2018年2月26日月曜日

オイラーの公式で解く東大2018問5(2)

前半(1)に引き続き、「難」と評価された2018年の問5の後半(2)に取り組もう。
(2)Cのうち実部が1/2以下の複素数で表される部分をC’とする。点P(z)がC'上を動くときの点R(w)の軌跡を求めよ。

まず\(w=1/(1-u)\)をzで表しておこう。(1)の結果を使うと、
\[
 w=\frac{1}{1-u} = \frac{1}{1-2z+z^2} = (z-1)^{-2}
\]
を得る。\(w=x+iy\)と表した時、xとyの関係がわかれば軌跡R(w)が手に入る。複素共役\(w^*=x-iy\)を使ってx,yを表すと、
\[
x=\frac{w+w^*}{2}, \quad y = \frac{w-w^*}{2i}
\]
である。この式と上の式を使えば、(x,y)を\(z=\cosθ+i\sinθ\)によって表すことができる。ちょっと長めの計算になるが、注意深く行うと、
\[
x=-\frac{1}{2}\frac{\cos\theta}{1-\cos\theta}, \quad y = \frac{1}{2}\frac{\sin\theta}{1-\cos\theta} \ \cdots [A]
\]という関係が手にはいる。この部分で使うのはオイラーの公式で得られる次の有名な恒等式である。
\[
\cos\theta = \frac{e^{i\theta}+e^{-i\theta}}{2}, \quad \sin\theta = \frac{e^{i\theta}-e^{-i\theta}}{2i}
\]
また、上の結果を使って得られる、次の計算結果も役にたつ。
\[
(e^{i\theta}-1) (e^{-i\theta}-1) = 2(1-\cos\theta)
\]
xとcosθの関係式を逆に解いて、cosθをxで表すと\(\cos\theta = -\frac{2x}{1-2x}\)となる。この結果を用いて、次にyとsinθの関係を計算することができる。結果は\(y=-\frac{2x-1}{2}\sin\theta\)である。\(\cos^2\theta+\sin^2\theta=1\)の関係式を用いるとθを消去することができて、
\[
\frac{4x^2}{(2x-1)^2} + \frac{4y^2}{(2x-1)^2} = 1
\]となる。これを整理すると
\[
 x=-y^2 + \frac{1}{4}
\]を得る。つまり、軌跡はx軸方向に倒れた放物線である。

さて、問題となるのは、答えとなる軌跡Rはこの放物線全体ではないという点である。PはC’の上を動くだけであるので、θの範囲を\(\frac{\pi}{3}\le \theta \le \frac{5\pi}{3}\)に限らなければならない。

ちなみに、5つ上の式(式[A])を用いてgnuplotでパラメータ表示すると、下の図のようになる(これが答えである)。
式[A]を見ると、xはcosθのみで表されているから偶関数である。θの定義域の対称性と、θの関数としてのxの対称性を考えれば、θ=πのときにx=1/4となって放物線の頂点に対応することがわかる。したがって、θ=π/3, 5π/3の時にx=-1/2となり、ここがxの最小値である。つまり、xの範囲は\(-\frac{1}{2}\le x \le \frac{1}{4}\)である。一方、式[A]をみるとyは奇関数であり、対応するyの値は\(y=\pm\sqrt{3}/2\)である。

オイラーの公式を使うと(代数の計算はちょっと面倒になるが)、この手の問題は簡単に解くことができた。個人的には、この問題は「難」どころか「易」に感じる。というのも、上の解答をみたらわかるように、これは三角関数を含む代数計算の練習問題に過ぎない。

オイラーの公式と回転行列で解く:東大2018問5

2018年の東大2次試験が終わった。河合塾の分析によると「やや難化」だそうである。特に難しかったのが問5の複素数の問題だったという評価である。

ということで、さっそく5番から解いて見たいと思う。

問題5:複素平面上の原点を中心とする半径1の円をCとする。点\(P(z)\)はC上にあり,点A(1)とは異なるとする。点Pにおける円Cの接線に関して, 点Aと対称な点を\(Q(u)\)とする。\(\displaystyle w=\frac{1}{1-u}\)とおき,\(w\)と共役な複素数を\(\bar{w}\)で表す。
 (1) \(u\)と\(\displaystyle \frac{\bar{w}}{w}\)を\(z\)についての整式として表し,絶対値の商\(\displaystyle\frac{\left|w+\bar{w}-1\right|}{\left|w\right|}\)を求めよ。
複素数の問題を解く方針として、「複素数の問題は幾何学で解く」という方針を昨年掲げた。今年もこれでいってみよう。

