\sin\theta\)となる。\(\theta \ne 0\)の時、点Pにおける接線の一般的な方程式をまとめると「やや」複雑な式となる。これを計算するのは不可能ではないが、面倒な計算を扱うはめになる。これを避けるには、座標系を回転させればよい。
まずは円の中心(つまり原点)の周りに、時計回りの方向に点Pを回転させx軸に重ねる。2次元のデカルト座標において回転行列は次のように定義される。
\[R(\theta)=\left(\begin{array}{cc}\cos\theta & -\sin\theta\\ \sin\theta & \cos\theta\end{array}\right).\]ただし、回転の方向は、反時計回りが正の方向(+θ)として定義される。つまり\(R(-\theta)P(z)=P'(z')=P'(1)\)である。
回転後の座標系では、接線はx=1で表される垂直な直線である。一方、点Aは回転によって
\[R(-\theta)A(1)=A'(z^*)\]と変換される。ただし、\(z^* = \exp(-i\theta)=\cos\theta - i\sin\theta\)である。したがって、この垂線に関して「線対称」な点\(Q'(u')\)はベクトル風に考えれば簡単にわかる。ここで、\(u'=x_u'+iy_u'\)と表すことにしよう。点A'から垂線までの距離は\(1-\cos\theta\)である。よって、\(x_u' = 1 + (1-\cos\theta)\)である。一方、y座標のほうは変化がないので\(y_u'=-\sin\theta\)となる。
回転後の座標は自分に都合の良い座標にしてあるので、問題で与えられた座標に戻ることにする。もとに戻るには\(R(\theta)\)を作用させればよい。
\[
Q(u) = R(\theta)Q'(u') =R(\theta)\left(\begin{array}{c}x_u'\\ y_u'\end{array}\right) =\left(\begin{array}{c}2\cos\theta + \sin^2\theta - \cos^2\theta\\ 2\sin\theta-2\sin\theta\cos\theta\end{array}\right)
\]
加法定理(倍角の定理?)を使って整理すると、\(\sin^2\theta - \cos^2\theta = -\cos(2\theta), 2\cos\theta\sin\theta=\sin(2\theta)\)なので、
\[
Q(u): u = 2\left(\begin{array}{c}\cos\theta\\ \sin\theta\end{array}\right) -\left(\begin{array}{c}\cos(2\theta)\\ \sin(2\theta)\end{array}\right) =2z-z^2
\]となる。第二項は\(z^2 = (\exp(i\theta))^2 = (e^{i\theta})^2 = e^{2i\theta} =\cos(2\theta)+i\sin(2\theta)\)により正当化される。
\(w^*/w\)の値は、上の値を代入して複素数の代数を丁寧に計算すればすぐに
\[
\frac{w^*}{w} = \frac{1-u}{1-u^*} = \frac{(z-1)^2}{(z^*-1)^2} = \left(\frac{z-1}{z^{-1}-1}\right)^2 = z^2
\]
となることがわかる。ただし、\(z^* = (e^{i\theta})^* = e^{-i\theta} = 1/z\)という性質を最後に使った。
最後の計算も、これまでの計算の結果を使えば、簡単な代数計算に過ぎない。ただし、\(|z|/|w|=|z/w|\)という性質を覚えておく必要がある(といっても、忘れた時は、オイラーの公式を使ってすぐに確認できる)。
\[
\frac{\left|w+w^*-1\right|}{\left|w\right|} = \left|\frac{w+w^*-1}{w}\right|
=\left|(1-\frac{1}{w}) + \frac{w^*}{w}\right| = \cdots = 2|z| = 2
\]となる。zは円Cの周上にあるからその絶対値は1である。
これで(1)は終わりである。オイラーの公式と代数幾何(ベクトル)を組み合わせることで、簡単な複素数の代数計算にreduceすることができた。
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