2018年2月2日金曜日

センター試験の数学II:第4問(代数方程式の性質)

3次方程式の一般解の個数は3つになるが、そのうち一つが虚数、そのうち一つが実数である特別な場合の「研究」が、第4問のテーマである。

一般にn次方程式の解の個数はn個ある。その内の一つが複素数解\(z_0\)であるならば、その複素共役\(z_0^*\)も解となる。これは簡単に証明できる。例えば、此の問題のような3次方程式\[ z^3+az^2+bz+c=0\]が与えられているとする。複素数\(z_0\)が解ならば、当然\(z_0^3+az_0^2+bz_0+c=0\)は成立する。この式の複素共役を取ると\((z_0^*)^3+a(z_0^*)^2+bz_0^*+c=0\)であるから、\(z=z_0^*\)もこの3次方程式の解である。この証明では、a,b,cは実数であることを利用するのが重要である。

問題では、\(z=-1+\sqrt{6}i\)が解だと与えられているので、上の考察から\(z=-1-\sqrt{6}i\)も解であることがわかる。したがって、与式は\((x-x_0)(x+1-\sqrt{6}i) (x+1+\sqrt{6}i)=0\)と因数分解できる。すなわち、\(x^3+ax^2+bx+c=(x-x_0)(x^2+2x+7)\)ということである。xの次数ごとに係数を比較すると、\(a=-x_0+2, b=-2x_0+7, c=-7x_0\)となる。最初の式から\[x_0=-a+2,\]これをbとcの式に代入すると、\[ b=2a+3, \quad c=7a-14\]を得る。

さて、試験問題を解く、という観点からすると、アイ、ウエ、オカ、キに関しては、実部と虚部それぞれが0になる、という条件から計算すればよい。試験問題で途中まで形が暴露されているので、これを利用しよう。実部は\(\alpha a - b + c + \beta\)という形になるそうだから、上の結果を用いてaの一次式で表すと、\[\alpha a -2a-3+7a-14+\beta = (\alpha + 5) +\beta-17 =0\]なので、\(\alpha = -5, \beta=17\)と計算できる。虚部に関してもまったく同様の計算をすればよい。

\(P(x)=(x+a-2)(x^2+2x+7)\)を\(x^2+2x+7\)で割ったときの、商はx+a-2であることは明らかで、と余りも自明の値(0)となる。これで、ここまでの「問題」は全て解くことができた。

最後の部分は剰余定理である。\(P(x)= (x+a-3)f(x) + 6\)である、と問題文で言っているので(ただしf(x)は2次式)、P(-a+3)を計算し、それが6になることを利用してaを決めればよい。\(P(-a+3) = (-a+3+a-2)((-a+3)(-a+3+2)+7) = (-a+3)(-a+5)+7 \\ = a^2-8a+15+7 =a^2-8a+22\)である。したがって、\(a^2-8a+16=0\)という2次式の解が求めるaである。これを解くと、\(a=4\)であることがわかる。

この値のとき\(P(x)=(x+2)(x^2+2x+7)\)となるので、\(P(x) = (x^2+px+q)(x-1) + 13x+17\)と係数を比較するとpとqが求まる。

こういうタイプの、係数を比較する計算は、物理実験や物理シミュレーションのデータ処理や数値分析でよく利用される。理論物理でもよくやるので(特に現象論では)よく習熟しておく必要があるだろう。

第3問も面白そうな問題ではあるが、センター試験の問題を解くのもそろそろ飽きてきたのでスキップすることにしよう。今年は、MathJaXのおかげで、ずいぶん仕事がはかどった。センター試験の問題を6問も解くことができた。「十分に準備運動できた」とみなし、この辺でセンター試験をみるのはやめにして、二次試験を待つこととしよう。

昨年から今年にかけて、阪大と京大の物理の入試問題で不備が見つかり、大きな問題となった。どちらも音波/ドップラー効果の問題であった。原因はいろいろあると思うが、高校物理の教え方に大きな問題があると思っている。

日本の大学で力学や電磁気学、熱力学などを教えていて感じるのは、多くの学生が大学の物理を習う時に大きな困惑を示し、その主因が「大学の物理は「物理」ではなく、数学だ」と考えていることである。この感覚は非常に問題だ。

物理の「言語」は数学なので、物理を議論するには「数学を喋る」必要がある。数学といっても、現代数学が扱うような数学ではなく、すでに確立した「古い」数学である。

たとえば、高校生が英語を学ぶ目的は、「英語学」を習得することではない。将来、経済学や文学や歴史を世界の人びとと語り合うときに、共通言語で議論する必要があるから「英語」を学ぶのである。同様に、世界中の物理学者と議論するときには、「共通言語」である数学を利用するのが現代の物理学なのである。

にもかかわらず、日本の高校では数学をなるべく使わないように指導する。微分積分を基礎とする力学や、三角関数やフーリエ理論を基本にする波動、偏微分や多変数解析を用いる熱力学などにおいて、その数学的手法の多くを犠牲にして、無理な形で「高校物理」を教えている。物理の「基礎」である数学を取り除いた「高校物理」は、物理学者にとっては非常にとっつきにくいものであり、強い違和感を感じる。それが故に、高校物理の問題はあまり興味を持てずに、このブログでは高校数学ばかりを解いているのである。

自分がもし「高校物理を使った試験問題を作れ」と要請されたら、非常に困惑するだろうと思う。大学の物理関係者が「高校物理が苦手」なのは、阪大や京大に限らず、実は普遍的なのではないだろうか?だとすると、高校物理という分野自体を「物理」とは思わずに、独特の学問分野として研究し、それを「本当の物理」とどう関連づけていくかという問題は、これから重要になってくるのかもしれない。これからは、高校物理にも興味をもってあたっていこうかな、と感じている次第である。

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