最初に、この問題で採用されている記号の意味を明らかにしておこう。例えば、P(z)という表現だが、これは「点Pは複素数zによって表される」という意味になるらしい。A(1)は、「点Aすなわちz=1」ということである。ベクトル風に書けば、z=x+iyとしたとき、P(z)=P(x,y), A(1)=A(1,0)ということになる。

次に、\(z\)の複素共役を\(\bar{z}\)ではなく、\(z^*\)で表すことにする。前者は高校数学では採用されているらしいが、物理では世界的に後者を採用している。

(1)をオイラーの公式と代数幾何で解いてみよう。円C上の点Pはベクトル風に書けば\((\cos\theta,\sin\theta)\)となる。この問題では\(0\le\theta<2\pi\)という範囲を考えれば十分である。オイラーの公式を使ってまとめると\(z=\exp(i\theta)=\cos\theta + i\sin\theta\)となる。\(\theta \ne 0\)の時、点Pにおける接線の一般的な方程式をまとめると「やや」複雑な式となる。これを計算するのは不可能ではないが、面倒な計算を扱うはめになる。これを避けるには、座標系を回転させればよい。

まずは円の中心(つまり原点)の周りに、時計回りの方向に点Pを回転させx軸に重ねる。2次元のデカルト座標において回転行列は次のように定義される。
\[R(\theta)=\left(\begin{array}{cc}\cos\theta & -\sin\theta\\ \sin\theta & \cos\theta\end{array}\right).\]ただし、回転の方向は、反時計回りが正の方向(+θ)として定義される。つまり\(R(-\theta)P(z)=P'(z')=P'(1)\)である。

回転後の座標系では、接線はx=1で表される垂直な直線である。一方、点Aは回転によって
\[R(-\theta)A(1)=A'(z^*)\]と変換される。ただし、\(z^* = \exp(-i\theta)=\cos\theta - i\sin\theta\)である。したがって、この垂線に関して「線対称」な点\(Q'(u')\)はベクトル風に考えれば簡単にわかる。ここで、\(u'=x_u'+iy_u'\)と表すことにしよう。点A'から垂線までの距離は\(1-\cos\theta\)である。よって、\(x_u' = 1 + (1-\cos\theta)\)である。一方、y座標のほうは変化がないので\(y_u'=-\sin\theta\)となる。

回転後の座標は自分に都合の良い座標にしてあるので、問題で与えられた座標に戻ることにする。もとに戻るには\(R(\theta)\)を作用させればよい。
\[
Q(u) = R(\theta)Q'(u') =R(\theta)\left(\begin{array}{c}x_u'\\ y_u'\end{array}\right) =\left(\begin{array}{c}2\cos\theta + \sin^2\theta - \cos^2\theta\\ 2\sin\theta-2\sin\theta\cos\theta\end{array}\right)
\]

加法定理(倍角の定理?)を使って整理すると、\(\sin^2\theta - \cos^2\theta = -\cos(2\theta), 2\cos\theta\sin\theta=\sin(2\theta)\)なので、
\[
Q(u): u = 2\left(\begin{array}{c}\cos\theta\\ \sin\theta\end{array}\right) -\left(\begin{array}{c}\cos(2\theta)\\ \sin(2\theta)\end{array}\right) =2z-z^2
\]となる。第二項は\(z^2 = (\exp(i\theta))^2 = (e^{i\theta})^2 = e^{2i\theta} =\cos(2\theta)+i\sin(2\theta)\)により正当化される。

\(w^*/w\)の値は、上の値を代入して複素数の代数を丁寧に計算すればすぐに
\[
\frac{w^*}{w} = \frac{1-u}{1-u^*} = \frac{(z-1)^2}{(z^*-1)^2} = \left(\frac{z-1}{z^{-1}-1}\right)^2 = z^2
\]
となることがわかる。ただし、\(z^* = (e^{i\theta})^* = e^{-i\theta} = 1/z\)という性質を最後に使った。

最後の計算も、これまでの計算の結果を使えば、簡単な代数計算に過ぎない。ただし、\(|z|/|w|=|z/w|\)という性質を覚えておく必要がある(といっても、忘れた時は、オイラーの公式を使ってすぐに確認できる)。
\[
\frac{\left|w+w^*-1\right|}{\left|w\right|} = \left|\frac{w+w^*-1}{w}\right|
=\left|(1-\frac{1}{w}) + \frac{w^*}{w}\right| = \cdots = 2|z| = 2
\]となる。zは円Cの周上にあるからその絶対値は1である。

これで(1)は終わりである。オイラーの公式と代数幾何(ベクトル)を組み合わせることで、簡単な複素数の代数計算にreduceすることができた。


2018年2月2日金曜日

センター試験の数学II:第4問(代数方程式の性質)

3次方程式の一般解の個数は3つになるが、そのうち一つが虚数、そのうち一つが実数である特別な場合の「研究」が、第4問のテーマである。

一般にn次方程式の解の個数はn個ある。その内の一つが複素数解\(z_0\)であるならば、その複素共役\(z_0^*\)も解となる。これは簡単に証明できる。例えば、此の問題のような3次方程式\[ z^3+az^2+bz+c=0\]が与えられているとする。複素数\(z_0\)が解ならば、当然\(z_0^3+az_0^2+bz_0+c=0\)は成立する。この式の複素共役を取ると\((z_0^*)^3+a(z_0^*)^2+bz_0^*+c=0\)であるから、\(z=z_0^*\)もこの3次方程式の解である。この証明では、a,b,cは実数であることを利用するのが重要である。

問題では、\(z=-1+\sqrt{6}i\)が解だと与えられているので、上の考察から\(z=-1-\sqrt{6}i\)も解であることがわかる。したがって、与式は\((x-x_0)(x+1-\sqrt{6}i) (x+1+\sqrt{6}i)=0\)と因数分解できる。すなわち、\(x^3+ax^2+bx+c=(x-x_0)(x^2+2x+7)\)ということである。xの次数ごとに係数を比較すると、\(a=-x_0+2, b=-2x_0+7, c=-7x_0\)となる。最初の式から\[x_0=-a+2,\]これをbとcの式に代入すると、\[ b=2a+3, \quad c=7a-14\]を得る。

さて、試験問題を解く、という観点からすると、アイ、ウエ、オカ、キに関しては、実部と虚部それぞれが0になる、という条件から計算すればよい。試験問題で途中まで形が暴露されているので、これを利用しよう。実部は\(\alpha a - b + c + \beta\)という形になるそうだから、上の結果を用いてaの一次式で表すと、\[\alpha a -2a-3+7a-14+\beta = (\alpha + 5) +\beta-17 =0\]なので、\(\alpha = -5, \beta=17\)と計算できる。虚部に関してもまったく同様の計算をすればよい。

\(P(x)=(x+a-2)(x^2+2x+7)\)を\(x^2+2x+7\)で割ったときの、商はx+a-2であることは明らかで、と余りも自明の値(0)となる。これで、ここまでの「問題」は全て解くことができた。

最後の部分は剰余定理である。\(P(x)= (x+a-3)f(x) + 6\)である、と問題文で言っているので(ただしf(x)は2次式)、P(-a+3)を計算し、それが6になることを利用してaを決めればよい。\(P(-a+3) = (-a+3+a-2)((-a+3)(-a+3+2)+7) = (-a+3)(-a+5)+7 \\ = a^2-8a+15+7 =a^2-8a+22\)である。したがって、\(a^2-8a+16=0\)という2次式の解が求めるaである。これを解くと、\(a=4\)であることがわかる。

この値のとき\(P(x)=(x+2)(x^2+2x+7)\)となるので、\(P(x) = (x^2+px+q)(x-1) + 13x+17\)と係数を比較するとpとqが求まる。

こういうタイプの、係数を比較する計算は、物理実験や物理シミュレーションのデータ処理や数値分析でよく利用される。理論物理でもよくやるので(特に現象論では)よく習熟しておく必要があるだろう。

第3問も面白そうな問題ではあるが、センター試験の問題を解くのもそろそろ飽きてきたのでスキップすることにしよう。今年は、MathJaXのおかげで、ずいぶん仕事がはかどった。センター試験の問題を6問も解くことができた。「十分に準備運動できた」とみなし、この辺でセンター試験をみるのはやめにして、二次試験を待つこととしよう。

昨年から今年にかけて、阪大と京大の物理の入試問題で不備が見つかり、大きな問題となった。どちらも音波/ドップラー効果の問題であった。原因はいろいろあると思うが、高校物理の教え方に大きな問題があると思っている。

日本の大学で力学や電磁気学、熱力学などを教えていて感じるのは、多くの学生が大学の物理を習う時に大きな困惑を示し、その主因が「大学の物理は「物理」ではなく、数学だ」と考えていることである。この感覚は非常に問題だ。

物理の「言語」は数学なので、物理を議論するには「数学を喋る」必要がある。数学といっても、現代数学が扱うような数学ではなく、すでに確立した「古い」数学である。

たとえば、高校生が英語を学ぶ目的は、「英語学」を習得することではない。将来、経済学や文学や歴史を世界の人びとと語り合うときに、共通言語で議論する必要があるから「英語」を学ぶのである。同様に、世界中の物理学者と議論するときには、「共通言語」である数学を利用するのが現代の物理学なのである。

にもかかわらず、日本の高校では数学をなるべく使わないように指導する。微分積分を基礎とする力学や、三角関数やフーリエ理論を基本にする波動、偏微分や多変数解析を用いる熱力学などにおいて、その数学的手法の多くを犠牲にして、無理な形で「高校物理」を教えている。物理の「基礎」である数学を取り除いた「高校物理」は、物理学者にとっては非常にとっつきにくいものであり、強い違和感を感じる。それが故に、高校物理の問題はあまり興味を持てずに、このブログでは高校数学ばかりを解いているのである。

自分がもし「高校物理を使った試験問題を作れ」と要請されたら、非常に困惑するだろうと思う。大学の物理関係者が「高校物理が苦手」なのは、阪大や京大に限らず、実は普遍的なのではないだろうか?だとすると、高校物理という分野自体を「物理」とは思わずに、独特の学問分野として研究し、それを「本当の物理」とどう関連づけていくかという問題は、これから重要になってくるのかもしれない。これからは、高校物理にも興味をもってあたっていこうかな、と感じている次第である。

2018年2月1日木曜日

センター試験の数学IIB2018:第4問(重心の性質の拡張)


数II・Bの問題にはあまり面白い問題はなかったが、第4問だけは1次独立の概念の練習になるだろうと思って取り上げることに決めた。

下の図は、a=3/5とし、\(\angle ABC = 60^\circ\)とおいてpostscriptで作図したものである。BCの長さは4とした。これらの仮定によりA(-4,0), B(0,0), C(-2,-2√3)が決まる。ちなみに、問題文では\(AD:BD=1:3, BE:CE=a:1-a\)と与えられているだけであるが、上の仮定を用いると、D(-3,0), E(-6/5, 6√3/5)であることも決まる。Fの座標も計算できるだろが、ここではCDとAEの交点として表すにとどめておく。

三角形が成立している時点で、任意の二辺を選び、その方向にベクトルを設定すれば、それらは1次独立なベクトルになっていることは保証される。したたって、これら2つの1次独立なベクトルをこの平面の基底ベクトルに選べば、平面にある任意のベクトルは、この基底の線形結合で表すことができる。一般にn次元(ベクトル)空間における、1次独立な基底の最大数はnであり、そのn個の基底の組のことを完全系という。これは線形代数の基本であり、量子力学やその他の物理学で重要な役割を果たす概念である。

この問題では、完全系に選ぶべき基底の候補として\(\mathbf{p}=\vec{FA}, \mathbf{q}=\vec{FB}, \mathbf{r}=\vec{FC}\)を提案している。ちなみに、大学の物理ではベクトルを太字で表すので、ここでもそれを採用した。完全系を作るには2つで十分なので、どれか一つは余分(redundant)である。つまり、3つのうち、2つは独立に取れるが、最後の1つは独立な2つの基底の線形結合で書けることになる。この問題では、この性質を(暗に)使って解かせている。

この問題でもう一つ大事な点は、内分点の表現である。例えば、問題では\(\vec{FD}\)を\(\mathbf{p}\)と\(\mathbf{q}\)の線形結合で表せ、という問があるが、これは直線ABを1:3に内分する点Dに(点Fから)向かうベクトルに相当する。

問題を一般化して、AD:BD=m:nの場合、FDはどのように表現できるか調べてみる。
\[\vec{FD}=\vec{FA}+\vec{AD}\]である。右辺を\(\mathbf{p}\)と\(\mathbf{q}\)で書き直すのが目標である。右辺第一項は定義により\(\mathbf{p}\)である。第二項は、\[\vec{AB}=\vec{FB}-\vec{FA} = \mathbf{q}-\mathbf{p}\]を用いて、\(\vec{AD} = \frac{m}{m+n}\vec{AB}\)と表すことができる。これを代入すると、
\[\vec{FD}=\frac{n}{m+n}\mathbf{p} + \frac{m}{m+n}\mathbf{q}\]を得る。まとめると、始点を共有する2つの(1次独立な)ベクトル\(\mathbf{p},\mathbf{q}\)が成す三角形を考える時、ベクトルの始点の先にある「斜辺」の内分点に、(始点から)向かう「内分ベクトル」は上の公式で表せる、ということだ。

\(\vec{FD}\)は\(\mathbf{r}\)に平行(1次従属)なので、\[\vec{FD}=s\mathbf{r}\]と書いてもよい。ただし、sは負の実数。この関係と上の内分点公式から、\(\mathbf{r}\)を\(\mathbf{p}\)と\(\mathbf{q}\)の線形結合表現を手にいれることができることを示している点が、この問題の面白いところである。すなわち、
\[\mathbf{r}=\frac{1}{s(m+n)}\left(n\mathbf{p} + m\mathbf{q}\right)\]
この関係式は一意的(英語ではuniqueという)なので、pとqの線形結合でrを表す別の表現というものは存在しないのである。この性質を用いて、今度は(\vec{FE}\)に関して同じように考え、pをrとqの線形結合で表してみる。BE:CE=a:1-aなので、今度は
\[\mathbf{p} = \frac{1}{t}\left((1-a)\mathbf{q}+a\mathbf{r}\right)\]という関係式を得る。ただし、tは負の実数で、\(\vec{FE}=t\mathbf{p}\)という形で定義する。上式をrについて解き直すと、\[\mathbf{r}=\frac{t}{a}\mathbf{p} -\frac{1-a}{a}\mathbf{q}\]
 である。先に求めたrの関係式と、今求めたrの関係式は「等価」でなくてはならない、というのがベクトル空間の性質であるから、係数の間に関係式が発生し、sとtが定まる。
\[s=\frac{m}{m+n}\frac{a}{1-a}, t = \frac{n}{m}(1-a)\]

これにより、線分CDは、点Fによって、CF:DF=1:sに内分されていることや、線分AEは点Fによって、AF:EF=1:tに内分されていることもわかってしまう。

応用問題として、m=n, a=1/2の場合を考えてみよう。これはAからBCの中点Eに直線(AE)を引き、Cから直線(AB)の中点Dへ直線(CD)を下ろした状況に一致する。直線AEとCDの交点Fはいわゆる「重心」である。重心Fによって直線AEやCDは、2:1に分割されることが知られているが、それを確認してみよう。\(s=\frac{m}{2m}\frac{1/2}{1-1/2} =\frac{1}{2}, t=\frac{1}{2}\)であるから、CF:DF=AF:EF=1:1/2=2:1となり、確認ができた。

此の問題は、おそらく重心の性質を一般化することから思いついたものであろう。三角形の2つの辺をm:n,およびa:1-aに分割する頂点からの直線同士の交点が、その直線を1:sや1:tに分割するという「新しい」性質を解明したことに相当する。